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11.浄化の光の行方

疲れましたorz


一応何とか収集をつけました。色々と小さいなぞはまだ残っているんですけど。

ラストがあんまり説明ばっかりでこんなんでいいのかなと悩みはしたのですが、今回はコレで勘弁してください、お代官様(笑)

 あんまりにもアレなのでいい案が見つかり次第加筆訂正を行って行きたいとは思いますがいつになるやら。


 取り合えず「お山の怪談と水の花」終劇の時間であります。

 拙い話を読んでいただきました皆様本当にありがとうございました。

 

 できれば感想などお寄せいただければ更に嬉しいです(えへ)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

★H30-10-11 現在改稿中です。近々更新すると思います。

「すげえ……」


 ぼそりと呟いたのは徹だ。きらきらと桜の花のように舞い散っているのは冷気で結晶化した氷の粒だ。


「私だけの力じゃないのよ。歌を教えてくれたお姉ちゃんと、あと陸と徹が神様の力をいでくれたから」


 苦しみにもがき悲鳴を上げ続けていた禍つ神には、そのままでは歌は届かなかったと清藍は言う。


「そっか……俺達も少しは力になれてたんだな」


「私の周りの災厄も、呪いなんかじゃなくて、淋しいと嘆く神様の声が私に届きすぎていたってことなのね……」


”我にもわからぬ…今となっては”


キィが歌だったなんて、な」


 やれやれと座り込んでいた陸が立ち上がり、手に持っていた剣を消し去った。徹も凭れていた木から離れ水の神の方へ近づいてみる。


 今はまだ顔のままだ。小さくまとまり、清藍の肩の辺りで漂っている水で出来た顔を不思議そうに覗き込む。まだ手には剣を引きずっている。つんつんと空いた手で浄化され透明な青に変わった水の神を突付けばぷるんとした独特の感触。


「最初から消し去るつもりだったのがいけなかったってのかよ……」


 憮然ぶぜんとした表情である。


「……つか、なんか悔しいぞ。助けるつもりだったヤツに助けられたなんてよ」


「お前はアレだろ。今まで一番だったから自分より強いヤツがいた事が嫌なんだろ」


「そういうんじゃねーよ」


 軽口を言い合えるほどの余裕ができたようだ。しかし、そろそろ日も開ける。このまま泥んこの状態では変えるのに目だってしまう。


 しかも、昨日の戦いで地形も大分変化している。誰かが気づいて山に調査しにくるとも限らない。


「とりあえず戻るか」


「この格好だしな」


 どちらともなく声を掛けて、帰り道を模索し始めた二人に、清藍が声を掛けた。


「まって……」


 切実な響きをもって発せられた声。


 ごまかすように軽口を叩いていた二人がぎくりと立ち止まる。どちらからともなく顔を見合わせしぶしぶといった体で二人は清藍に向き直った。


 ぷかぷかと浮かぶ水の神は、急に深刻な雰囲気になった三人を不思議そうに見下ろしている。


「十織……なのね」


 ことさら丁寧に言葉を紡ぎ、その発音の違いを強調した声。


 バツの悪そうにこめかみを掻き、大きなその背を丸めるのは徹。


 先ほどの戦いを最初からは見ていなかったはずの彼女。ごまかすつもりではなかったが、叶うならば知られたくなかった。それは徹のわがままではなく、思いを寄せてくれた清藍のために。


