第8話:あぁ素晴らしき学び舎よ【前編】
今回は短編風味に仕上げようとしたんですけど、ちょっと長くなりすぎたので前後編となります。
自分の目を見た。
それはあの魔法少女的な何かが襲ってきた次の日であり、何故か茜が割り振られた部屋に行かず僕の部屋にいたので「何やってんだゴラァ!」と叫んだ日の朝だった。
「…………What?」
洗面所で歯を磨いている途中、何気な〜く自分の目を見たのだが……。
なんで微妙に赤いねん……。
「やっほ〜、おはようだよ、主〜」
洗面所に茜が来た、無機物の分際で偉そうに歯でも磨くつもりだろうか。
「……なぁ茜、僕の目がなんだか赤いんだが……」
「例のごとく私のせいだよ?」
「え〜っと、可燃ゴミの日は……」
「わー!? 待って待って待ってええええぇぇぇぇ!!」
えぇい、うざったいなもうコンチクショウ。
「で、どういうことだこれは? というかちゃんと戻るのか?」
「うん。戦闘中の魔力が残留してるだけだから、もうちょっとたてば戻るけど」
どうやら昨日の戦闘のせいらしい。
「ねぇ主、なんでそれ嫌なの? 目の色違うってかっこよくない?」
僕が溜息をしているのを見つけ、茜がそう訊ねてくる。
「別に、黒髪とアンバランスだし。……それに、一谷ちゃんに気に入られそうで怖い……」
そう、もし一谷ちゃんがこんなの見つけたら…………絶対、おもちゃにされる……。
あ、茜は一谷ちゃん知らないんだったな。今も首傾げてるし。
「ねぇ主、一谷ってだぁれ?」
ほら、やっぱり質問きたよ。
「一谷ちゃんは掃除のバイトです、最近来てないけど。てかこの目……戦ったら毎回こうかよ……」
それはそれで憂鬱だ、怪しすぎるし、「カラコンです」っていうのも嫌すぎるし。
「むぅ、気に入らないのか〜。せっかく余分な魔力が目にいくように調整したのになぁ」
…………マテヤ。
「え? それは何かお前? この目は別に何の必要も無いのか?」
「うん。余分な魔力は他の目立たない所に回せるよ〜」
「じゃあこれは何のためだ?」
「だってだって! 不思議な武器持って風貌変わったらなんかかっこいいじゃん!」
…………………………。
歯磨きチューブを指差す。茜の首がそれにつられて動く。
「良い事を教えてやる。……実はあれ、食えるんだ」
「マジですかー!」
茜は歯磨きチューブに飛びついた。
***
現在、僕はお嬢様と一緒に登校している。
ちなみに茜は原因不明の腹痛で欠席だ。
「なぁ……天詩……」
「…………なんですか、お嬢様」
「今更だが毎朝これはきつくないか?」
目の前に立ち塞がるのは、ながーーーーーーーーーーーーい斜面。
…………うん、正直疲れる。
しかも僕は昨日戦闘したからね。しかも体力だけじゃなくて魔力なんてのも無くなってるみたいだしね。
いやもう体がギシギシ言いますわアッハッハ。
とか、僕たちが思っていると「疾風」が駆け抜けた。
もちろん比喩表現だ、だが――掛け値なしに、風に劣らぬその速度。
草木が舞う、木の葉が揺らぐ、お嬢様の髪も乱れる。
あぁなんか視界に乳白色の物がってこれお嬢様またドレスですかって言うか目線の高さまで舞い上がるって事は横見ちゃ駄目ええええええええぇぇぇぇぇ!!
