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学園珍事 ファミリア!  作者: ニコ
二学期
64/66

第58話:きんいろ/静かな日々さえ

 とりあえず皆さんに言う事があります。落ち着いて聞いてください。


 更新遅れて、というか無告知停止してすいませんでした!


 いや、「更新だる〜」とか「飽きた」とかじゃないんです。実はこの時期、創作に対しての価値観揺さぶられたり色々あったんです。さらに企画モノやってましたし。

 という訳で、主にプロットやらなんやらの見直しをしてました。以前に色々と痛々しい話をしたり、評価感想欄にちょくちょく先の展開読めるようなこと書いたりしましたが、それもこの先の展開にはほぼ影響しないと思ってください。「そういえば行き当たりばったりな部分が結構あったな……」と思い立ち、改正した部分がありますので。

そしてもう一つすいません、これ以降はやっぱり色々更新遅れると思います。中編ちょくちょく書いたり、以前の作品のリメイクも進めてますので。


という訳で生まれ変わった「学園珍事ファミリア」、もし愛想が尽きていなければお楽しみ下さい。

 目が覚めて。廊下を歩いて。顔を洗って服を着ていつもの帽子をかぶり、準備完了。

 現実感が湧かない。


「ふぅ……」


 意味なく豪華な廊下を渡りながら、軽く息をつく。ここでの生活はもう二ヶ月ほどになるのだが、まったく現実感がない。環境の変化についていけない。

 いや、今までそこまで酷い生活をしていたわけではない。あの子の殺人以外にも、必要とあらば俺が通り魔をしていたのでホテルぐらいなら泊まっていけた。ただ、なんというか、地に足が付いて後ろめたくない暮らしというのが妙に想像できない……という言い方は変なのだが、とにかくここにいる自分が良く分からない。

 と、そんな事を考えている場合では無い。とりあえずあの子は幸せになれたのだ――自分はどうせ拾ってもらった命、彼女の意向には最大限従いたい。


「嬢、起きる時間だ」


 ノックすると共に腰に吊るしてある鍵を手に取り、じょうを外す。外から鍵を閉められるようにしてほしいというのは、彼女自身が言った事だ。自分には反対する権利も、その気もない。

 気を引き締め、ノブを回し部屋に入る。


「あ、ぅ……は……は、おん……?」


 ベッドの上に、少女が丸まっている。小鳥遊たかなし みなと――自分が仕えると決めた人。穏やかな眠っていてくれればどれほど良かったか。

 ベッドの端には、右手と左足が無くなって腹の綿を撒いたクマのぬいぐるみが。開いた扉の近くには、縦から横から斜めから、方向構わず切り裂かれた雑誌や本。カーテンは中途で破れ、枕もぬいぐるみと同じような惨状。感想を求められれば、大抵の人はヒステリックと言ってくれるだろう。

 発作だ、なんなのかよく分からない嬢の精神異常。破壊衝動。


「おはよう……朝のね、五時ごろに目が覚めたんだけど……うん、だから今は大丈夫。メイドさん呼んで頂戴……その間に、トイレ、行っておくから……」


 疲れたようにベッドに突っ伏しながら――疲れもするだろう、五時からという事は一時間半ほど暴れ回っていたのだ――うわ言のように呟く。こんな時に何の力にもなってやれないのは、気分が悪い。だが、実際に自分は何も出来ない以上、彼女の言う通りにするのが一番の助けだろう。

 今日は晩餐祭だ。俺が特進市に居た子供の頃に一度行ったきりだが、とても賑やかだった覚えがある……もっとも、当時の自分は人ごみを嫌ってあまり楽しめていなかったような気がするが。

 晩餐祭、特進市の祭。


「はおん……どうしたの? やっぱり、まだ痛いの?」


「いや、大丈夫だ。痛いというほどじゃない」


 この家に来るきっかけとなった怪我の事を言っているのだろう。大丈夫といえるほど大丈夫ではないが、体中を銃弾に貫かれて死ななかっただけでも奇跡だ。まぁ銃弾が如月製の異能であったから、鉛が体に残らずに済んだという理由もあるのだが。

 そんな事より、顔に出ていたようだ。不快な感情、何故こんなに不愉快なのかというぐらい、嫌な気持ちが喉元まで競り上がってきている。奴らを相手に吐き出してしまえればどれだけ楽な事か。

