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6.異能集団・戸上家

短かったのでもう1話上げました。前述のとおりかなりの加筆を加えておりますので、ルビ・訂正は明日以降になります。ご容赦くださいませ。

 戸上(とがみ)家は後進の育成のために、素質ある子供を集めて術を教育している。


 異能を持って生まれる子供は、親から育児放棄されるケースが少なくない。放棄まではしなくとも、その扱い方に困惑する家族のために、力の制御を教えるための塾のようなものもあった。


 それらは、私塾のような形態を取っているため、公の機関からの補助を受けてはいたが、基本的に戸上家の私財で設立・運営されており、運営のための人材こそいたが、その指導を行うのは絢乃(あやの)一人だけだ。


 絢乃は素質さえあれば家柄を問わなかったが、息子夫婦は戸上の直系にのみ強い力が宿ると信じて疑わなかった。


 次期の当主さえ指名されていないというのに。このまま絢乃が亡くなれば、次期当主となるのは陸の父なのだろうか。


 日上は背筋に寒気を感じぶるっと、体を震わせた。


 陸の実の両親であったが、日上は彼の二人を好いていなかった。正確に言うならば嫌いだった。


 その理由の一つが前述した完全家柄主義であること。しかし、それは古い家柄の者であれば得てしてあるもので軽蔑こそしても嫌うほどではなかった。


 しかし、集められ教育された人材の中で特にその才能を発揮した者たちは、戸上の姓を掲げる者の方が少数だったのだ。


 それが、何よりも気に障ったのだろう。当主である絢乃に許され、戸上の家に住まうようになった子供らはすべからく二人に冷遇されたのだ。当主の目をはばかり、表向きには丁寧に扱っていた様だが、その態度に優しさは感じられなかった。


 ならばその誇りで力ある跡継ぎを産めばいいのに。


 二人に対する反感でもなんでもなく彼女はそう思う。そうすれば少なくとも自分はあの家から解放されるのだ。もともと戸上の姓を戴く陸はそう言う訳にはいかないだろうが。


 そんな中、絢乃が育てた最初の子供達がある程度仕上がり、実践訓練のために編成を始める段になって。戸上の屋敷の中で、とある事件が連続して起こった。


 あろう事か、力を認められた子供の中でも最も力を発揮した女性、――つまり次期当主の最有力候補となってしまった――藍良(あいら)の身に危険が及ぶようになった。それは、命の危機であり純潔の危機であった。


 どれだけ術力(ちから)があろうと、どれだけ安定性があろうと、単一の術力しか持たない藍良を当主に据える事は、宗家の人間には認めることが出来なかったのだ。しかも、水上(みかみ)家はかつては数が多く、傍系の中でも一番下と目されていた家柄であった。


『戸上の家の人間は、力ある後継を生み出すことに重きを置きすぎるが故に、こと生と性に関してのモラルがおかしくなっている』


 とは、(りく)の言だ。


 全くだと思う。これでは、この家の女と嫁はただの子を産む道具である。


 今や、藍良はもういない。藍良の次に力のある女は――。


 いや、と頭を振る。私は安定性に欠け過ぎている。


 とは言え、彼女は今や当主をもしのぐ術力の持ち主となってしまった。


 属性の異なる複数の力の素質を持つということは、安定を欠くことであり、子供であればあるほどそのあり様は不安定だ。安定性という一点にのみ傍系の家柄の方が優位にある。


 子供の時分はその安定性の悪さに力の暴走を起こすなど日常だった。特に日上はその不安定さについては折り紙付きで、癇癪でも起こせば部屋の中は嵐の後のように荒れることもしばしばだった。そんな扱いにくい彼女をまともに扱ってくれた人間は少ない。


 幼少時に学校に通うことが許されなかった理由もそこに由来する。


 年を重ね、その力と心の制御を覚え、一族の中で一番の使い手にと認められた今となっては、みな手のひらを返したように、彼女を扱った。まるで(おもね)るように。彼女は家長を凌ぐ発言力と存在感を手に入れた。


 実はそれだけでなく、彼女の純朴で力強い美貌も、彼女を家に絡め取る(かせ)の一つにはなっていたが、そんなことは彼女に判るはずもない。彼女は自分の外見に何の価値も見出していないのだから。


 わずかしかいない女の術者を一族の男達が放っておくわけがなかった。見目麗しいとすればなおさら。かつては安定性の悪さに見向きもされなかった彼女は今や下にも置かない扱いだった。今はまだ当主・絢乃の目が光っている。