「……あぁ」


「どちらが、本当、なの?」


「わかんね……。生まれた時は女だったみたいだけど……」


 清藍の瞳に涙が浮かぶ。


「すまねぇ……」


 その二人の様子に何か言おうとして言葉を捜し、しかしかける言葉が見つけられずうろたえる陸の姿がある。


 過去の映像まぼろしで見たあの黒髪の少女と、今ここにいる背の高い青年。それが、同じであるなどと。


 あるはずがないと笑い出してしまいたかった。けれど、奇妙な確信と共にそれは既に清藍の心に根付いていた。


「ひ……日も昇ってきたし……、そろそろ異変に気づいて……」


 陸の台詞もいつになくひきつってしどろもどろだ。


 深刻さを深めるその場の空気に、一人だけ蚊帳の外にされている水の神が、ふよふよと所在なげに漂っている。強まるの光に透明度ときらめきが増している。


「……せっかく、思いを伝えてくれたのに。俺にはそれを受ける資格すら……」


「そんなこと!」


 涙を隠すためにうつむいていた清藍の顔が乱暴に引き上げられた。


「……!」


 かけるべき言葉が浮かばなかったのは、彼女も同じだった。


 両の手で徹の両腕を掴み、涙にぬれる頬を左右に振り乱しながら彼女は叫んだ。


「そんな苦しみを隠していたなんて!」


 知らなかったことを詫びる響き。教えられていない者にどれだけの罪があると言うのか。


 責められても仕方ないと思っていた。徹の見開かれた目がそれを語っていた。徹の苦しみを知るが故に、陸にはあたかもそれが普通あたりまえであるように振舞うしかなかった。


 水のさがを持つ彼女には、その涙にさえ浄化の力があるのだろうか。


 自分のために流される涙に、知らず徹の胸の内に温かい何かが広がる。


 まだ土に汚れたままの手を、掴まれている腕はそのままに、出来る限り伸ばして清藍の腕を撫でた。


 大丈夫だと伝えるために。


 しばらくは清藍の嗚咽と目覚めた鳥たちの声だけがしていたが、頃合を計るようにわざとらしい咳払いが聞こえた。


「あー、お取り込みのところ申し分けないんだが」


 言い出す陸も気まずそうだ。


 蚊帳の外におかれている水の神は、変わらずその辺りをふよふよと漂い続けている。人の機微きびというものには疎いというより、最初から知らないような素振りだ。


”これ以上明るくなれば、ヒトの知るところとなるだろうな”


 見れば先ほどは、東の空に少し頭を出していたほどだった太陽が、既にその体を大地から離し力強い光を放ち始めているところだった。


 夜中のお山の形を変えてしまうほどの変動は、その音を外へは伝えていなかった。おそらく清藍がその力で見通したとおり、神の力により封じられていたのだろう。


 けれど、明るくなりその姿が見通せる今になっては、もはやその全てを隠し通すことはできない。


 神の力は元にあった小さな池を壊し、幾度と無く山津波を起こしていたし、神を封じる社は陸たちが壊してしまっている。


「取り合えず、この場にいるのは得策じゃないぞ」


 この期に及んでまだくっついている二人を交互に見比べて、陸は力が抜けたようなため息と共にそう告げた。


「確かにそうだな。はやいとここの場を抜け出さないと……」


 騒ぎが起これば人が集まるのは早いだろう。


「うちに来る?ここから一番近いのうちだろうし」


「おっ、頼むぜ。服ドロドロだしな」


 と、軽く提案に乗ったのは徹。


「ちょ、女の子の一人暮らしだぞ」


「だってこの格好で街歩ってたら相当目立つぞ」


「確かにそうだが……」


 掛け合いを始めた二人を尻目に、清藍は水の神を振り返った。


「あなたはこれからどうするの?お社、なくなっちゃったけど」


”そうだな……。我はこの山の主である故、ここから移動することは出来ぬ”


「あら、そうなの。不便ね。じゃあ後でお社を作って貰える様にお役所にでも連絡すればいいかしら?」


”だが、全部がそうである訳でもない”


「え?」


 水の神は、そのまましゅるしゅるっと小さくなり、形を変えて小さな青色の首飾りになった。そして清藍の小さな手に収まる。


 青く透き通る細長い立方体に、それより少し短い透明の立方体が左右に付いた首飾りは、清藍の手の中でしゃらんと音を立てた。


”取り合えず付いて行くこととしよう”


 妙に人懐っこい様子で神が笑う気配がする。


「憑いていくの間違いじゃ……」


 手の中に納まった首飾りにぼそりと呟き、清藍はその首飾りを首から提げふたりを伴い歩き出したのだ。


”我が名は『アーガ』。我が巫女にのみ賜ろう”


