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学園珍事 ファミリア!  作者: ニコ
一学期
8/66

第7話:あかねいろ【後編】

魔法の名前は造語あり、英語あり、多言語もあり、つまりは適当です(笑

「主、手ぇ貸して」


茜の言葉に応じ、文一ふみひとは利き腕である左を胸の高さに差し出した。


「そういや、戦うっても具体的にどうするんだ?」


文一の問いに茜は答えず、ただニコリと笑い――そして、分解した。


「っ!」


初めは何が起こったか理解できなかった文一だが、よく見るとただばらけている訳では無く、その体は原型まどうしょに戻っているようだった。

しかし、ただ戻っているわけではない。

ページの一枚一枚が空を舞い、輪を成し円を成し管を成し、パラパラと音を立てて文一の手の平に集まる。


「おい、本!」

[違うよ、茜だよ]


文一が叫ぶと、頭の奥の方で声がした。


「あか……ね? これは、どう、なって……」


[とりあえず集中をお願い。上手く意識を合わせないと戦えない]


あくまで冷静な茜の言葉に文一は頷き、そしてページが絡まっている自分の腕を見た。


手の平に集まった何百もの紙は折り重なりあい、一つの形を成す。

全体的な形状デザインは西洋のレイピアという武器に近いものがあるが、鍔の部分が極めて特殊な形をしている。

普通ならば手を守るための部分なわけだが、それが職務を放棄したように垂直等間隔四方向に薄い直方体の「何か」が伸びていた。


「武器って……剣なんか、僕が使えるわけ……」


[使えるように、意識をつなげたんだよ。ちょっと待って、これの知識を送るから]


瞬間、文一は膝を突く。

頭に――脳に、違和感。

気持ち悪いぐらい素早く正確に文字じょうほう白紙のう記入いれられた


[うん、完了。最低限の戦闘と納得に必要な知識は書いたけど……まだ要るかな?]


頭の中に、口調こそ変わらないがやはり冷静な声が再度響いた。


「あぁ……十分、だ……。う……なんか、頭が気持ち悪い……」


[初めはそういうものだよ、まぁ慣れるほどする必要も無いと思うけど]


文一は溜息を吐き、一度木の幹に座りなおした。



                ***



一方、魔術師ローラは林道の中に入り込み


「そこですか」


既に彼らを発見していた。


鎖つきの懐中時計をジャランと鳴らし、彼女は呪文を唱え始める。


【燃やせ。望むは火球、触れるは炎熱、語るは悦楽、……】


自分が見据えた大木の裏に獲物てきがいることを確信し、秒の100分の1で言葉じゅもんを紡ぐ。


【求むは炎弾、掴むは灼炎、破壊は悦楽、……】


呪文の完成まであと一歩――その時、獲物は向こうの方から飛び出してきた。

その手に握られた剣を見て、ローラは嫌そうに顔をしかめた。


【燃やせ、……】


しかし彼我の距離は約3メートル、この距離は呪文の完成までは十分すぎる距離だった。



相手の武器が、ただの剣だというのなら。




魔力エーテル装填リロード――!」


文一は口の中で呟き、剣の鍔部分に装飾のように飛び出している「何か」に右手を添える。

すると今まで何の不思議も無かったその一本が、茜色マダーレッドの輝きに包まれた。


【燃やせ燃やせ……】

(持ち主から魔力を吸収し効果を起こす、ですか。何があるか分かりませんね)


