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途中からの恋愛ゲーム  作者: 11029
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 俺が死んでから2回目の朝がきた。


 カーテンの隙間から射し込んできた日光は暖かく、今日が晴天であることを伝えてくる。

視界にあるのは見慣れない天井。携帯電話の時刻を確認すると通学するには少し早い時刻が表示される。

ベットから体を起こし、部屋に備えてあった鏡を見るとそこには知らない女の子がいた。ひどい寝癖のせいかとても冴えなく見えるのる。

今日の予定を確認。携帯電話のカレンダーに表示されたのは白い予定表。予定も何もない普通の日。

一昨日まで俺が「毒島ノブタカ」という30歳の男性であったことを除けばであるが。



 制服に着替え、再びベッドに寝っ転がる。せっかく櫛で解かした髪が再び癖になることなんて気にしない豪快なダイブ。

もしかしたら起床することまで再現しているリアルな夢の中ではないだろうか?

ふとした瞬間に目を覚ましてこの世界は消えるのでは?早く起きろ俺。

それにしてもお布団あったかいなぁ……このまま寝てしまおうか。


「アヤコ、朝よ? 今日は学校、行くわよね……?」


 ドア越しに名前を呼ばれ現実に引き戻された。

アヤコとは今の俺のことだ。苗字は清水。同姓同名を探せば簡単に見つかりそうな、弄られようのない普通の名前。名前でよく弄られていた俺としてはうらやましくなる名前だった。

やはりこのまま何もしないわけには行かない。昨日は学校を休んでしまったが、これ以上見知らぬ人の親に心配はさせられない。

「すぐ行くから!」とありふれた言葉を返し、これから清水アヤコとして生活することを決意した。





 ここが夢ではないことは昨日の時点で察しがついていた。


 問題はなぜ女子に転生したのかと、これから何をしたらよいのか。

理由については考えてもわからない。生前を振り返っても思い当たる節はない。答えを出すのは先延ばしになりそうだ。


 残る問題は、やらないといけないことについて。

真っ先にやらなければならないことは、これから女子として生活をするための準備だろう。

そのためにこの「清水アヤコ」についての情報を調べる必要がある。

幸い学校を休んでしまったため、丸一日分の時間があった。


 生徒手帳や財布から学校を調査。登校ルートについてはインターネットのおかげて容易に調べることができる。


 所持していた携帯電話から交友関係や話題を調査。履歴にある「清水アヤコ」の口調をメモし、真似してみる。なれない女子の口調は俺にとって違和感以外の何物でもなく、完全にトレースするのにはまだ時間がかかりそうだ。慣れるしかない。


 最後に衣服について。この作業を行うことには抵抗があった。こっちはいまだに経験がないのだ。女子を着替えさせるなんてハードルが高すぎる。

しかしこのままパジャマのままで過ごすわけにはいかないのだ。なるべく肌を見ないように制服などの衣服を試着する。女装している気分。部屋には一人きりであったが恥ずかしかった。が、すこし楽しかった。



 こうしてこれからこの身体で生活を過ごすための準備を整えた。

俺には社会人になって8年の経験と、オタク歴15年の豊富な妄想力がある。

あらゆる作業に潜む危険を予測して備えるのは社会人生活で学んだことだ。これからの日常生活に応用だってできるはずだ。

これだけ備えていれば正体がバレるヘマはしない自信があった。







 居間に入るとすでに朝食が準備されていた。ご飯に味噌汁、目玉焼きにサラダ。ありふれた朝食だった。

母親は先に朝食を進めていた。居間に入った俺を視線だけで促してきた。

正体がバレないよう一人で食べることがベストであったが、それはできないようだ。

観念し、向かいの側の椅子に座る。


「いただきます」


 なんてことはない。普通に食べればいいだけ。食事のマナーだって昨日練習していたから大丈夫のはず。


「醤油じゃないの?」

「え?」


 無意識にソースを手にしていた。この女子、目玉焼きには醤油派だったのか。


「ま、間違えちゃた! 寝ぼけてるのかなぁ」


 慌てて醤油に持ち替える。醤油派、ソース派なんて昨日の調査ではわからなかった。

早々にボロを出すのは防ぎたい。すばやく朝食を食べ終わろう。

他に掛けるものがあるのはサラダだけ。はたしてこの女子はマヨネーズ派なのだろうか?それともドレッシング派?


 迷った末にドレッシングを選択する。

母親からの指摘は無い。あたりのようだ。


「トマト食べられるようになったんだ」


 くそが。こいつはトマトという美味しい野菜を食えなかったらしい。

トマトの何が悪いのだ?食感はやわらかく味は甘め。苦いレタスのほうがよっぽど微妙だろうに。

そもそもこいつが食えないのわかっててサラダに入れてくれるな。


「食べてみると意外と美味しいよね! トマト!」

「母さんがいつも言ってることじゃない。今更わかったの?」


 やらかしたと思ったが、簡単に流された。

今の俺は思春期の女の子なのだ。変化なんて腐るほどあったに違いない。多少は安心してもいいのかもしれない。


「――アヤコ、あなた何か隠してる?」


 唐突な鋭い指摘に心臓が飛び出しそうになる。甘くはなかったようだ。

視界には怪訝な顔押している女性が映っている。完全に疑われている。

……あったとも……おっさんから女の子になってるんですもの。

はやく朝食を食べきり「あっ!そろそろ学校行かないと!!」と、強制的に切り上げよう。それならばとりあえずは誤魔化すことが――――


「もしかして! 彼氏とかできた!?」

「ぶっ!!」


 想定外の追撃に噴き出してしまった。実の娘は中身がおっさんになっているのに、こいつの母親は脳みそがお花畑のようだ。

昨日調べた結果、彼氏らしき人物はいなかった。それに今は体は女子だが心は男。俺は女の子が好きなのだ。彼氏など死んでもいらない。


「やだなぁ、母さんってば! ご馳走様。学校いくね」


 自然に返せただろうか。母親の表情をうかがう勇気はない。

家族なのだから今日だけの関係ではない。差異は今後も出てくるだろう。もしかしたら娘の中に俺が入っていることを正直に相談すべきだったのかもしれない。

相談してどうなるものでもないか……。悩んだって仕方がないのだ。今後のことは今後の俺に任せて今日を頑張ることにしよう。



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