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女神、呆れる

 

 

 


昼間のように明るく輝く大広間で、貴族が列席するなかその宣言は成された。



「キナ・エイウーラを『邪教徒』として告発し、制裁を与える事を宣誓する!」



ホワイ?


あらごめんなさい。私、耳がおかしくなったかしら?

今までも結構バカな発言をしてきた第二王子様が、またまたおかしな事言ってるわ。

オツムの具合が宜しくないのね。分かるわ、坊っちゃん王子だものね。



身に覚えのない『邪教徒』と告発されたのは、私。

キナ・エイウーラ、19歳独身恋人無しの乙女ちゃん。


告発してきたのはこの国の第二王子でバカ坊っちゃんのシュナイル殿下。


場所は王宮の大広間。

戦勝祝いのパーティーの最中、目立つ壇上で金髪イケメン残念ボンボン王子が私を指差して弾劾してきたのだ。


………人を指差すんじゃねぇよ、クソ王子!


……あら、やだ、おほほ!私ったらはしたない!ごめんあそばせ?


私ったらあまりの事にショックで呂律が怪しくなってますわね!


だって余りにバカバカしい上に、事実無根もいいところな告発ですから、しかたないですよね?



実際、周りにいる貴族の方々も呆気にとられています。

私と王子を交互に見て、『?』な顔してますよ。


それでも王子の発言だけに影響力があり、徐々に私から距離をとりはじめました。

ポッカリと空いた場所に私はポツンと立ったまま。

皆が皆、ひそひそと私を伺い出す。


国王は病欠だし王妃はずいぶん前に亡くなっていて、あのバカを諌める人はいない。

王太子である第一王子が国王代理として出席ているが、何も聞かされていなかったようでキョトンとしてますね。

まぁ、第一王子は人が良すぎるから、弟がこんな阿保だなんて知らなかったんだろうね?

能力はあるけど平時で善王となるタイプだし、戦争がやっと終わった今では役に立たないかな。


となると援軍は無しか、仕方ない。


「…………はて、聞き間違いでしょうか?」


自慢の美声を意識しながら、私はゆっくりと余裕を持って喋り出す。

疚しい事もないし、変にキョドる必要もない。


誰も手助けしてくれないなら、自分でこの馬鹿をなんとかしなきゃ。

はぁ、面倒。


「今、シュナイル殿下から……私が『邪教徒』だという侮蔑を戴いたように思うのですが……」

「そうだ!邪な神を崇める貴様を今ここで断罪してやる!」

「はぁ……断罪、ですか」


………てめぇのその空っぽオツムを断ちき切ってやんぞっ、ごらぁっ!!?


あらやだ、努めて冷静な自分を演じながら、その実腸が煮えくり返ってきてます。いけませんね、私としたことが些か荒い言葉を使ってしまいました。

冷静に冷静に。


顎を僅かに反らして見下してくる殿下は勝ち誇った顔をしています。自信満々、正義は我にあり、って感じ?

その正義を立証してくれるのは一体誰なんでしょうね?


「言い訳は聞きませんよ、邪教徒」

「悍ましい教えを語る口なんて縫っちゃえばいいんだよ」

「……滅」


あら?

立証してくれるのかしら、あなた達?

良かったですね、殿下。

馬鹿の仲間がいましたよ。馬鹿は馬鹿を呼ぶ、素晴らしい馬鹿の連鎖ですね。


殿下の背後から彼を擁護するのは皆さん有力者の血筋。


所謂『王子の腰巾着』達だが、実力も有るため将来有望視されていたはずだ。


ま、私はどんぐりの背比べをしてるガキ共としか見てなかったけど。


どんぐり達は、

宰相の息子で王子付きの文官、エリクス。

侯爵家三男の、アーサー。

騎馬団将軍の後継者、マラド。


どんぐりのくせにそれぞれが趣の違う美形達。

神経質、遊び人、愚鈍、としか私はみえないけどね。ケッ!


ま、私がどんな風に思っていても、見た目は極上で血筋も名声も実績もある三人だ。

それが馬鹿王子の発言を後押ししたら、会場の空気もそれになぞり始める。


ひそひそがザワザワとなり私の正体を危ぶみ始めた。


面倒ー!あー、面倒くせぇ~!!


それでもただただ静かに私は声を出す。


「言い訳なんてしませんよ。知りもしないことの何を語れと言うのです」

「はっ!それこそ言い訳だな。知らぬ存ぜぬで逃げられると思うなよ」

「そこまでおっしゃるなら、なにか確証のようなものがあるのですね?」


私がそう聞くと、益々ドヤ顔になった殿下が胸を張って傍らに立つ少女の肩を寄せた。


そう、壇上には殿下、神経質、遊び人、愚鈍の他にもう一人いた。


淡い金髪に華奢な身体、清楚なドレスに身を包んだ美少女。

白い肌にぷっくりした赤い唇と碧が美しい瞳で柔らかく微笑む娘。


そう、『美ッチ』がいやがるんだよ!


