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おっさん、黒の全身タイツで異世界を生きる  作者: しょぼぞう
一章 脱出
22/51

第二十一話「帝湾大鋼橋」

 海上に浮かぶ、要塞都市から伸びる橋。

 帝湾大鋼橋。


 途中に島さえもない一面海。

 橋は俺たちの目の前から一直線に陸地へと向かっていた。



 造りは上下、二段構造。

 上段は蒸気機関車が走るためのレールが通っており、下段は馬車、蒸気自動車が走るための道路が設けられていた。




 今、俺たちはその下段の道路を爆走している。

 街の外壁を登り、なんとか警備をくぐり抜け、やっとこの橋までたどり着いた。


 随分と長い橋だが、このバイクのスピードなら、それを渡りきるのは三十分とかからないだろう。




 登りきった太陽は海面を照らし、ギラギラとした輝きを放つ。

 上下にゆれる波は、その輝きを、よりいっそう引き立たせていた。


 今、逃走中だということを差し引いても、青々とした海は、腹立つぐらいに綺麗なのだ。



「わぁ、キレーっ。

 莉奈こんなキレイな海、テレビでしか見たことないよー」


 後ろのギャルも同じことを思っていたのか、その海を見て感動しているようだった。




 さて、後ろに乗せているのは、モデル並みのルックスを持つパツ金ギャル。

 最高の景色の中で、でっかく黒光ってるバイクを走らせているさまは、考えようによっては某スパイ映画のようにかっこいい。

 だが、いかんせん、前に乗っているのは、お腹の出たおっさん。

 全身タイツのぴっちり具合が、そのお腹を強調させ、素晴らしいはずの絵面をも台無しにしていた。




 さらに付け加えると、こんな場面で「お前の方が、キレイだよ」とか言える甲斐性はない。


「景色を楽しんでるとこ悪いですけど、何が起きるかわからないから……。

 振り落とされないよう、気をつけてくださいね」


 余裕のひとかけらも無い言動で、小物っぷりを見せつけてやる。

 空気を読まない言動は、コミュ障である俺の最も得意とするところだ。



 まあ、そんなことはともかく、このまま橋を無事に抜けてくれたら問題ないんだが――



 しかし、そんな俺の願いも空しく、イノリさんの声が聞こえてきた。



『前方から――

 二十台のバイクがこちらへ向かってきます。

 この調子なら、三分後には接触しますね』


「バイク? この世界にもあるんだ」


『はい。ただ、性能は、Xanthosの方が遥かに上です。


 振り切ることは可能ですが――

 その先、戦車と装甲車によってバリケードを作っているようです。

 そこで、挟み撃ちにされる可能性が高くなりますね』


「じゃあ、後で挟み撃ちにされるより、今のうちにやっといた方がいいってことかな――」




 殺しは躊躇いある。

 が、自分に命の危険があるなら仕方がない。


「え、戦うの? 莉奈そんなの無理なんですけど……。

 本当にやるつもり? 冗談だよね??

 危ないし、死人出るよ?」


「殺さないに越したことはないけど……。

 自分の命優先で、手加減してる余裕なんてないし」


『もう、あまり話している余裕もありません。

 前方、敵一団を確認。あと一分で接触します』



 HMDヘッドマウントディスプレイに拡大されたバイク集団が写される。



 無骨な、いかにもスチームパンクっぽいデザイン。

 モスグリーンのゴツゴツとした鉄板を前面に付けた、サイドカー付きのバイクが数台、コチラへ向かって来ている。

 ご丁寧に、サイドカーに付いている機関銃。

 その凶悪な姿は、殺る気満々さを語らずとも物語ってくれているところが嫌な感じだ。


 ブルってしまう。

 ……いや、びびってたら死んでしまうな。



 心を落ち着かせるため戦闘術を作動させる。

 スッと頭から熱が引き、俺は自分自身が冷静になるの感じるのだった。





§





  ――パン、パン、パパパパパンッ


 ――チュインッ


    ――チュインッ


 ――チュインッ


――ヒュン


     ――ヒュン



 走りながら、機銃を乱射してくるバイク集団。

 俺たちのバイクは、横移動でそれをかわす。


 かわすというか、同じ場所に居ないことで、弾から逃げていた。



 しかし、横移動できるのも橋の横幅まで。

 横なぎの線の攻撃は、すぐに俺たちを捉えた。



 ――パキュン

  ――カンカンカンカンカンッ



 派手な、金属の音とともに、弾丸はバイクの前面に火花を散らす。

 前に座っている俺にも、当然何発かあたっている。



 後ろの、ギャルは――

 騒いでいるが、大丈夫なようだ。


 しかし、痛いな。

 やっすいエアガンで、BB弾を当てられたぐらいの軽いチクリと刺すような痛みがある。

 数発、数秒当たるのは問題ないかもしれないが、さすがに止まって当たり続けるのは、まずい気がした。



 そんな俺たちに、編隊を組んだバイクが壁のように迫ってくる。

 ヤツら、避けるつもりはないのか。


 どうやらチキンレースさながら、俺たちにぶつかってでも止めるつもりのようだ。




 後ろの、ギャルの悲鳴がすごい。


「うるさいですってっ!

