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おっさん、黒の全身タイツで異世界を生きる  作者: しょぼぞう
二章(前編)
38/51

第十話「冒険者の酒場」

本日二話目です。

「そうですね、その場合は精霊石と呼ばれるもの……。


 これを見てください。

 この先端についているものです」




 金髪ローブくんは、手に持った指揮棒のようなもの。

 その持ち手の部分を、俺の目の前に近づけた。


「この石には、精霊(エレメンタル)が宿っています。

 周囲に、精霊がいない場合は、この石に宿る精霊に命令して魔術を行使するんですよ」



 握る部分には深い緑色をした石が、はめ込まれている。

 彼は説明を終えると、その棒と石を握り込み、指揮者が伯を刻むように空中を切った。




 ドヤ顔がなにげにムカつく。


「ねぇ、どうでもいいけど、早く中に入ってよ――」

 後ろを見ると不機嫌な声を発し、莉奈さんが眉間にシワをよせていた……。




 俺たちは、食事をとるため酒場の前まで来ている。

 莉奈さんを食事に誘った後、酒場への道中だった。


 金髪ローブくんの魔術講義に耳を傾けているうちに、店の前に着き、入口で立ち止まってしまっていたのである。




 中からはよくは知らないがジャズっぽいピアノの音とともに、喧噪がよく聞こえてきた。

 夜になり、皆できあがっているのか、どうやら店の中はよく繁盛しているらしい。



「う、すみません――」


 俺は莉奈さんに謝ると、金髪ローブくんに目配せをして、入るよう促した。


 扉が開き、店内から漏れ出していた音がよりクリアに聞こえる。

 聞こえてくる音楽が、よりいっそう大きくなっていた。




 ――バ チィィッ


 突然、派手な音と共に青い光が走る。

 中から早足で出てきた男と、金髪ローブくんの肩がぶつかったのだ。



「――ッ!」


 男は一瞬振り返るが、すぐに向き直り早足で店を後にした。



「なにあの態度?

 しかも、随分、痛そうな静電気……」



 莉奈さんが驚いた顔で、金髪ローブくんを見る。

 静電気の痛みを想像したのか、自らの体を抱きしめ震えていた。




「――ウィリアム、まてよッ!!」


 続けて少し太った男が、中から出てくる。



「くそっ、行っちまったか……」


 その少し太った男は、男にしては長髪の髪の毛をかき揚げ、ハゲに限りなく近い、広いおでこを見せながら文句をブツブツ言い、店の中へ戻ろうとした。



「あれっ?

 エドマンドさんじゃないですか?」


 金髪ローブくんが、中に戻ろうとする小太り男に話しかけた。



 小太り男は金髪ローブくんの顔を見ると、知り合いだと気付いたのかニヤリと格好つけた笑みを浮かべる。

 その脂ぎった顔は激しくキモい。なんだか妙に親近感を感じる長髪デブだった。

 



「おおぉ、ユアンか――

 ん、そいつらは??」

 

 男は俺たちを値踏みするように見た。



 だが、それも数秒のことで、ブルッと体を震わすと。


「ま、寒いし。中に入って話しようぜ――」

 そう言って、握りしめた、丸々とした手の親指を立て、店内を指し示したのだった。





§





「ウィリアムの分隊が全滅したのは知ってるか?」



 金髪ローブくんに、エドマンドと呼ばれていた小太り長髪男はそういった。



「……すみません、知らなかったです。

 もう、教授の依頼は受けられない。とダケしか聞いてませんでしたから……。


 ――って、もしかして!

 さっきの人ってウィリアムさんですか!?」



 カウンターで、お金と引き換えに料理と飲み物を受けとる。そして金髪ローブくんは返事を返した。



 俺たち全員、それらの食事を受け取ると、店内の空いている席へと移動する。



 先を歩く小太り男は片手にビール、もう片方に食事の乗った皿という状況。

 その姿で器用に人の間を縫い、カウンターから少し離れた空いている席につくと、先ほどの続きを話し始めた。



「ウィリアムさんって、あんなに痩せてましたか?

