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おっさん、黒の全身タイツで異世界を生きる  作者: しょぼぞう
一章 脱出
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第三話「未知との遭遇」




 ガラスの向こうは、宇宙が広がっていた――


 冗談みたいだろ、でも本当なんだぜ。

 しかも、その宇宙空間に、ひときわ輝く青い星が見える。


 ――地球か?

 この距離から、陸地の形では判別できない。


 なんだっけ……ちょっと前のテレビで見た……。

 そうだ、月から見た地球に似ているんだ。


 月周回衛星のハイビジョンカメラで撮影された映像。

 広い宇宙に、ただ一つ浮かぶその姿。

 自分自身の状況と照らし合わせ、この宇宙の中、地球は孤独なのだと思い知らされたことを思い出す。


 俺はそんなことを思い出しながら、その美しい光景に引き込まれるように、現状を忘れて眺めていた。



 ――それにしても周囲が暗いな。


 目の前の光景にも少し慣れ、周囲へ気が向き始めると、こんどは室内の異様さに目が向き始める。

 明かりはモニタやランプみたいなものが大半で、あとは計器っぽいもの、それらがわずかに光っているだけだった。


 明かりの点け方はわからない。

 下手にボタンを押し、爆発してしまうかも、と考えるとちょっと触れない。



 だんだん暗闇に目がなれてくる。


 全体的に白っぽい内装。

 壁面を押してみると金属のような冷たい硬さはない。車の内装を思い浮かべてほしい。そんなプラスチックとか樹脂の感じだ。


 しかし、どこかで見たことあると思ったら、テレビで見た国際宇宙ステーションっぽいのか。


 いや、違う点もある。あんなに狭くないし、ちょっとした映画館ぐらい広い。

 なんて説明すればいいんだろ、スターなウォーズ……その宇宙船内みたいな感じ――その方が近いのかもしれない。



 俺は必死に人の気配を探す。


 一応、警戒しといたほうがいいのだろう。

 現れるのは人間ではないかもしれないしな。

 いや、人間じゃない可能性の方が高いのか……。


 はぁー……。しかし、ここまでの対応。

 他人から見ると、俺は冷静に行動できているように見えるかもしれない。

 だが、正直な話、心の中は不安でいっぱいだ。

 こんな所に自分一人だけだと思うと怖くてたまらない。努めてそう考えてるだけなのだった。



 ――ピピッ

     ――ピピッ


 ――ピッ、ピッ



 聞こえてくるのは電子音。

 生物の息づかいや気配は感じない。


「何が何だか、わからないな……」

 自分の存在を確かめるようにつぶやく。


 誰の声だっていい。

 人の声に触れていたかった。


 仕事を辞めてから数年。

 引きこもっていた時は、一人になりたくて、なりたくて、仕方なかったし、誰もかまってくれるなと思っていた。

 そんな俺の望み通り、目の前に広がる宇宙空間は俺を孤独の闇に飲み込んでいる。


 口では、あーだ、こーだ言ってるが、本当の孤独へ放り込まれると、やっぱり恐いのだ。


 誰でもいい、生きている者と会いたい。

 そう願う気持ちが溢れ出しそうだった。



「――あーっ、あーっ。

 だ、誰でもいい」


 気持ちが溢れ、声を絞り出す。


「――すみませーん! 誰か居ませんかーっ!

 誰かー!! いーまーせーんーかーっ!!」


 一度漏れ出したものは、その防波堤を決壊させる。

 冷静さを失わせ、俺は大きな声で助けを求めた。


 誰もいない空間なのに、思ったより声は響かない。


 ――ピピッ

     ――ピピッ


『生命体の覚醒を確認。

 言語は日本語。

 侵入者とコンタクトを試みます』


 どこからともなく女性の声が。


 その声が途切れると、部屋中央にある筒状の台が発光し、点とラインでできたホログラフの顔が浮かんだ。


「うぉわっ!!!」

 台が急に明るくなったので、びっくりしてしまう。

 明るさはそこまで強くない。眩しくはないのだが、思わず目を閉じる。

 

『ワタシの言葉は通じていますか?