ローラもローラで呪文の大半は唱え終わり、座標を指定する作業に移る。

獲物には何かがあると踏んではいたが、今日魔法を知ったばかりの素人に負けるつもりは無かった。


一刃ブレイド展開オン……」 


ガキン、と激鉄を打つような音が辺りに響き渡り、輝く長方形は刃の部分に倒れ込んだ。

すると魔力あかねいろは刃をも包み込むように輝きを増す。



【燃やせ!】

発射シュート!」



一瞬だけ速かったのは、ローラの方だった。

文一が剣を向けるタイムラグの内に突然現れた火球が文一を襲ったのだ。

しかし、火球が眼前に迫ろうとも逃げようともせず、むしろ真剣にそれを見据え――



撃った。



のこの剣において、長方形は「弾倉」であり、刀身は「銃身」であり、魔力は「弾丸」であり、柄は「引き金」である。

弾倉に弾丸まりょくを装填しに意思を込めれば、銃身とうしんから放たれる。


「く……っそ! やっぱそんなに上手くいかねぇか」


文一は悪態をつくが、目の前の結果はそれほど悪いものでもない。

火球まほう弾丸まりょくはぶつかり合い、食らい合い、打ち消しあった。





「そういう魔法剣ですか……なかなかいい形を登録していますね、魔道書……!」


ローラはそう呟くと、再び懐中時計を顔面にかざした。


[止めて主! あれは、魔法使いの杖みたいなものだから、次の魔法が来る!]

「言われなくても!」


頭の中に響く声に答え、文一は走る。

彼我の距離2メートル、あと少し走ればこちらの間合いだ。


【燃やせ。その翼は剛熱のかいな、その一角は灰塵かいじんの剣、……】


一歩、二歩。

敵に向かい、進む、走る、駆ける。


[主! 接近戦用で剣を起動するから魔力お願い!]


「了解、――だ!」


息を切らしながら文一は弾倉に手を添え、魔力を注ぎ込む。


(手の平の中心に力を込めるイメージ……あとは、茜が何とかしてくれる……)


頭の中で書き込まれた知識を反芻し、そして実行。


魔力装填エーテルリロード!」


すると、先ほどと同じように弾倉が茜色に輝く。


【その御足は紅蓮掴む大物、そが名は炎竜、今我にそが牙を、……】


あと、3歩。


一刃展開ブレイドオン!」


あと、二歩。

だというのに。


【貸し与え給え! 竜閃炎鎖ドラゴニカクロウズ!】


魔法は、完成した。

紅い炎、暴力的なまでに目を焼く紅蓮の帯が目の前に出現していた。





「ちっくしょ……!」


「はは……今の手持ちではこの程度が限界ですが、十分すぎるほどに十分でしょう?」


ローラの言うとおり、これはとても強力な炎だった。

紅蓮の帯は太さおよそ30センチ、長さは計り知れず、その上変則的に中空をくねり動いてローラを守るように周りを囲んでいる。

先ほどの炎弾と魔力弾のぶつかり合いの時は互いが消失した。

そしてこの状況、幾重にも重なる炎の帯を魔力弾は抜ける事も打ち倒す事もできず、ふみひとも然りである。


だが――


「仕方ない……正直怖いんだが、奥の手を使わせてもらう」

[接近戦モードだね、必要な時に呪文をお願い]


文一には、まだ戦う術があった。


「さっきまでなら……許してもあげましたけどね。もう、謝っても駄目ですよ。腹が立ちましたから」


すっ、とローラが懐中時計を正面に構えると炎の帯はその手が指す方へ向かった。

すなわち、文一の方へ。


「あー、熱そうだな……嫌だなぁ……冬といってもあれは熱いぜ?」


文一は、しかし自らも炎に向かって走る。

あと二歩の距離を迂回し、炎を避けながら進む。


[我慢して、主。――っと危ないっ!]


やはりというべきか、人の身では限界があった。

目の前の空間が体の大きさ以下に引き絞られ、後方側面上空低空全てを炎に包まれる。


「魔道書だけ残して――え去りなさい!」


炎の幅が縮まり、狭まり、文一を焼き尽くそうと絞めあげようと蠢いている。

数千度の炎が大地をあぶり、木の葉を灰とし、文一に向かう。

しかしそれでも、文一は暑そうに立ち尽くすだけだ。


「あっつー……ねぇこれ失敗しない? これ失敗したら確実に燃えそうなんだけど……」


[大丈夫だよ、熱いと思う前に消し炭になるから]


