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第11話【集められた勇者】

 俺はアイン王の後について行きながら、部屋から出て階段を上ると周囲を見る。

 恐らくは城って奴なんだろうが、金や銀であしらわれた装飾などからして、かなりの悪趣味だ。

 一体、どれだけの税金が、この城に注ぎ込まれたか解ったものではない。

 そんな俺に気付いたのか、アイン王が此方を振り返る。


「如何かな、我が城を見た感想は?」

「なかなか良い趣味だと思います」


 悪い意味でーーとは口にしない。


「ほう。なかなか見る目がおありの様だ」


 アイン王は仮面越しにご満悦と言う様に笑みを浮かべて、そう言う更に先へと進む。

 そんなアイン王を映画にでも出てきそうなメイドやら兵士達が仕事の手を止め、いちいち一礼する。


 その表情には畏怖の念が込められており、アイン王が城で如何に独裁者として振る舞っているかが解る。

 普通なら畏怖以外にも敬意や親しみなども込められる筈だが、アイン王に送られるものは畏怖か崇拝ばかりで、それ以外がない。


 ガブリエルの言う様にアイン王に心を赦さぬ方が良いかも知れないな。

 アイン王も裏切りなどの事態を考慮して常に鎧や仮面を着ているのだろう。


 これは本当に厄介そうだ。


 そんな事を思いつつ、俺はアイン王に大広間へと連れて行かれた。

 大広間は十代後半位の男子や女子の集まる一室であった。


 皆、バラバラの格好をしているが、学生服を着ている奴までいる。


「彼らは?」

「しばし、お待ちを。すぐに説明します故に」


 そう言うとアイン王は俺を残して部屋を後にした。


 残された俺は部屋の子供等をざっと見る。


 改めて見ると十代後半から二十代前半って所か……。

 共通点はないが、皆、目を輝かせている所を見るにこの状況を不満に思うどころか、疑惑もないのだろう。


「そこのあんた」


 そう観察していると金髪にサングラスと如何にもチャラチャラしてそうな男が俺に声を掛けて来る。


「あんた、月岡修次じゃないか?」


 その問いに俺は眉を潜めた。


「……俺を知っているのか?」

「ああ。まあ、俺の知る月岡さんよりも若そうだけどな。

 おっと、警戒しないでくれよ。

 俺は矢路来やみち きたるって言うあんたと同じ異世界転生した者さ」


 警戒する俺に矢路はヘラヘラと笑いながら、そう挨拶する。


「俺を知っているって事は堅気じゃないな?どこのシマのモンだ?」

「だから、そう警戒しないでくれよ。

 それに俺は月岡さんが思っている様な子悪党なんかじゃなく、ただのチンピラさ。

 ただ、桜鬼の修次って名前と顔を知っている位ってだけさ」

「……昔の名だ」

「今でも忘れられないねえ。あんたの戦いっぷりは」

「まあ、良い。それで矢路よ」

「なんでしょう?」

「お前の見立てを聞きたい。お前が俺と同じ異世界転生者なら、この部屋に集められた奴等は全員そうなのか?」


 その言葉に矢路はしばし、考え込むと首を左右に振る。


「解りませんね。全員と話した訳じゃありませんから。

 ただ、服装とかから察するに異世界転移って奴ですか?ーーそれをした奴もいるんじゃないかと」

「そこまでは俺と同じ考えだな」

「ただ、あくまでも可能性ですねーーと言うのも」


 矢路はそこで言葉を切ると部屋の隅に一人立つイナゴとタコを掛け合わせた様な顔に昔見たプレデターみたいなSFチックな格好をした奴を見る。


 ……なんだ、あいつ?


「どうやら、人間だけが集められた訳じゃなさそうで……」

「解らんぞ。コスプレって奴かも知れん」


 俺は矢路にそう告げるとそいつの元へと二人して歩み寄る。


「よお」

「oh!ワタシニ声ヲ掛ケテクレル人ガイマシタカ!」


 俺が声を掛けるとそいつはイナゴの口で日本かぶれした外人みたいに喋り、フレンドリーに俺の肩を叩く。


 ……油断したところを噛み付かれたりしないよな?


「俺は月岡修次と言う。こっちは矢路だ」

「ワタシ、でびひしイイマス!ヨロシクデース、ぶらざーツキオカ!ぶらざーヤミチ!

 ワタシ、コンナ姿デスカラ声掛ケラレナクテ寂シカタデース!」


 デビヒシはタコの目で俺と矢路を見ながら握手を求めて来る。


「それでデビヒシだったか?お前も異世界転生者か?」

「イカヤキセンベー?」

「……いや、なんでもない」

「ゴメナサーイ!マダ、アナタタチノことば、チョトシカワカリマセーン!」


 こいつ、本当に宇宙人か違う世界の奴なのか?


 そんな事を考えていると二階のガレッジの様になっている所からアイン王が姿を現せる。


「異世界の勇者達よ。よくぞ、集まった!

 まずはこの国をーーいや、世界を代表して礼を言おう!」


 よく言う。本当はお前がリエルを使い、年端もいかぬ少年少女をたぶらかせていると言うのに……。


「魔王は強大だ!だが、そなた等なら勝てると信じている!

 無事、魔王を倒せた者は七代先まで語り継がれ、この世も制する富と権力を得られるだろう!」


 その言葉に俺は違和感を覚え、眉を潜める。


「未来形なのが不自然ですね?」


 俺の違和感を察したのか、矢路が小声で囁く。

 俺はその言葉に頷き、小声で返す。


「そもそも、政治などを年端もいかぬ子供に任せられる訳もない。

 世の中ってのはガキが考えているより複雑だからな」


 俺は矢路にそう告げると再びアイン王の言葉に耳を傾ける。


「そなたらに1000ゴールドずつ与える!

 城を出る時に貰い忘れぬ様にするが良い!」


 これも不思議な話だな。


 こんな大広間に人を集めたのだから、今、渡せば良いだろうに……。


「行くが良い!勇者達よ!

 次に戻って来た時、そなたらの誰かが勇者となっている事を祈ろう!」


 俺はアイン王の御託を聞きながら大広間を後にした。

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