6-9 いつもどおりに戻りますようにな夜
そして就寝時間。
いつもなら咲とアプリで話しているような時間だったが、まだ熱が下がっていないらしいし今日はやめておくかと思ったら――
『起きてる〜』
プリンッと特有の着信音を鳴らしながら、いつもの通話アプリに咲からのメッセージが送られてきた。
『寝てなくて平気なのか?』
両手でポチポチとメッセージを打ち、咲に返信をする。
すると、即座にブルブルとスマホが震え始めた。
「起きてた〜」
いつもより若干間延びしているように聞こえる咲の声。
やはりまだ熱で具合が悪いのかもしれない。
「起きてたけどよ、そっちこそ寝てなくていいのか?」
「一日中寝てたから飽きた」
「ああ……確かにそういうのあるな」
「ねえねえ、今日あったこと話してよ。私が休んでる間、学校でどんなことあった?」
「そうだなあ……」
話しているうちに、少しずついつもどおりになってきているような気がした。
それどころか、いつもよりも話し方のテンションは上がっているようにも思えた。
もしかすると、一日誰ともほとんど話さない状態だったことが咲的にはかなりストレスだったのかもしれない。
咲は、なかなかのおしゃべりだからな。
「ふーん。意外といつもどおりなんだね」
「そりゃそうだろ。咲ひとりいないくらいじゃ、そんなに変わりゃしない」
「なんかそれ傷つくー」
「ああ、変わったこと一つあったわ」
「なになに?」
「咲の代わりに現国の時間に指名された」
「あははははーっ」
「ったく。出席番号だとか日付だとか、そういうのと全然関係ないのに指されたんだからな」
「いーじゃないのそれくらい」
クスクスと笑いながら咲となんでもない話をする。
いつもどおりっぽくはあったけれども、いつもどおりではなかった咲のいない一日。
結局こうして、咲と通話しているといつもどおりに終われるような気がした。
「明日にはちゃんと治ってるから」
「ああ、頼むぞ」
「そういえばね、麗美ちゃんの作ってくれたテールスープすっごい美味しかった。麗美ちゃんの家だと、風邪引くとあれ飲まされるんだって」
「一応言っておくと、あの尻尾の下処理したの俺だからな」
「ふふっ。聞いた聞いた。血抜きするとき顔青くしてたんだって?」
「なっ……」
「みんな気づかないふりしてたけど、ちゃーんと気づいてたってよ」
「そ、そうだったのか……」
「ま、昔から血とか苦手だったもんね」
「見てるだけで血の気が引くんだよ。鼻血とかなら平気なんだけど」
「ね。あれ不思議だよね。桜子の鼻血とか見ても全然平気だったもんね」
「なんでだろうな。なんか、血の感じが違う気がする」
「あー。ちょっとわかるかも。鼻血は血だけど血じゃない感じするよね」
「うむ。なんか、鼻水の亜種的な」
「あはははーっ」
そうして、今日も一日が過ぎていく。
咲に眠気がやってくるまで、俺たちはなんでもない会話を続けていた。
いつの間にか俺の方がウトウトしてしまって、最後には咲に気を遣わせてしまったのはちょっと負けた気分にもなったが、まあ眠気には誰も勝てない。
たまには、そういうのもいいだろう。
そんな一日だった。
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