「…………結華、周りの迷惑と道路交通法を考えろ」
「あぁ、おはよう灯夜ちゃん! ふみくんも一緒か、おはよ!」
思いっきり聞いてないこの「疾風」は桜樹 結華。
ここで最新鋭の乗り物とかなんたらドライブとか奥歯にある切り札を想像したあなたはまだ甘い、シロップミスって入れすぎたコーヒーぐらい甘い。
自転車だ。
「桜樹、いつも思うんだがどうして自転車に乗る時だけ人類の限界を突破するんだ?」
「う〜ん、テンションの問題かな?」
んなレベルじゃねぇよ。
ちなみに今は自転車を止めて喋ってるからいいものの、走ればきっと3秒で見えなくなるだろう。
自転車と車の正面衝突で車の方を潰した人間は、多分コイツだけだと思う。
「そうだ結華、煉斗はどうした?」
あ、ちなみに桜樹は自転車で登校する場合、いつも煉斗を起こしにいきます。
「煉斗くん……『今日は空が青いから……』とか言って引きこもってる……」
あぁ、ある意味アイツらしい。
しかし、始業式の次の日ぐらいは来てもいいと思うけどな。
「じゃあ、私は先に行くね。ふみくんと灯夜ちゃんも遅刻しないでねー!」
結華は僕の予想を裏切り、一秒で視界から姿を消した。
***
「…………疲れた」
学校について机についた――のはいいのだが、やっぱりあの消耗状態で山道は辛い……。
僕は机に突っ伏して倒れこんでいる、同じようにしている生徒多数。
「よっ、ふみたんはお疲れか?」
……コイツこそ疲労でぶっ倒れてりゃ良かったのに……
目の前には我が親友、北川 一聖が仁王立ち。
ニコニコ笑うな鬱陶しい、今すぐその面消し飛ばすぞ。
「……なぁふみたん、今ちょっと怖い事考えてなかったか?」
「限りなく気のせいだ」
ふぅ、コイツは時々カンが良くて困る。
「まぁそれはそうと……ふみたん、今日は授業4時間目までだぜ!」
「へぇ」
「だからちょっと遊びに「めんどい、パス」
ちょっとかわいそうだがこっちも疲れてるんだ、遊ぶ余裕などない。
「ふ、ふみ……お前、用事が無い限りはいつも付き合ってくれるのに……。
女ね! 女が出来たのね!?」
ヒステリックな声真似すんな、てか妙に似てて余計むかつく。
あぁ……クラス中の視線が突き刺さる……。
「何やってんだあいつら」的な視線が6割、「一聖キモッ!」って視線が3割強、「わお! ネタ発見!」という結華の視線がってオイ。
「キィー! 許せない! あの女ね! 飲みに行くって言ったのも全部あの女のためなの「そろそろ黙れ」
睨んだら静かになりました、いい子いい子。
クラス中の視線が収まる。
「あははまたやってんのかあいつら」な沈黙が8割、「一聖……うわぁ……」と今後一聖との付き合い方が変わりそうな人の沈黙が1割、「イッセ君×ふみくんかぁ〜」っていう結華の沈黙がってオイ。
「まぁとりあえずイッセ、別に彼女とかじゃなくて疲れてるだけだぜ」
「ふぅん……ま、許す。とりあえず1時間目は生物だってさ、生物室行こうぜ」
なんでてめぇに許されなきゃいかんのだこのクソ野郎。
「……すっごくひどい事考えてなかったか?」
「気のせいだろ、生物室いこうぜ」
***
生物室、その扉には「危険! デンジャー! ワーニング! 許可無く入る人は生命保険に加入してNE☆」とか書いてある。
「「「「「……………………」」」」」
生徒一同、もちろん沈黙。
さらに言うとその扉の前には白衣を着た長身の男性がいた。
目を覆いそうなほど前髪が長く、ひょろっとしていてモヤシを髣髴とさせる。
「……………………」
その白衣、当然のごとく沈黙。
うわぁまじでどうしよう、とかほとんどの生徒が思っているはず。
そんな硬直状態の中、一人だけ動く人間が居た。
「あの……先生、ですか?」
北川妹だ、というかこの男と並んでも見劣りしない身長がすごい。
とまぁ、北川妹が話しかけてから一秒ほど間を置き、白衣が口を開く。
「あの……生徒、ですか?」
うっわぁ…………ウゼェ……。
「はい、生徒です。貴方は生物教師ですか?」
おぉ、さすが北川妹、大人の対応だ。
「はい、生物教師です。貴方は生徒ですか?」
ウゼエエエエエエエエェェェェェ!!
