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おっさん、黒の全身タイツで異世界を生きる  作者: しょぼぞう
二章(前編)
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第二十二話「燃え上がる炎」

〈三人称 視点〉



 彼が王妃を初めて見たのは十歳の頃。

 豪華絢爛な王宮の中でのことだった。


 彼女の白い肌は、東方の大陸より取り寄せる陶磁器よりも白く、その瞳は宝石(サファイア)よりも美しい青。流れ落ちる髪は金糸を束ねたように眩く光っていた。



 彼女は宮中の式典にて、フィリス王の傍らで、世界中の美を集めた王宮をも霞むような美しさを携え立っていた。



 当時彼女は二十代半ば、自分の母親とも変わらない年齢の女性対し、彼は恋に近い感情を抱く。

 そしてその光景は幼い目に焼き付き、今なお彼の胸の中を焦がし続けていた。




 やはり王たる者は、彼女のような美しい者を娶るのだと憧れる。


 王権とは神より授かりしもの。

 その答えは自分の血の中にあると、このアルマデル奥義書を託された時より、彼はそう考えていた。



 冒険者としての成功を積み重ねるたびに、その思いは確信へと変わり、より一層強いものとなっていく。

 力というものを体現したアルマデル奥義書は、彼に冒険者としての成功を与えてくれていたのだから。




 彼は一般的なフィリス貴族たちと同じように、第三身分(平民)の者たちが、心底嫌いだった。


 労働で対価を得ることは下賤のすることであり、自分達、高貴な者がもとめることではない――

 最初はそう考えていた。



 さらに祖国で第三身分(平民)たちにより革命が起き、それに拍車がかかる。



 そしてそれは、冒険者となった今でも、カンパニーである神炎旅団を結成した今でも変わってはいない。


 恥辱を堪えながら、第三身分(平民)のように労働である冒険者をしている今も、その考えは変わることがなかった。




 野蛮で洗練されてない行動や身なり――

 全てにおいて、それらは、彼の嫌いな要素であり、彼等と同類と思われるのは堪え難きことだったのだ。



 しかし、彼は第三身分(平民)の中でもブルジョワ(資本家)の持つ力は理解しているつもりだった。



 父、オルレアン公爵フィリップ二世は、フィリス王国において有数の大富豪であった。

 なので身近に金の力を見ることができた彼は、それを十二分に理解していたのだ。



 父の周りにいた、下賎なブルジョワ(資本家)たちは、汚く地を這いずり、金を集めることで、時に高貴な貴族(第二身分)たちと同じように力を持ち脅かしてきたのも目の当たりにしている。



 しかし、彼は、そんな者たちと連む父のことも嫌いだった。

 父の行動は、下賎なブルジョワ(資本家)に似た卑しいものが多かったからだ。


 彼の信じていた神の意志(統治)を遂行するための力は、金などではなく、高貴な血なのだからそれは当然のことだろう。



 だが現実は、無情にも彼に真実を突きつける。

 父の力を失ったときの、自分(高貴なる血)の無力さを。



 入学していた大学でも立場が悪くなり、自分を取り巻いていた者たちが潮が引くように消えていくことで、力の無い自分では、祖国どころか自分すらも守ることができないのだと思い知ったのだ。



