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女神、諦める




完全に冤罪なんだけど、なんで美ッチが私を嵌めたのかが分からない。

私、美ッチに歯向かったりしてないんだけど?

ハーレムの邪魔なんてしてないし、バカ王子達とも必要最小限の会話しかしてない。

恨まれる理由なんてないんだけど、ひょっとして私が知らないだけで、私非道いことしてたのかしら?

だとしたら謝罪しますよ?ええ、土下座もします。だからしっかり説明して欲しいんだけど…。

雰囲気的に私が何を言っても受け入れられないよね、これ。


さて、どうしてくれよう。


一呼吸つき、そう思って目線を上げた時だった。



「待って下さい!キナ様はそんな方じゃありません!!」



甲高い声が会場を切り裂いた。


一瞬鎮まり、次いでサワサワとざわめき合う人混みを掻き分けて、私の前に転がり出てきた小さな少年に目をみはる。


「……リロー」


私の従者(予定)の少年が顔に似合わない険しい顔をしながら、壇上の一団を睨み付けていた。


何事だと様子をみていたバカ王子が、リローを見たとたんに嘲笑を浮かべたのを私は見逃さなかった。

まぁ、なんて悪い顔をして見下しているんでしょう。

人の上に立つという意味を知っているなら、例え敵にとてそのような顔を見せてはいけないのに。


「薄汚い平民をこの会場に入れる許可を出した覚えはない。衛兵っ、摘まみ出せ!」


おーいバカ王子ー?

平民を平民と差別満載なセリフで呼ぶんじゃないよっ。

どこの悪役貴族だよ。あ、王族か。

国の大部分、ほぼ全ては平民だぞ?

お前、今のセリフ、民衆の中で唯一人きりでも言えるか?

…言いそうだな、コイツ。


王子の威圧的な物言いにも億することなくリローは食ってかかっていく。


「確かに私は貴族ではありませんっ!平民でも下層をはいずり回る、貧しく卑しい生まれでした。そんな私を拾って育てて下さったのはキナ様です!キナ様が邪教徒なんかであるはずありませんっ!」

「衛兵!何をしているっ!そいつも捕らえろっ!」

「可哀相なリロー君…。きっとキナ様に洗脳されているんだわっ…」


苛つく王子を退かすように前に出てきた美ッチが泣きそうになりながら訴える。


「騙されてはダメよ、リロー君っ!貴方の清らかな魂を、キナ様は奪おうとしているのっ。助けてくれた彼女を盲目的に信じてしまうのも仕方ないけど、ちゃんと自分の心を持って?!女神様を信じて?私を信じてっ!」


おお~……スゴイな美ッチ。

ハラハラと涙を零して、悪魔から少年を救いだそうと説得する乙女を完璧に演じてるよ。


まぁ、確かにリローは私に依存している部分があるから、自分の考えを持つというのには賛成ですね。


リローとは、戦時中立ち寄った廃墟で出会って保護した関係。


貧乏と戦が重なって親に捨てられたリローは当時8歳。

暴力と貧困でボロボロになった身体と心は世の中を憎んでいた。

暴れる猫のようなリローを拾って介護したのは、単なる気まぐれだった。まぁ、上手く矯正させたら使える人材になるかなー?という打算もあったけどね。


そしたらまあ、蛹が蝶に、トカゲがドラゴンに成ったと言わんばかりの成長を遂げたんだよねリローったら。


がりがりの骨だった小僧はしっかりとした食事と適度な運動で、柔軟な筋肉をすっきりと纏った身体になったし、勉強と作法も必死に習っていたから気品もある。

悪いけど当時を知る私でも、どこかで入れ替わったんじゃないの?と思うほどの成長ぶりだ。


一番変わったのは顔だろうな。


暴力で骨が変形、肌も変色してしまい乾いた血と泥に塗れていたリローだったが、根気よく治療と療法をとり回復していった結果、すんごい美少年になっていた。

マジ美少年。眩しいっ!

