第十四話「情報交換」
衛兵につれられやってきたのは、豪華な装飾の応接室だった。
部屋中央には、これまた豪華なソファとテーブルが。
壁に並んだ本棚には、分厚く手の込んだ装飾の本がぎっしりと並んでいる。
もちろん、ここに来る道中も、高い天井、広い通路、豪華な装飾と同じようなものだった。
この豪華さは、金持ちなんてレベルじゃない。
相当、歴史と身分があるはずだ。
俺が降りてきたのは、どっかの王宮なのか?
「人と話す時ぐらい、そのヘルメット取りなって。
ちょっと不気味すぎ――」
おおぅ。
ギャルに常識を注意された。
フルフェイスヘルメットに全身タイツ。
確かに、この格好は不気味だ。
全身タイツは身体にぴったりフィットしているので、あんなところやこんなところがひじょーに生々しい。
俺の股間はビックマグナム(自称)で、大きくもっこりと膨らんでいるしな。
チラチラ、見られている気がするぜ。
フッフッフ。
ギャルの顔が少し赤い。
へー、以外とウブいじゃん。
『怒ってるから、顔が赤いんだと思いますよ――』
その突っ込みは余計です。イノリさん。
なにも言ってないのに、考えてることを当てられた。
くやしい。
「だ・か・ら、さっさと取りなさいよっ!
莉奈らは、こんなことになってイライラしてんのっ!」
怒られた。
俺は渋々、ヘルメットを脱ぐことに――
むむむ。これって、まあまあ、めんどくさいな。
ガチャガチャと首元を弄る。
ヘルメットを脱ぐのに、もたもたとしてしまう。
やだ、早くしないと、また怒られちゃう。
「まあまあ、この人も、この状況に戸惑ってるんだろうし、莉奈も落ちつきなよ」
イケメン君、ナイスフォロー。
これ以上、ギャルに怒られなくてすむ。
因みに断っておくが、べつに怒られたくてモタモタしてるわけではない。
俺はやっとのことヘルメットを脱ぎ、彼らと生でご対面した。
この場に居るのはイケメン君グループの三人だけだった。
チンピラ三人組とか他にも何人か居たハズだよな、あの運転手も居ないし。
「あの時は大変でしたね。
俺は七星聖光高校二年、神崎悠斗です。
よろしくおねがいします」
あの時とは、この世界に飛ばされる前の変な空間のことだろうか。
俺は、差し出された手と握手する。
しかし、七星聖光高校か……。
俺の行ってた高校だ。苦い思い出しかない。
「アッカネン莉奈」
「は?」
「だから、アッカネン莉奈っ!!
フィンランド人とのハーフッ!」
な、なるほど。するとその金髪は地毛か。
素行悪くて染めてるのかと思った。すまんな。
でも、ギャルって評価は覆らないけどねっ。
しかも、アッカネン莉奈ってどっちが名前だかわかん。紛らわしい。
「藤城美優」
うっわ、コイツ態度わるい。
こっち向いてすらいない。
ブサメンは、見るのも嫌なんですねぇ。
まあ、大人だから俺はそんなことおくびにも出さない。
気がつかれないように女子をヲチしながら、さりげなくチンチンをチョイチョイと触る、大人の余裕。
「み、みんな、自己紹介ありがとう。
俺は倉井耕蔵、見ての通りお、おっしゃ……おっさんです」
大人のたしなみ。
場を和まそうと自虐をぶちこんでみたが、こちとら年期の入った引きこもり。
コミュ障スキルが発動し、噛んでしまったのはご愛嬌。
「……」
「……」
「……あ、あの……」
『っはぁ~~~いっ!!
マジdeマジック☆エロイムエッサイム!
