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おっさん、黒の全身タイツで異世界を生きる  作者: しょぼぞう
一章 脱出
13/51

第十二話「地上へ」

 ――ガンッ


 たいして長くもない手足が周囲にぶつかる。

 痛くはないが、なかなかに作業が進まない。

 無重力だから体の操作が難しい。


 狭い入口からその中に入り、分厚いハッチを閉め、えっちらおっちらとドアに付いている輪っかを回した。


 扉はロックされたようだ。

 中にはもう一枚扉があり、更にその中へと入る。

 計器のようなものが壁面に張り付いた狭い部屋についた。


 中央にはシートが備え付けてある。

 俺はその座席に座ると、シートベルトを締めた。



 少し深いな。

 体にぴったりフィットし、座り心地はいい方だと思うが深すぎて立ち上がり難い。


 よかった。全身タイツのおかげで腹が多少凹んでくれている。

 腹がつかえて苦しい、なんてことは今の所ない。



「イノリさん、これでいい?」


 なにかミスして事故、なんてことになったら目も当てられない。

 ドキドキしながら呼びかけた。



『大丈夫ですよ。

 今から離脱の準備をしますので、しばし待っていてください』


 とうとう地上に降りる。

 ドキドキが止まらないぜ。




「なんだかんだあったけど――

 イノリさんに会えてよかったよ。

 地上に行っても、ここでのことは忘れないと思う。

 うん、ありがとう」



 ちょっと、色々と感慨深い。

 目に涙をにじませ、イノリさんに感謝する。


「あ、でも地上の施設を見つけたら、どうしたらいいんだろ操作とかわかるかな……」



 頼まれていたことを思い出す。

 基地の起動って、そこに行ってみればわかるのだろうか。


『――コウゾウ、勘違いしているようですが、ワタシも地上について行きますよ』


 えっ、だってイノリさん、この船から動けないんじゃ――



『地上、地下に関してもガイア内でしたら、どこへでもACHILLESを通して、会話、サポート、立体映像の投影などが可能です。

 それにACHILLESは、コウゾウの魂とリンクしているとはいえ、ワタシのサポートなしでは制御するのは難しいでしょう』


「まじか……いや、でも嬉しいかも?

 イノリさん頼りになるし、寂しくないし……」


『……この際ですので、地上の情報も収集したいと考えています。

 常時ACHILLESから、音声、映像、その他、様々な情報を回収――』


「ちょっとまって、常時って――

 この服、着てる時は常に観察されてるってこと?」



『はい、そこで相談なのですが、右手首に付いているパーツはスーツと分離可能で、スーツを脱いでもそのまま付けていることが可能です。

 ですので、常に付けていただきたいと……』


「常にって、風呂入る時とか寝てる時とかも?」


『はい、トイレや休憩中など、常に――』



「いや、無理です。無理だって!

 だって、俺だってプライベートってやつ? 欲しいって。

 ほら、一人になりたい夜だってあるじゃん。

 そんな時は外すよ――」


『安心してください。男性の生理現象などはデータとしては理解しています。

 ワタシは居ないものとして――』


「できるかぁッ! こわっ。やめてよっ。

 女子が見ている所でそんなことできるほど、ド変態じゃないつーの!」


『……』


 あれ?

 めずらしい、イノリさんが黙った。


 さすがに、無茶言っていると理解できたのか。


 よし、この調子で押し通せば、常時観察されているドMプレイを回避できそうだ。



『離脱準備が整いました。

 十秒後に、宇宙船を離脱します』


「――って、あれ、もしかして聞こえてなかった?

 今、大切な俺のプライベートの話をしてたよね? ね?

