13話
「ひなぎく……まり?」
「そうだよ♪」
え、まじか! 今、目の前にあのデイジーマリがいる!?
「あれ? でもあの日と印象が違う気が…」
初めて会った時はこんなオーラをまとっていなかったような。声は一緒だけど
「おー、さすがだねー。ささ、この辺でくつろいでよ」
ソファをポンポンされ、促されるままに座る。
「コーヒーでいい? いや、紅茶の方がいいかな」
「じゃあ紅茶で…」
「なによ、さっきから借りてきた猫みたいにして」
「ビックリして。頭が追いつかないよ」
「ふふ、そんな顔してる。ちょっと待っててねー」
そう言うとどこかへ言ってしまった。
ちょっと待っててって言われてもな~
家をジロジロ見るのも良くないかなと思い、スマホを取り出してゲームを起動する。
あー、集中できない
(ゲィム オィバー)
「げっ」
「見事に負けたね」
「見られちゃった」
「たまたま目に入ったの。はい、紅茶ね。砂糖はもう入ってるから」
「あ、ありがとう…って」
雛菊 鞠と目が合う
「そう、私のすっぴんはこっち。これが本当の姿だよ」
はじめてコンビニで会った時の冴えない女性がそこにいた。
「だ、だいぶ印象変わるね」
「でしょー。目を少しメイクすればもう別人だから」
「まぁ、そうなんだけど。…ふぅ」
「なによー、幻滅した?」
「いや、ほっとしたんだ」
「どういう事?」
「雲の上の存在だと思ってたけど、思ったより身近に感じられたから」
「ふふ、当たり前でしょ。私も3年前までただの地味女だったんだから」
「そっか」
「そうだよ」
「……あれ?でもどうしてこんな所に住んでるんだ? 東京なんじゃ…」
「ふふ、前は東京に住んでたんだよ。でも、マスコミとか激しいファンとか、そういうの気にするの大変になっちゃって。まぁ、この顔で歩いている分にはバレないんだけど、仕事終わりとか、家からとか、ずっと張り込みされるとさすがに感づかれちゃうからさ…」
そう言いながら紅茶を飲む彼女。こうやって見ると普通の女性だ。
「ここから東京はちょっと遠いけど、けっこう気に入ってるんだ~」
「俺も最近引っ越してきたばっかなんだ。でも嫌いじゃない、この街」
「だから、この事は誰にも言わないで欲しいな」
「命令しないんだね。普通は”絶対に言うな”って念押ししそうだけど」
「そんな事言ったって意味無いじゃない。それに、今回はバラした私が悪いんだし」
「そ、そうだよ。どうして簡単に言っちゃったの?」
「私、こう見えて人を見る目はあると思ってるんだー。君は初めて会った時から大丈夫な気がしたの、なんとなく。この顔の私に親切にしてくれたし、けっこう気に入ってるんだよ?君のこと」
「そう?」
「じゃなきゃこうして自分の部屋に呼ぶわけないでしょ」
「そ、そっか…」
「さっきからリアクションがうす~い」
(こっちをじーっと見ないでくれ!)
「だ、だって。目の前に雛菊 鞠がいるんだよ!? しょうがないじゃん!」
「そっか、君、私の曲聴いてくれてるんだったね」
「うん、毎日聴いてる」
「お気に入りは?」
「君は私のスターライト」
「いいね♪ 私も気に入ってるんだ。ふふっ」
「どうしたの?」
「君は~♪私の、スターライト!」
「う、うわぁ!本物だ!」
「本物だからね!」
「すげぇ…」
「やっと良い反応してくれたね」
「前も言ったけど、ほんと良い声」
「ありがと♪」
「////」
やばい、これ以上ここにいたらもってかれる!相手はスーパースターだ、お近づきになろうなんて100万年早い存在なんだ!
「おお、お、俺はそろそろおいとまするね! 紅茶おいしかった、ありがとう!」
「え~、もう帰るのー?」
「無茶言わないでくれ、こっちはもういっぱいいっぱいなんだ」
「そっか~。じゃあさ、ライン交換しようよ」
「えー!? いや、君は超人気歌手なんだよ! そんなの事務所とかが…」
「いいの! ほら、早く!」
相手の勢いに押されてスマホを取り出す
ピロン♪
「むらたー、みちこ?」
「ふふ、さすがに雛菊 鞠名義じゃ無理でしょ」
「そ、そうだよね。アハハ…」
「小山 新くんか、良い名前だね」
「そうかな?」
「うん、そうだよ。じゃあまた、気が向いたら連絡するね」
「う、うん。じゃあ」
そう言ってマンションを後にする。
俺のスマホに、、雛菊 鞠の連絡先だとぉぉおお!!
その夜眠れなかったことは言うまでもない。