 そんな中、訪ねて来たクレマンの勧めで、アングリア王国へ亡命する。

 あれ程嫌っていた冒険者(第三身分)として活躍するためだった。




 では、なぜ、それほどまでに嫌う冒険者という職業ついたのか。



 最初――

 それは、それが自分の手にあった唯一の(魔術)を生かすには最もいい立場だったという単純な理由だった。

 彼は力を手に入れるためなら、一時的に恥辱に塗れようが耐えることを選んだのだ。



 冒険者という職業は、古代の剣闘士に近い。


 名前が売れるたび、人気が高まるたびに、人々は自分に熱狂し、支援を惜しまなかった。



 それはブルジョワ(資本家)たちも例外ではない。

 金を持つブルジョワ(資本家)を利用するために、彼は冒険者としての名声を高めていったのだった。



 力を手に入れ、周囲が自分に追従していく様を見ると、自分の力を実感する。

 そうすると、自身が冒険者(第三身分)であるという恥辱にも耐えることができた。



 彼は荒くれ者の冒険者たちをまとめていて思うのだ。


 そう、力こそ権力であり、王に必要な物。

 自分たちの国、フィリス王に必要なものは力だったのだと身を以て気がつかされたのだ。




 ――しかし。

 しかし、まだだ。




 唾棄すべき男。

 金により、フィリス王国、提督の娘と結婚し、権力を強めた父は、増やした財力と権力を使い政界へ進出した。


 それは、彼が王位を狙う野心を持っていたからだ。

 父はそれを叶えるため、自由貴族として積極的に革命を扇動したのだった。



 結果、当時負債に苦しんでいた国に、存分に金の力を使い、第三身分(平民)と一緒に、父は革命を成し遂げたのだ。



 しかし、父の持つ野心――

 王座を得ることは、革命政府のブルジョワ(資本家)達との対立を強め、結局は共和制転覆の嫌疑の元、革命裁判にかけられ財産は没収、王たちと一緒に処刑される。




 なんとここで、金の力は通用しなかったのだ。


 革命政府の投獄、処刑は、人々に生け贄を渇望させ連鎖し、死体の数だけ恐怖を積み上げる。



 金の力は力ではあるが、絶対的なものではない。


 それは、金が人を動かすためのもので、父のように、それより強い力である恐怖に操られている者を動かすことなどできないことで証明されたのだ。




 彼は力が欲しかった。

 絶対的な揺るぎない力が。




 アングリア王国――


 彼は、この国のことも嫌いだった。

 自分の祖国と、争っていたからだけではない。


 第三身分(平民)であるジェントリ(地主)――ブルジョワ(資本家)たちが力を持ち、アングリア議会を牛耳っている状況――


 それも唾棄すべきものであり、到底、彼には受け入れることができなかったからである。




 この国。

 アングリア王国では昔、一時的に共和制が敷かれたことがあり、その後立憲君主政が敷かれている。


 王に力が無く不健全な状態であるから、こんな政治体制が敷かれているのだと言わざるをえない。



 王に力がないから、ジェントリ(地主)どもに負け、権利の章典などという法に縛られるしか自己を守ることができないのだ。


 力のないい王のたどる道は、この国と同じように法に縛られた飾り物の末路しかない。



 今、自分の祖国、フィリス王国はフィリス共和国となり、アングリア王国と同じ轍を踏もうとしている。


 この国(アングリア王国)の一度経た歴史、共和政などというものはどうせ破綻し、第三身分(平民)たちは自ずから力の強い者に支配されることを望むのだ。


 現に、今の祖国フィリス共和国では、英雄とよばれる男が生まれ、熱狂の渦の中、戦争へとひた走っているのだから。




 ――力だ、力が必要だ。


 彼の中で湧き上がる思いは溢れ出し、何者にも屈すること無い力を渇望する。




 タルタロス。

 黒の森(シュバルツヴァルト)に潜む死を内包するその存在は、アングリア王国、ガルニア帝国、フィリス共和国を退け、未だ付け込む隙すらない。


 その力は死者すらも蘇らせるものだと言う。





 彼は思う。



 この力に一番近いのが、自分――

 オルレアン公爵の息子、アンリ・フィリップなのだと。




 我が家に代々伝わる、アルマデル奥義書は天使の力――


 タルタロスに属する天使と、契約を結ぶことができる魔導書。

 この魔導書を使うことができるのは、フィリス王家の血を引く者のみ――




 そう――


 王たり得る力は自身の血にあり!

 神は自分に王として在れと告げているのだ。




 今、彼の目の前に顕現しようとしている天使。


 大天使ウリエル――

 ウリエルという天使はタルタロスの守護する役目があり、タルタロスを最下層まで制圧するには必要な力だった。



 もうすぐ、この目の前の大天使、そのエーテル体がこの世界の物質へと変容し顕現するだろう。

 そのとき彼の契約は大天使ウリエルの加護から使役に変わる。


 そして地上に顕現した天使(ウリエル)と共に、タルタロスを征するつもりなのだ――




 若き日に見た王妃の姿――


 彼女は祖国の革命により命を落とした。



 そして、かの高貴なる者は傾国の美女と噂され、その死は惨たらしく衆目に晒され、おとしめられてしまう。




 ――憎い。


 力なき不甲斐ない王。


 教えさえ曲げ、力に追従する第一身分(聖職者)