 そんな彼女と組んでいる陸は陸で、暗に親戚から嫌みを言われたり、探りを入れられて実家でも居心地悪い思いをすることがしばしばだ。


 本家の長男だったので表立って非難される事はなかったが。いや、むしろだからこそ陰に潜んで囁かれる嫉妬を調味料に含んだ陰口は陰湿を極めていた。


 特に陸の両親の変わり様と言ったらため息しか出ないほどで、かつての冷遇など記憶にもないのか今や嫁のように扱っている。


 本人達の意思など、最初から考慮の外だ。


 日上は陸を好ましく思っているが、それは恋愛感情ではない。陸にしてもそれは同じだろう。


 と言うよりは陸は気づく前に失われてしまった初恋をまだ大切に胸に(いだ)いている。死してなおこの世に縛られている彼女を、救うことこそが彼の生きる意味と言ってもいい程だ。


 日上には、彼にそれ以外に目を向ける余裕があるとは思えなかった。


 日上と陸が二人で動くことが多いのはそういった思惑も多いのだろう。他に力ある術者がいるにも拘らず、回復役ではないと言う理由で、あるいは実力が足りないと理由で、折に触れ家長らからの横入れがある。


 それが二人の命の危険を増やしているのだから本末転倒であるのだが、それに気づいているのかどうか。


 その件について、偶然会った陸の母に直談判をした結果、大騒ぎになったことを思い出した。陸の母はどれだけ陸が才能ある存在か、他の術者の力が信頼に足るものでないかを、大声でまくしたてるだけで、こちらの話など殆ど耳に入っていなかった。


 まして、『(あやかし)の呪い』を(こうむ)っている清藍(せいらん)の復帰など問題外のようだ。もう少し彼女を近くに置くことが出来れば、支えになれるかもしれない考えていたのだが。


 日上はバスのフロントガラスに目的地を見つけて、深くため息をついた。


         ☆  


 バスは二人を降ろすと静かに走り去った。この時間に町外れへ向かうバスは、想像以上に人が少なかった。


「属性が水って判っただけでもラッキーだったな」


「確かにな。あの子には感謝のしようもない」


「感謝……か。ため息しか漏れないな」


「そう言うな」


 日上は山歩きしやすいように選んだ軽装。陸は学校帰りのままの服装に上着を引っかけたままの恰好で彼女に並び歩いていた。


 話し込んでいたせいだろう、二人は予定の時間より大幅に遅れて出発した。自然と歩く足が速くなる。


 目的地は街の外れ、大学の裏にある小さな山。山と呼ぶのさえ疑問を覚える程の。そこに災厄の元があった。

 二人が大学の裏庭を抜け、その山の麓にたどり着いた時には陽はその体の半分以上を地の下に沈め、天の支配を月に譲りかけていた時刻だった。月は真円に近く、明るく緑生い茂る森を照らし始めている。月と太陽の光で木々の陰は色濃く地面に映し出され、まるで異界のような景色を作り出している。


 だが、人々の足をこの山から遠ざけているのは、その雰囲気故だけではない。山の頂から冷気のように降りてくる鼓動にも似た呪詛(じゅそ)。それが最たる原因だった。


「これは……想像以上か……」


「ここ数年、この街は異常気象が多かったな……」


「これが原因かい、くそぅ」


「この状況を知っていて放置してるとは……親父殿……もうろくしたな……」


「気づいてないんだと思うよ。悪いがもうあの人には……」


 気の(けが)れすら見えていないと思う、とは流石にいえなかった。


 既に春は過ぎて久しいというのに、日が落ちてからの冷え込みは早かった。二人とも上着を着ているとは言え、体が震える。想像以上の冷え込みだ。


 それでも引く気などない。二人は頂上を目指し歩きだした。幸い歩き出せば、それ程寒さを感じることはなかった。


 ただ、時折二人の吐く息は白くわだかまり、若葉の生えそろい力強く息づく木々を月光が映し出すモノクロの世界は、二人に寒々とした印象を与えた。

アジア大会で、100×4リレーが金でしたね。アスリートってすごいね!

ビールでカンパイしましたよ!おめでとうございます。


H30-8-31 ルビ・訂正・加筆少々 行いました。

H30-9-01 文章のおかしいトコを訂正加筆行いました。

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