 嬢は――小鳥遊 湊は、四大祭への参加が認められなかった。

 嬢の友達になってくれた子たちは参加するらしい、文一も参加するらしい、嬢を置いて。ふざけるな、確かに危ないだろうがそれすらもフォローできる友人が居るじゃないか。小鳥遊財閥の思惑か何か知らないがふざけるな。

 

「刃音……? あれ、もしかして、外に出れないのを気にしてるのかしら……? 私は無理だけど、貴方は出ても……」


「それじゃあ、意味が無いんだ。俺はアンタを救いたい」


 普通の生活を送れるように。あの時、路地裏から俺を助け上げてくれたように。一生を使ってでも恩を返したい、それがきっと俺の生きる意味。

 じゃあ、今はどうすればいいのだろう。今までは最低水準だったからこそ俺の助けが必要だったが、今ではお屋敷暮らしだ。俺は、どうやったら嬢を幸せに出来るのだろうか。


「あーまーうーたー!」


 ……と、いきなり大きな声が屋敷中に響く。あぁ、とても聞き覚えのある声だ。何故なら、この屋敷の主なのだから。

 ドタドタと盛大に足音を立てながら、豪奢な赤いドレスには似合わない寝ぼけ眼に跳ねた髪、綺麗な顔をしているのにどこか抜けている小鳥遊の次女が廊下の曲がり角から現れた。


「ん……おぉ、刃音。文一を知らないか……?」


 多分というか絶対というか、とりあえず寝起きなのだろう。嬢も暴れ疲れて眠そうだったが、この人は輪をかけて眠そうだ。この二ヶ月ほどの共同生活で知った事だが、朝は弱いらしい。

 それはともかくとして。


「文一ならもう出た。晩餐祭らしい」


「なっ……あいつ、出席しろとは言ったが俺を置いていくとは……」


 どうやら文一と一緒に参加するつもりだったようだ。人の表情を見る事はあまり得意ではないが、そんな俺でも呆然としている様子が分かる。


「ねぇさま……」


 そして背後から嬢の声、弱々しい声。こんな声を聞くだけで嫌になる。

 俺の感想はどうでもいい、呼ばれた本人――灯夜さんは眠そうな顔をしながら、しかしはっきりと俺の方を向いた。そして本人にとっては重い意味を持つだろうに、その言葉をあっさりと口にした。


「刃音、文一に電話かメールをしておいてくれ。今日は行けないとな」


 一ヵ月半の後、文一は以前と変わったらしい。あまりこのお嬢様に気をかけなくなった、仕事はするがそれ以外での話はあまりしなくなった。そんな彼女が、久々に気兼ねも無く文一と話せる日だったはずなのだ、今日は。

 俺の前を通り過ぎて部屋に迷いのない足取りで踏み入り、そのまま汗だくで倒れこんでいる嬢の髪を撫でる。笑う。

 俺はなにも出来なかった。しかし、この人は傍に居るだけで彼女の救いとなれるのだ。妬ましくないと言えば嘘になるが、それ以上にありがたい。

 

「そうだ、刃音」


 ふと思考が現実に引き戻される。いつの間にか灯夜さんは、嬢に肩を貸したまま俺の前に立っていた。


「何だ?」


「お客だ。踊り場のテーブルの所に通してやってくれ」


 客を俺に対応させるなんて事は珍しい。こんな場合は文一か、アルバイトの給仕が対応するはずだ。まぁ分からなくもない、自分でもあまり相手を安心させられるような雰囲気じゃない事は知っている。

 そのまま灯夜さんは歩いていく、俺の疑問を尻目に。


「何故、俺に対応を?」


 ここから玄関までは灯夜さんの歩いていく方向と同じだ。かすかに上下する嬢の肩を何気なしに見つめながら、二人の後ろを歩いていく。

 