 金に魂を売った父、第二身分(貴族)たち。

 粗野で貪欲で醜い第三身分(平民)



 ……そして、力の無い自分が憎い。




 だが、今度は違う。


 手の届かない場所を見つめ、ただ憧れていた幼き日の自分とは。

 今度は力を得、死の力をもって祖国へ返り咲き、貶められた高貴なる魂を迎えにいくのだ。  




 彼の口から、笑いがこみ上げてくる。


 その様はまるで、胸の中で燻っている火が勢いを増し、制御しきれない大きな炎となって、彼を燃やし尽くしているようだった。





§





〈コウゾウ視点〉



「ダメッ、莉奈の攻撃でも壊れない――」


 莉奈さんの生拳突きが結界に当たるが、激しい光とともに弾かれ、結界が破れる様子は無い。



「――ッ! ダガーでもダメみたいですね」


 今まで、何でも切れていた高周波振動発生機付きダガーでさえも、それは変わらない。


 追加にエネルギーボルト数発放つが、前回と同じように結界にぶつかったそれは、火花と電気を放ち消える。



「無駄だぁッ!!


 攻城兵器――

 たとえば超大口径臼砲で、大ダルほどの榴弾砲を撃ち込もうが、この結界を破ることあたわずッ!

 もっとも火薬兵器など、この濃度の魔素の前には役に立たんがなぁッ!!」




 黒ハゲは、死神が倒されたことによるショック等、なかったかのようにご機嫌だ。

 ちきしょう、もう儀式が成功したような顔すらしている。



 金髪王子はその隣に立ち、最初と同じように俺たちをステージから見下ろす。



 その手に刻まれた傷は、煙を立てながら回復していた。

 俺たちが黒ずくめハゲと話しているうちに回復薬(ポーション)をかけていたようだ。



 そして金髪王子は、その回復している手を撫でながら俺たちに向け話しかけ始めた。




「神は僕に味方し、世界は王の血を求めている――


 侵略戦争。

 自衛戦争。

 解放戦争。

 制裁戦争。

 共益のための戦争から私怨による戦争まで、それらに満ちた世界は平和とはほど遠い……。



 自己を守るため、平穏を維持するために国家(リヴァイアサン)に身を委ねるが、結局は国家(リヴァイアサン)同士の対立の前に晒され、闘争を終えることができない。




 ――ならば、どうやって平和を維持するか。


 それは神の使者である真の王のもと、人々は王の支配を受けることなのだ。


 それが神の意志であり、千年の王国を実現するために必要なこと。



 真の王ではないもの――

 偽物の王の元に集い、神の声を聞かぬ偽物の法。



 それにより――

 第三身分(平民)どもの寄せ集めにより、作られた国家(リヴァイアサン)――


 ジェントリ(地主)たちの傀儡となり、神の声を聞かず、人をまどわす議会(ベヒモス)による支配――



 そんな悪魔たちが、この世界を歪ませ争いを生んできたのだ。


 今、流行の社会契約などというもので人を惑わせることは、神の意思に反する愚かな行為。

 そもそも契約などというものは、対等の立場にのみ必要なこと。神の使者である真の王(国家)と成り立つものではない。


 王の元にあるのは従属のみ――



 愚か者たちに聞かせるため、あえてもう一度言おう。

 神は僕に味方し、世界は王の血を求めている。



 王の血とは力。

 神の軍勢を使役し、神の力を行使する、神の意志を体現した血統が、真の王の証。


 今、この世界全ての闘争は、絶対的な神の力にしか治めることができないッ!!


 愚かな冒険者(第三身分)よ、跪け!

 悔い改めよッ!


