第6話:あかねいろ【前編】
前話で長い事かかるといっておいて二日で更新ですぜ!
……評価・感想を頂くとやる気が出てちょっとした時間でも「よっしゃー書くかー!」って気分になるのです。
で、今回はいきなりシリアスな上に文体も固くなっております。
一応、テーマが「なんでもあり」なのでいいかな〜と思いましたが、肌に合わない人はかる〜く読み流してやってください(笑)
夢を、見ている。
まだ幸せだった頃、まだ母親がいた頃、父親がいた頃。
あの頃は母親が常人離れした能力と性格を持っているとは知らなかったし、父親の実家が恐ろしい所だというのも知らなかったし、妹も全然普通の人間だったように思う。
それでも、崩れた。
父は事故死、母は妹を連れて家を空け、僕は親戚に預けられる事になった。
初めて母の事を調べた、名前も身元も嘘だという事が分かった。
初めて父の実家を訪ねた、優しかった父とは逆に、そこには負の感情しかなかった。
だから、逃げた。
逃げた先には少女が居た。笑っているのに不安げで悲しそうで、壊れそうな自分よりもよっぽど危うく見えた。
そして僕はその少女から、居場所をもらった――。
***
夢を、見ていた。
文一はそう自覚する事で、自分の目覚めを知った。
「…………どうして学校で……あぁ、そうか……」
昨日はあの魔道書のせいで就寝が遅くなった事を思い出す。
文一の弱点の一つは睡眠時間の長さであり、11時には寝ないと次の日ぶっ倒れるのだ。
その文一の顔を、覗きこむ少女が一人。
「あ、起きたかな」
一瞬、頭の中であの日の少女と、目の前の少女が像を結ぶ。
が、違った。
(似てるのは身長ぐらいだろ、しかも当時の。僕のバーカ)
目の前に在るのは例の魔道書。あの日の彼女――小鳥遊 灯夜とは違った。
「もう大丈夫かな? HR終わったと思ったら寝てるから、びっくりしたよ〜」
本当に人間と同じ顔で、魔道書は困った風に笑う。
「じゃあ次からはもっと早く寝させてくれ。……お嬢様は一人で帰ったのか?」
「んーん、おっきい女の子と一緒」
「北川妹か、なら安心だな」
文一は小鳥遊が初めての道で迷わないかと心配したのだが、どうやら杞憂に終わったようだ。
一度大きくあくびをし、文一は魔道所に語りかけた。
「帰るか。晩飯は好きなの作ってやるよ」
「わっ、やった!」
***
そして二人は下校する。
「でもさ……どうしてこんな不便な所に学校があるのかな?」
「学校の地区――僕ら地元民は学区って呼んでるけど、その土地の提供者がここら一帯の山を持つ大地主、黒椿峰って神社の人だったんだよ」
「へぇ、じゃあ他の所も色んな人たちが?」
「あぁ。町自体が商店街になってる志乃崎町の出資者は不明だけどさ、工場とか研究所とか理系大学とか一杯ある如月町は様々な分野の権威、如月博士の投資で出来た町」
文一は、魔道書に町の説明をしながら歩いていた。
魔道書にも世間の一般常識は記されているらしいが、何しろ50年も前のものだ。この町はほんの20年ほど前に出来たので、これは知る由も無い。
「そんであともう一個、僕らの住んでる小鳥遊町は旦那様――お嬢様のお父さんが土地を買って作った町だ」
その言葉に、魔道書は目を輝かせる。
「へ〜、へ〜! 灯夜って偉い人なんだね!」
「そう思ってんなら呼び捨てはやめとけよ」
文一は苦笑した。
時間は、穏やかに流れる。
しかし、その流れを砕くものが一人。
文一たちが往く道の先に、黒いローブをまとった人物が立っていた。
背は魔道書と同じ程度だろうか、少しだけ覗いた口元から女性である事が分かる。
それを見て、文一は溜息をついた。
「おいおい……今日はつくづく小さい女に縁のある日だな。コスプレ?」
少女であろう黒ローブは答えず、ただ立ち尽くしている。
少し首を傾げるも、文一はその横を通り過ぎようとした。
「すみません」
横から声が聞こえる。
それが黒ローブの言葉だと文一が理解した時、次の言葉が紡がれた。
「魔道書を渡してください」
黒ローブが目深にかぶったフードを脱ぎ露にした顔は金髪碧眼で白人のようだったが、どうやら日本語を問題なく使える程度には日本に馴染んでいるようだ。
いや――問題はそんな所ではない。
どうして中学生程度にしか見えないこの少女が、これのことを知っている?
