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学園珍事 ファミリア!  作者: ニコ
一学期
53/66

第49話:そして、夏休み

夏休みは早送りモードです、次回からは一気に秋へと飛びます。

そして、少し自分ルールの8000文字を越えてしまいました。……間繋ぎの話だからいいよね!?

[非人道課長の近江谷怜哉より対危険存在部長の小鳥遊鷹子への報告]7月21日



 宇宙生物が地球に降ってから丸三日、ようやく如月大門を捕まえました。

 そして現在はさらにその三日後、この記録が貴女の手に渡る頃にはすでに夏休みが始まっているでしょう。

 では、報告致します。結論から言うと、められました。

 監視カメラなどの記録媒体の停止、各情報網、通信網の喪失などにより職員達は皆、知らず知らずに大門へと手を貸したことになっています。

 これらの事情、そして我ら小鳥遊と死乃裂は如月の製造した武具に頼っている面もあり、罪は大門一人が被る事になるでしょう。

 また、局長の独断から発生した事態ということで今後は局長補佐という名目上の監視役を付ける事になったそうですが、信用はまったく出来ません。

 局長補佐に就任した男、一谷いちのたに しん。私はこの男に足止めされました。結局、局長の殺害には成功したので何のための足止めか分かりませんでしたが。

 さらに局長に就任したのは大門の娘だという如月きさらぎ 瑞穂みずほです。どうみても10を越えるか超えないかの年齢であり、極めて不自然です。

 なお、ここに書かれていることはまったくの概要だけであり、追って説明が必要な箇所などは、いつも通りに私の四つ目の携帯電話にお願いします。

 では、報告を終了させて頂きます。

 人道に在らぬ我が所業は全て貴女様のために。




[天詩 文一]7月22日



 あれから四日、夏休みが始まった。

 それと共に僕はとあるビルの一階層――青空商社で“研修”を受けていた。


「まずは、魔法について理解してもらう必要があります」


 ローラちゃんとメグちゃんは出払っていて、今ここに居るのは僕とフロルさんだけ。


「魔法について、ね」


 ポツリと呟いたのに反応して、フロルさんが話し始めた。


「はい。まずは神様システムについて説明しなければなりませんが「いいよ、知ってる」


 フロルさんの言葉に重ねてやると、彼女は満足そうに微笑んだ。クソ食らえ。


「思い出し始めたのですね」


「物理法則から目に見えない確立まで、世界は演算によって成り立っている。この世界とはいわゆる膜であり、表であって、そうであるからには中、裏たるものが存在する。裏であり、演算する物、世界の中心にある英知の結晶であり世界そのものであり全ての可能性を持ちし物、それを神様システムと呼ぶ。魔法に限らず、超能力や妖怪なども、これらが中心にあるからこそ成り立つ――で、いいよな」


 彼女はさらに笑みを深めた。

 最近、自分が自分である事が分からなくなる。自分の枠がどこからどこまでなのかが分からなくなる。

 知らないはずの事を、特に意識もせずに知っている。まるで初めから知っているかのように。

 魔法も武術も、その他の知識も、少しずつ増えていく。


「その調子なら、すぐに出来るようになりますよぉ。茜ちゃんも居ることですしね」


 魔道書、茜。

 今現在は素人である僕が常人よりも有効な条件、それは今も垣根を越えて溢れてくる知識と、魔道書だ。

 研修期間が終わるまでに、魔道書と――そして、出来るのならば“もう一人の僕”も使いこなせるようになってやる。

 何がどうなるかは分からないが、力が無いよりはあるほうがマシだろう。


「よし、フロルさん。魔法の使い方を教えてくれ」




[北川 一聖]7月19日



 でけぇ。

 それが俺の、まず初めの感想だった。


「どうかな、北川君?」


「いや……まぁ、デカいっすねぇ」


 隣に立っている巫女服にコートを羽織った女性、桃子さんとの雑談。

 俺が立っているのは、黒椿峰本社の門の前、つまりはなかの社の前だ。それぞれの神社での仕事が無い時、黒椿峰の巫女さんや神主さんはここで寝泊りするらしい。

 確か、この先には同じクラスの椿――湖織も居るんだよな。

 

