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黒柳悦郎は転生しない 一学期編  作者: 織姫ゆん
五日目 部活動
41/181

5-4 いつもとはなんだろうと思ってしまう

 お昼の時間が訪れた。

 いつもならそこは至福のお弁当タイムのはずである。

 しかしながら今日は……。


「今度こそ首を横に振らせてみせるからね!」

「たまちゃん、そこは縦。横じゃ断られちゃう」


 予告通り、香染のヤツがまたしても麗美のところに昼飯持参でお仕掛けて来ていた。

 しかも、今回は自分の味方を引き連れて。


「僕の解説が必要だろ?」


 モグモグとキャラメルドーナツを頬張りながら、砂川が登場する。


「その前に俺にもドーナツ一個くれ。いい匂いすぎる」

「よかろう。その代わりからあげと交換だ」

「からあげ? 弁当のか? 入ってるかわからんぞ」

「ふっふっふ。僕の鼻はごまかせない。朝からずっと楽しみにしてたんだ」

「はいはい。ま、別にかまわんよ。で、あの青い髪の子は誰だ?」


 モグモグと俺もドーナツを頬張りながら、砂川に説明を促した。

 砂川は目でその子を指し示しながら、どこで調べたんだと思うほど詳細なプロフィールを教えてくれた。


「彼女は七瀬真朱。まあ、簡単に言えば香染さんの幼馴染だ。クラスは1組。ある意味、悦郎と咲ちゃんみたいな感じだな」

「ってことは、あれは香染の援軍と言うよりは……」

「お目付け役ってとこだな」

「なるほど」


 どうやら香染の件は少し俺の取り越し苦労だったようだ。

 安心して席に着き、弁当を広げる。


「げ、マジでからあげ入ってる。砂川の鼻すげえな」

「だろ? それじゃあ約束通り……」


 砂川はからあげを一つつまみ、どこから取り出したのかそれをパンで挟むと即席のからあげサンドを作ってむしゃむしゃと食べ始めた。


「ねえ、あれそのままでいいの?」


 咲が俺に尋ねてくる。

 そして無言で自分の弁当箱から俺の弁当箱へとからあげを補充する。


「ああ。大丈夫なんじゃないか? ホントに危ないなら是枝さんたちも黙ってないだろうし」

「そっか。でも、麗美さん困って……は、いないみたいね」


 そう。確かに麗美は戸惑ってはいた。

 さっきの休み時間までは。


「ふふふ。面白い話ですね、アイドルさんってそんなことまでするんですか」

「全員がじゃないけどね! っていうか、ホントにアイドルは幅広いのっ! っていうか、どんなことをしてても自分がアイドルだって思ったら、それがアイドルなのよっ!」


 なんとなくだが、アイツの語尾には常に『っ』がついているような気がする。

 考えると同時に口から言葉が出ているんじゃなかろうか。

 俺もあまり人に言えるほうではないが、もう少し落ち着いて話したほうがいいような気がする。


「というわけでっ、レミには私たちのアイドルグループに入って欲しいのよっ!」

「たまちゃん。もう少し考えてから話さないと、何を言いたいのかが相手に伝わらないわよ? そもそも、今の話しからじゃ『というわけで』には全然繋がらないわ」

「ええ!? そうだった!?」

「ふふふ」

「……」


 どうやら、俺と同じように考える人が向こうの陣営にもいたようだ。

 っていうか、あれは放っておいても大丈夫なような気がしてきた。

 少なくとも、あの青い髪の子……七瀬さんはごく普通の常識人のようだ。


「ん? 七瀬?」

「ぐふふ。悦郎、もしかして気づいた?」

「気づいたっていうか思い出したっていうか……七瀬って、生徒会長の七瀬か?」

「正解」


 ピンポーンと効果音をつけそうな感じで、緑青が手で丸印を作る。

 なるほど。そういえばどこかで見たことあるような気がしていたが、生徒会長だったか。

 そりゃあ常識人なはずだ。


「っていうか悦郎。朝から気になってたんだけどさ」

「ん?」


 食後のデザートなのか(っていうかそもそもさっきからドーナツ食べてたな)、プリンをモグモグしている砂川が俺に尋ねてくる。


「今日はなんでずっと左側ばっかり見てるんだ? 咲ちゃんとケンカでもしたのか?」

「痛いんだよ首が」

「え?」

「なんか、寝ぼけてベッドから落ちたんだって。けっこうすごい音したんだよ」

「ぐふふ。ベッドから落ちる音を聞ける関係。興味あるよね」

「はあ!? なにそれ!?!?!?」

「ちょ! お前なあ……」


 わざわざそっちに話を振らなくていいのに、緑青が俺と咲の話を香染たちに振ってしまう。

 そしてその手の話題は苦手そうだなと思っていたのが正解だったようで、香染は顔を真赤に染めてから何故か俺を糾弾し始めた。


「そんなのいけないに決まってるじゃないっ! ダメのダメのダメダメよっ!」

「あのなあ……」


 コイツは絶対にいろいろと誤解している。

 そしてその誤解を解くのは、めちゃくちゃ面倒くさそうだ。

 俺はため息をつきながら、弁当の残りに手を付け始めた。


「無視するなっ! こっちを向けっ!」


 強引に俺を自分の方へ向かせようとする香染。

 ヤツがいるのは俺の右側で、つまり今日の俺にそっちの方向は鬼門なわけで……。


「ぐえっ! いててててっ!」

「あっ!」

「あーあ」

「大丈夫ですかっ! 悦郎さんっ!」


 そんなこんなで、今日の昼飯は大騒ぎになってしまった。

 やれやれ。


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