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学園珍事 ファミリア!  作者: ニコ
二学期
65/66

第59話:晩餐祭開催、その日

すみませんと言うしかない。

……なんだか最近、迷走中です。

 少年は竜を掴み取った。それはとても危険なことだ。分かっているのか、あの少年は。


「おーい桃子さん、おかわりー!」


「あ、俺も」


「私もお願いしますー」


「へ、へえぁ!? そんな一気に言われてもぉ!」


 ファフニールの権限を手に入れた少年、北川 一聖は呑気にも茶碗を差し出している。まぁ、それはここの住人達の流儀と言えば流儀なのだろうが。係をしている紅白衣装の女性は、四方八方から突きつけられる茶碗に目を白黒させていた、これもいつもの事だ、当番は代わるが。


「隊長もおかわりしねぇの?」


 ふいに、茶碗を片手に箸を片手に、両手が塞がったまま一聖は警戒の様子もない快活な表情でこちらを向く。同じ客人だからか席が隣なので簡単に話が出来る。


「いや、お前は毎朝動いていて腹も減るだろうが、俺はただの居候だ」


「ま、確かにゴロゴロしてるだけだもんな。退屈じゃねぇの?」


 確かに退屈と言われればそうかもしれないが、ここは違う惑星だ。話の合う友人が居る訳でも、愛を語る相手が居る訳でもない。あまりに和やかで忘れてしまいそうだが、今の自分は非常事態の真っ只中である事は確かな事実だ。

 ここ、黒椿峰という自治組織を自称する集団に保護してもらってからしばらく経つ。その間、一聖も修行の為に泊り込みズルズルと今まで同じ生活を続けてきているが、まったく何もしていないわけでは無い。黒椿峰の上層部が如月機関とかいう組織に宇宙船の事を掛け合ってくれているそうだ。


「はい、並んで下さ……そこの鎌鼬、上からの割り込みは禁止! 首長女の人も首だけ先に進んでも順番は変わらない! ぬらりひょんさんも気配消して割り込もうとして……あうぅ、な、なんで皆おお食らいなの……?」


 その“上層部”というのが、しゃもじ片手にオロオロしているあの女性だと言うのが心配だが。黒椿峰というのはどうも組織としては危うげだ、トップであると言う四人は驚くほどに若い上、処理や情報、交渉などにさほど明るいとは思えない。そもそも、どうして四人が組織の

トップなのか、謎だ。


「んじゃ、隊長、俺達は祭に出るけどお前らはどうするんだ?」


 どうもこうもない。もし公の場に軽々と出て行けば、宇宙人が何だという以前に身元の問題でややこしい事態になりかねない。この惑星、この地域の環境にも大分慣れてきたが、かといって簡単に動き回って良いという訳では無い。

 軽く息を吐き、肩を竦める。一聖は「そっか」とだけ言い、茶碗の米を勢い良くかき込む。

 そろそろ本題に入らなければいけない。中々言い出せなかったが、一聖はそろそろ家に帰るそうなのでこの機会を逃すといつになるか分からない。


「なぁ、イッセイ」


 一聖はただ、米粒を口の端につけながら首を傾げる。平和そうな顔だ。

 きっと、この前の戦いも「殴り合い」であり「殺し合い」だとは感じていないのだろう。それはそうかもしれない、相手も恐らく素人だったのだから。だが、もしこの先も戦い続けるとなればそうはいかないだろう。

 金の為に短い命を懸ける者。無意味に無闇にただ殺し合いを楽しむ者。大志や妄執に身を任せる者。そして俺のような、掲げられた信念と理念を重んずる者。本来、強制されずに戦う人間とは何かが外れているか、何かにはまりすぎている場合が多い。

 違う価値観に出会い続けることで、きっと彼の「正義」は変質していく。その方向性によっては、危うい。とても危うい。

 北川 一聖は似すぎている。


「最近、変わったことは無いか……ファフニールに関連したことで、だ」


 ふと、箸を止める。やはり何か思い当たる事があるのだろう、少しだけ目を閉じ、茶碗を柔らかな手つきで置く。


「聞こえるんだ」


 呟くような声、まだ人に話せるほど整理できていないと感じ取れる声音。


「激しい水と風の音にノイズ入れたみたいな、音。多分、竜の――ファフニールの声。使ってない時でも、ってかあの一回以外使ってないんだけど、それでも聞こえた」


 やはり、思っていた通りの事態になった。以前の事は知らないが、今の一聖は似過ぎている。

 ファフニール・アクトというあの力、使っていたのは一聖だけではない。システム・ニーベルングの救世神話の時代から、幾度となく外的相手に使われてきた。決して内側の内乱には使われなかったが。