「緊張する?」


「いえ……それほどでも」


 黒椿峰の、いやこの市の真実を聞かされた時は本当に驚いたが、今は不思議と心が静かだ。

 緊張なんて、していない。だってこれからは、本当に正義の味方になるんだから。

 俺とベル、そして隊長は、宇宙船についての相談や諸々の事情があり、一応は黒椿峰の戦力となった。

 本当は聖が居てくれれば機械が専門の如月にでも話を通せるのだが、あれからも聖は小鳥遊本家に泊まりこんでいる。まぁ、これで良かったのかもしれない。あそこは今、大変な事になっているらしいし。


「ベルと隊長は宇宙船拾ってからコッチに来るらしいですけど……先に挨拶を済ませておきましょうかね?」


「うん、それがいいと思う」


 差し当たっては、まず黒椿峰の最高責任者への挨拶。

 蛮がどうなったのかは知らない。自分が未熟なせいだ。本当に強ければ、彼を殺すかもしれない状況に追い込むことなんて無かった。

 だから、ここで修行して、きっと強くなってやる。誰かを救うんじゃなくて、誰もを救えるように。




[白咲 煉斗]7月22日



「あ、煉斗さんですですかー」


 あれから四日、夏休み初日、僕がまず向かった場所は一谷食堂。


「うん、こんにちわ風香ちゃん。ちょっとお兄さん居るかな?」


 もちろん用件はあの男――一谷 真に会うためだ。

 仕事中の風香ちゃんは隅の席を指差して、残念そうに仕事へと戻っていった。

 その席に、アイツが居る。


「やぁ煉斗くん。中々気立ての良い妹だろう、もらってやってくれないか」


「……諦めたんじゃねェのかよ」


 ため息を吐き、席に座る。風香ちゃんが水を運んでこようとするが、兄が手を縦に振って「べつにいい」のサイン。風香ちゃんはすごすごと調理場に戻っていった。


「用件はあれだ、君に色々用意してやろうと思ってな」


「色々?」


「君の武器類は如月が全面的にバックアップさせてもらうよ。情報通信網も、俺が許可する分には問題なく使ってくれ」


 ……胡散クセェ。


「それで? お前らの企みは何だ? 何を考えて俺を引き込もうとしてやがる」


「別に我々は愛の、つまりは電算人体のモニタリングを、戦闘機会が多い死乃裂に頼みたいだけだ。だからまぁ、条件としてはお前が愛と離れない事、戦闘時は必ず使用することだな」


「……そうか」


 納得はしていないし、してやるつもりもない。ただ、こちらとしてもまだ愛さんが必要なだけだ。

 結華は今回、助かった。クソ会社の馬鹿げた人身御供にならずに済んだ。

 でも、今回はという事だ。これからも同じ環境である限り、結華が小鳥遊の次女のように「利用価値のある何か」とされる可能性もある。


「ハッ、いいぜ如月の。せいぜい利用されてやる」


「それはそれは、ありがとう」


 だから俺は強くなる。

 そして――小鳥遊を、潰してやる。




[葉月 春日]7月19日


 

「はい、そうです。若がある程度思い出しました。えぇ、人格としての蓬というものは眠っているか死んでいるかですが、人格Bが正しく起動している模様です」


 暗い部屋。マンションの一室。台所風呂トイレ付き。味気ないフローリングの床。私が仕事のために支給された空間。

 寝心地の悪い硬いベッドの上で、私は膝を丸めて電話の受話器を耳に当てている。


「えぇ、人格Aもある程度協力しているようです。C以降は確認できていませんが、おそらくはもう何個か人格があるでしょう」


 口から流れ出るのは無機質で無機質で無機質な声。ただ「八月の葉月」として「十二月の師走」への報告。

 例え中身は違っても自分の仕える者に再び会えた感激を押し込んで、ひたすら平坦に報告する。

 胸が一杯だ。ここ10年ほど感じていなかった喜びが湧き上がる。叫びたくなる。想いを全部叫んで、それでもからっぽにならない事を確かめたくなる。

 でも、駄目。文一様の方は私を知らないのだから。葉月春日というものを知識としてしか認識できないのだから。

 私の主人にして、愛する人。結局、蓬様には最後まで愛される事はなかったけれど、それでいい。一方通行の慕情の方が、この身には丁度いい。それに、文一様は仕えられる事を嫌うだろう。

