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学園珍事 ファミリア!  作者: ニコ
二学期
66/66

第60話:その日、そこで起きたこと(前編)

更新ペースがやばいです

 世界は人に優しくない。流れる時は全てを劣化し、流れる時勢はダース単位で人を殺す。

 流れは人に優しくない。それは蝕むもの、それは削るもの、それは穿つもの、それは――迷わせるもの。

 だから僕は、こう言おう。


「人の流れではぐれた……!」


 ……オーケー、分かってる。シリアス連発な時にこんな始まりをしてはいけないのは分かってる。でも、個人的には絶望なんだ……!

 周りを見ると、人、人、人。老若男女だけとは言わず、黒人白人黄色人種、もしかしたら人間以外も結構混じってるかもしれない。まぁ、街の外の人間が多いから正体は現さないだろうけど。

 そんな状況でこの僕――湖織と決別して格好良く孤独発言してみた天詩 文一は、大絶賛迷子中だった、確かに一人ぼっちだった。仕方ないじゃん、如月町ここに来るの初めてだもん!

 

「……何してんだ、ふみたん」


 あ、そういや最近「ふみ」とか言われてフルであだ名呼ばれたの久しぶりだなーとか思いながら振り返ると、そこに居たのは一聖だった。同じクラスの田中とか、ウマコさんとか、澄々とかも後ろに居る。


「おー、助かった。いやね、迷子迷子。この祭に来るの、初めてだからさ」


「この歳になってまで情けないな、お前」


 だから、初めてなの! 大体、学生なら黒椿峰町は当たり前で志乃崎町は買い物に便利、小鳥遊には居住していると他三つによく行く理由があっても、ここは普通来ねーじゃん。将来、執事辞めて工場とかに就職したら話は別だけど。

 ……まぁ、そんな時期までこの街にいるとも限らないんだけどな。


「イッセはウマコさん達とか。なんか、予想通りだな」


「大体、同じクラスの奴等と来るのが普通だろうが……そういうお前は?」


「残念ながら普通じゃないんだなぁ僕は。花見の時に一緒になった人達居るじゃん、あの人たちの中の下二人と茜……それと、葉月だな。同じクラスの葉月春日」


 一聖からしてみれば驚きのラインナップだろう、大体メグちゃん達とはほとんど面識ないし。とりあえず、春日と打ち合わせて決めた予定通り、「社会勉強の為にお屋敷以外でバイトしたらあの人たちの会社だった、葉月も丁度同じバイトをしていた」と説明する。実際、表向きは会社なのでこれが一番都合の良い嘘だろう。

 その説明で一聖以下四名は納得してくれたようだ。良かった、これを追求されるとちょっと厄介だもんな……最悪、春日と付き合ってるだとかそういう噂を流されて、お嬢様激怒な事になりかねない。本当、あの人は独占欲強いもんなぁ、大人しくオモチャになってた僕が悪いんだけどさ。


