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第8話【旅立ちの時】

 気が付くと俺は自分の家の廊下にいた。


 成る程。確かに身体が半透明で幽霊の様だな。

 いや、死んでいるから幽霊その物なのだろうが……。


 俺はそう思いながら、陽美の啜り泣く声のする居間へと向かう。


 居間では棺桶に入った俺の身体とその前で泣き崩れる陽美、状況が分かってない慧に俯いた辰三と正座して俺に手を合わせる義親父の姿があった。


 どうやら、家族葬で看取られる様だな。


「姉さん。すみません。こんな事になっちまって……俺に出来る事ならなんでもしますから……」


 その辰三のその言葉に陽美は涙を流しながらキッと睨むと辰三の胸をだだっ子の様に叩く。


「なら、あの人を返して!あの人を生き返らせてよ!」

「……姉さん」

「……なんで……どうして……あの人が死ななきゃいけないの?

 あの子の成長を見守ろうって約束したばかりなのに……」


 陽美はそう言うと力なくへたりこみ、再び、その場で泣き崩れた。


「辰三を責めてやらんでくれ、陽美さん。

 ……悪いのは修次を巻き込んだ儂じゃ」

「……お義父さん」

「じゃがな、修次よ。儂より早く死におって……馬鹿たれが……」


 義親父はそう言うと肩を震わせ、涙を堪える。


 ーーと、そんな義親父達を背後から見ていると慧と視線が合う。


「おとうさん?」


 その言葉に陽美はそっと慧を抱きしめる。


「慧ちゃん。お父さんはね……遠い所へ行っちゃったのよ」

「おかあさん。じゃあ、こっちのスケスケのお父さんは?」

「……え?」


 慧のその言葉に陽美と辰三、義親父が俺を見る。

 陽美は俺の遺体と幽霊になった俺を交互に見ながら。


 辰三はーー


「で、ででででで出たぁーーっっ!!」


 ーー腰を抜かしてビビる。


 義親父も念仏を唱え続けた。


「……貴方、なの?」

『ああ。未練があってな。化けて出ちまった』


 俺は困惑する陽美にそう告げると辰三を見る。


『辰三』

「や、やっぱり、兄貴、俺を恨んでーー」

『阿呆。俺は無実のお前の為に身体張ったんだ。それに悔いはない』


 俺はそう言うと再び陽美に顔を向けた。


『未練ってのは陽美ーーお前達の事だ。

 ちょっと、あの世でやらなきゃならない事が出来てな』

「やらなきゃいけない事って何?

 なら、私もそっちにーー」

『馬鹿野郎!』


 俺は陽美に叱咤する。俺に叱られ、陽美がビクリと肩を震わせた。


『お前には慧がいるだろ!

 あの子の為にも、お前は生きろ!』

「……そんな」


 俺はショックを受けてポロポロと涙を流す陽美の頬を撫でる。


『未練ってのはそれだ、陽美。慧の事を頼む』


 俺はそう言うと部屋を見回す。


『此処には俺とお前ーーそれに慧の思い出が詰まってる。

 だから、お前には俺が見れない慧の成長を見届けて欲しいんだ』

「……貴方」

『俺の我が儘だってのは解っている。

 だが、それが俺の最期の頼みだ。

 お前が俺の女房だと思っているなら、俺の最期の我が儘を聞いてくれ』

「……ズルいわよ……そんな事を言われたら、断れないじゃない」


 俺の言葉に陽美は涙を流しながら微笑む。俺は次に慧を見た。


「……おとうさん」

『慧。お母さんを宜しくな』

「いっちゃヤだよ」


 俺と陽美のやり取りを見て、慧もなんとなく察したのだろう。

 そんな慧の視線までしゃがむと俺はその頭を撫でた。


『ゴメンな、慧。

 でも、慧はお姉さんだろ?

 お父さんがいなくなったら、お母さんが一人で大変になる。

 だから、お母さんを手伝って上げてくれ。な?』

「……うん」


 慧が俺の言葉に頷くと俺は立ち上がり、義親父の顔を見る。


『義親父。親不孝な自分を許して下さい』

「……修次」

『陽美と慧を頼みます』

「解った。この月岡修造。お前の願いを聞き届けてやるわ」

『お願いします』


 俺は頭を下げると頭上から光が差す。


 どうやら、時間らしい。


『それじゃあ、行って来る』

「行ってらっしゃい、貴方。気を付けてね」

「お父さん。いってらっしゃい」


 俺はいつもの様に出掛ける時のやり取りをするとスーッとその場から消える。


 あとには堰を切った様に泣く慧と涙を流しながら優しく慧を抱き寄せる陽美、声を殺して泣く辰三と義親父が残された。


 ーーー


 ーー


 ー


「……本当にこんな事で良かったんですか?」

『ああ。悔いがないと言えば、嘘だが、やれるだけの事はやった。

 約束通り、君の世界に行こう』


 俺はガブリエルにそう告げると再び魂だけの姿となり、彼女の手のひらに収まる。


「では、ツキオカさんを再構築します。

 それまで、お休み下さい」


 俺はガブリエルの声を聞きながら深い闇の中へと意識を沈めた。

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