 だからこちらは水面下でやらせてもらう。胸が張り裂けそうなこの想いを、心の中でだけ叫び続ける。

 あぁ、若、狂おしいほど愛しています。貴方の障害は全ては私が殺し尽くします。“否定”さんになんか譲ってやるもんか。若が要らないと思うものは殺して壊して潰して消し尽くしてやる。ただ、私に目を向けてくれるだけでいいですから。それで私は頑張れますから。何もかも、貴方の思い通りにしてあげますから。

 私は、貴方を、狂信あいしています。




[万山 蛮]7月29日



 ひたすらに体が重かった。喉が引きつるように空気を求め、意識とは別に喘いでいる。

 そんな自分の体を、冷静に見つめている心の奥底。それが、自分の周りの状況を分析している。

 暗い部屋だ。自分は手術台のような物の上に寝かせられ、惨めにもそこで倒れている。周りに居る人間は――たった一人。

 冗談みたいに肌の色が悪い老人だった、紫がかって見えるほどだ。それに反比例するようにヒゲはごく真っ当な灰色で、包まれている口がまったく見えないほど伸び放題だ。服装は、何かの装甲服のようなものの上に白衣をまとっている。眼光は鋭く、真っ直ぐにこちらを射抜いていた。

 何だこの冗談は。何だこの冗談みたいな、アニメから丸々出てきたような悪役は?


「お……ィ」


 引きつった喉は、何とか自分の意志で動かす事ができた。

 その声に気づいたのか、その前から気づいていたのか、老人は答えるように声を上げる。


「無理をするものではない。お前の体は半分地球の人間の物だ、無酸素状態には長く耐えられまい」


 深く張りのある声だ。まるで鷹のように細められた目と相まって、体が勝手に萎縮する。

 なんなんだこれは、何だこれは?


「お互い幸運だ。我らにも協力者は居るが、詳しい者は出来るだけ手元においておきたい」


 そこで一拍空け、続ける。


「海賊に、興味は無いか」


「……ァ?」


 海賊。まるで時代錯誤、なんともいえない響きだ。だが発したのがこの老人ならば、それは現実だと、手の届く場所にあるのだと、実感できた。


「星の海を渡り、荒らす。殺して、奪う。追いやり、剥ぐ。興味は無いか、圧倒的強者に。何もかもを踏みにじる権利がある者に」


 声を張り上げた訳でもなんでもない。ただ、その言葉には深みが満ちていて、とても――魅力的な響きだった。

 気づけば、声すら発する事のできない口、その端が思わずつり上がっていた。




[如月 青衣]8月2日


 

 それは決められていた事。父自身が望んだ事。


「とはいえ……いささか、無常であります」


 “私”という一個体は如月第一研究所の内壁を見つめる。廊下内、「関係者以外立ち入り禁止」などと滑稽な看板が飾ってある場所から奥にいった所。

 関係者、自分は関係者だとも。父の命令を満足に果たせず、父が開発した三人の電算人体の中で唯一死ぬこともなく、彼自身の命令に逆らってまで父を生き残らせようともしなかった、臆病者。

 今、研究所は父の娘――ある意味では自分と同じ存在に全権が渡っている。父と一緒に自分達の開発に携わった研究者も重役についているし、地球の技術に興味があるだろう宇宙人まで居る。

 だが、その内の誰一人として自分に話しかけない。もう、用済みという事なのだろう。

 自分達は人間に限りなく近く出来ている。正体を明かさなければ人間と同じように生きる事ができるはずだ、人間の中の超能力者と同じ。


「観緑、貴女が生き残っていればどうしたでしょうか?」


 天真爛漫なあの妹だ、研究所を飛び出して色々と見て回るだろう。

 きっと友達が出来ただろう。きっと大人たちに可愛がられる子供で居られただろう。あの子はスペックが運動性能に寄っていた、きっと将来は何かのプロ選手にでもなれていただろうか。

 ひょっとしたら、恋愛ぐらいするのかもしれない。黒椿峰の襲撃の時に見えたあの二人のように、お互いを心配し合えるような。お互いを信頼し合えるような。それ以上に、自分の全てを任せられるような。


「白亜、貴方が生き残っていればどうしたでしょうか?」


 無口だが優しく義理堅い弟だった、もしかしたら研究所に残るかもしれない。

 色んな事を覚えて、私たちが遠目に見つめるだけだった研究員達と肩を組む事もあったのだろうか。その内に町を出て、旅でもしながらボランティアなんていかにもあの子がやりそうな事だ。