 なにか、死神にでも憑かれたような顔でしたよ」



 金髪ローブくんが心配げに問いかける。

 顔ははっきりとは見てないが、確かに体つきがやせていたのが俺にもわかった。



「やつの分隊が全滅してからずっと、ああだ……。

 まあ、ウィリアムが生き残ってるから全滅とは言わないかもしれないが、やつ以外全員、迷宮(ダンジョン)で死んじまったみたいだからな」


 そう言って、自然な感じで小太り男は金髪ローブくんの皿に乗った芋のフライをつまみ口へと運ぶ。

 あまりに自然な動作で金髪ローブくんは、それを死守することができなかった。



「え、彼ら六階まで進める実力でしたよね?


 しかもエドマンドさんと同じ――

 確か、神炎旅団と同じぐらいの規模をもつ……鋼鉄の橋の古参メンバーで……」



 金髪ローブくんは芋のフライは取られたが、残る皿の魚のフライを死守しながら話しをする。



「――ッちっ。


 実力あったって、死ぬときゃ死ぬさ。

 まあ、もっとも、全滅したときは七階だったらしいけどな」


 小太り男は、そう言うと自分の手に持ったビールをあおった。



「あいつ、女いただろ、同じパーティに。

 この仕事から足洗って、そいつと結婚するために、まとまった金が欲しかったんだよ。


 だから、無理したらしいんだよな――

 無茶した挙げ句、相手は死んじまってりゃ世話ねぇ話だがよ……」



「そ、そうですか……」



 金髪ローブくんは、暗い顔になり言葉を濁す。


 まあな。

 つい最近、自分のパーティでも似たようなことがあったんだ。

 こんな話を聞くと、否が応にもそのことを思い出し暗くなってしまう。



「まあ、それからのあいつは、クリブ・ストリート(赤線地域)なんかで女漁って、変な連中と連んだり一人で迷宮に潜ったりし始めたんだよ。

 あぶねぇだろ? 見てらんなくてな。


 さっきも、そのことについて問いつめたら……。

 逃げやがったよ。



 あの迷宮に一人で潜るとか……。

 戦闘だけならまだしも、俺なら、そんなことしてたら気でも狂いそうになるな――」





「うわっ、まっずっ!! これ変な味するし!!

 ――っもう! なんなのよっ!」



 莉奈さんが、ビールを呑んで文句を言っている。

 ってか、高校生がビールって。

 まあ、異世界だからいいのか。


 自分の皿にあるパイの切れ端を、フォークに突き刺し口に押し込む。



「甘くないし……」

 情けない顔で、こっち見てきた。


 そりゃ、まあ、フィッシュパイだからな。

 これはこれで旨いと思うのだが……。


 もしやこの娘、甘いお菓子かなにかだと思ってたのか。




「その女は……どこの言葉だ?

 ユアン、そいつら誰なんだよ。

 この前のヤツらじゃねえな」



 小太り男は、俺と莉奈さんを交互に見る。 


 莉奈さんは、いまだにこの世界の言葉は話せない。


 まあ、この世界にきて、まだ一ヶ月もたってないうえに、現地人と話したのだってここ二週間ぐらいがほとんどだ。

 俺だって、イノリさんに言語をインストールしてもらわなければ、言葉を覚えるなんて無理だっただろう。




 今の所、それをするための施設は見つかっていない。

 探索している迷宮の基地に、それが見つかることを願うしかなかった。



「……えらくべっぴんだな。


 顔つきは……お前と同じ、北のやつらの感じだが――

 さては同郷か?」




 莉奈さんは、現地の人たちから見ても、幼さはあるが美人だ。

 この世界の一般市民と違い、日にも焼けてないし、そばかすもない、髪やなんかもキレイときている。



 服の着こなしもオシャレで、クラシックなものを今風に着こなしていた。(今風といっても元の世界のことだが)



 実際、この店に入ったときも周囲の目を引き、今もなお、視線を集めていた。





 そんな、だからだろうか。

 隠れるには向かないし、目立ってしまっている。





「――やっと会えた」


 必然的に、こうなってしまうよな。



「さあ、取材させてもらうわよ。

 新進気鋭の冒険者さん――」



 その声の主。

 釣り鐘型のフェルトの帽子をかぶった女は、自身のボブカットを揺らし、俺の後ろに立っていたのだった。





§

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