茜の実もふたもない言葉に嘆息し、そして柄を両手できっちりと握る。


「じゃあ――頼んだぞ、相棒」

[任せて、そっちが失敗しないかぎり最善の結果をお届けするよ]


腕に力を込め、肩口まで剣を持ち上げ――


「頼むから…………ぶち抜け!」


振り下ろしながら、呪文を叫んだ。



斬撃スラッシュ!」



茜色マダーレッドの閃光が、林の中を駆け抜けた。

剣から魔力が刀身を補うように伸び、長く強力な炎の帯すらをも断ち切る。


「なんというか……強力だな……」

[ま、射程は一メートルちょっとだけどね〜]


炎の帯は一部が欠けると全てが消える仕組みのようで、辺りには焦げた葉しかない。





「そ……そんな……竜閃炎鎖ドラゴニカクロウズはそれなりに強力な呪文で……私が準備無しで使える中では最強で……」


ローラはうろたえた様子で首をめぐらせた。


「ふぅ……まだやるか?」


「…………姉さまに言いつけてやるううううぅぅぅぅぅぅ!」


ローラは背中を向けて、走って逃げた。


[いいの? 捕まえたら情報入るかもだよ?]


「いいんだよ……別にアイツの事知ったって、別に倒したかねーし。次に偉いやつ来たら話し合ってみる」


文一は溜息をつき、地面に座り込んだ。


[でもね、返したらこっちの情報も入るし不利だよ?]


「じゃあずっとお屋敷に繋いでおくのか? 大体お嬢様になんて説明するんだよ?」


[うぅん、そんなこと言ってるんじゃないよ?]


茜の言葉に、文一は疑問符を浮かべるように首をかしげた。

それに答え、茜は頭の中でこう呟く。



[だからね――殺しとけば良かったって]



茜の言葉に、文一は再び溜息をつく。

しかし今度の溜息は「疲れた」ではなく「呆れた」の意思表示だった。


「はぁ……茜、今晩何が食べたい?」


[話を逸らさないで、主。戦力的には十分可能だし、あんな危機的状況に倫理観なんて持ち出さないでよね]


「あのなぁ……僕がそんなに良い人だと思うのかよ?」


[主は善人面してるよ? カモられやすそう]


「黙れ」


文一は立ち上がって剣を放り投げる。

剣は空中でページにほどけて、少女の形へ戻った。


「じゃあさ、どうして主は殺さなかったの?」


「殺す度胸が無かったから。人を殺してまともに生きていく自信が無かったから」


「だから、道徳観なんて……」


「違う。そんな周りからの評価じゃない。

 自分自身が、人を殺す重みに耐えられないから。

 その人間の人生を奪った罪悪感に耐え抜く自信が無いから。

 人を殺して自殺したりイカれたりするよりは、殺さない方がマシだ。

 単純に、損得計算の話でだぜ?」


文一の言葉に茜は一瞬驚いたような顔をし、そして文一と同じような呆れ顔になった。


「主は……無駄に良い人だね」


「うっさい、無駄とか言うな」


茜は、嬉しそうに笑った。

文一は、苦笑混じりに笑った。




「主、ハンバーグって作れる?」


「それはまた手のかかる……。まぁいっか、商店街寄って帰るから先帰っとけ」


「うん、了解だよ」


そして二人は、日常へ戻った。





 ふひー、シリアスは疲れる〜。

文「ご苦労さん、ってか文章がまとまってないな……」

 文句言わないの、この子は!

文「そんな幼稚園の先生みたいな怒り方されても……」

 三人称が難しかったのもあるけど、色々と文法を試したからね。(紙を渡す)

文「なになに……ルビの振り方……簡潔に表現しない……短くまとめる……なるほど、だからグダグダなのか」

 グダグダとかいうな! これでも頑張ってんだぞ!


文「では、次回からコメディに戻るファミリアをどうぞよろしくお願いします」

 あれ……振り返ると受験中なのに普通に執筆してたような気が……

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