君の心臓は花となる
彼は亡くなると心臓から植物化し紫色の花が咲きます。花言葉は「美しい悲しみ」。植物化した体から摘み取った花は満月の夜に消えてゆきます。
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「ずっと、大好きだったよ」
力なくベッドに横たわったまま、彼が私にそう告げた。その彼が静かに息を引き取ってから、一体どれほどの時が流れたのだろう。数分かもしれないし、数時間かもしれない。自身の一部を失ったような喪失感から、時間など確認する気力さえなかった。
息を引き取った彼の左胸には、淡い紫色の花が咲き誇っている。彼の命の灯火が消えた証であるそれは、力強くそして凛と夜空を見上げていた。
「…美しい悲しみ」
初めて見たはずの花。しかし私はこの花の花言葉を知っていて、それを呟いた。
決して万人が褒め称えるような華美な花ではない。それでも力強く凛と空を仰ぐその姿を、私は「美しい」と感じた。他の誰のものでもない、私が愛した人が姿を変えた花だから。
今宵は満月。儚くも美しいその花は、満月の静かな夜に溶けるように、一枚また一枚と花弁を散らし、彼の命を連れ去っていった…。