9話
「うーん、いつかは解放されるとは思いますけど…。」
「私にはそう思えません…。」
「…。お姉さん、声きれいですよね」
「え?」
「さっきから話していると、綺麗だなって。実は僕、声フェチで…、お姉さんの声好きです」
「え、あ、そうですか? ありがとうございます」
「よく言われません?」
「いや、言われたことないですね」
「嘘だー。声フェチが黙っていませんよ!」
「本当ですって、ふふ」
「お姉さん音楽とか聞きます?」
「まぁ、普通に…」
「僕、雛菊 鞠さんが好きなんですよ。歌声が好きなんです!」
「あ、ありがとうございます」
「え?」
「いや、なんでもありません! 雛菊さんが好きなんですね、、」
「えぇ、曲も素敵で透き通るように歌うのがほんとにすごい!」
「あまり、そういう事言う人いないんです…」
「どういうことですか?」
「結局、見た目しか興味ない人が多いような気がするんです」
「まぁ、確かに。みんな雛菊 鞠かわいいって言ってますね」
「歌いたくて仕事やってるのに、結局そういう見た目の仕事が多くなってると思うんです」
「それはしょうがない気がします…。でも、僕は歌が好きなんです!話している声も良いですよねー。あの笑顔の中にいろいろなものを背負って、それでも歌う彼女を僕は尊敬します」
「そ、そうですよね! がんばらなきゃ、ダメですよね」
「お姉さんもがんまりましょう! あっ…。」
「…。ふふふ、、あははは!」
「ちょっと噛んじゃっただけじゃないですかー!」
「ごめんなさい、、ふふふ。でも、おかしくて…!」
「まぁ、いいですよ! こんなんで笑ってもらえるんだったら」
「…ありがとう」
「ちょっとはお役に立てましたか? マドモアゼル」
「えぇ、なかなか良い仕事だったわ!」
「なんですかそれ!あはは!」
「マドモアゼルとか言うからでしょー!ふふ。あ、家着いちゃった」
「おー、めっちゃ良い所じゃないですか!」
「そうでもないよ」
「…。楽しかったです、ありがとうございました。」
「こちらこそ、誰かと話して楽しいと感じたのは久しぶりだった」
「じゃあ、俺はここで」
「あっ」
「うん?」
「えー、明日は仕事だから。3日後!同じ時間にあのコンビニに来てもらえるかしら?」
「え? まぁ、大丈夫です」
「じゃあ、約束だからね!」
「はい!」
そういうとお姉さんは笑顔で豪華なマンションの中に入っていった。
知らない女の人といきなり密着して話しながら帰るなんて…! 恥ずかしさが後からこみ上げてくる。
でも、楽しくて、ドキドキした。結局悩みはどうすることもできず、テンションでゴリ押ししてしまった感はあるけど。
それにしてもあのお姉さんの声はきれいだった。