 叫ぶ力があるなら、しっかり捕まっててくださいッ!!」



 俺は叫ぶと同時に、迫る編隊を端から順にロックオンしていく。


 ――魔力装填数 6/6

「エネルギー・ボルトッ!」


 エネルギーのミサイルが射出され、ロックオンされた敵バイクへと精確に命中していく。



 大破させるほどの威力はないが、相手もスピードがでているので、かなりの衝撃を生じさせる。

 それはバランスを崩し、転倒させるのに十分な衝撃だった。




 急にバランスを崩し、壊れたバイクに、次々と後ろのバイクが突っ込む。


 ――魔力装填数 0/6



 全てのバイクを止めるのは無理だが、コチラが抜ける隙間ぐらいはできた。



 その隙間へ――

 横にした車体でスピードを殺し、倒して滑らせながら隙間を抜ける。



 ――ギャギャッ


   ――ギャギャッ

  ――ギギギギギギギッ




 タイヤ痕を、路面に付けながら編隊を抜けた先で止まった。


 バイクの運転ができないはずなのに――

 不思議なことに、自転車を運転するように乗りこなすことができていた。


 これもインストールした戦闘術の影響なのか。




 俺は魔力を再装填する。

 ――魔力装填数 6/6



 敵の集団。

 倒れずに残った者たちが、しばらく進んだ後に、Uターンして戻ってくる。



「早く! 早く、逃げよッ!!」


 ギャルが叫んでるが、この先のバリケードで挟み撃ちにされるのは避けたい。

 ここで、コイツらとの決着はつけさせてもらう。



 再度スピードを上げ、近づく敵は、機銃を俺たちに向け乱射した。

 俺は横にしたバイクを盾にして、必死に叫ぶギャルを引き倒し、頭を抑えた。




 ――パキュン


  ――カンカンカンカンカンッ



 バイクを盾にして弾を防ぐ。

 外れた弾が、煙と弾痕を路面に刻んでいる。



 乱射の呼吸を読み、切れ間を探す。

 その切れ間に立ち上がり、バイクの盾から顔を出した。


 俺たちが止まっているせいか、今度は敵たちも、俺たちの前に止まるようスピードをゆるめている。

 すぐに俺たちの数メートル手前を囲むよう、奴らは止まっていた。




「我らは、装甲高速自動二輪部隊、帝湾大鋼橋、武装警備員だッ!

 貴様らを拘束するッ!!


 大人しく両手を上げて、コチラにこいッッ!

 逃げられると思うなよッ!」



 敵集団から一人。

 一番偉そうな男が、バイクに乗ったまま俺たちに向けて呼びかけてきた。



「ななな、なんて言ってるのっ!?

 なんか、雰囲気ヤバくない??」


「大人しく、投降しろだってさ――」




 もちろんそんなつもりはない。


「ちょっと、ここで頭伏せてまってて」


 ギャルに指示を出す。

 俺は、両手を上げ、前へでた。




 一、二、三、……十二台か。



「貴様だけではないッ!

 もう一人、逃亡した女も一緒だッ!」


 さっきからツバを飛ばし、呼びかけてくる男が、仲間に目配せをする。



 二人ほどバイクから降り、ライフル銃を構えて、俺に近づいてきた。

 偉そうな男は、俺たちが観念したと思ったのか、満足そうに嘲笑を浮かべている。




 話し合える、雰囲気じゃないな――


 俺は上げていた手を、バイク集団横にある橋の鉄柱に向けた。

 そしてオリハルコンワイヤーを飛ばす。



「なっ――

 撃てえッ! 撃つんだぁッ!」


 男の、先ほどまでの笑みは崩れ、必死に叫ぶ。


 オリハルコンワイヤーは、鉄柱に絡み付いた。




「フヌおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっっ!!!!」


 おもいっきり、鉄柱を支点にコンパスで円をかくように走る。


 鉄柱と俺の間にあるオリハルコンワイヤー。

 それは敵のバイクに次々と引っ掛けていく。

 