魔導少女イノリだよ~~んっ!』
キラキラとしたエフェクトの後、立体映像のイノリさんが現れる。
キラキラとステッキを振り回して現れたイノリさんは、いきなり自己紹介をぶちこんできた。
「イ、イノリちゃんだ……」
ギャルがつぶやく。
その顔は驚き、呆けていた。
同じく室内にいる人全てが、呆けている。
ギャルとは違う感じで。
その中でイノリさん。
彼女一人だけが、元気にエフェクトの星を振りまいて、広い室内を飛び回っていた。
§
――俺が空から降りてきた理由を説明する。
彼等は俺の話が聞きたくて、衛兵たちに「会いたい」と頼み込んだらしい。
どれだけ話せばいいのかはわからないが、体験したことを簡単にはしょって説明する。
俺だってわからないことは多い。
俺の説明を聞きイケメン君は、今度は自分の番と話し始めた。
俺が扉に入った後。
あの時、俺が入った扉は勝手に閉まってしまったらしい。
イケメン君は俺を助けようとしたが、思ったより閉まるのが早すぎ、すぐに完全に閉じてしまい、さらにはその扉が消えてしまったらしい。
そしてその後、二つ残っている扉を調べる。
消えてしまった扉に通じているかと思い、イケメン君ご一行は俺を助けるため、真ん中にあった扉を下りた。
チンピラ三人組はイケメン君たちが下りると、彼等についてきたらしく、その後、同じ学校の女子たちも三人ほど下りてきた。
そのメンバーが階段に入った時点で扉が閉まり、他の人たちとは分断される。
そのまま階段を降りると、段々と階段は白く綺麗なものに変わり、真っ白で眩しい光に包まれた部屋に出る。
そこでは神と名乗る声が聞こえ、加護を授けるから「召喚先の人たちを助けろ」と言われたらしい。
そして召喚されたのがここ、ガルニア帝国だったという訳だ。
フリーデリケという姫様が主導して召喚の儀式を行ったらしく。色々と事情を説明され、翌日、勇者聖別式が執り行われ、今に至る。
ふーん、大冒険だったんだね。
俺とは大違い。
ところで、その、聞かされた色々な事情とやらが聞きたいんだよ、君。
しかし、俺ってかなり不幸じゃんね。
気味の悪い階段だったし、召喚されて早々、妖魔とバトらされるし。
ずりー。
イノリさんと会えたのはよかったけど、それがなければ確実に死んでました。
まあ、文句をぶつける先もないのだから、考えても詮無きことだ。だがしかし、少しぐらい子供のようにいじけてみたくなる。おっさんだけど。
「俺たち、まだこの世界のこと、何も教えられていません。
一方的に呼び出しておいて、帰る方法もないらしいです。
「一生この世界で暮らすことになる」とも言われました……」
イケメン君の表情は暗い。
そりゃ、夢も希望もある学生がこんなとこつれてこられて、いい迷惑だろう。
納得なんてできないし帰りたいはずだ。
こんな顔をするのはわかる。
でもだ。
「あー、悠斗君。
君たちは意識して日本語、使うことってできますか?」
「えっ、意識してって――
さっきから喋ってるじゃないですか?」
「俺が言いたいのは、加護を使わずにって意味だけど……。
もしかして君たち、この世界の人たちって、みんな日本語喋ってると思ってました?」
頭の上に、ハテナを浮かべてやがる。
頭良さそうなのに、鈍い系か?
いやいや。こーいう話スキだったら、わかるよな。
もしかして、こいつらリア充だから異世界転生ものとか読んだことないのか?
一方、ギャルちゃんは何か気がついたような顔をした。
見た目のわりに頭はキレるのかも。
ギャルちゃんの評価を少し上げることにする。
「まず説明すると、ここの人たちは日本語を使っていません。
なので俺には、彼らが何を言ってるかわからないんです」
そう言って、こっそりイケメン君だけに見えるよう、出入り口付近を指差した。
「そのまま、普通の顔して俺の話聞いて。
驚いたり喋ったりもしないでくださいね――
えっとね。君たちの日本語は、自動でコチラの世界の言葉に翻訳されています。
さっき、外の衛兵たちと話してたよね――」
イケメン君が頷く。
「あ、相づちもいらないですよ。
でね、君たちがさっき言ってた不満?
一方的に呼び出して、帰る方法もないとか言ってたやつ。
アレとか、確実に外の衛兵に聞かれていますから。
もしかしたら盗聴とかもしてるかも。たぶん」
こいつら、表情変えるなって言ってるのに……。
イケメン君と黒髪巨乳ちゃんは目を剥いて驚いてる。
ギャルちゃんはそれに加えて、口を大きく開け、なげーつけ爪の手を口に当てて驚いている。バカ面さらしやがって。
案の定。イノリさんが俺に教えてくれるが、レーダーには隣の部屋や外から人の反応が多数あり、コチラの会話を聞いてるらしい。
しかし、ヘルメットを被ってないと、レーダーが見えないのは不便だな。
「うーん。
いきなりこんなとこ来て、わけわからないと思うけど……。
おそらく国とかそーいう組織が、君たちにタダ飯食わせて、なんの紐も付けずに自由に……なんてことしないと思うんですよ。
日本みたいな平和な国じゃないんだろうし……。
だって召喚までしてるんだよ。
そんな人たちに叛意アリとか思われたら、なにされるかわかったもんじゃない。
発言には気をつけてくださいね」
たっぷりと脅しを含んだ声色で説明する。
せっかく数少ない同郷の人間だ。
生き残って欲しいし、この世界の人脈にしたい。
さらに、恩を売っといてなにかあったら頼りたい。
「だから、そーいう話するのなら、彼らのわからない日本語で話した方がいいかなと」
「しかし、どうやったらいいか――
自然に翻訳されるんですよね?」
「おおぅ。返事しなくていいって言ったのに……。
ばれますって……」
「す、すみません……」
こいつバカなの?