『巫女って誰よ?』


 三人分の声が同時に聞こえた。


 ゆっくりと背を向け街へ戻る三人を、新たに出来た小さな池とその傍らに咲く水色をした小さな花だけが見送っている。


 その花は全ての淀を払った池に、そっと寄り添うように咲いていた。


 今はまだ濁った水が表面を被っていても、ゆっくりとその濁りを払い水は美しく澄むだろう。それはこの街の行く末を占うようだった。


 ゆっくりと清められていくのだろう。その花が……咲く限り。


           ☆


 泥にまみれ酷い具合になった二人だったが、清藍の家に行くまでもなく山を降りる迄の間に土は乾き、叩き落すことである程度見れるようにはなっていた。 


 先ほどまでの戦闘もその結果も既に彼らの中で事実として認識されてなお、三人は離れることができなかった。


 また、引き離されるような気がして。


 そのままの清藍の家で一息つき、十分に休んでから誰ともなくある場所へ向かうのだった。


 部屋を上がる際には、入念に砂を払うよう清藍から仰せ付かったため、泥にまみれていたはずの服は、かえってその前より綺麗なのではないかと思うほどになっていた。


 その場所へ向かう途中、徹はぽつりぽつりと自分のことを清藍に語って聞かせた。それは、清藍について来ている水の神、アーガにも聞こえていた。


 生まれた時、彼は十織と名づけられた。生まれてしばらくは、何も変わらなかったらしい。けれど、半年も経った頃だろうか、既に自宅での生活が始まっていたが、十織が泣くと不思議な現象が起こるようになった。家電が壊れたり電気がひとりでに消えてしまったり……。


 母は日上の血筋だったから、このような現象にも少しばかり心当たりが合ったのだろう。

 深く悩むこともなく、教育の一環であるかのように、根気良く力の制御を教えてくれたらしい。


 けれど、十織が五歳を迎える頃に、さすがの母でも驚愕する出来事が起こった。


 それは、街を揺るがす大地震や連続殺人などではなく、十織の姿が変化していたことだ。


 ある朝、目にした我が子は、骨格も面差しも男の子の姿でしかなく、その面影こそ十織に似てはいたが、間違うことなどありえない。それは確かに別の誰かだった。


 昨日の夜までは間違いなく女の子出会ったはずの子供はけれども間違いなくその面立ちに自分との相似性を示していた。


 その変化は周期的であった。最初は数時間だった『男の子の時間』が段々と長くなっていったと言う。


「母親は、慌てふためいたらしいよ……そりゃあそうだよな。性別が変化する子供なんてな……」


 それからすぐ後のことはあまりに目まぐるしくて徹も良く覚えていないようだ。


「多分、戸上の婆ちゃんに相談したんだろう」


 七歳を迎える前に十織は戸上の家で生活するようになっていたらしい。けれど多分、それは母の思惑とは違っていたのだろうとも言った。


 別れる時に母は泣き叫んでいた。引き離されるようにして、徹はこの地に連れて来られたのだ。


 そして、男の子の姿には『徹』と名付けられ、その姿がある程度安定するまでの間は、隠されるように戸上の家の中だけで育てられた。


 徹は義務教育さえ受けておらず、大学へは大検を受けて入学したのだ。


”……さもありなん。当代の当主ですら持ち得ぬ力の主たりえるならば……”


 慰めのつもりなのだろうか、アーガが言った。


「それって、お婆ちゃんより上ってこと?」


”……是”