「あの……ところで、この部屋には……」
「うふふ、そうだよね、こんなオウム返しの喋り方なんて変だよね、死ぬべきだよね、アハハハハ……」
自覚してんならやめろよコイツああああぁぁぁぁぁぁウゼエエエエエェェェェェ!!
なんかツッコミたいけど係わり合いにならない方がよさそうな気がする……。
「あの……だから、この部屋は……」
「うふふ……僕は白佐賀、探偵さ」
「え……? あの、先生では……」
「ホラ見てみなよ、この青空を……。あの鳥みたいに飛べればどんなに幸せだろうか、あぁ……」
「あ、はい、そうですね。ところで貴方の素性は……」
「あぁ、この部屋の掲示なら、僕が危ないものを作ってるからだよ……うふふ、命の保障は出来ないよ」
ああああああああぁぁぁぁぁぁ! 噛みあってねえええええぇぇぇぇ!!
コイツ……ツッコミてええええええええええええええぇぇぇぇぇ!!!
とか僕が思ってると、先に一聖が動いた。
「おい白佐賀とやら! 俺らは授業を受けに来た一年一組だ! とりあえず生物教師かどうかだけでも答えろ!」
おぉ一聖、こんな時は頼もし……
「うふふ……僕は白佐賀、ここらでしがない旅館をやらせてもらっている者さ……」
やっぱり噛みあってねえええええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!!
あ、一聖がキれた。
「ああああああぁぁぁぁ!! もういい! 教室入るぞ!!」
大股でズンズン進んでいく一聖、あの妙な扉を開け放って……
「「「「「「…………」」」」」」
とりあえず、クラス一同沈黙。
「な……な……な……」
とりあえず、一聖は慄き中。
「うふふ……あの晴天を突き抜け、僕たちは今果てしない宇宙へと――」
とりあえず、白衣黙れ。
うん、ちょっと受け入れがたいから一言で説明するね。
なんか触手居る。
いやほんと! なんかウネウネした緑色の何かがテラテラ光ってるんだもん!
ちょっと扉からはみ出してるアレは思いっきりファンタジーとかの触手だよ!
「ちょ……ええええぇぇぇ!?」
一聖が逃げる!
だがそれを素早く察知した触手が行く手を阻む!
コマンド?
たたかう
まほう
どうぐ
→にげる
「ちょえいやああああああぁぁぁぁぁ!」
謎の掛け声だが速いぜ一聖!
『ギシュアアアアアアアァァァァグルアアアアアアァァァァ!』
うわぁなんか生物室の中に居るらしい本体の叫び声が聞こえる!?
「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁ!!」
あぁ! 一聖捕まった! 食われる!
「あの……先生、アレは?」
「ドリンダちゃん23号だよ。う〜ん、もうちょっと素早くした方がいいかな?」
北川妹が悠長に問いかけていた、ってかなんでこんな時だけまともにコミュニケーション取れてんだよ。
「あああああああぁぁぁぁぁ! ふ、ふみ! た、たすけっ! たすけてっ!!」
あ、一聖がずるずると引きずられていってる。
コマンド?
→ぼうかん
せいかん
みまもる
むし
「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁ……」
ドップラー効果を残しながら一聖は闇の中へ消えていく、さようなら君のことは忘れない。
「さて……では、今から授業を始めます。皆さん教科書は持ってきましたか?」
「「「「「は〜い」」」」」
ちょっと「外でやるのかよ!?」とツッコミたい気もしたが、とりあえずそんな些細な事はどうでもよくなったとさ……。
ちなみに「イッセ君×ふみくん」の×は『こちら側』用語でホモの絡みを意味します〜。
結「うふふ〜、ふみくんは受け顔だよ〜」
あぁちなみに「受け」というのは、ってあぁもう説明が面倒くさいので気になる人は周りの同人誌とか読んでそうなお友達に聞いてみてNE☆
結「そんな友達居る人少ないよ……ってか作者は男なのにどうしてそういう用語を……」
決まっているだろう、そういう知り合いが居るからだ。
さらに言うなら自分もそういう世界に染まりつつあるから小説にそういう風味が出ていないか心配なんだぞ!
結「知らないよ!」
さて、次の話も一癖も二癖もある教師が登場予定です、サブキャラですけど(笑