……………あ、あら嫌だわ。また私ったら口汚い言葉をっ。オホホー!


でもでも、この女にかんしてはクソ美ッチで充分よねー!?

美を付けるだけ有り難いと思えクソ女ー!


なんとなくこの後の展開が分かっちゃったけど、いやに芝居がかった壇上の一団の次の言葉を待ってやる。


王子に肩を寄せられ、清純そうに頬を染める美ッチは傍目から見たら天使だろうが、あれ演技だから。

もう演技が演技にみえないくらい地になってるから誰も彼も騙されてる。

すげぇよ美ッチ!


王子もキラキラ微笑んで美ッチの腰を引き寄せるし、後ろの3馬鹿も眼福とばかりにはにかんでいる。

……なにあれ気持ち悪ーい。


「ここにいる『女神の巫女』リリアが神託を受けたのだ!お前が邪教徒だと女神が告げた!これ以上の証拠は在るまい!」


王子の言葉に会場がオオオッと波打つ。


美ッチが恥ずかしそうに笑えば、会場から『神託だ!』『女神様だ!』『なんて奇跡だ!』と声が上がり興奮が伝播する。


逆に私には敵意と侮蔑の声と視線が飛んで来る。


『邪教徒め!』『死ね!』『神の敵だ!』と方々から。


よーし、今喋った奴等、殺す。


「……初めは、信じられませんでした」


一通りの罵声を浴びた中、美ッチが小さく、けれど不思議に響く声で語りだす。

会場は一瞬で静寂に包まれた。


「まさかキナ様が、そのような恐ろしい……。でも女神様のお告げは真実しかありません。それでも、ひょっとしたら何かの間違いかと何度も祈りを捧げましたが、やはり内容は変わらず…。…何故ですか、キナ様っ。どうして女神様を裏切るような事をっ!?」


何故と言われても私が知る訳がない。


この美ッチの虚言なんだから。


涙目で訴えてくる美ッチのはかない美しさに馬鹿王子達は感動しているみたいだ。

馬鹿共がっ!


「リリア、泣くなリリアっ。こんな奴の為に君が泣く必要なんてないっ!」

「で、殿下…」

「そうですよリリア。さ、涙を拭いて?」

「リリアは泣いても綺麗だよね~!」

「……美」


…何だろうこの寸劇。


まぁ企画脚本演出は美ッチだろうけど、ほんとアイツは男を侍らすのが好きだよねー。


さて、なんかお花畑の壇上を見ながら美ッチの発言をもう一度吟味してみようか。


『女神のお告げ』


そう言ったよね、あの女。


私は自分の意識領域の端、そこ(・・)に話しかけた。


(ちょっとー?巫女に神託あげたのー?)

『……ーしてないっ!そんな事してないよー!?』


すると慌てた声が聞こえてくる。


あ、違うよ?二重人格とかじゃないから、これ。


『あの子が勝手に私の名前出してるだけっ!というか、あの子近頃私に祈祷を捧げてもこないから説教も出来なくて…』

(…ああ、それで暴走したのかあの美ッチっ!)

『ご、ゴメンね?まさかこんな事するなんて…女神(・・)なのに見抜けなくて、ゴメンね…』


尻窄みになりながら謝ってくる声は自分を女神だと言う。


そうなんだよね、この()、『女神』なんだよね。


つまり、私はこの声の持ち主に『邪教徒』指定されたんだと言われてるんだけど…。


(私、邪教徒なんだって。邪神を崇めてるんだって。じゃ、あんた邪神なんだ?へーっ初耳ーっ!)

『ち、違うよっ!私、れっきとした『女神』だよ!?『愛の女神ユリフィージャ』だよっ?ほんとだよっ!?』


知ってるよ。


でもそれを知ってるのは私だけ。

しかも私の精神内でしか話せないんだから証明しようがない。


対して美ッチは『女神の巫女』という肩書があるから、発言には信憑性がありまくる。


この世界の住人は信仰心がかなり高い。

極々稀に、神が奇跡を起こしたり天罰を与えたりするのが実例としてあるからだろう。


そんな神の中でも一番人気があるのが慈愛の象徴であるユリフィージャだ。


愛と美、博愛と献身の女神様は慈悲の奇跡を起こしてきた数が他の神より格段に多い。


まあ、自分達を一番救ってくれている女神なので一番人気なのは仕方ないだろう。


その『女神』の声を聞き、『奇跡』を呼ぶのが『巫女』だ。


その巫女であるリリアが名指しで邪教徒だと言った。


女神の代理人ともいえる存在からの邪教徒指定だ、まず間違いなく『真実』とされてしまうのも仕方ない。

つまり私は邪教徒と完全に証明されたようなもの。


そりゃあ証言だけとはいえバカ王子達が信じてしまうだろう。

……いや、あのバカ達なら美ッチの言うことは全て信じて肯定してしまうだろうな。

視野狭窄過ぎるって~のっ!


