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おっさん、黒の全身タイツで異世界を生きる  作者: しょぼぞう
二章(前編)
32/51

第四話「依頼」

本日二話目です。

『コウゾウ。

 先ほど教授の地図で確認したタルタロスですが。

 そこに、我々の目指す施設があります。

 その依頼、受けてください』



 イノリさんは、俺に話しかけてきた。

 ヘルメットを被ってないので、直接目の前で喋っている。


 えっ、基地のこととかしゃべっていいのかって?


 心配ご無用。

 日本語で話しているので、莉奈さん以外には、何を喋っているのかわからないはずだ。



「イノリちゃ~~ん♪」


 莉奈さんは内容よりもイノリさんが出てきたことに夢中。

 楽しそうに飛び跳ねてるし。



「せ、精霊の動きを感じません……。

 しかし、どうみても……」


 金髪ローブくんが腰を抜かし、地面にへたり込んでいた。



「精霊のようでもあるが……。

 言葉は、お主らと同じ言語をつかってるようじゃな……」


 教授はイノリさんが俺と同じ日本語を喋ってるのがわかったらしい。

 まあ、目の前で会話してればわかるか。



「な、なんだ!!

 今度は魔族かっ?! 結界の中なのになぜッ!!」


 金髪ローブくんのお友達。

 マッチョさんが、イノリさんを見てすっ飛んでくる。


 その手には、よくファンタジーで見るタイプの斧を握りしめていた。



『ワタシは彼を守護する精霊(エレメンタル)――

 貴方たちに、危害を加えるつもりはありません』



 あ、嘘つきやがった。

 イノリさんがこちらの世界の言葉でみんなに語りかける。


「ほ、ほんとなのか?」


 金髪ローブくんのお友達は、猜疑心のこもった目で、俺を見てくる。

 マッチョのジト目。

 女子にされるのはいいが、これはなんともいただけない。



「た、たしかに、攻撃してくる様子はないです。

 危害を加えるつもりがないのは本当のようですが……。

 しかし、これほど存在感のある精霊にしては周りが静か――


『アナタたちの、話を聞いていました。

 コウゾウ。その依頼をお受けなさい――』




 金髪ローブくんに、喋らせるつもりはないらしい。


「い、依頼とは……。

 俺にタルタロスの迷宮に潜れということですか……」


 とりあえず、話には乗っておく。

 「今それ、初めて聞いたわー」的な感じで、俺は返事を返した。



『そうです。

 タルタロスの迷宮にて、見つけて欲しいものがあるのです。

 アナタはそこの男の依頼を受け、タルタロスに潜り、それを見つけ出してください』


「か、かしこまりました……」


 空気が読める日本人。

 一応、話に乗っかっては、みた。



 しかし、なんともまあ、迷宮(ダンジョン)とか超危険じゃん。

 なんか釈然としない。




「――っハッ!!

 う、受けてくれるんじゃな!」



 我に返った教授は、俺の手を取り、硬く握りしめてきた。

 なんか全然うれしくない。


「ぼ、僕も!!

 足手まといかも、しれませんが……。

 僕も教授の助手です、連れて行ってもらえませんかッ!!」


 金髪ローブくんが、どさくさにまぎれ、話に乗ってきた。

 なんか「このビックウェーブに乗れ!」的な感じ。よくないよ。君。




「……さっきから、みんな、なに言ってるの?