「どういうことだ?」
飾りっ気の無い台詞に対し、黒ローブも無駄なく一瞬で答えた。
「お前には必要が無いから渡せ、とローラは言っているのです」
さらに質問を重ねる。
「……どうして魔道書を知っている? それ以前にお前はなんなんだ?」
「そんなご冗談を。事前情報も無しに魔道書を知っている人間なんて」
シャラン、と包丁を研ぐような音がしてローブが舞い上がり――少女の手に握られていたのは、六芒星が彫られた懐中時計。
「魔術師ぐらいしか、居ないですよ」
一瞬だったかもしれないし、一分ぐらいは経っていたのかもしれない。
とにかく文一は呆然としていた、例えその一端に触れていても魔術師などと簡単に信じきれるものではない。
少女が早口言葉のような速度で何かを呟いている。
次の瞬間、目の前には燃え盛る火炎が現れていた。
本当に、前触れも無く火元も無く現実感も無く。
魅入られるような赤い炎が、目の前に現れていた。
「あ……」
理解が、出来なかった。
目の前にいきなり炎が一体どうしてどういう方法でどういう理論でどういう関係で炎は出でたいやそれよりもこれは本当に魔術師とやらの仕業か自然現象ではないのかしかしいきなりこんな大規模な炎が――
「主!」
故に、魔道書が飛びつくようにして押し倒さなければ文一はここで焼けていただろう。
実感が湧かない、自分がこうされなければいけない理由が分からない。
「あ……避けられちゃいましたー」
懐中時計を握った少女が、ただ楽しそうに呟いた。
文一の滑稽を笑うでもなく、獲物を驚愕させた愉悦でもなく、ただ愛想笑いのようにさりげない、それこそ世間話でもするときのような口調で。
「魔術師……一般人を狙うなんて、品位が落ちちゃったのかな?」
口調こそ変わらないが、魔道書は怒気を孕んだ声で黒ローブに語りかける。
「あう、ローラにはローラという名前があるんだからローラと呼んでほしいです」
しかしとぼけたように、少女は答えない。
「は……? まじゅ……つし?」
そこに一人、状況を飲み込めていない一般人の声が混じる。
「そうですよ、魔術結社というやつです。素直に魔道書を渡すなら良し、渡さないなら――」
懐中時計をちらりと動かしながら
「焼死いただきます」
少女は言った。
「と、いうわけだよ」
少女の言葉の後を引き継ぐように、魔道書が口を開く。
「魔道書は色々と便利だからね、魔術師とか魔法使いとかそんな人たちは私を狙う。
ごめんね主……もうちょっとで殺しちゃう所だったよ」
ニコリと笑って、魔道書は文一の手を握る。
文一は、まだ状況を理解していなかった。
「私が著された時代とは違うのかって、期待してた。もう、魔術なんて無くなってるんじゃないかって、期待してた……」
握った手に力が込められる。
「私……行かなきゃ。元々私は此処に居るための物じゃないんだよ」
「……転校、してきただろ」
「ごめんね」
文一が問うと、魔道書は答える。
「……晩飯、何が食べたい?」
「ごめんね」
文一が問うと、魔道書は答える。
「……契約って、そんな簡単なもんなのかよ」
「ごめんね」
文一が問うと、魔道書は答える。
文一はまだ理解できない、魔術師なんかより、魔道書が言っている事が理解できない。
「わがままばっかりで、迷惑かけて、それですぐにお別れで……ごめんね」
「おい……」
まだ理解できなかった、話が唐突過ぎる。
「話は済みました? だったらさっさとこっちにきやがれ、とローラは言いますよ?」
いつもならその独特な喋りにツッコんでいる所だが、文一のその余裕は無い。
「うん。一つ聞いておきたいんだけど、あなた達って別に悪者じゃないよね?」
「単純な悪の結社なんていまの世の中そう無いです。悪い事もする、と言っておきましょう」
その二人の会話に割り込むように、文一は声を荒げる。
「おい、待てよ!」
「あぁすみません、一般人。大変申し訳ありませんが物盗りにあったと思ってください。