最初は包帯でグルグル巻きだったけど、包帯が外れる回数が増える度に、玉葱が剥けるように美しくなっていったのはサギだと思ったものだ。


あの野良猫が今じゃサラサラツヤツヤの白金髪が麗しい天使だよ?

なにこれ、奇跡?


ハッキリ言ってバカ王子達より美しい。

美意識なんて人それぞれだし、奴らには権力とか金とか付加価値があるから人気は及ばないけど、見た目だけならリローに軍配が上がる。


……ん?……もしかして、そのせい?

もしかして美ッチ、リローを自分のハーレムに入れたくて私を嵌めたの?

いや……まさかね。ないよね。


チラッと美ッチを盗み見ると……なにあれ、肉食獣の目付きでリローを見てる?


ちょっと待ちなさいよ、うちのリローをそんな目でみるなー!!汚れるだろうがっ!!



好意と欲望の視線を受けたリローは、ますます顔をしかめて美ッチを睨みつけた


「失礼ながら巫女様。私には貴女よりキナ様の方が信じられるのです。貴女も、貴女の女神も、私を救ってはくれなかった。貴女や殿下達が『汚い』と罵った私を助けてくれたのはキナ様だけです。他にもキナ様は沢山の難民や孤児に働き口や生活場所を与えて下さった。国の代表である殿下や貴女が見捨てた、ゴミのような私達をです。ご存知でしょうか?今回の戦争、終盤には大勢の傭兵や民間人が加勢してくれましたよね?その方々が、キナ様に救われたと、キナ様を助けるのだと駆けつけてくれたのを貴女方は知っているのですか?!」


リローの静かな怒りが朗々と語られていく。


笑顔を貼付けて凍り付く美ッチにバカ共。


知らないよ、知るはずないよね。

最後の戦争の時はコイツら、なんと出陣すらしないで愛を語り合ってたんだから…。


それで戦勝の勇者として凱旋するんだから、もうほんと…。

救いようがないわ…。


「…なっ、なんのこと?…私、最初から貴方を心配して、それで助けようとしたけど…。非道いわキナ様っ、そうやってリロー君を邪教の道に連れて行こうとしているのねっ…」

「不敬であるっ!邪教徒の仲間がっ!よくもリリアを、私を侮辱したなっ!」

「戦の運営も知らない素人が、何をっ…」

「黙れ黙れー!リリアを悪く言うなんて許せないっ!」

「…っ…最悪っ」


口々に騒ぐせいで酷く慌てて見える一団は、はたから見ると言い訳をしているようにしか見えない。

そんな壇上を見ている貴族や諸外国の来賓達がザワザワとするのは無理もない。

この外野の中には戦争に赴いた者も少なからずいる。

多少なりとも使える耳や目があるなら届くはずだ、美ッチ達の行いは。


「キナ様!」

「…あ?…ああ、リロー…」


壇上のバカ共を眺めていると、すぐ側にリローがやって来ていて私を見上げる。

ヤッベェなリロー、まじ可愛いっ。なんですかその上目遣いっ!


…はぁ~…癒される。

リローの可愛さがこのバカバカしい事態で荒んだ私を癒すわ~…。

ギュ~ってしてほっぺたプニプニしたい…。

サラツヤの髪の毛をクンカクンカしたい…。プニプニクンカクンカ……。…。


……はっ?!今、私は何をっ!?


……ヤバいな、荒み過ぎて変態度が加速してるわ。美ッチの事をとやかく言えないな、こりゃ…。


「女神がなんと言おうとキナ様が邪悪なはずありません!私は信じておりますっ!」

「……あー…うん。…ありがとう、リロー」


なんだろう、このキラキラした子。

そんな揺るがない意思を宿した瞳で見ないでっ、純粋で良い子過ぎるよリロー!

やめて私汚い大人なんだからっ!変態だからっ!

キラキラした目で見ないでー!