 イノリちゃんも居るのに……。

 莉奈だけ、ハブられてんだけど……ねぇ、説明してよ」


 ギャルもうるさい。

 今、入ってくるなと言いたい。

 いちいち、説明してられるか。




「あ、アタシもつれてってッ!!」


 ひときわ大きな声が、夜の森に響く。


 今まで暗い顔をして、うつむいていた彼女。


 ほら、彼氏が死んじゃった彼女だ。

 その娘がいつのまにか、たき火の前まで来ていたようだ。



 たき火の炎が赤く辺りを照らし、生気を失っていた彼女の顔に赤みをつける。

 そのとき俺は初めて彼女の声を聞き、近くでその顔を見ることとなった。



「た、タルタロスって……

 あの噂がある、タルタロスの迷宮よね……。

 アタシ……ついて行きたい。

 このままじゃ、納得できないよ……」



 泣きはらした顔は少し腫れていた。

 いつもとは違う顔なのかもしれない。

 しかし俺は、その彼女の顔にとある女の面影が見えた。



 瓜二つとか、そんなわけではない。


 なんとなくの声のトーン――

 腫れているのにわかる、少しきつめの目や口の形――

 そしてどこか遠くを見ている目――



 面影の彼女とは、もう何年も会っていない。

 俺と同じ年、今では結構なオバさんのはずだ。


 だって母さんから結婚したって聞いたしな、もういい年だろう。


 俺が思い出すのは、大学時代の姿。


 そう、俺と付き合っていた頃の――

 元カノだった幼馴染み。


 目の前で決意を見せた女性は、何となくだが俺の元彼女に雰囲気が似てたのだ。





§





〈三人称 視点〉



 舗装された石畳の上。自動車が、蒸気を出し走る。

 ボイラーの振動もさることながら、石畳から伝わる振動は、車内をことのほか揺らしていた。


 空気の入ってないゴムタイヤは、石畳の衝撃をあまり緩和しないのだろう。

 それでもタイヤのついてない馬車よりかは相当ましだったのだ。



 蒸気自動車は、町のいたる所で走っている。

 その足は多少の不都合など気にしないほど、人々の生活を支える力となっていたからだ。


 タイヤで走るなら道は舗装されていたほうがいい。


 そんな理由で、街に張り巡らされた石畳。

 そしてその道路の両サイドには、石造りの建物が所狭しと立ち並んでいた。しかも、そのどれもが五階以上の高さがあり、空を見るには顎を上げねばならないほどだったのだ。




 そう――まさに、その街は都市であった。


 そしてその大きな都市は、それに見合う大きな川に分断され南と北に分かれていた。


 しかし南北の区画は、川などおかまいなしに人の交流が盛んである。

 川には特徴的な鋼製の橋がかかっており、それが南北を行き来する交通の要となっているからだ。



 付け加えると、人々の足となっているのは車だけではない。川沿いに走る鉄道もそう、地下に張り巡らされた地下鉄まであるのだ。

 さらには川の上流へ向け、自動車や汽車と同じように蒸気の力を利用した船が外輪を回し、その川の流れに逆らって上流へと進んでいた。


 その光景は、都市が川沿いに繁栄していることを感じさせる十分のものだった。




 ここはブリストルと呼ばれる街。

 アングリア王国の都市、冒険者の街である。


 人口は、すでに百万人を大きく越え、今なお増え続けている。

 大勢の人が住まう街にはガス灯が設置され、夜でも人がひしめきあっていた。


 この時期、外の気温はコートなど厚着をしないと寒い。

 アングリア王国は北方に位置しているため、寒くなり始める時期が早いのだ。



 しかしそれでも、人々はコートを着て街を出歩く。

 それは一旦、建物の外へ出ても、また建物の中に入ってしまえばそこには暖かく楽しい世界がまっているからだ。



 マンホールから蒸気が立ち昇る。

 この都市には地下鉄も走っており、換気や整備のための縦穴があいているが、このマンホールはそれではない。


 道路と同じように、街中の地下に張り巡らされたスチームの通るパイプ。

 蒸気は、時折そのパイプから圧力を調整するために逃がされたものだったのだ。


 配管は街中の建物に熱を送り、人々の生活に暖を与えていた。

 そうしなければ、この寒い街の活気はこれほどなかったかもしれないと言われている。



 そんな街の中にある、一軒のビル。

 地下はレンガで囲まれた壁に化粧漆喰を施した内装の酒場だった。当然、前述の配管により店の中は暖かい。



 覗いてみると、外と同じように――

 いや、それ以上に人がひしめき合い、にぎわっていた。


 もちろん、ただの酒場ならここで説明はしない。

 そこは、冒険者たちのあつまる場所――




「――みろよ、アンリのやろう。

 また載ってるぜ」


 にぎわう酒場の一角。

 酒を飲み、ずいぶんと赤くなった顔で、少し太った男は懐から紙束を取り出す。

 そして、目の前にある丸いテーブルに、そのタブロイド判ほどの大きさで質の悪い紙束を、なんとも忌々しげな顔で放り投げた。