 結論でてないよね?」


『七・六・五……』


「ぎゃーっ、もうカウント始めたし。

 ちょっ、ちょっとまって――」


『三・二・……』

 

 もう、プチパニック状態。

 俺はわめくことしかできなかった。


『――ゼロ、宇宙船より離脱します』





§





『いかがでしたか。

 コウゾウの所持していた携帯端末と“ドキドキぱらだいす 私立 魔導聖女学園”に使用されいた曲の中から、ワタシが厳選して作ったセットリストは――』



 ボリュームが徐々に絞られる。

 最後にドキドキぱらだいすの曲を聞いて音楽が止まった。


 俺はつかの間、宇宙遊覧飛行を楽しみながら俺好みのアニソン音楽を聞いていた。

 まあ、そんな風にリラックスしながらも、イノリさんと話し合いを進めていたが結論はでていない。

 そうこうしている間に随分と星に近づいているのだった。



 テレビで見たことある光景。


 わずかに湾曲した地平線。

 その上には、黒い宇宙が広がっている。


 テレビで見た宇宙ステーションから観察できる地球――

 それが、すぐ横にある丸い小窓から見えていた。



 

 地上は、微かに明るくなっている。


「綺麗だな……」


 思わず、声が出てしまった。

 自然が作りだす壮大なスケールに当てられ、俺の中からわき出してくる感情。


『地上まで約四百キロ、ガイア軌道上に入りました。

 コウゾウ、少しだけいいですか」



 イノリさんから話しかけてくる。

 なんだろ。さっきの話の続きか?


『ワタシは政府の電人プログラムにより生まれました。

 生まれた頃から、生き残った人類を存続させるために宇宙船の制御、避難後の管理、運営のシステムとして育てられたのです』



 ああ、あの体と機械を合わせたっていってたヤツね。


『普段の宇宙船管理、航行はワタシの意思ではなく自動で行っています。

 なにかあった時だけワタシはスリープ状態から起動し、臨機応変に問題を対処するために存在しているのです』


 普段は眠っている感覚なのだろうか。

 生命維持はしているけど覚醒していない状態。



『世界変容災害前も含め、現在までの合計覚醒稼働年数は約三十年ほど。その程度です。

 不要なときはスリープ状態にし、一万年五千年の時の中、ワタシ自身の精神を維持するため、そのように眠っているのです』



 そうか、イノリさんは一万五千年もの間、宇宙船を維持してきた。何もない時を起きたまま、その時間すごせるわけないよな。


『スリープ状態の間、軌道を周回している衛星より、地上を記録していましたが、距離の問題もあり、そこから得られる情報はごく限られていました』


 まあ、確かにそうだよな。

 どの程度の倍率で見れるのかは知らないが、上空からの視覚だけでは限られるだろう。



『しかし、その程度の情報すら、定期的に覚醒し情報分析をするときは――

 正直、人の営みを感じることができ、楽しむことができました』


 娯楽もなにもない所にひとりで居たらそうもなるだろう。

 覗き趣味みたいで、褒められたものではないと思うが。



『今回、コウゾウが地上に降りることで、ワタシは現在繁栄している人類の生活をより身近に感じることができるようになります』


 声の中に、少し興奮が感じられる。

 

 イノリさんの声は、かわいい系の声優の声なのでもちろんかわいい。

 だが、今まで感情の抑揚があまりないので、かわいいのに少し冷さを感じていた。



『三十年程度ですが……

 その程度の楽しみしかない、刺激の少ない日々――

 ワタシはその時間を、退屈で長く苦痛なものとして感じていたのです。


 ――しかし。

 しかし今、稼働してきた中でも三番目にワクワクしている自分がいるんです。

 こんな体なのに変ですかね』



 こうやって、ごくたまに。

 妖魔に勝った時などもそうだったのだが、彼女は感情をあらわにしている時がある。

 俺はそれにすごく人間味を感じ、なんだか嬉しかった。



「そんなことないよ。

 ベースは人間なんでしょ、イノリさんって。

 じゃあ人間とかわらないじゃん。おかしくないよ、全然」



 微かに笑う声が聞こえた気がする。

 それは本当に微かすぎて、幻聴かと思えてくるくらいのものだった。



「しかし、三番目って――

 他のワクワクしたことに、なんだかすごく興味がでてきたよ。もしよかったら、話し――」


『秘密です』ハッキリとした返事。


 そして少し声のトーンを落として続ける。



『知ってますか?