「とりあえずふみ、合流すっか。途中で葉月見つけたら分かれりゃいいし」


「ん、そうする」


 一聖の提案をありがたく受け入れ、魔術結社組が心配ながらも、僕は祭に出向くことにするのだった。

 ……特に面白そうだとか、そういう事は思わないけど。



                     ***



 世界は人に優しくない。流れる時は全てを劣化し、流れる時勢はダース単位で人を殺す。

 流れは人に優しくない。それは蝕むもの、それは削るもの、それは穿つもの、それは――迷わせるもの。

 だから僕は、こう言おう。


「人の流れで輪末がはぐれた……!」


「普段から気を抜きすぎてるからこうなるんだ、あいつめ」


 そこはかとなく二度ネタ臭がするが、とりあえずはぐれた。輪末や園城達と来たんだが、一人が勝手にはぐれやがった。


「可及的速やかに係員の届け出る事を推奨する」


「う……でもね、愛さん、アイツも高校生だからメンツぐらいあるんじゃないかと……」


 いくらなんでも、高校生が普通に迷子は恥ずかしいだろう。うん、恥ずかしい。同級生で他に迷子になった奴が居れば、僕はそいつを嘲笑する。

 周りを見ると人だらけ、輪末は身長ちっちゃい方だからなかなか見つかりそうにない。さて、どうするか。


「とりあえず電話だな、メールでもいいが」


 溜め息をつきながらの園城の弁。


「お、忘れてた……って、僕は無理だね。仕事用のは家に置いてきてあるし」


「何だ、普通の方に輪末の番号を入れていないのか? 確か、俺のは入っていた筈だが」


「あんまり結華と仲良くない女の子の番号入れてるとね、凄い勘ぐられるんだ……携帯、普通に見られるし」


 エロい画像なんかには寛大な結華だが、そっちには厳しいのだ。あんまり使わないのに仕事用をきちんと分ける必要があるのは、メールまで見られるからだし。

 園城は自分で電話する事にしたようで、ポケットに手を突っ込み――そして、ふと前を見て動きを止める。


「噂をすればなんとやら。桜樹だぞ、煉斗」


 そしてその視線を追うと、そこには結華がいた。彼女も彼女でかなり小さいのだが、輪末とは重要度が別格なのですぐに目に入る。それにしても、園城は目がいいな。

 手を振ろうとしたが、その前に結華は気付いたようで小走りでこちらに駆け寄ってきた。


「煉斗くん! 来るなら私に言ってよ、もう! 絶対、こんな人ごみには来ないと思ってたのに」


「ごめんごめん――って、あれ? 小鳥遊さんは一緒じゃないの?」


「ドタキャン。灯夜ちゃんも酷いよねぇ、そりゃ行方不明だった妹さんが見つかったんだから可愛がるのも分かるけどさぁ」


 なるほど、結華が一人なのはそういうわけか。どうせこっちで色んな人と合流しようと思ってたんだろうけど、初っ端から一人というのは……。よし、そうえいば最近結華と出かけてなかったし丁度いい。デートとはいかないけれど、久しぶりに一緒に歩こう。

 と、思った途端だった。結華が急にジト目になり、僕のすぐ後ろを睨む。


「ところでさぁ」


 ……嗚呼、失念していた。後ろにいるのは。僕の真後ろにいるのは。


「その子、誰?」


 愛さんだった。

 ヤッベェ! 同級生のアドレスだけでちょいと怒るのに、まったく知らない女の子と歩いていたと知れたら! 根掘り葉掘り聞かれて、色々隠せなくなる! 裏家業の事から同居の事まで、オールレンジで!

 

「私は、煉斗の所有「僕の義母さんの所有地に住んでるんだッ!」


 多少苦しかったが、何とかごまかす。ついでに愛さんに肘で合図をしたが、絶対意味わかってねぇ。


「ふぅん、そういや煉斗くんのお母さんって志乃崎の重役だっけ。どういうご関係?」


「この身は全て煉斗のために「僕にためになることを教えてくれている、進学校の生徒! 親戚である義母さんに頼ってこの町に移住してきた人!」


 咄嗟に言い訳しまくる。うん、実際頭はいいし(辞典丸覚え、ただし活用は下手っぽい)なんとかなるだろ! いざとなったら、ミセスに頼んでマジで通わせる!


「む、煉斗。つまり私は従妹というキャラであり、貴方の事はお兄ちゃんと呼ぶべきか」


 愛さんに余計な知識を教えてしまった事を、今一番後悔する!

 案の定、愛さんの発言で結華はさらに疑惑を深めてしまった。爆発一歩手前、そろそろ爆発物処理班も恐れをなして逃げ帰る頃である。その、逆に優しい笑みがとても怖い。結華は笑顔で怒るから怖いのだ。

 そして僕が「あー、蹴り一発で済むかな……一谷の風香ちゃん以来、こういう運がないな」と全力で諦めていた所、間に園城が割り込んだ。


「――と、そういう設定で遊んでいたわけだ。こいつは俺のバイト先での知り合いでな、煉斗に関係は無いから安心してくれ」


 頼りになる! 何だか知らないけど、今日の園城は頼りになる!


「なぁ、愛。“煉斗の人間関係”にお前は関係ないよな」


「是。私は彼の人間関係には関与していない」


 なるほど、愛さんは自分を人間に含んでいないからね。物は言いよう、園城なんか知らないけど役に立つ!

 結華も深く考えない性格なので、これで誤魔化せただろう。手ぇ叩いて納得顔で、愛さんに挨拶してるし。

 その間に僕は園城とアイコンタクト。


『僕は結華と遊ぶから、愛さんは頼んだ』


『名残惜しいが仕方ない、任せろ』


 おぉ……いつもみたいにごねない。「むしろ俺と二人っきりはどうだ?」とかボケたこと言わない。なんで? なんで今日の園城はこんなに役に立つの?

 とりあえず、成功は成功だ。丁度二人の挨拶も終わったようなので、僕は結華の手をとろうと


「ねぇ、煉斗くん」


 ――とろうとして、出鼻を挫かれた。僕の方へと向き直った結華は、再び般若の笑顔を浮かべている。

 何か悪いことしたっけ? いいやしてないはずだ! 今回こそ、結華の機嫌を損ねていない筈だ!


「今思い出したんだけど、園城君のお仕事ってなんだっけ?」


 ぶつけられた質問は予想外、園城の事についてだった。はて、園城といえばホストクラブだったか何だかの清掃員だったはずだが、どうしてそれで怒るんだろう。

 思った瞬間、思考が直結。園城の言い訳→愛さんは園城の仕事の知り合い=歓楽街のお店に所属。


「ねぇ煉斗くん、未成年売春が許されるのはゲームとアニメと漫画だけだからねっ!」


 発想が飛躍してるよ結華、と間違いを指摘する勇気すらなかった。満面の笑みを浮かべた彼女の顔に、「撲殺確定」と書かれているのが透けて見えた。



                ***



「ん? なんか悲鳴が聞こえなかったか?」


「気のせいだろ。こんな人ごみで、ピンポイントに悲鳴が聞こえるわけねぇって」


 一聖と向かい合って席に座っていた所、何故か悲鳴が聞こえたような気がした。気のせいだとは思うんだけど、何だか断末魔みたいな叫びだったのでちょっと恐怖。

 現在地、第二研究所のホール。元々広い部屋を今日のために改装しているらしく、今は喫茶店として機能している。もちろんそれだけでは晩餐祭のメインである「研究成果を見せること」が出来ないので、一角には大きな舞台と、さらにスクリーンが用意されていた。学校の体育館に喫茶店のテーブルを並べたらこのような形になるだろうか、大きさもそれぐらいだし。


