第41話
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その日も午後五時には仕事を切り上げ、パソコンを閉じて、キッチンで夕食を作った。疲れていても、食事は自炊する。健康には気を遣っていた。特に夏の暑い時季はきちんと食べないと、体に悪い。
食事後、入浴して、冷たいシャワーで汗を流す。入浴後、読みかけの本を開き、読み始めた。活字は好きだから、苦にならず、寝る前まで読む。
午後十一時にはベッドに潜り込み、眠った。すぐに寝付いたが、明け方になると、目が覚める。不眠症だ。蒸し暑いから、中途覚醒するのだろう。トイレに立った時は水分補給し、また眠った。
午前七時に目が覚めて起き出す。体はだるい。起きて洗面所へと歩いていく。そして蛇口を捻り、水道水を出した。無色透明の水が出てきたので、掬い取って洗顔し、髭を剃って、髪を綺麗に整える。
コーヒーとヨーグルトで朝食を済ませて、パソコンを立ち上げ、キーを叩き始めた。暇はない。朝から仕事だ。慣れていても、腱鞘炎でまた腕が痛み出す。職業病なので、そう気にしてなかった。時折鎮痛剤を飲み、抑える。
毎日単調だ。ネットも見るのだが、ニュースは基本的にまとめてチェックする。まあ、人間はどこにいてもきついのだから、俺だって逃げる気はない。
正午になり、空腹を覚えて、キッチンに立つ。ちょうど玄関のところ辺りに、人の気配を感じ取る。誰だろう?扉を無防備に開けると、瑞子が立っていた。
「久しぶり」
「ああ。……何?」
「佐村君、今から近くでお昼でもどう?」
どうやら、食べに行きたいらしい。一言「忙しいんだけど」と言いそうになるのを抑え込んで、
「ああ、短時間ならいいよ。……午後からも仕事あるし」
と返す。
「じゃあ行こう」
瑞子がそう言い、歩き出す。ふっと背後から見ると、彼女の下半身はない。まさか幽霊じゃないよな。そう思い、玄関の鍵を持ってオートロックを掛け、付いていった。瑞子は足がないまま、歩いている。不気味だった。
道で人と通りすがると、皆、彼女の方を訝しげに見ている。もしかして、この女性はもう死んでいるんじゃ?悪い予感がした。背中に汗が浮き出ているのが、自分でも分かる。瑞子は一際奇妙だった。腰も足もなく、体だけ浮遊しているのだから……。
昼食を近くのファミレスで一緒に食べたが、味がしなかった。生霊と食事しているような気がして……。そしてハッと思い出す。確か、ネットニュースについ最近、街で歩道を歩行中の三十代女性がトラックに撥ねられ、死亡した事実を……。その被害者が仮に彼女だとしたら、取り付かれていることになる。
自宅マンションに帰り着き、部屋の前で、
「じゃあまたね」
と言って瑞子がニンマリ笑い、足がないまま、通りへと去っていく。気味悪さを感じていた。終始一貫して。
午後の仕事がまるで手に付かない。恐怖に打ち震えながら……。(以下次号)