 だから分かる。何故だか知らないが、一聖は過去の使い手達と比べても驚くほど適応している。地球人ではなく母星人なら、きっと彼は歴代最強の戦士になれただろう。

 しかし、だからこそ。


「声は聞こえるか? 人の声だ」


「え、いや、それはない……けど」


 まだそこまでは達していないようだが、時間の問題だろう。様々なモノに触れ自分を否定し新しくなっていく事――人として当たり前の過程の中で、一聖は損なわれていく。新しい自分を構築する中で、埋没していく。


「そうか……すまない。妙な事を聞いてしまった」


 だが、それもいいだろう。そうならない可能性もあるし、なったとしてもそれまでだったということだ。

 それに、きっとそうなったとしても、一聖自身としては望んだ状況だろうから。


「いや、別にいいけど……なんかマズイのか? 俺、今から祭りに待ち合わせしてんだけど、行かないで閉じこもってた方がいいとか?」


「大丈夫だ、何も問題は無い。こっちの話だ」


「ふーん……まぁ、危険とかじゃなかったらいいんだけどよ。皆ぁ巻き込むわけにはいかないし」


 声が聞こえていないなら――いや、例え聞こえていても大丈夫だ。一聖本人も、友人にも被害は及ばないだろう。

 ただ、あの方がどう思うか、それだけが心配だった。



                   ***



 ゴメン隊長、ちょっとだけ嘘ついた。声として聞こえないけど、いつも一つの言葉が頭に浮かぶ。

 『この世界を救うのだ』。

 一体なんなのかは分からない、けど隊長が言ってたのはこれのことだろう。でも、何だこれ? こういう系の話でよくある暴走だとかなんだとか、そういう気配のする文章じゃないけど。

 まぁ、分からない事は考えるべきではない。とりあえず今は目先の事、この前コンビニでであった兄妹――弥生さん達と合流することを考えなければ。

 現在、黒椿峰から環状線に乗って如月町前にたどり着いた所だ。四大祭の中でも特に外部からの旅行者が多くなる晩餐祭――やはり外の技術と比べ、色々異質な物が揃っているらしい――だが逆に市内の参加者は少ないので、この駅には白衣を着た主催者側の人間の方が多いくらいだ。よって待ち合わせには最適、とりあえず弥生さんと会う前に友達達と合流しないと……


「イッセー!」


「ッてうおぉビックリした!?」


 賑やかな声、最近聞き慣れたその声と共に肩に重みがかかる。反動をつけて思いっきり飛びついたのか――視界には銀色の髪が幾房もちらついた。

 ベルだ。ベルと隊長以外に銀髪の知り合いは居ないし、後ろから抱きつく隊長とか嫌過ぎる。


「湖織を放って行くとは酷いですよー、一聖ー」


 と、畳み掛けるように声をかけてくるのは眼帯巫女な黒椿峰 湖織。相変わらず似合わない帽子と裾の長い袴で体の異常をごまかしているその姿は、いつも以上に目立つ。横に並ぶと声のする前に誰だか分かった。


「椿……ベルを連れてきたのはお前か……」


「先に出た罰なのですー。湖織はやる事があるので、今日は一日楽しんでくださいねー?」


 ベルはなにやらケラケラ笑いながら俺の背で動き回っている。いつも思うが、ガキみたいな奴だ。ちょっとは役得と思うのが筋だろうが、夏休みの間でどうにも慣れすぎてしまった。

 という訳で一日中ベルと付き合うのは面倒なので、ふざけんなお前も手伝えコールを椿に浴びせようと――したところで、急に歩を合わせて横に並んだ。


「その子と隊長さんの事、知り合いに話してみますー。それと、気をつけて……夏休み前の事がどう影響しているか分からないし、何より外部の……」


 そこまで言って、何故か言葉を切って歩調を速める。追いついて聞こうにも、見た目には歩いているのに中々早い。全体を上から把握しているように、人の間をするりするりと抜けていく。