 アナタから回収した携帯通信端末より言語を解析しました。

 現在、解析した日本語を使用し、侵入者とコンタクトを試みています。

 ワタシの言葉は通じていますか?』


 目を、恐る恐る開ける。


「あ、あ……え、えぇ!?」


 言葉が出ない。

 非現実的な光景に、先ほどまでの冷静さは鳴りを潜め慌ててしまう。パニックで思考がまとまらない。



『対象の精神状態は不安定。

 会話の円滑化を図るため、対象より回収したメディア、光ディスクより情報をさらに取得します――ピピッ』


 台の上にあった顔が拡散する。拡散した光の点が、何かの形になったりバラバラになったりした。


 なにか考えているように見えるな、これ……。

 ゲームのロード画面を思い出す。


 深呼吸をすると、少し落ち着いてきた。

 俺は今のうちにと周囲を見渡す。



 会話が通じるなら、少し希望を持っていいよな。


 謎の第一村人との出会いに、最初、驚きはしたが、なんとそいつは日本語を話しているじゃあないか。


 話しかけてきたのは、この宇宙船――

 なのかどうかは分からないが、この施設を管理しているAIか何かなのだろうか?


 俺のつたない、SF知識を総動員して考えてみる。


 宇宙人とかだったらどうしよう。

 地球に返してもらえるのだろうか。


 キャトルミューティレーションされた牛を思い出す。


 うぉう、股間がキュッとなった。

 咄嗟に頭を振って、嫌な思考を振り払う。


 状況が理解できなさすぎて、なんとでも思いついてしまう。嫌な方に。


 とにかく今は、相手の反応が気になる。

 このままじゃあ、不安が積み重なるだけだ。


 俺のことを侵入者と言ってた。

 それにバスに乗ってた連中。やつらは一体、どうなったんだろうか。



 ここにくる前の自分がいた空間を思い出す。


「ファンタジー世界へ異世界転移www」とか言って草をはやしていたが、フタを開けてみると「宇宙だったでござる、の巻き」だった。


 さっきのAIっぽいのは、侵入者の俺をどうするつもりなのか。

 排除するつもりなら、会話なんてせず、いきなり攻撃してくるよな。たぶん。


 できれば味方か、保護してくれるような存在であって欲しい――

 俺は、そう願わずにはいられなかった。



 くそぅ。

 チンピラどもに突き落とされた尻が痛いぜ。


 あの階段――

 あそこで見たのは、何だったのだろう。


 ぜ、絶対ヤバいものだよな……。


 それはわかる。

 しかもアレに導かれ、ここにきたのだとしたら、相当ヤバい気もするし……。


「勘弁してくれよ……」

 不安を打ち消そうと、口から言葉を漏らす。


「腹も減ってきたし、それにトイレ、どうしよう……」

 さらに浮かんでくるのは生理現象への不安。


 今すぐ催したいわけではないのだが、でも、これって大事だよな。いつまでこんな状況が続くかわからないし。


「ここで立ちション??

 ははっ、せめて仕切りでもないとやりにくいよ……。

 まだ小ならいいけど大は最悪か、拭くものもないし……」



 ――ブォン

    ――ぷつん


 突然の、放電音に「ビクッ」としてしまう。



『は~~~いっ!!

 マジdeマジック☆エロイムエッサイム!

 魔導少女 イノリだよ~~んっ!

 トイレはちゃんとあるから、そこでシてねっ♪

 ここでシたらメッだよッ!』


 唖然としている俺の目の前に、どこかで見たことのあるキャラクターが空中に浮かんで現れた。




 ――ま、魔導少女……だと……!?

 そこに居るのは“ドキドキぱらだいす 私立 魔導聖女学園”のキャラクター。


『この姿なら、恐くないよねー☆

 ねえねえ、お兄ちゃんって何者なの?

 イノリに教えてほしいな~――エヘッ♪』


 満面の笑みを浮かべ、ステッキを振るう。

 その軌道にキラキラとした光のエフェクトが舞った。


『な~~に、バカみたいに口開けて見てるんですかぁ?

 おっかしいですよっ♪』



 ――ッはっ!

 い、イノリちゃん……だと……!?


 し、しかし、これは――

 目の前には魔導少女イノリちゃんが、半透明でフワフワと浮かんでいる。


 リアルだ……。

 アニメのキャラが現実世界に飛び出してきた。


 アニメなのにリアルと言う表現はおかしい気もする。

 だがしかし、今、目の前にアニメキャラが実在しているということに違和感があるが違和感がない。

 なにを言ってるかわからないかもしれないが、それだけ矛盾した存在だった。


 ――結論。

 やっぱり、こりゃ夢だな。


 俺はそう考え、もう一度眠ることにした――









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