 少しぐらい、女子には秘密があったほうが魅力的なんですよ』


 ふむ、そんなことまで言えるようになってきたのか。



「そういうのって、誰に教えてもらうんです?

 もしかしてゲームの中にそんな話あった?」


 今度は確実に笑っているのがわかる。


『フフフ、内緒です。

 さあ、三十秒後に軌道離脱噴射で減速します。

 Gに備えてください――』




 イノリさんのカウントが終わると、徐々に自分の体にかかる力が強くなる。

 数分ほどそれが続くと、こちらも徐々に船体が揺れ始めた。


『軌道船、機械船を切り離し、帰還船のみとなります。

 その後すぐに大気圏に再突入しますので、振動に備えてください』


 ゴゴゴゴと、大気の擦れる音が聞こえる。


 大丈夫だろうとは思うが、不安がこみ上げてくる。

 シートベルトをぎゅっと握りしめた。



『モジュール切り離し、成功しました。

 周回軌道より離脱。大気圏に再突入します』


 さらに、振動が強くなる。

 小窓からチラリと覗く光景は、真っ赤になっていて、火のついた炉を見ているようだった。



 ――ゴゴゴゴッ


 ゆ、ゆれる、揺れる。

 大丈夫だよな――


『安心してください。外は三千度ほどになりますが、外壁に耐熱材を使用しています。

 少々、室温は上がりますが、それでも現在着用しているACHILLESで耐えることが可能です』



 落ちている感覚がすごい。

 徐々に、徐々に、強くなる重力と赤く染まる景色。

 さらに宇宙船の振動で落ちてる感がすごい――



 ヤバいって。

 大丈夫かもしれないが、そう思ってしまう。


 長いって。

 実際、そんなに経ってないかもしれないがそう感じてしまう。


 何分、経ったのだろう。

 何時間にも感じられる。

 わからない。



 気がつくと、外の光が赤いものから白く眩しいものに変化していた。


 青い空間が一面広がっている。



『まもなく高度一万メートルになります。

 ブレーキシュートを開きますので衝撃に備えてください』



 チラホラと雲が景色に混じり始める。


『後少しですコウゾウ。

 がんばって――』


 ガクンと衝撃が身体を襲う。



 全身タイツ着ているから大丈夫といえば、大丈夫なのだが……つらい。


『高度八キロ、メインパラシュートを開きます。

 三秒後の衝撃に備えてください――』


 ヘルメットの中でイノリさんの声がこだまする。


 ――もう、どうにでもしてくれ。

 衝撃の中、心の中でその言葉を連呼していた。





§





〈三人称視点〉



 白く巨大な建造物。


 豪華な外装をしたその建物は、大きくコの字型に広がり、眼下にはさらに広大な敷地の庭園があった。


 ガルニア帝国の要塞都市。ブランブルク。

 建造物は都市中心にある宮殿、ブランブルク宮殿である。


 都市は、ガルニア帝国領土にあるブランブルク湾、通称、大帝湾と呼ばれる直径二百キロのクレーターから生まれた大きな湾の中心にあった。



 とはいっても、海中に都市があるわけではない。


 湾の中心には直径五キロほどの小さな島があり、さらに、その周囲を取り囲む、人工の12の浮き島(フロート)が存在してた。

 中央の島には前述の宮殿があり、周囲の浮き島は城下町として栄えていたのである。



 そしてそれは、その宮殿内で最も広い英雄の間で執り行われようとしていた。




 ――勇者聖別式


 現在、そこで行われている式典には帝国中の貴族、そして教皇領よりメサイヤ教皇アレク七世も来ており、盛大なものとなっていた。


 詰め襟。肩には豪華な装飾。

 胸には、金の紐が肋骨のように並んでいる軍服。