 目を閉じれば浮かぶようだ、あの子の将来。きっと小さな診療所でも開いて、優しく子供達と接しながら年老いていく、なんとなくそんな気がする。


「…………」


 そんな二人はもう居ない。一番危険であったはずの私が死なず、あの二人が死んだ。

 死んだのだ。研究員達は断固として壊れたというだろうが、死んだのだ。

 残った私はどうしろというのか。私には夢も希望も性質も無い、ただあの二人の姉であろうとしただけの人格パーソナリティ


「それでも、死ぬことは許されないのであります」


 死んでたまるか。理不尽の中で朽ちてたまるか。使い捨ての兵器であってたまるか。それだけが自分を衝き動かす理由。

 そして私は手の中の、観緑の核を見つめた。

 研究員の一人が「好きにしろ」と言って渡してきた物だ。白亜の分もあるはずだが、そちらは知らない。

 これは心臓であり脳であり魂だ。私にもある、命の輝き。

 それを一息に。

 呑み込んだ。


「……!」


 自分が倍に膨れ上がる、そんな感覚。実質、私は観緑を取り込んだのだ。

 みっともなく生き残って、死にたくない理由を同情的に並べ立てて、そして妹の血肉を食ったのだ。

 観緑の情報――何を見てきたか、何を聞いてきたか、何を味わってきたか、感じたくない――と共に、誰かが後天的に入力したであろう情報も、強制的に流れ込んできた。


――君ならやってくれると信じていた。早速だが、仕事だ。


 芝居がかった口調、自分を開発したあの真という研究員だ。

 腹が立つ。が、仕方ない。あの二人ならどうしたかは知らないが、自分はまだ一人では立てない。土台が欲しい。つまりは、命令の元で生きたい。


――スパイ……と言うほどでもないんだがね、君には街で起きる出来事を正確に伝えて欲しい。そう、この市全体規模でだ。不自然でないように、君の名前も考えておいた、偽装書類なんかを作るときはそちらの方が便利だからな。


 もう少しだけ、言う事を聞いてやる。別に寝首を掻く気もまったく無いが、いつまでも言う事を聞く気も無い。


――『如月きさらぎ 青衣あおい』と名乗れ。


 観緑、白亜、しばらくはそちらに行けそうにないであります。




[赤坂 響玖]8月5日



 意識はあった。ただ、体が動かなかっただけ。

 自分の家、薬局の二階にある居住スペースの自分の部屋。俺は電話をしている。


『あらまぁ、こんなに早くかけてきてくれるなんて、驚きだわ』


 相手は死乃裂とかいう組織の最上位、核爆夫人だとか名乗った女。

 俺を助けたであろう人物。人間なのに人間じゃないぐらい強い女。


「……まぁ、お礼ぐらいは言おうかと思いまして」


 俺は死んだ。30回は死んだ。なのにまだ生きている。意識もあった。

 姫紀が原因らしい。よく分からない。全然分からない。


『お礼は姫紀ちゃんに言いなさい。私は助け方を教えただけ、あの子が居ないと君は死んでいたの』


 姫紀が俺を再生させた、なんだかよく分からない。分かっているのは、自分が死ななくなった事。

 寿命はあるんだろうか? キチンと老衰できるのだろうか? 本当に何があっても死なないのだろうか?

 よく、分からない。


「……でも、これで貸しが出来たんでしょう、貴女に」


 分からないから、考えられない。


『貸しじゃあないわ、相互依存。君達二人が私の言う事を聞いてくれたら、色んな事を教えてあげる』


 分かったら、考えられるのだろうか。


「……はい」


 通話を切った。

 階下から、自分を呼ぶ母の声が聞こえる。




[???]8月31日



 特進市の県境を、一台の車が走っていた。席が三列ある大型の軽自動車で、その中はほぼ完全に埋まっていた。


「この道は……直進ですね」


 運転手に座った、まだ歳若い男が隣に問いかける。


「うん、そうだね」


 助手席に座った、男よりもさらに若い女が応じる。

 

