表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒柳悦郎は転生しない 一学期編  作者: 織姫ゆん
四日目 芸術鑑賞会へ
36/181

4-8 いつもどおりにならなかった帰宅後

 

「ただいまー」

「おじゃましまーす」

「おうっ、おかえりっ!」

「「え!?」」


 俺と咲は、ほぼ同時に固まった。

 スーパーで買い物をし、俺の家に戻ってきた咲と俺。

 地方巡業に出ているかーちゃんの帰りはまだ来月だし、とーちゃんに至ってはいつ帰るのかすら知らない。

 そんな我が家で、誰かが俺と咲の帰宅を出迎えてくれた。


「もしかして……鉄子さん?」

「いや、まだ先なはずだが」

「だよねえ」


 そんな風に俺たちが玄関から先に進むのを躊躇していると、リビングからひょっこりとその謎の人物が顔を出した。


「え?」


 綺麗な金髪が揺れていた。

 一瞬俺は麗美かと思ったが、そうではなかった。

 咲の方もどうやら同じようなことを考えたらしく、俺たちは顔を見合わせながらその正体について首を捻った。


「あ!」


 俺よりも一瞬はやく、咲が答えにたどり着いた。


「東雲さん!」


 それは誰だと思ってしまったが、当の本人が笑いながら出てきてくれたことで頭の中のスイッチがようやくオンになってくれた。


「がっはっは。どうした二人とも。私を待ちぼうけさせて付け入る隙を作る巌流島作戦か?」


 なかなかにわけのわからないことを言いながら登場したこの人は、レディガントレットさん。

 本名を美沙・東雲・ビリジアンという、かーちゃんのところの練習生の1人だ。


「どうしたんですか東雲さん。まだ地方じゃなかったんですか?」

「おう。鉄子さんたちはまだ帰らんよ。私はちょっと用事があってな。そのついでに、お前たちの様子を見てきてくれって鉄子さんが」

「なるほどー」


 咲からスーパーの袋を受け取り、それをキッチンへと運んでくれる美沙さん。

 美沙さん……。

 美沙さんなのだが……どうもしっくりこない。

 俺としてはやっぱり、リングネームの方のレディガントレットの方が馴染みがある。

 とはいえガントレットさんと呼ぶのもおかしいか。

 プライベートのときは、できるだけ美沙さんと呼べるように努力しよう。


「あれ、そういえば今日はあのトレードマークのガントレットつけてないんですか?」

「当たり前だ。アレは入場するとき用の装飾品だからな」

「え? でもトレーニングのときもつけてませんでしたっけ」

「がっはっは。よく見てるな。実はあれめちゃくちゃ重くて、あれをつけてるとトレーニングが捗るんだ」

「へー」

「大魔王がつけてた重いマントみたいなもんだな」

「???」


 ときどき美沙さんは、誰にもわからないような謎なたとえをする。

 緑青あたりはついていけるらしいが、俺や咲はまるでダメだ。

 そういえば、砂川もガッチリ食いついてたけど、元ネタはどこらへんにあるんだろうな。


「それで東雲さん。ご飯は食べていかれるんですよね」


 制服の上にエプロンをつけながら、咲がそう尋ねる。


「おう。もちろん。なにしろ、そのためにここに寄ったような部分もあるからな」


 そう言って美沙さんはがっはっはと、まるで俺のかーちゃんのように笑う。

 なんでも美沙さんは、俺のかーちゃんに憧れてプロレスラーになったらしい。

 笑い方まで、真似しなくてもいいと思うんだけどな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