表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒柳悦郎は転生しない 一学期編  作者: 織姫ゆん
七日目 校庭の犬
60/181

7-5 いつもどおりっぽい午後の授業

 

「相手の顔をよく見て描いてねー」


 午後の授業は、美術だった。


「動かないでください悦郎さん」

「そうだよ〜。私たちが描き終わるまで、じっとしてて〜」


 課題は似顔絵。

 みんなペアになってお互いを描いていたが、なぜか俺だけが咲と麗美とトリオになって描く羽目になっていた。

 まあ、ただ単に麗美が転入してきてクラスの人数が奇数になってたからってだけなんだけどな。


「っていうか、お互い描くんだから、俺もお前達を描くんじゃないのか?」

「いいからじっとしてて」

「あとで描いてもらいますから。今は動かないでください」

「くっ……」


 2対1では分が悪い。

 っていうか緑青のヤツは俺の方を見てニヤニヤするのはやめろ。

 っていうか砂川は食パンを食べるな。


「どう? 描けてる?」


 美術の留紺みさき先生が咲たちのスケッチブックを覗き込んだ。


「うん、そうね。ここのところの陰影をもう少し出してみたらいいんじゃないかしら」

「あ、なるほど」

「麗美さんは……あら、上手ね。これじゃあ先生何も言うことないわ」

「ふふ、ありがとうございます」


 みさき先生はみどり先生の次に若い先生だったが、みどり先生とは明確に違う部分が一つあった。

 それは、他の先生たちからの信頼感だ。

 みどり先生に対しては、みんな放っておけない感じで何かを任せてもハラハラと最後まで見守ってしまう。

 みさき先生に対しては、指示だけしたらあとは完全おまかせ状態でリラックスして結果を待つだけな感じになる。

 聞いた話では年齢は一つしか変わらないらしいが、それなのにこの差はなんだろう。


(まあ、もともとの性格の差なんだろうな)


 そして、もうひとつ違う部分がある。

 それは、ファッションに関してだ。

 みどり先生はいかにも先生といった感じの格好をしてくる。

 かっちりとしたスーツで、先生なりにピシッとしているのだろうが、どことなく可愛らしさが出てしまう。

 逆にみさき先生は、これっぽっちも先生っぽくない格好をしていることが多い。

 豪奢なアロハシャツにスリムなタイトジーンズ。髪も毛先を赤く染めていて、夜のお仕事とまでは言わないが、普通のOLさんよりもずっと派手な格好だ。

 もっともこれは美術の先生ということもあるのだろうが、他の先生たちが黙認しているところがすごい。

 おそらくそれも、普段のみさき先生の行いがいいからなのだろう。

 というかあの派手なアロハシャツ、いったいどこで買っているのだろう……。


「それにしても先生、そのアロハ、とてもいい柄ですね」


 麗美のそのひと言で、クラスの全員が「あっ」という表情を浮かべる。

 なぜならそれは、みながみさき先生と話したときに必ず通る通過儀礼のようなひと言だったからだ。


「実はね、このアロハ……」


 そうして、みさき先生のアロハ談義がはじまる。

 たぶん麗美はこの授業中、ずっとあの話を聞く羽目になるだろう。

 別にそれがつまらないというわけではないのだが、全員が同じような話を一度は聞いているために、みんながその話の内容をほぼ記憶しているというのが先程の「あっ」の原因になっている。

 嬉しそうにみさき先生の話を聞いている麗美。

 エキゾチックで日本らしいなどと、さらにアロハのことを褒めている。

 もしかすると今までで一番、先生の話の受けがいいかもしれない。


(そういえば麗美も、ちょっと変わったセンスをしてるからな。みさき先生のアロハも、麗美のツボに意外とハマるのかもしれない)


 電車にコンビニにアロハシャツ。


(……いや、それはないか)


 俺はじっと黙ったままで、咲に似顔絵を描かれていた。

 麗美の方は手が止まっている。

 っていうかこのままだと、俺の方の描く時間はとれるんだろうか?


 そんなことを考えながら、俺はある日の美術の時間を過ごしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