「それはまぁ、お前が対応するべきだと思ったからだよ」


 灯夜さんの表情は見えない、そのまましばらくの沈黙。何も話さないのも気まずいので、もう一度話しかけてみる。


「嬢と、どこに行くつもりなんだ?」


 そこで灯夜さんは、ようやく振り向いた。多少は眠気も覚めたようで、どこか悪戯っぽい、歯を見せる笑みを浮かべる。


「朝風呂。覗くなよ」




「あ、出た! おはようございますます、私、湊ちゃんの友達の……」


「風香うるさい! ヘイそこの執事! 湊ん所に案内しな!」


「あ、天詩さん……初対面の人にそれは失礼だと思うよ……?」


 扉を開けると、そこには子供が居た。黒い、装飾過多なドレスを着た少女。巫女服と隈取りが印象的な少女。そして、他の二人よりも一際背の高い少女。

 どれも初めて見た顔では無い。少し前、気になって嬢の様子を見に行った時、仲良くしてくれていた同級生達だ。しかもその内の一人は、屋敷の中でも見たことがある。


「……一階と二階の間、ホールで待っていてくれ、と」


 場所を告げると、三人は一斉に扉をくぐった。勝手知ったる他人の家、という事だろうか。なんにせよ、ありがたい。

 そうだ、あの三人も祭より嬢を優先してくれたのだ。この世界には、彼女の味方が四人も居るのだ。


「良かった……」


 ここまで彼女を生かしてきて良かったのか、疑問に思った事はあった。世界に適合できない障害を持つ人間、介護で何とかなるレベルでは無い。そんな彼女が心から笑える日が来るのかと、ずっと不安だった。

 あぁ、良かった。ここまで来れて、良かった。


「もしかしてこの救われねぇ状況で満足してんのか、と少し痛い所をついてみます」


 声が聞こえた。意味するところは一つ、気づかなかった四人目が居た。

 門の陰に隠れていたのか、今まで視界に入らなかった金髪碧眼の少女が、いつの間にか目の前に立っている。

 ローラ・リーリア。シャツとスカートの無難な――そろそろ秋なので多少肌寒く見えるが――服装に、腰から吊るした懐中時計が妙に違和感を誘う。


「……ローラリーリア、お前も嬢の……」


「勘違いしないで下さい。祭に行くとあの野郎の引率が待ってますからね……こちらの方が、無難だと判断しただけです、えぇ」


 視線は子供に似つかわしくないほど鋭く、それだけで人を殺そうとするかのようにこちらを睨んでくる。


「湊は救われてると、アンタは思ってるんですか?」


「……どういう意味だ?」


 どうしてこいつは、ここまで俺を敵視する。逆ならば――殺されかけた現場に居たこいつを俺が恨むのならばまだ自然だろうに。

 しかしそんな事よりも、この子供は何なんだ。異世界から着た、魔族だという事は知っている。だが、それだけでどうしてここまで人を睨む事ができるのか。まるで――無神経な人間に向けるような、そんな憎悪を。


「大量殺戮、本人が納得してるとでも? 人を殺したんですよ、湊は……。優しい子ですからね、今頃死にたいとでも思ってるんじゃないでしょうか?」


「違う。あれは俺のせいだ」


 嬢がやりたくてやった訳じゃない。俺がそう仕向けて、判断能力を失った彼女が従ってしまっただけだ。


「それでも、ですよ。遺伝子ごと殺人者な貴方には分からないでしょうけどね……」


 憎悪の視線が、逸らされた。そのまま彼女は俺の方へ――扉の方へ歩を進める。


「私は人をころしてしまった時、とても死にたくなりました」


 俺の前を通り過ぎて、屋敷の中に入る。そのまままったくこちらを気にしているようには見えない足取りで、しかし言葉だけはこちらに向いている。


「だから私は償わなければいけないんです。元の世界に帰らなければいけないんです」


 まだ12そこらの少女だと言うのに、重い。言葉が、何よりもその雰囲気が。


「そのために私は――この面倒臭い『生きる』って事を、無理矢理続けているんですから」


 そこで少女は、話したい事を話し終わったらしい。こちらには目も向けないまま、三人が居るであろう方向に向かう。

 嬢が死にたいと思っているなんて考えもしなかった。だがその可能性もあるかもしれない、と言うことだろう。

 俺はどうすればいいんだろう。どうすればあの子を助けてあげられるんだろう。




でもコメディは無い。実は10日ほど前に書き上がってたんですが、コメディが混じる話と連続更新しようか迷ってました。結果、遅れるだけという最悪の事態に

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