少女を想う男とそれを追う少女
ジェインの背に乗り、魔王城に向かう中、クリスティアは胸元に手を添えて考え込んでいた。
『…クリス、あの男の考えているのか?』
「……ねぇジェイ…世界の考え方…変わってきてるの?」
『……人間の国だけはハーフを認めてはいないけど、他の国は一生命として受け入れてる。まだ確執があったりするけどさ…魔王様とも戦うんじゃなくて対談で話をしようしてる…』
「なら勇者とか意味ないんじゃないの?」
感じた疑問とまだ自分を想っているとも取れるジェイクの様子に悩むばかりだった。
城に帰った後も部屋に籠もりしばらく出て来なかった。
-----------------------------------------------
時間を遡り、勇者一行野営地では、オークの群れを傷を負いながら突破して仲間と合流して直後、ジェイクは倒れてしまった。
傷を数多く負うジェイクに新しく勇者になったばかりのレティシアはどうしたのかわからなかった。
「…俺も怪我はしたけど、ジェイクの方がやばいな。ミレイアも一緒にいたんだろ?なんでまたこんな怪我…」
「私は敵方の騎士が現れた時にオークたちに狙われてしまってジェイクが逃がしてくれたのです。そのあとは見ていなかったので…そもそも、魔王はこちらを攻撃する気はないというのに…この戦いに意味があるのかと…」
「…お二人は気付いていますか?あの王は他の王が手出しができない魔王を倒したっていう名誉が欲しくて、我々を囮に敵の戦力を削ごうと動いています。」
「それって他の国を敵に回すって分かってんのかよ?俺は獣王の考えに従う…お前らはどうすんだよ?」
野営では呑気に寝ているレティシア以外が起きていて、ここ最近の国…人間達の企みについて話していた。
近くでは賢者サリホンに手当てを受けるジェイクの姿。
ガインが国に不信を感じたのは、クリスティアを置き去りにして国に帰った直後のことだ。
最初は気分はよかったがしばらく滞在する中で何度か襲われて命を狙われたことがあった。
それは他の面々も同じである。
この戦いではっきりしたことは、人間の王は全世界を我が物にしようとしているのだと。
このまま、戦う訳にもいかず、どうするか考え始める。
「私とダクは聖王の収める国へ帰ります。ガイン殿は獣王の元へ、サリホン殿とミレイア殿、シグル殿はどうされるんだ?」
「ジェイクをこのままにして置けません。私は彼を連れて身を隠し治療に…「俺は…クリスティアに…会いに行く…」ジェイク?どういうことですか?」
「…っ…彼女は…生きてた…魔王軍の姫として…俺は彼女を今でも愛してる…番の鱗も渡したまま何の説明もしてない…一度彼女の元を離れたこと…謝罪…しないと…」
「その傷で、あそこに向かうのは無謀ですよ、今でさえ動くのがやっとだというのに…」
レティシアが寝ている中で繰り広げられる口論。
初めてだった時に恋をした相手であるジェイクは姉の恋人だった。
いつも何するうえでも自分の邪魔になる姉。
二年前に魔王と相打ちで死んだと知らされていたから、次の勇者に選ばれて頼もしい人たちと旅ができてジェイクがいて幸せだったのにジェイクの心には姉クリスティア…。
レティシアの心の中に嫉妬と憎いという感情が渦巻く。
口論をする仲間は彼女が何を考えているか気づく様子もなかった。
ジェイクが姉に会ったのならば…どこかで姉に会うはず。
今度は自分の手で姉を殺そう…ジェイクがもし邪魔をするなら殺して自分も死のう…
そう心に決めた…。
人の心はとても脆く弱い。簡単に負の感情に飲み込まれてしまう。
レティシアもその一人だった。