5.真相へと至る道
短いです、すみません。
日上の眉根がきつく寄せられた。
「それは……」
二の句を継げないまま言葉を探しているのか、わずかの間逡巡した後ぼそりと呟いた。
「よく、話を聞けたな」
「まぁな」
ニヤリと頬笑むその表情は、誇らし気であり自慢気だ。
左手で右腕を擦るようにしながら、日上は考えを巡らす。
明らかに清藍の味方である陸に、細かい事情まで話してくれると言うことは、彼がそれだけその少女に信用されたと言うことだ。
「けど……、何故、例のお山の怪に呪われてるって事になってる?」
「そこなんだよな……」
お山の言い伝えに関しては地域で知らぬ者の方が少ないとは言え、そこにあるのは小さなお稲荷様の古祠である。
「確か、子育て稲荷みたいな感じで昔はお祭りもしてたとか、婆様が」
「あ、甘酒の飲めるやーつ。あれちょっと酒入ってて飲みすぎると酔うんだよなー」
お前記憶にあるのか、と陸が隣を歩く日上を見下ろす。
「なんとなく、だなぁ。何か、地元の人間しか来てない様な感じで、ジュースとかおにぎりとか、きゅうりの漬物とか貰って食べてた気がする」
首をかしげ、右腕を擦っていた左手を止め、隣を歩く陸を見上げる。
「連れてってくれたのは、藍良だった気がするから、もしかしたら陸はいなかったのかも」
古い思い出を呼び起こしているためか、文節を一つ一つ区切るように話していた。
日上や藍良たち、宗家に集められた子供達とは違い、陸には宗家の長子としての勤めのようなものがあった。何のことはない、戸上の表の仕事を継ぐための帝王学だ。
なので、陸は想像より忙しい子供時代を送っていた筈だ。
「あー、そうかー」
何か思い当たったのか、頭をこりこりと掻いた陸の表情は、苦い顔付ではなく、なんとなく残念そうな雰囲気だけを残していた。
それに少し同情の念を感じたが、日上はそのことに言及しなかった。
戸上の家は始まりは巫女の家系だった。女性に強く遺伝する形質であったため、当主は必ず女性でなければならないというしきたりがあった。けれど、戸上の家に直系の女は一人のみ。
子供たちが『戸上のお婆ちゃん』と呼ぶ女性。戸上家当主、絢乃だ。
家長は当主の息子、つまり陸の父親だ。
実力は当時は上位を争う存在ではあったが、後継者が成長し、術者として前線に立つことが少なくなった現在は、俗世の出世を夢見る野心家となってしまっていた。
彼の力は出世のために振るわれることが多くなった。
その妻は彼の従姉妹ではあったが、素質はあったものの、第一線で戦うだけの術力には恵まれなかった。そのせいか権力に固執し、享楽的な生活を送っている。
二人とも表向きは、当主の命で行われたこの調査について異を唱えていないが、本心は裏腹だった。
その理由の一つが、今や最高位の術力を持つに至った自分の息子を案じるものだ。
術者は基本、単騎での戦いを許されていない。通常では四人。最低でも三人で行動するよう命じられている。内訳としては、二人が攻撃、一人が支援、もう一人が回復で一組だ。
二人で行動をすることの多い、陸と日上はそれだけ危険な状態で戦いを行っているということだからだ。
陸が攻撃と支援、日上が攻撃を回復と主に担当する。徹が参加することも少なくなかったが、術力は強いが制限の多い徹の特性では、長時間の戦闘や索敵に向かないため別行動することが多い。
「藍良……水の氏……」
考えのまとまらない頭を振って、日上は立ち止まった。いつの間にか乗る筈だった路線のバス停を通り越してしまっている。
周囲はすでに薄暗くなっている。
家人の追跡を恐れてわざと迂回し、更にいつも使うバス停とは別の場所を目指したため、時間がかかってしまった。
藍良はその姓が表すとおり、水の術を、そして、彼女の嫋やかな雰囲気のとおり回復と支援を得意としていた。
「やはり、お山の怪は、水の族か」
バス停まで戻り、時刻表を指で辿りながら陸が呟く。
「だから、せいらに祟ったっていうのは、私達はわかるけど、だ」
「そうなんだよな。でも、そこはほら。『水上』だし?」
「私が言ってるのは、どうして普通の人がアレの属性を言い当てたかってことだぞ」
「あ、そっちか。それは簡単だろ」
「え゛?」
陸の隣に並び、一緒に時刻表を眺めていた日上が妙な声をもらした。
「せいらに関わって死んだ人の死因に、水が関係してるからじゃないか」
「三人目は火事じゃなかったか?」
「火事だな」
「あ~、そういうことか……」
かなりの加筆・改稿を行っている部分ですので誤字脱字矛盾などありありかもしれません。
というか、一応一度話はできているのですが、自分で再読した時の矛盾点と説明不足な所を加えながら投稿しております。
この部分は完全に追加部分なので、きっとやらかしているでしょう。
すみません、あした就職の面接なので今日はここまでですOrz