それとも俺の話、通じてない?
横の黒髪巨乳ちゃんも、さすがにイケメン君の袖を引っ張って注意してる。
『たぶんですが、意識してオンオフはできるはずです。
「これから日本語で話す」と念じれば日本語になりますよ。
試しに喋ってみてください』
大量の本棚。
それを端から端まで歩いてチェックしてるイノリさん。
彼女が突然こっちを向いて教えてくれる。
「イッノリーン! ココであったが千年目!
いざ尋常にしょ~~ぶっ★彡」
ギャルがなにをトチ狂ったのか、アニメキャラみたいな声でポーズ決め、イノリさんを指差した。
『……』
「はっ……」
慌てるギャル。
思わず口走ってしまったのか。あたふたと、お友達二人になにか言い訳してる。
そのお友達は「なに言ってんだコイツ」という顔で、ご乱心ギャルを見ていた。
「……あ、あの……」
『安心してください。大丈夫ですよ。
魔力も検知されていません。
ちゃんと日本語になっています』
あ、翻訳のオンオフ試してたのね。
顔を赤くしたギャルが「ふんっ、それならよかった」とそっぽを向く。
そんな、不自然なギャルの意図を理解したのか、お友達二人もイノリさんに適当な言葉で話しかけ、判定してもらっていた。
「これで、安心して話せますね」
いー笑顔で、イケメン君が何事もなかったかのように話し始める。
おい、なんだか落ち込んでいるギャルはほっといてもいいのか?
「しかし、倉井さんはこれからどうするんですか?
とりあえず俺たちは、明日から魔王と戦うための訓練をさせられるようです」
「って、今。さりげに重要な言葉をぶちこんできたよね、君――」
考えてなかった訳ではない。
そりゃ、勇者がいるんなら魔王もいるよな。
「ああ、説明してなかったですよね。
南にあるレムノスと呼ばれる迷宮に、ヒュプノスと呼ばれる魔王が現れたそうです」
ここから、イケメン君の顔に不安の影が落ちる。
「その魔王と戦うため、俺たち勇者が召喚されたみたいです。
敵対国に、そのダンジョンがあるらしくて――
もしかしたら、その国が魔王と繋がっているかもしれない、とも言ってました……」
「そ、それは大変だね……」
ヤベー、勇者じゃなくてよかった。
イノリさんところに召喚されて、ホントよかった。
魔王討伐とか嫌すぎる。命がいくらあっても足りない。
「だ、だから倉井さん! 助けて欲しいんです。
俺たち今、未成年しかいません。
さっきみたいな、大人の視点で俺たちを――」
「ちょ、ちょいまった。落ち着いてください」
巻き込まれてたまるか。
そりゃ、少しは助けてやりたいと思うが、そんなのに付き合ってたら、命がいくらあってもたりない。
「だいたいね、俺は君たちみたいに加護を授かってないし、今はね、ホラっ、牢屋ですし」
「そ、それなら、俺たちからも牢屋から出れるようお願いしてみます!
だから、ぜひ、おねがいしますっ!」
頭、下げられた。
痛い、痛い、心が痛い。
でも、命あってのなんとやらだ。全力で逃げさせてもらう。
「でもなぁ、俺なんかが、力になれるとも――」
「悠斗君! こんな人に頭下げる必要ないよっ!
ほら、なんだかんだ言って逃げようとしてるし、ぶさぃ…で信用できないし!」
おい、巨乳ちゃん。
おめー、今さりげに小さい声で、顔ディスったな。
おっさん、ギャン泣きするぞ。
「お姫様も、敵国のスパイかもしれないって言ってたよっ!
全然信用できない! ぶさ…ぃくで気持ち悪いし!」
また、言った! 言ったよね!?
巨乳ちゃん、本音漏れてるって!
俺の顔が一番気に入らない要員なんですね。ひでぇ。
……つ、つらい。マジでギャン泣き五秒前だ。
「お、おちつけ、美優。
倉井さんとは色々と――」
騒ぎ出した俺たちに、驚いた衛兵たちが駆けつけてくる。
室内は騒然。
俺たちの会話もそっちのけで、イノリさんを観察していたギャルも、さすがに異変に気がつく。
消える立体映像のイノリさん。
名残惜しそうにギャルはそれを見つめる。
話も途中で切り上げることとなり、俺は再び牢屋にぶち込まれることになった。
黒髪巨乳ちゃんの態度に、思ったよりダメージを受けてる自分がいる。
抵抗する気も湧かないまま、俺は引きずられていった。
さて、これからどうしよう。
とりあえず牢屋で泣くのは決まりだ。
§




