第11話
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その日も午後五時には何とか仕事を切り上げて、出来上がった分のデータをメールに添付して送り、パソコンを閉じた。そしてゆっくりし始める。夕食を取り、その後、入浴して髪や体を洗ってから、疲れを落とす。夜間は休む。本を読む時間はあったが、大抵午後十一時にはベッドに潜り込んでいた。無理はしないのだ。どうしても寝付けない時は起きておく。眠くなれば、そのまま寝入る。
翌日も起き出し、いつも通り洗面してから、コーヒーとヨーグルトで朝食を済ませ、仕事を始めた。パソコンを立ち上げてキーを叩き、データを入力していく。多少だるさはあったが、そうも言ってられず、マシーンに向かった。急いでるわけじゃないのだし、先行できる分は先行しておく。期日に余裕を持ち、納品していた。
暇なく仕事をする。スマホにはほとんど電話は掛かってこない。稀に昔の友達などから連絡があるが、それもその時だけで、後は何もなかった。
昼過ぎに玄関をノックする音が聞こえて、誰だろうと思い無防備に開けると、懐かしい顔があった。大学時代、同じゼミの友達だった湯原瑞子だ。
「どうしたの?」
「ううん、ただ、近くまで来たからどうしてるかなって思って寄っただけ」
「湯原さん、部屋上がる?散らかってるけど」
「いいの?」
「ああ。……アイスコーヒー淹れてあげるから」
そう言い、彼女を部屋に入れた。瑞子はまだ結婚してなくて、三十代後半なのだが、以前よりも大人っぽくなっている。傍に寄ると、女性の付けるデオドラントの濃い香りが漂ってきた。
コーヒーを淹れるため、キッチンに立っていると、座っていた彼女が立ち上がり、背後から抱き付いてくる。そして、
「佐村君、抱いて」
と言ってきた。頷き合い、不器用に口付けると、瑞子が着ていたシャツを脱ぎ、裸体になってベッドに入っていく。お互い若さと精力に任せて性交した。未婚の瑞子も強い。二度ほどイって果てた。もちろん、独身者同士だからいいのだ。
立ち上げていたパソコンは放っておいても、スタンバイ状態になる。ゆっくりと密な時間が流れた。瑞子が上にシャツを羽織り、俺が淹れかけていたコーヒーのカップを手に取って、粉末の上から水を注ぎ入れ、掻き混ぜて飲む。喉の渇きを潤したようだ。互いにしばらくゆっくりし続ける。そしてバスルームで一緒にシャワーを浴び、汗を流した。
その日から俺たちは男女の関係になる。まあ、別に極普通で、悪いことじゃないのだし……。(以下次号)