 必死に乱射する機銃でも、俺を止めることはできない。



 ものすごい音で、ぶつかるバイクたち。

 ワイヤーに引っ張られたバイク同士が次々にぶつかっているのだ。


 全身タイツのパワーすげぇ。




 今更、このスーツの性能に感心し、俺はそのまま橋の下へ飛び降りた。


 ワイパーで払われる雨水のように、十二台のバイクは、俺と一緒に橋の下に落ちるか、スクラップと化している。

 すぐにワイヤーを巻き上げ、橋の上へと戻ると、バイクの衝突とワイヤーから逃げた兵士たちに、俺はエネルギー・ボルトを叩き込んだ。




 ――数秒後。

 路面に立っている、人間はいなくなる。

 残ったのは路面に刻まれた煙と銃痕。そして複数のうめき声だった。



 奴らのバイクは壊れているか、海に落ちた。

 これで追っては来れないだろう。


 うめいているやつや、海に落ちたやつは、どうなったか確認しない。


 でも、そのまま放置では俺の良心が痛む。

 うめいてるやつだけでも助けるため、一応、周辺へ適当にヒールを連打する。



 生きててくれよと、願いはするが、こっちも逃げないといけない。

 勘弁してくれと、心の中で謝った。




『コウゾウ。

 一つ提案ですが――』


 そんな、ことを考えながらバイクのところまで戻ってきた俺を、イノリさんの提案が迎えてくれた。



 あとは、バリケード。

 難なく、次の関門を、突破できる提案であることを期待しながら、イノリさんの話を聞くことにした。





§





 俺たちはレールの上を、絶妙なバランスで走っていた。


 イノリさんの提案で、ワイヤーを使い、バイクごと線路のある上段へと移動する。

 俺たちはバリケードを避けるため、上段の鉄道用レールを走っていた。



『当然ですが、橋の出口は封鎖されているようです。


 橋の降り口までは、あと六十キロほど――まだまだあります。


 が、約十キロの地点に、比較的浅く海流が緩やかな場所があります。

 そこからは泳いで陸地へ向かえますので――』



「泳ぐって……バイクは?」


『水に沈めても海底を移動して陸地へ向かえます。


 海流が緩やかで浅い場所を選んだのは、コウゾウや莉奈が泳ぐことの他、そういった理由もあるからです』



「十キロって、莉奈は一キロぐらいしか、泳げないって!」


『大丈夫です。安心してください。

 ACHILLESを着ているので、泳げるなら十キロぐらい簡単ですよ』


「簡単って……」



 泳ぐなんて久しぶりだ。

 ひ、平泳ぎぐらいならできる……はず……。


『今、バリケードを超えました。

 ただ、レールを走っていること、気付かれたようです。

 無線で連絡していますね』


「げ、大丈夫かな?

 この先、上段も戦車とか装甲車がくるんじゃないの?」


『――いえ、戦車や装甲車は来ません。ただ……』




「「……ただ?」」


 ギャルとハモってしまう。

 おい、露骨に嫌そうな顔すんな。



『……十キロほど先、中継地点に配備されている砲台を備えた、武装列車が動き始めました』


「ちょっ――」


『こちらも、進んでいますので……接触まで約5分です。


 下段へ逃げることも可能ですが――下段も増援されているようですね。

 こちらは中継地点からと、橋の出口からの増援です』



 しかし、しつこい。

 これだけ、しつこいということは、あたりまえかもしれないが、それだけ勇者が重要なのか。



「じゃあ、今の所。上段で列車かわした方が、増援考えず、その後スムーズにいけるのかな」


『確かにそうですね。

 下段と違い封鎖されていませんし、線路も2車線あるので、避けやすいかもしれません』


「り、莉奈は何を……」


「うーん。たぶん、走りも荒くなるから、振り落とされないよう、しっかり掴まっててくれれば……」


「りょ、了解」




 そんなこんなで作戦を考えながら進むと、それはすぐに見えてきた。



 モクモクと白い煙を噴きながら、走ってくる。

 厳つい顔の車両だ。


 この距離でも聞こえるほどの汽笛を鳴らしている。

 苛つく音だ。



『全十車両。

 そのうち二車両目から九車両目までハッチを開け、おそらくヘビーマシンガン――

 固定式の機関銃を備え付け、兵を配備しているようです』


「すれ違ってる所を、一斉射撃か……。

 次から、次へと……」




 無骨な鉄板をつけた、殺る気満々な列車の顔が俺をうんざりさせる。

 地上に降りてからそんなんばかりだ。ちきしょう。



「これで、最後にしてくれよ――」

 フラグを立ててしまった気もするが、そんなの、どうでもよくなるぐらい切実に願ってしまう。


 俺の腹を掴んだギャルの手に、力が入った気がする。

 コイツも、気合いを入れたのだろう。でも地味に痛いからやめてくれ。



 相変わらず鳴り続けている汽笛の音が、俺たちの心をさらに苛つかせていくのだった。





§









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