暫し思考に逃亡していると、壇上では更なる私の悪事が美ッチにより暴露されていた。


「……でも、私、見てしまいました…。キナ様が夜に一人で出歩いているのに気づいて、後を追った先で…悪魔と集会を開いているのをっ…。キナ様は笑いながら生贄にされた人にナイフを突き立ててっ!…ああっ、恐ろしいっ!」


「その女は遠征中よく孤児と話していた。調べたところ、各地で行方不明になった孤児が多数報告されていた。おそらく、そいつの毒牙にかかって…」


「あと、よく動物に餌をやったりしていたのも知ってるよ!毒や魔法の実験体にしていたんだろっ!皆殺したんだろ、悪魔!」


「それが関係しているのでしょうね。疫病が流行ったのもそいつのせいでしょう」


「……最低」


観衆は「おおっ!」とか「なんとっ!」とか言いながら私に敵意を向けてきた。

完全に女神の敵と認定されたのか?流石美ッチの証言、威力あるねー?


事実無根だけどなっ!


あ、美ッチ以外のバカ共の証言は嘘でもないか。


孤児の慰問はしましたよ?


行方不明?酷い話だけど、戦時中なんだから行方不明にもなったりする子供も出るだろ!奴隷商人にさらわれたり、栄養失調で死んだりすることもあるってのっ。

ってか、本来王族と巫女であるお前らがする仕事だったんだぞ?。

お前ら何してた?

キャッキャウフフとピクニックデートしてたなっ!


動物に餌やり?軍馬の事ですか?


移動手段となる馬に餌をやらないでどうするよ?

人手も足りない遠征中なんだから、自分の馬は自分で面倒見なきゃダメだろ?

こちとら戦地にまでゾロゾロと召し使えを連れて来る阿保貴族じゃないんだ、自分の事は自分でしてただけだよっ!

お前は何してた、遊び人?

美ッチと楽しく買い物デートしてたなっ!


疫病?流行るに決まってるよね?


戦死者の弔いはしっかりしなきゃ、遺体からいろいろと悪いもの出るよ?

それを指示する命令系統が機能してなかったせいで、中途半端な埋葬ばっかりになってたよね。私も出来る限り手を尽くしたけど、他にも食料や資材の配給だったり資金の分配だったり慰問や会議や交渉で完璧とは言えなかったけど…。

お前、何をしてたんだ神経質文官?

美ッチに捧げる詩を歌ってたよなっ!


最低はお前だ愚鈍野郎っ!


お前騎馬騎士のくせに馬の世話も剣の修業もしないで、実戦の時は美ッチの側の安全圏で守りに徹してやがって!

前で戦えっ!

なんで私が最前線で血みどろになってるのに、お前はピカピカの新品鎧なんだよ!

ケガもしてない美ッチに傷薬を使ってんじゃねっーー!



…なんで私、コイツらの尻拭いばっかりしてたのに、こんな扱い受けてるんでしょうか?

………ああ、我慢も限界だ…。




「…以上の事から、キナ・エイウーラが邪教徒であるのは明白っ!即刻捕縛した後、処刑するものとする!」


バカ王子の一際高い宣言に会場は揺れる。


「邪教徒を殺せ!」

「悪魔よ去れ!」

「魔女を燃やせ!」


集団の吠え声と剥きだしの敵意が私を取り囲んで来る。


ああ、凄くムカつく。腹が立つ。


なんだコイツら。

少し前には戦争を終わらせた勇者だとかなんとか誉めまくっていたのに、この手のひら返し。

巫女か。美ッチのせいか。


(ちょっとー。なんとかしなさいよ、アンタの巫女でしょ?)

『う、うん、そうなんだけど…。あの子ホントに私の言うこと聞いてくれなくて…。多分、巫女になれたせいで自分は特別だって、思い込んじゃったんじゃ…』

(特別、でしょうね。巫女だもの。でもさ…)


それは『女神』に与えられた役(・・・・・・)だって理解してるのかしらね?










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