「……お婆ちゃんより上って……」


 困惑するのは清藍のみ。戸上当主、絢乃には清藍も何度か合ったことがある。多少なりとも自覚ある術者ならば、会った瞬間に判るその圧倒的な力。


 この地を守護する最後の一人。それは生きた護符のようなものだ。


「素質って意味で、な。十織の時の俺でも、この俺でも片方だけなら、婆ちゃんの足元にもおよばねーよ」


 軽口のように徹は言い、陸も同意するように頷いた。


「本人に聞くのが一番早いと思うよ、多分僕達を待ってる」


 気付けば戸上の家は目の前だった。


             ☆


 戸上の家に着いてもそこはしんと静まり返り人の気配は感じられなかった。


 常ならば必ず誰かが守護するように門に立ち、多くの人が出入りしているはずなのだが。今日に限っては誰一人としてすれ違うこともなく一同は絢乃の部屋の前にたどり着いた。


 美しく整えられた中庭の見える部屋の前で、一度立ち止まり声を掛ける前に部屋の中から誰何の声がした。


「……来たね。待っていたよ」


 お入り、と誘う声は、優しげですらあるのに、誰ともなく息を呑む。


 ほんの少し間を置いて、視線を合わせ頷きあう。


 ゆっくりと襖を引いたのは陸だ。慣れた様子で、先に立ち残りの者達を先導するように中に入って行く。


 絢乃は部屋の中央に静かに座り皆を迎えた。


 広い部屋に深いあめ色をした背の低い卓子たくしの前に正座し、三人分の茶を用意しているところだった。


 目線で皆に座るように促し、なんとなく声を発することのできぬまま、彼らは絢乃が茶を入れる様を眺めた。


 急須に湯を注いだだけのものであったが、こぽこぽと湯を注ぐ音と、お茶のなんともいえない良い香りがにその場を本の少しだけ和ませる。


 絢乃の正面に並んで座る三人の前に、順に湯飲みを並べ終わると、老婆は自分の前に先に用意していた湯飲みを取った。


 清藍は目を伏せ湯飲みを見下ろした。聞きたいことはいくらでもあったはずだった。けれど、そのどれもが上手く言葉にできなかった。


 そっと湯飲みに手を伸ばし、手の中に包み込むように持ち上げる。表面に凹凸のある深い緑色の湯飲みは、不思議と手に馴染み、その熱をやんわりと伝えていた。


 想像以上に疲れの蓄積していた体に、その香りと味は癒しを与えてくれる。三人がそれぞれに激しく疲労していた。そう気付かないほどに今まで心が張り詰めていたのだ。


「……首尾は上々、だね。良く帰って来てくれた……」


 かみ締めるような声だった。この老婆は誰一人欠けることなく帰還出来たことを何よりも喜んでいた。


「婆様……」


 ごくりと息を飲んでから、声を上げたのは徹だ。


「なんだい?」


 答える声は静かだ。凪いだ海から聞こえるような、落ち着き何もかもを覚悟したそれ。


「教えてくれ……どこまで、知っていたんだ……?」


 静かに伏せた瞳を徹へ向けた。それから陸へ、最後に清藍に向けて視線を流した後、絢乃は再び目を伏せた。


「何もかも」


 声は迷いがなかった。だからこそ三人の心は乱れる。


 清藍はがたりと湯飲みを取り落としそうになる。慌てて湯飲みを持ち直し、乱れる心を落ち着かせるように茶を含む。


「どうしてだ?こんなになる前にどうにかできなかったのか?!」


 荒げる声は悲痛なほどで。答えの判りきっている問いだった。


「できるものならば、とっくにしていたともさ。藍良の大切な忘れ形見をむざに散らそうなどとするものか……!水上が滅ぶのを黙って見ておるものか……!」


 徹に呼応するように荒げた声は、けれど長くは続くものではなく、絢乃は一度言葉を切り視線を再び清藍に向けた。


「お前達も知るあの”歌”は、元は水上の秘術よ。その歌詞を正しく唱え、その旋律を正しく辿っても同じ結果を生むことなどできぬ。水上の血を引くものが唱うからこそ彼の神に力を注ぐことができる」