「しかし……なぁ、ふみ」


 力なく微笑みかけながら、一聖は僕の名前を呼んだ。僕も答えるように「なぁ」と続ける。


「「まさかさらにはぐれるなんて……」」


 いや、決して僕達がはぐれるという情けない事態ではない。一聖はこういう面ではしっかりしてるし、僕はその一聖にずっとついていたのだ。

 悪いのは、世界大戦の様子をCGで限りなくリアルに再現したブースで「おのれ、我等が独立の夢を阻む愚か者どもめ! それでも自由を語る国か!」などと、どことも知れぬ国の兵士にトリップしちゃった澄々だ。結局ウマコさんが澄々に付き添うことになり(一人にすると何やらかすか分からん)、一聖と離れた腹いせにか田中までも道連れにされた。

 で、ティータイムである。片方が迷子になった時は片方は動かずにいる方がいい、という一聖の提案によりこうして連絡を待っているのだった。

 現在モニターに映っているのはコマーシャル、格闘ゲームの映像である。「死神録 Battle Symphony」というシリーズ物だ。一世代古いものは特進市内のゲーセンで、そこそこ人気を博している。

 僕が使っているのは、アーケードのシナリオでは主人公ポジションの「KAZUYA」というハーフ死神のキャラ。鎌を持ってはいるが大体が素手の攻撃と氣を使った牽制で、こういうシンプルなのは使いやすい。そういえば今のCMの奴では魔力挿入モードっていうのが実装されるらしいけど、どうなるんだろう……?


「主、それ以上は色々と駄目なんだよ!」


 あ、いつの間にか茜が隣に。一聖は気付いていたようで、驚きもせずにコーヒーを啜っている。


「合流出来てよかった……と、それはそうと、人の心読んでまで何で止めるんだ?」


「と、とにかく駄目だって大宇宙の意思が!」


 ウチの子が電波系に……いくら何でも、そのキャラはどうかと思うぞ茜。

 まぁ、とりあえずお楽しみはまた今度に取っておこう。PWPプレイワールドポータブル版なら一聖や煉斗も持ってるから対戦できるし。

 テーブルの上に財布から取り出した硬貨を数枚置き、立ち上がる。


「よし、とりあえず茜と合流できたことだし、ここで解散って事で」


「ん、あぁ。もうちょっとゆっくりしてきゃいいのに」


 一聖は不思議そうに引き止めるが、これは仕方ない。魔術結社の二人と早く合流しなくてはいけない。

 それに……なんだか嫌な予感がする。胸の奥が――いや違う、分かれた心の一つが叫んでいる気がする。あぁそうだ、ヨモギはそんな事言わないから、目覚め始めてるんだな……天詩文一が幸せに生き残る為の保険、その残りが。


「じゃーな、イッセ」


「おーよ、ふみたん」


 さぁ頑張ろう、全てを利用して生き残る為に。



               ***



 楽な仕事のはずだった。ただ少しばかり人が多いのに辟易するだけで、業務内容自体は簡単だ。

 不審な存在を消す彼らにとって――小鳥遊の兵と如月の技術のハイブリット部隊、街の憲兵とも呼べる彼らにとっては穏やかとすら言えた。ただドサクサに紛れて侵入する小物を始末するだけだったのに。


「ああ、あぁぁ、あ――!」


 悲鳴を上げながら、一人の男が駆けずり回る。ここは普段から裏口として使われる場所の付近であり、一目にはつかない。だからこそ、彼はここにいる。ここの見張りとして、ここにいた。


「誰かっ、誰か――! 返事を、してくれ!」


 無線に向かって叫ぶも、答える声はなく。酒を酌み交わした事もある仲間達の顔が浮かんでは消えていく。

 彼が見たのは、まさしく化物だった。特殊な装甲をまとい、また熟練した達人であり、異能である魔法の使い手である彼らを一撃で――ただ、手の平を押し当てただけで殺した。死んだ。アレは死んでいた。

 

「は――っ、あぁ……」


 だから、後ろにばかり気がいっていたのだろう。

 いつの間にか目の前に居たのは、スーツ姿の男だった。尖った美貌の、邪悪な理性の、そんな男。人を虫けらとすら思わず、作業で殺していけそうな視線。


「ざぁんねん、こっちも仕事だからな……ま、運がなかったと思ってくれて結構」


 楽しむでも、悲しむでもなく、ただ作業として――男は、懐から拳銃を取り出した。


個人結界ローカルルール、適用――」


 だからその日の如月町に、通常の警備網は存在しなくなった





「オレと死神?!」も読んでいる人ならクスリとできる要素だったらいいなぁと思いながら仕込んだネタが一つ

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