「まだ着かねーのーでーすかー?」


「そうらしいのよね、まったく怠慢だわ。遅いのよね」


「静かにしろ、お前ら」


 中央の列、座っている三人の子供達がそれぞれ口を開く。


「もうすぐもうすぐ。焦らなーい」


 最後列、端の方に追いやられている女が子供達をたしなめる。


「ア゛ー、狭っ苦しい」


 最後列の中央、どんと両足を開いた男が溜め息を吐いた。

 合計7人、彼等は特進市へと向かっている。


「まったく、どうして俺が運転手なんだ。“個人結界ローカルルール”さんも“一撃必殺ブレイカー”さんも、ちぃちゃんだって運転できるのに……」


 運転手の男が文句を言う。まるで新社会人のような折り目正しい、紺に近いスーツ姿に、ネクタイも同色の物。端整な顔立ちだが、今は不満で歪んでいる。

 首にはまるでイヌの首輪のようなチョーカーを付けており、飾りと言える物はそれだけだ。


「そういえば、ローカルのおっちゃんはどうして運転しないのよ? 犬のにーちゃんにだけ任せるのは可哀想なのよね」


 中央列、子供達の真ん中に居る赤髪の少女が、後ろを向いて訊ねた。

 まだ小学生の低学年程度の年齢にしか見えない少女は、しかしどこか達観した雰囲気を持っていた。鳶色の瞳は曖昧に後列の男を見つめ、薄く化粧をした口元には微笑を浮かべている。

 服装は上下共にフリーマーケットで揃いそうなほど単純な、むしろ男の子っぽい服装で、それに合わせるように髪は短く切り揃えられていた。


「んー、猟犬の嬢ちゃん、運転、僕がか? ハッハー、そりゃ無理だ。せめて150kmは出るヤツじゃねぇと乗れねぇよ」


 男は切り裂いたように笑い、答えた。この男も容姿は整っているのだが、前にいる男とは違うタイプだ。前の男が陽ならばこちらは陰、瞳は冷徹に細められ、鼻はとがったように高い。

 またもや前の男と同じスーツ姿だが、色は黒。ネクタイは赤。そして、整った顔の上にちょこんと丸めがねが乗っている。


「じゃあ、貴女はどうなんだ、一撃必殺ブレイカー?」


 赤い少女の右隣、本を読んでいた白髪の少年も後ろを向いた。髪は刈り上げられていて、服装も赤い少女とほぼ変わらず、そこだけ見るとまったく普通の少年のようだ。だが、発した声はそれだけで警戒を抱かせるほど淡々としていた。

 

「私はお酒飲んじゃったからね、つまらない事で足止めされるのも嫌でしょ? “血の海”ちゃんが運転しても捕まるし」


 赤い少女に一瞥いちべつをくれ、最後列の女は少年へと説明した。

 首にかかる程度に黒髪を伸ばした、線の細い女性だ。肌は白いが白人ほどでもなく、その顔立ちからも日本人である事がすぐに分かる。優しそうに笑って細長い指で少年の髪を撫でる姿は、まるで母のようだった。


「ふーふふんふーふんふー♪ ……んにゃ、捕まっても殺しちまえば問題ねーのですよー」


 赤い少女の左隣、ご機嫌な様子で鼻歌混じりに足を揺らしていた金髪の少女が、ふと歌を止めて呟いた。

 ゴシックロリータ調のドレスを着ていて、しかしポケットの中には漏れ出るほどの携帯電話が、一つのストラップで繋がっていた。口元には絶えることなくニヤけた笑が張り付いている。


「駄目です、“熱の獄”さん。一応は許可を得ているとはいえ、波風立てすぎるのはいけません。作戦実行までは息を潜めるのです」


 金髪の少女に注意したのは、OL風の格好をした前列に座る女性だ。

 髪を左側だけでまとめるサイドテール、柔らかくややさがり気味な目元、口調に似合わずゆったりとした声。衣装で引き締められないほど柔らかい印象の女性だった。




 そして彼ら7人は、特進市へと堂々と入り込んだ。

 その市を、破壊する目的で。





どうも、最近色々あるので現実の季節に合わせるのは断念しようかと思っているコニ・タンです。


これでシリアスは一旦終了ですね、第一部「市内珍事編」終了って所でしょうか。

次回は、もちろん舞台は特進市からぶれる事はないのですが、第二部「日本珍事編」って感じです。外部組織が関わってきて色々とややこしい事になります。

そして第二部は今まで結構無視されてきた「学園珍事」の学園部分が強調される事だろうと思います。秋に特進市固有行事を集中させてますし。


では、次回は人気投票結果発表! 投票して下った皆様、どうもご協力ありがとうございました! 今から集計しますので、ここで投票期間打ち切りです!

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