実質、あなたは魔道書を無料で手に入れたんでしょう? 儲けもんです」
「な…………」
「その人の言うとおりだよ。私はあなたの物だったんだから……不良にカツアゲされてはい終了、っていうことだよ」
魔道書は握っていた手を離し、ニコリと笑う。そうしなければいられないとでも言うように。
どこか、小鳥遊灯夜に似ていた。
何か諦めるというのに、笑うのだ。
本当は辛いはずなのに、笑うのだ。
そうすれば幸せでいられると信じているように、そうしなければ幸せでいられないと思っているように。
バカ野郎
「……さようなら」
魔道書は立ち去ろうとする。
しかし文一は――その手を、掴んだ。
「…………え? あの……私が素直に行かないと、あなたは魔術師と「関係ない」
そうだ、魔術なんてものもこの状況も全然理解できない、理解しようと考えても不可能だ。
なら、考えるのはここで終了。
今からは、やりたいことをやらせてもらう。
「あの……とっととよこせ死にたいのかテメェ、とローラは忠告してみますが」
「黙れ。喋り方変なんだよテメェ」
文一の言葉と共に、少女の瞳がスッと細くなる。
文一は、魔道書の手をしっかりと握りなおす。
「今よりあなたを獲物とみなします。降伏の意思を見せない限り5秒後に燃しますが、よろしいですか?」
「本、逃げるぞ」
文一は、脇の山道目掛けて走り出した。
***
「無茶だね」
「嫌か?」
「んーん、この50年の中で、一番嬉しい」
現在、文一と魔道書は山林の中に隠れていた。
視界が悪い上に入り組んでいるこの場所は隠れ場所としては最適だったが。それにも限界がある。
さて、どうしよう――と、文一は考えを巡らせ始めた。
「……私を書いた人はね、私が自我を持つなんて考えて無かったの」
黙って座っている文一の横、独白するように魔道書は呟く。
「自分はそんな物書けるほど優秀な人間じゃないって、そう思いながら書いたのに。戦いの道具として書いたはずなのに、誰かの武器として書いたはずなのに、私が出来たんだって」
横を向いて、魔道書は自分の主の顔を確認する。
「娘が出来たみたいだって、著者の人は喜んだよ? でもね、私は結局戦うための本で、誰かのための武器だった……感情があっても、自我があっても、それは変わらない」
魔道書は立ち上がり、主の前に座った。
「だからね、著者は私を知り合いの倉庫にもぐりこませたんだよ。
いつか――いつか、いい人に巡りあえますように、って」
ニコリと笑って、魔道書は主の手を取り立ち上がる。
「名前を下さい。それで、この契約は本当のものとなります」
魔道書の言葉に、文一は首をかしげた。
「本当の契約って……今まで、ちゃんと契約して無かったって事?」
「うん、あれは途中。名前をくれれば、私と貴方で魔術師に対抗できる。……でもね、魔術師は戦える人間に容赦はしないよ? 今なら主だけで逃げる事が出来るよ?」
魔道書の言葉に、文一は半ば微笑みながら言葉を返す。
「本気で危なくなったら逃げさせてもらうとしようかな。……そんじゃ、名前は茜で」
「あかね……」
「髪の色が綺麗な夕暮れ色だからな。僕的率直ネーミングセンスだ」
魔道書の――茜の顔が、本当に嬉しそうにほころんだ。
「うん、茜。私は、茜」
茜は、本当に嬉しそうに繰り返した。
一聖(以下一)「あ、来るとこ間違えました〜」
え!? いやここでいいんだよ!?
聖「だって……前回と書き方が何もかも違いすぎます……」
こういう三人称ばっかり書いてたのが始めたばかりの僕なんだよ、最近は一人称ばっかりだったから勘が鈍ってそうだけど……
一「つまり、なんでもありだからこの機会に三人称も使えるようになろうと」
テへ☆
両方「「キモい」」
次からもシリアスは三人称、ギャグは一人称と使い分けるようにします。というか、こんな極端に書き方が変わるのも少ないでしょうね……。
一「まぁこんな変な文章ですが」
聖「これからもファミリアを」
よろしくお願いしまーす。