 あれが本家本元、黒椿峰の異能戦術か。俺だって一応、異能力を使う時の型はいくつか学んだけど、基本的な動きの方は元から使ってる小鳥遊流で補っている。というか、それすら知らずの内に元々の型からかなり外れていたらしく、今の俺は独自の戦闘法を作り出しつつあるそうだ。黒椿峰の桃子さん曰く。

 まぁ、どちらも元は同じらしいけど。対異能戦術、天詩源流より分れし幾多の武術という名の戦術。あんまり理解は出来ていないが、四つの町の仲立ちをしている天詩(文一の居た施設を経営してるグループだそうだ)が、それぞれ特化して教えたらしい。

 ……で、なんだ。結局、ベルを押し付けられたのか。危ないからとか言ってるが、それならそれで逃げるっての。ベルが居ると確かにファフニールを使えるが……逆に、ベルを守らなくちゃいけないから逃げにくいんだよ。


「イッセー……難しい顔してるのサ」


「んにゃ、お前をつれてくって言ってなかったから、どう説明しようかなって」


 そろそろ首が絞まりそうなのでベルを下ろし、適当に答える……が、そういえばどうしよう。今日来るメンバーの中で……魅伊香はともかく、太郎やムゥちゃんは初対面だ。そういやこいつ、説明に困るんだよな。今までだって家出した奴とか、事件に巻き込まれた奴をかくまった事はあったけど、そいつらは俺の友達と話すことなんてほとんど無かったからなぁ。

 しかしそんな事を考えている内に、近づいてくる人影がある。ふわふわした金髪の可愛らしい女の子が、バッグを持って内股小走りで全速力。そして一言。


「ごめぇーん、待った〜?」


「それは恋人に言え!」


 いつも通り、ボケボケノリノリなムゥちゃんだ。俺の前の前で立ち止まり、「あ、ハイ」と正気に戻りながら乱れた髪なんかを直している。

 

「ふぅ……なんか変な女の子と一緒に居るから、一聖クンだって分からなくて混乱しちゃいました!」


「……!」


 そうだ、誤魔化さないと。いや、誤魔化さないといけない理由は無いけど、馬鹿正直に「宇宙人です!」とか言うと……いや、もしかして今の常識レベルなら大丈夫か……?

 

 特進市の人が知る、真実の宇宙人=虫と動物のハイブリット生命体。


 駄目だ。狩られる。


「はっ! まさか……!」


 あ、ムゥちゃんまたスイッチはいった。


「一聖クン、私に一言ぐらい相談してくれても……!」


 なんか良く分からないけどすごい想像された! いや、本当に良く分からないけど!


「あ、あの……ムゥちゃん……?」


「あぁ……こんな痛ましい姿になって。ジェニファー、あの日々はどこへ行ってしまったというの!?」


 ……駄目だ声が届かない。というか、なんで俺がツッコミ期待されるような状況なんだろう。どうしようもねぇ。

 結局、ムゥちゃんは魅伊香と太郎が来るまでこの状態だった。ちなみに、俺はジェームズにされた。



                   ***



 闇は晴れず。この胸のわだかまりも、いまだ解けず。

 ただ、剣を執って戦った。前にも後ろにも並んだ隊列にも、守るべき者しかなかった。より多くを救うのだと引き裂いて。より速く救うのだと貫いて。より善く救うのだと斬り去って。


 この世界を救うのだ。


 それは一つの聖句。心の奥底まで響く、我が刃にして盾。

 救いたまえ、手が届く範囲と言わずに全てを。救えないなどと甘えた言葉は吐かせない。


 この世界を救うのだ。


 だから我は願った。だからそれは叶った。世界を救え我が刃、誰が為でもなく皆が為の刃。救え救え、人を村を町を国家を世界を惑星を!

 守るべき愛しき怨敵を打ち倒し、潤すべき荒野を越え、そうしてまで果たした世界の救済。あぁ、救われた。救われたとも、愛しき全ては、そのほとんどが。


 この世界を救うのだ。


 たった一つの信念を持って駆け抜けた人生の結果は、ただ一人の少女を取り零した。

 救ったつもりだったのに。完膚なきまでに救い尽くしたつもりだったのに。

 我が刃は、たった一人の少女だけを救えなかった。




そしてまたまたまたまた訳分からないの挟みました。雰囲気だけ読み流し、後々「あー……そんな事言ってたっけ?」とかそういう感想を抱いて頂ければ書き手冥利に尽きます。

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