「でも、アーガは昔は誰でも力を与えてくれていたって……!」


 たまらず清藍が声を上げた。


「水の御神か……。その御名を賜ったか。……その昔とやらはおそらくはわしが生まれる前の話じゃろう」


「そう……なのですか……」


 首から提げた青と白の水晶からなる首飾りを無意識に撫でながら、その時の感覚の違いに戸惑いの声を上げる。水の神は清藍にだけ肯定の意志を伝えてくれた。


「幾度祈ったか知れぬ……。わしの命で良ければ差し出すとも。こんな老い先短い老婆の命一つであがなえるならば。じゃが水の御神の嘆きは、水上しか癒せなんだ」


「あの時、藍良に行かせたのは……」


「止めなかったと、思うかぇ?」


 陸の問いに絢乃は問いで返した。


 そうだ。強いられて向かったのではなかった。藍良は水の神を慰めたいと言っていた。なぜ、なぜ忘れていたのか。


 幽かに覚えている藍良は、明るく笑い老婆の制止を振り切った。絢乃は必死で止めようとしていた。会話は覚えていなくともその映像は脳裏に刻まれていた。


「水の神の癒しなくては水上は滅びる。これは水上の宿命と……」


 わずかに思い出した言葉は、残酷な決断の。


「水上の滅びは……水の神のせいじゃなかった……」


 清藍は両手で顔を被い、目を閉じて姉の顔を思い浮かべた。今ならば微笑んでくれているだろうか。


「笑っておったよ。守る力があることが何よりの幸福だと」


 ようやく判ったと清藍は思った。


 姉の自分への思いを疑ったことなどなかった。けれど、彼女一人を残して逝ってしまった彼女へのずっと一抹の未練を感じていた。


 一人置いていかれたことを淋しく思うことすらあった。けれど違ったのだ。きっと藍良は未来を信じていた。それは、清藍を信じていたと言うことと同じことだ。


「婆様。藍良は自ら望んで、この街の……いしずえとなったんだな……。あの塚は……」


 絢乃の話を聞きその話を紐解くように理解していけば、それは自然とでる答えだったのかもしれない。


「藍良の体を埋葬をしたのはわしじゃ……。それを咎めるというのならば、甘んじてうけよう……」


 陸は力なく首を振った。そんなことをしても、何が変わるわけでもない。藍良が戻ってくることなどありはしない。


「あの場所に塚など作らなくても、すでに藍良の魂はこの土地のくさびとなり深く溶け合っておった」


「あの塚は藍良の魂の憩う場所を作るため……」


「わしに出来ることはそんなことくらいじゃ……どうして、若い者、未来ある者から死なねばならぬ……」


 そう小さく告げると、それきり俯いた。そこに畏怖すべき当主の威厳などなく、孫の死を悼むただの小さな老婆が一人いるだけだった。


 そんな絢乃の姿を見ておれず清藍は目をそむけ、徹はかける言葉を見つけられず沈黙した。


 陸はすっと音もなく立ち上がり、ゆっくりと入って来た廊下側の襖を開けた。


 中庭には美しい緑に色づいた木々が、その命を謳歌するように葉を広げている。


「婆様。水の御神の悼みは払えた」


 庭の方に視線を向けたまま、その声は静かにそう告げた。


「清藍が詠う限りかの神は、癒され再びこの地に力を与えてくれる……。ならば僕が藍良の楔を抜いたとしてもこの地に禍が起きることはない。そうですね」


 それは問いですらなかった。ただの確認にすぎなかった。


 常にない硬い声は決意を表すようだ。


 すぐに陸の意図を悟った徹は、顔を輝かせ相棒を振り返った。清藍はその言葉の意味をよく理解することが出来ず不思議そうな瞳を絢乃にむけるばかり。


 老婆はその小さな背を震わすようにため息をつくと顔を上げた。その顔には、先ほどの枯れきってしまったような疲れはなく、厳しく引き締めたいつもの顔だった。その口元だけが笑んでいる。


「我が孫ながら、愚かなことを考える子だよ」


 老婆の瞳はその枯れたような見た目にそぐわず輝くようだった。


「藍良を救うためか……!」


 徹の声にも力が戻っている。


「姉さんを救える……の……?」


 それは願ってもない希望。もう決して手の届かないと思っていた、彼の人にできる思いがけない贈り物。それがもしできるのならば、きっと自分はどんな苦労も厭わないだろう。


 清藍は陸を振り返り、次いで徹と瞳を合わせた。そこに同じ思いを感じ取ると、彼女の胸にじんと熱い何かが広がった気がした。


 今はまだ届かなくても。


 ただ前だけを見ていこうと思った。胸にある熱だけが、道しるべ。その熱だけでどこまででも飛んでいける、きっと――。


 池のほとりにそっと風に吹かれてその花はひっそりと咲いていた。淡い水の色を映した花びら。その花びらだけが彼らを祝福していた。

ルビその他、疲れたのでまた後で

H30-10-13 訂正・ルビ振り すみません、今日の改稿は訂正のみです。

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