 死神をも退けるその力であっても、これより顕現させる天使の力には遠く及ばない。

 大人しく、神の審判を待つがいい!!」



 金髪王子は、その姿も堂々と両手を振り回し、ステージから色々とまくしたてた。



 正直「知らんがな」である。

 どんな世界かもわかってないのに、そんなこと言われても……ってヤツだ。



 莉奈さんなんて、半分も内容を理解できてないだろう。


 だって斜め上の、何もないとこを見ているあの顔は、右から左へ言葉が抜けている時の、なにも理解してない顔だ。



 しかし、この世界で生活するには、こういったことも考えないといけないのだろうか。


 なんだか、この先の目標――

 この世界で、俺の人生をやり直すことの難しさに、今更気がつかされる。




『コウゾウ。時間がありません。

 結界を破るための攻撃――その準備に移りましょう』



 イノリさんが、俺たちの今やるべきことを思い出させてくれた。

 乗っているバイクを俺の側まで寄せ――

 立体映像の身体を車体から降ろす。




「攻撃って、さっきから、何やっても効きそうにないけど……。

 おじさん、イノリちゃんどうするの?」



 莉奈さんは俺たちの方へ向き、両手で自分を抱きながら心配そうな顔をして言った。


 両腕に圧迫された胸が潰れ、寄せてあげられる。

 ついつい見入ってしまった俺に、莉奈さんは顔を赤くして睨む。



「――っ、ご、ごほん。

 アレですよ、アレっ、あの橋の上で巨大ロボから逃げた……」



 俺は咳き込みながら、莉奈さんの質問に応え、エロ親父っぷりをごまかした。

 彼女は、自分が睨んでいたことなど忘れ「なるほど」といった顔をしている、チョロいな。



『はい、そうです。

 エネルギーの方は、昼の間に十分補充していますので――すぐに起動可能です。


 今なら、儀式を中断させることもできます。急ぎましょう。

 コウゾウ、Xanthosに乗ってください――』


 イノリさんはそう言うと、バイクに手をかざした。




『ドラゴンスレイヤー起動――』


 イノリさんは続ける。

 バイクの脇パーツがスライドして、ランスの取っ手が現れた。


 俺はそれを引き抜き、バイクに跨がった。



 気分は馬上でランスを操る騎士――

 脇を締めランスを身体へ固定する。




『リナ、Xanthosから離れてください。

 …………はい、その位置で大丈夫です。


 では――

 ランスを基点に、プラズマフィールドを展開します』




 ――バチッ


    ――バチッバチッバチッ



 ――バリバリバリバリバリッ




 放電と共に、俺の身体とバイクは光に包まれた。

 相変わらず凄い光だ。




『電力充填150%。

 これより、電磁誘導によってXanthosを加速し、緊急発進します』


 立体映像のイノリさんは消え、俺のヘルメットに映るウインドウでナビしてくれている。




「愚かなッ――

 なぜ、無駄だとわからんのかッ!!」


 黒ハゲが、腕を振り上げステージから怒鳴っている。




『電力充填160%――

 対象は、おそらくあと数秒で、街から本格的にエネルギーを吸収する準備が整います。

 儀式の規模が大きくなるでしょう。


 そうなってしまえば、現在、エネルギーを吸収されている街の人間たちは危険な状態となりますね』



 人の命がかかってると言いたいのだろうか。

 相変わらず、イノリさんは俺に遠慮なくプレッシャーをかけてくる。

 この子、俺に成功して欲しくないのだろうか……。



「所詮は、愚かな第三身分(平民)

 悔い改めようともせず、まだ罪を重ねるか――」



 金髪王子が、相当見下した感じで言ってくる。

 なに、その、「のび太の癖に」的な感じのディスり方。




『電力充填170%』



 ――シュバッ


   ――シュババババッッッッッ



 イノリさんのカウントの後にバイクの前方へ、二本のラインが火花を散らし走った。




『電力充填180%』


 周囲にあふれ出した電力が、放電しバチバチと音をならす。空気がビリビリとふるえた――




『電力充填190%。

 コウゾウ、射出時の衝撃にそなえてください』




 目前の野外ステージ。


 その壇上に立つハゲとイケメンの間には、召喚された、翼をもつ中性的な巨人が膝を抱え浮かんでいる。




 バイクの向いている方向はその巨人。

 俺は未だ目覚めぬソイツを見据える。




 ランスの先が割れた。

 その中央には凄まじい放電を起こす棒が発光している。




『電力充填200%。


 ――コウゾウ、Xanthosを発進させますッ!』




 イノリさんの号令が頭に響く――








 そして景色が白く染まった……





 ヘルメットの光量調節機能が視界を遮断。

 俺は全身タイツの力を最大限に引き出し、バイクと槍を硬く握りしめる。





 射出の衝撃――

 それは思っていたよりあっけなく、軽かった。


 野外ステージと儀式、それに翼を持つ巨人。

 俺は光の槍と化して、それらを貫いていたのだった。





§






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