 太った男の向かいに座っていた、暗い雰囲気の男が、重い腰を上げてその紙束を手に取る。



「ん、なんだこれは……。

 ああ、イエロートップスか」


 イエロートップスとは、ブリストルで流行している新聞。

 ゴシップや娯楽などの記事が多く、いわゆる大衆紙とよばれるもの。


 男はそれを手に取ると、また、もと居た席に座り直し酒をあおった。




 ――冒険者、期待の星。

 ――アンリ、一角熊を討ち破る。


 見出しにはそう書かれており、すぐ側にモノクロ写真が大きく飾られていた。

 写真には彫りの深いハンサムな男が、一角熊の死体に足をのせ、剣を掲げている。



「相変わらずすごいな。

 四人で、アレ(一角熊)を倒したのか」


 新聞を持った男は、その記事を見て感嘆する。



「どーせ、金投げて倒したんだろ。

 採算考えずに、いろいろ使えば俺だっていける。


 しかも、あいつの魔導書はオルレアン家のやつだぜ。

 さすが元貴族さまって所か――」


 太った男は、吐き捨てるように言った。



「しかし……金も力だ。

 もっとも、単純な力でヤツ(アンリ)と勝負したとしても勝てるとは思えんがね……。


 お、そんなこと言ってたら――さっそく来たようだぞ」




 店の入口が騒がしい。

 少し太った男がそちらを見ると、先ほど見た写真の男が数人の者たちを引き連れ、店の中に入って来た。


 写真の男、アンリは金髪を輝かせ、颯爽と店へと入って来る。



 彼の取り巻き連中たち――

 それは主に女が多く、しかも美女が多い。



「イエロートップス♡みたよー

 アンリ、カッコよかったっ。

 ――んっ、もう。さいっこう♡♡♡」


「だよねぇ♡

 ほんとに、あの化け物、四人で倒したの?

 すっごいんだけど♡♡♡♡」


 女たちはしなをつくり、アンリに媚を売っていた。



「本当だぜ~~。

 俺も一緒に戦ったからなっ」


 取り巻き連中に居る、唯一の男。

 浅黒い肌の細マッチョが両腕に女をはべらせ、アンリにすり寄る女たちへ言った。



「そうだね――

 さすがに無傷とはいかなかったけど……。

 君たちの応援があったからかな。

 なんとか勝てたよ」


 アンリはそう言うと、近くにいる女の顔に手を添える。


「――アンリ♡♡♡」


 目の中にハートをたくさん浮かべた女たちが、黄色い声をあげる。



「ダリオのやつ、怪我してんの。

 あいつ、超だっせーっ」


 細マッチョはアンリに話しかけながら、女の肩に回した腕を胸まで伸ばす。

 そして、その女の大きな胸を揉み始めた。


「――んっ♡

 ジャン。もうっ、やめてよー♡♡♡♡」


 まんざらでもない顔をしながら、細マッチョ――

 ジャンの腕の中で女は体をくねらす。



「まー、そんなことは言わないでくれたまえ。

 勝てたのは、彼のお陰もあるんだから――」


 肩をすくめ、アンリは困った顔をする。



「嘘つくなって。

 アンリの魔法のおかげだろ。勝てたのは――」


 ジャンは女の首元の服の隙間から手を入れ、さらに胸を揉む。



「まっ、早く奥の部屋行って楽しもうぜ。

 昨日まで、あんな陰気くさい森の中にいたんだ。

 今晩は楽しませてもらわないとな……」


 あごで、奥の部屋をさす。


 アンリはそれを見て、さらにやれやれとした顔をしながらも、すぐに笑みを浮かべ。



「――いこっか」


 と言うと、再び、取り巻きを連れ、さっそうと奥の部屋へ向かって行った。






「……あいつら

 ……死ねばいいのに」


 そんなやり取りを見ていた少し太った男が言う。



「ああ、同感だ――」

 向かいの男もそれに賛同する。が、続けて――


「でもな、あれを見て俺が一番に思ったことは……。

 今日、わずか五ブロック先まで歩くだけで同じ様なことが楽しめる、クリブ・ストリート(赤線地域)に行こうってことだけどな」


 席を立った向かいの男は、少し太った男の肩を叩きながら言った。



「お前は、それで満足なのかよ」


 少し太った男は向かいの男(もう向かいではないのだが)を、裏切り者と言わんばかりに睨みつけた。



「やつは冒険で美女を得て、俺たちは冒険でわずかばかりの金を得る。

 そして俺は、そのわずかばかりの金で女を買う――

 少し回りくどいが、同じことだと思うぞ」



 向かいだった男は、少し太った男の肩を、もう一度ポンポンと叩き外に出た。

 太った男も、もうこれ以上飲む気になれず、手持ちのジョッキを空けると席を立つのだった。




 一人になった、少し太った男は店の外へと出る。

 暖かい部屋から外に出ると、その寒暖差からか、余計に寒く感じた。



「おーっ、寒い寒い――

 この時期、こんなに寒かったか……」


 体が自然と震えてくる。

 その日の寒さは、一段と男の身にこたえたようだった。


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