 それを着用した数百人以上の貴族たちが、中央の赤絨毯を囲み整列している。

 祭服を纏った神官もそれに混じり、英雄の間の空気は重く厳かなものとなっていた。



 しかし、その赤絨毯の上には場違いな格好の少年、少女たちが立っている。


 ブレザーにネクタイ。

 学生服の少年少女は、促されるままこの場にいた。


 これから何が起きるのか。

 不安と緊張、期待と好奇心、様々な思いを胸に秘め――



悠斗(ユウト)くん……私、こわい」

 黒髪の少女は、悠斗と呼んだ青年の腕にその巨乳が潰れるほど押し付け、すがりついていた。


 いつものことなのか、巨乳を押し付けられている青年は押し付けられているモノより、この場の空気に緊張を隠せないでいる。



「衣装にセット……。

 す、すごい……ロケ的に最っ高……」


 緊張よりも好奇心が勝っているのか、こちらの少女はシュシュで纏めた金髪をせわしなく弄りながら言った。

 その他にも、せわしなく周囲を見渡している連中もいる。



健司(ケンジ)くん、ヤベー。

 俺、興奮して来たっスよ、なんかえらいことになってきたっスね」


「勇者だってよー、なんだかゲームみたいだな」


「ああ、楽しみだ」


 三人の青年は、下品な笑い声を浮かべていた。



 一方、別の三人組。


「ちょっと、あの女。悠斗くんにくっつき過ぎじゃない」

 ヒョロリと背の高い、黒髪ストレートの女の子が、悠斗たち三人組を見て言う。


「いーじゃん。つきあってんじゃないの? あの二人」

 それに答えたのが、一見、子供にも見える、顔にそばかすを浮かべたショートで背の小さな女の子。

 

「えっ、私は悠斗くんって、莉奈(リナ)と付き合ってると思ってたー」

 少し太めで、チワワのような髪型の女の子が後に続く。


 こちらの女三人組は、学校でもしてるであろうゴシップ話でかしましく騒いでいた。



 その場違いな集団の先頭には、純白の軍服と豪華な装飾品を纏った栗毛(ブリュネット)の美しい女性が立つ。


 年の頃は、その少年少女たちより若干上のようだが、放つ気品と堂々とした立ち振る舞いは、彼等の元居た世界の大人たちから見たら、彼等よりも遥か大人に見えることだろう。



 壇上にて威厳を放つ皇帝と教皇。

 白の軍服女性は学生服の集団を先導し、力強く声を発した。


「ガルニア帝国三代目、フリードリヒ二世の娘、フリーデリケ・フォン・プロマリア。

 北の空に“神の脈動”を観測後、以前より準備していた勇者召還を成功させました!

 ご覧ください。この者たちが、その勇者達であります!」



 彼女は壇上の父、フリードリヒ二世に視線を向ける。

 これ以上ない、うやうやしい敬礼とともに彼女はそれを告げた。


「これで帝国の冬も過ぎ去り、ガルニア帝国の太陽は再び登り始めます。

 この勇者という暁は、百年前の神聖帝国の栄光を現代に蘇らせ、さらには此れからの百年先へ、輝かしい春の時代をもたらすでしょうッ!」



 自負心をたっぷりと含んだ顔。

 彼女は、それを上げる。


 それは、これから得るであろう栄光を信じてやまないからこそできる、自信に満ちあふれた表情であった。

次回から週二回更新になると思います。(次回、火曜日。4月3日予定)

火曜日と金曜日になる予定ですが、一話であまり話が進まないので、

金曜日と土曜日更新の方がいいのかも、とも悩んでいます。


もしかしたら月曜日と火曜日更新の方がいいのかな……

とにかく変更はあるかもしれませんが、一週間に二回更新を目指してがんばります。

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