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黒柳悦郎は転生しない 一学期編  作者: 織姫ゆん
三日目 緑青のライバル
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3-2 いつもどおりじゃない通学風景

 今日の朝は、いろいろな意味でいつもとは違っていた。

 起こしに来たのが是枝さんだったこと。

 朝食の準備をしたのが、黒服の人たちだったこと。

 いつも俺よりも早起きをしている咲が、今日は珍しく寝坊をしたこと。


「油断したわ。こんなに慌てたのなんて何年ぶりだろ」


 咲は俺のとなりで、黒服の人が用意してくれた朝食を食べていた。

 そして俺も、かなり久しぶりに咲以外の人が作ってくれた朝食を食べている。


「確かに昨夜は、いつもよりも少し夜更かししちゃったけど……」


 なんでもあのあと(麗美を俺の家から連れて行ったあと)、思っていた以上に2人でのガールズトークが盛り上がったらしい。

 どういう話をしたんだと尋ねてみたが、それはどうやら女同士の秘密らしく、俺にはこれっぽっちも教えてはくれなかった。


「悦郎さま、咲さま。そろそろお時間の方が」

「あ、はい」


 麗美のやつは、一足先に自宅に帰っていた。

 朝の準備はやはり家でする必要があるとかで、何人かの黒服をうちに残して結構な早朝に帰っていった。

 そのことはなんとなく咲は覚えていたらしいが、不覚にもそこから二度寝してしまって起きるのが俺よりも遅くなってしまったとか。


「こちら、お弁当になります」

「ありがとうございます、私の分まで」

「いえ、お気になさらずに。これが私の役目ですから」


 うちには是枝さん以外にも、何人かの黒服の人が残ってくれていた。

 麗美が気を遣って、俺と咲の朝の支度を手伝うようにと言い残してくれたらしい。


(でもそれなら朝ちゃんと起こしてくれって咲は思ってそうだよな)


 パタパタと俺よりもすることの多い咲が、勝手知ったる俺の家で右に左に忙しく駆け回っている。

 今日は、俺のほうが余裕があった。

 時間つぶし……というわけでもないけれども、何とはなしにお弁当を作ってくれた料理担当の黒服の人と雑談をしていた。


「へー、修行で世界各地を」

「美味しいってことの本当の意味を知りたくて、とにかくいろいろな国に行ってみました」


 彼の名前は藤田さん。

 他の黒服の人たちに比べて、少しだけスーツがピチピチな感じがする。

 太っているというわけではなく、身体全体のボリュームが大きい。

 脂肪と筋肉、それらがしっかりと骨の上に乗っている気がした。


「どうでしたか? その答えって出ましたか?」

「いやそれがですね、知れば知るほどわからなくなってしまって。なにしろ、美味しいの基準が国によってまったく変わってしまうので」

「あー、なるほど」


 最初は他の黒服の人たちと見分けがつかなかったけど、今ではなんとなくわかるようになってきた。

 少なくとも、是枝さんとは確実に違いがわかる。

 どちらかといえば是枝さんは細身だ。

 パット見でヒョロヒョロといっていいくらいにあの人は細い。

 しかしながら、近くで見るとそれが間違いだということがわかる。

 細いがそれは、究極まで余分なものを剃り落とした結果としての細さ。

 ある種の、抜身の日本刀のような迫力をあの人からは感じることがある。

 まあ、そんなに深く接したことはまだまだないんだけれども。


「おまたせ、行こっ」


 玄関で話していた俺と藤田さんのところに、準備を終えた咲がやってきた。

 その後ろには、是枝さんの姿がある。

 いつもは麗美に影のように付き従っているが、今朝はそのポジションには咲がついているらしい。


 外に出て玄関の鍵を締める。

 うちに残っていた是枝さんを含む四人の黒服の人たちが、俺と咲を見送るように一列に並んでいる。


「「「「いってらっしゃいませ」」」」


 早足で歩き出した俺と咲の背中に、見事に揃った黒服の人たちの声が届いてくる。

 その声に押されるかのように、俺と咲は駆け出した。


 いつもの時間はもう過ぎていた。


 駅に着いた俺と咲は、遅刻をギリギリ回避できるいつもよりも2本遅い電車に飛び乗った。

 ※駆け込み乗車は危険です。やめましょう。



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