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黒柳悦郎は転生しない 一学期編  作者: 織姫ゆん
七日目 校庭の犬
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7-2 いつもよりゆっくり歩く登校

 

「いってきまーす」

「いってきま〜す」

「おう。気をつけて行ってきな。悦郎も咲ちゃんの負担にならないようにな」

「わかってるって」

「がっはっは。ならばよし」


 トレーニングウェアのかーちゃんに見送られながら、俺と先は家を出た。

 いつもより少し早い時間。

 この時間ならば、走らなくても余裕でいつもの電車に間に合うはずだった。


「ねえねえ。もしかして、いつもよりちょっと早く家を出たのって、私に気を遣って……とか?」

「ちげーよ。昨日緑青と出かけたときに、すごい余裕だったからああいうのもいいかなと思って」

「ふーん」


 もちろん嘘だった。

 そしておそらく、それが単なる言い訳だというのは咲には見抜かれていただろう。

 だが、それでもかまわない。

 なぜなら、それが俺たちのいつもどおりだったから。


 *    *    *


「おはよー、悦郎、咲」

「おはよ〜ちーちゃん」

「おはよう緑青」


 駅に着くと、ちょうど緑青がホームで電車を待っているタイミングだった。

 まあ、昨日の緑青を参考にしてるんだからそうなるのは当然なのだが。


「今日は早いね」

「ああ。昨日のお前のを参考にした」

「ぐふふ。そういうことにしておく」


 単に事実を言っているだけなのに、なぜか緑青が含みがあるような笑みを漏らす。

 まあ、何が言いたいのかはわかっている。

 そして、それ以上は緑青が追求してこないのも。


「電車来た」


 ホームに滑り込んでくるいつもの時間の電車。

 いつものようにキツいラッシュだったが、いつものことと慣れている俺たちはいい感じのポジションを確保し、ちびっこの緑青と病み上がりの咲に負担がかからないような位置取りをした。


 フィーンと足元からモーターの振動が伝わってくる。

 ぎゅうぎゅう詰めの車内で押しつぶされそうな圧を感じながら、俺は15分弱ほどの時間をなんとかこらえる。

 そして学園前駅。


「ふぅ。今日も混んでたね」


 早足で改札を通り抜けながら、若干ぐったりしたような表情を見せてくる咲。

 俺が何か口を開く前に、緑青が咲を心配する。


「咲、平気? まだ身体辛くない?」

「うん。大丈夫だよ。病み上がりで辛いっていうより、昨日一日寝てたから身体がなまってる感じかな」


 そう言って両腕で力こぶを作るような感じのポーズを取り、フンスと鼻息を荒くする。


「まあ、キツくなったら言ってね。荷物持つくらいは悦郎にさせるから」

「ありがと、ちーちゃん」


 いつもなら「あのなあ」と突っ込むところだったが、今日のところは空気を読んでおく。

 というか、その元気が微妙になかった。

 なにしろ、いつもよりも気合を入れて電車の中で踏ん張っていたから。

 ラッシュでいつも以上の圧がかかっている乗客さんがいたら申し訳ない。

 今日のところは、咲たちの方にあんまりキツくさせたくなかったんだ。


「あ、あれ」

「え?」


 咲が指差す方を見ると、みどり先生がバタバタと階段を降りてくるところだった。


「なんだ? どうしたんだ? まだ遅刻じゃないよな」

「まあ、生徒ならね」

「え?」

「先生たちはいろいろあるから。もしかしたら、職員会議とか朝あるんじゃないの?」

「あー、なるほど」


 俺は心の中で「がんばれー」とみどり先生にエールを送った。

 みどり先生は、当然のように自動改札でピンポーンと引っかかっていた。

 あれがたぶん、天然って言うんだろうな。



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