私の的を外した葛藤をよそに会場はリローの言い分を信じる信じないで更に過熱していく。


だが、所詮リローは平民で子供でその証言に威力はない。


『女神の巫女』リリアが邪悪といったら、そうなのだ。

それが『巫女』であり『女神』なのだ。




「邪教徒に縄を打て!鎖と魔法封じの枷をつけろ!」


『女神の巫女』の後押しを受けた王子の命令で、私とリローを兵士が囲む。


「キナ様っ、逃げましょうっ!こんな馬鹿げた茶番に付き合う必要はありません!」


リローが兵士達を威嚇しながら私を助けようとするが、無理はしなくていいんだよ。

リローは優秀だし、戦時中もクソバカ共より役に立つ働きをしてたけど、多勢に無勢。無理するな。


偉そうに腕組しながら睥睨してくるバカ王子に腹が立つ。

まるでこっちがゴミだと言うのように見下した顔をしてくる神経質に腹が立つ。

殺せ殺せと喚く遊び人に腹が立つ。

罪人に興味は無いと欠伸をしやがる愚鈍に腹が立つ。


なにより、美ッチ。


祈るように口許で組む両手に隠れたその下で、愉悦に歪んだ唇が釣り上がるのが見えてるからね?


冤罪で私を処分出来て嬉しい?

私がいなくなればリローが手に入るから?

リローは私が死んだら後追い自殺するよ多分。手に入らないよ、残念。


「リロー君!考え直してっ!そんな"仮面"をつけて素顔を見せないような人を信じてはダメよっ!」


なんとかリローの好感度をあげたいらしい美ッチが、私の外見について文句を言ってくる。

それにリローは顔を青ざめさせ、私を恐る恐る窺ってきた。


「……キ、キナ様…」

「………」


私は"仮面"をつけている。

ツルッとした真っ白い、顔を全て隠す"仮面"をしている。


何時でも何処でも、どんな時でも。


素顔を隠している、隠さなければいけないから。


リローは隠す理由を知らないが、私が自分の顔を『嫌っている』というのは知っているから、美ッチの発言で私がキレないかビビる。


大丈夫だよリロー、このくらいでキレたりしないよ。

王侯貴族の前でも取らないせいで、礼儀知らずとか無礼者とか散々言われてきたから慣れたよ。


「隠さなければならないような醜女なんだろうな。邪教徒に相応しい!」

「リリアの美しさに嫉妬して、悪さをしたのかもしれませんね」

「不細工ってカワイソ~!それで悪魔なんでしょ?どうしようもないねー!」

「……笑」 


「邪教徒の素顔を晒してやろう!誰か、俺の剣を持ってこい」


……………でもね。


慣れたけどね、だけどね?


お前達に文句言われる筋合い無いと思うんだ?



(……も、駄目だね。終わりにしよう)

『…う、うう~ん…。仕方ない、か……。ゴメンね、キナ…』

(いいよ、期待してなかった(・・・・・・・・)もの)



バカ王子が剣を片手にニヤニヤしながら近づいてくるのを、私は手をあげて制した。

正直、近くに来ないで欲しい。

バカが移る。


「……殿下の手を煩わせる訳にはまいりません。この仮面は自分で外します」

「ほう、ようやく自分の立場が分かったか?」

「……立場、ですか。そういえば殿下、私がどのような経緯で今回の進軍に加わったか、ご存知でしょうか?」

「お前の履歴だと?冒険者として教会から派遣された平民だろう。邪教徒だったのだから、『教会』にも謝罪をさせねばなっ!」

「……」


表の(・・)履歴は知っていたか。

とすると、『教会』すら弾劾するために今回の騒動を起こしたのかもしれない。


……だとしたら、ほんとに救いようがないぞこのクズ。


「キナ様っ、無理をなさっては…」

「黙れ裏切り者っ!この女の次はお前も裁判にかけてやる!」

「リロー、もう良いのです。貴方は自分の心配だけをなさい?」


美ッチがリローに色目を使うのが気に食わないバカ王子は、リローを目の敵にしていた。

今までもチビチビと地味な意地悪をしてきたのを知っている。


これを機に目障りなリローを殺してしまうかもしれない。


(リローには関係ないからね、助けなきゃ)

『そうだね!私もリローちゃんは大好きだから賛成っ』


じゃ、さっさと終わらせますか。



私は"仮面"を外した。



















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