第48話:【C】 しっこく/彼女の為に戦うならば
企画で遅れた上、三人称シリアスの勘が鈍って悲惨な事になりました。また余裕があったら直したいです……。
「お前はここで、行き止まりだ!」
煉斗は叫び、愛――裂黒を大きく振り上げて走る。
「さぁ来なさイ! 死乃裂!」
大して大門は、大きく両手を広げて歓迎するように立つ。
そして二人は激突した。
煉斗が裂黒を脳天目掛けて振り下ろすと、それをさえぎる様に白亜が巻きつく。
「なるほど……さすが意思ある武器って事かよ」
煉斗は振り下ろした体勢のまま片手を離し、コートの中から拳銃を取り出す。
そして、立て続けに三発発砲。狙いはもちろん局長。
しかし、それらもまた防がれる。
どこからともなく現れた白亜より細い鎖が、銃口と大門の間に割り込んだのである。
[煉斗、聞いて]
目の前の現象を吟味し、処理している煉斗の意識に文字が割り込む。
愛さんか、と呟き、大門に前蹴りを入れて距離をとった。この些細な攻撃すら防がれている。
「ンだよ? 裂黒の使い方ァもう分かってんぜ」
[それは基本的なこと。私たちそれぞれの特性ではない]
事務的な口調で、頭の中の愛は話し続ける。
煉斗は大門が放った白亜の一撃を避けながら、その話を聞く。
[白亜には空間圧縮と、ポイントシフトの他物介入がある]
あまりに抽象的な言葉は、裂黒の脳から煉斗の脳に伝わる際、補足説明も同時に流れ込んできた。
空間圧縮。つまり白亜という鎖は見た目に見えるあの一本だけではなく、見えないサイズにまで小さくされた何十本もの鎖の集まりらしい。
そして他物介入というのはつまり、自分を飛ばさずに他の物を飛ばすことが出来る、という事だ。
その二つを合わせる事で、別の場所から適度な大きさの鎖を飛ばすことが出来る。
(厄介だなァオイ)
言葉の意味を咀嚼しながら、煉斗は真正面から飛んできた鎖を裂黒で弾いた。
[例えば観緑は高速演算とポイントシフトの最適微調整。私にも、特性がある。それは、意志の仮物質化とポイントシフトの短演算航行]
裂黒から流れ込む情報を再び閲覧。
意志の仮物質化、これは分かりやすかった。少年漫画の魔法のように「精神力を込めて現象を発生」させるのだ。
ポイントシフトについては、まぁ普段なら位置情報が何などと煩わしい問題を、他のものの位置情報を元にして寄り添うように跳ぶ――らしいのだが、こちらはよく分からない。
戦闘中に長考など愚の骨頂、煉斗は思考を切り上げてとりあえず分かっている機能だけで立ち向かう事にした。
「相談は終わりましたカ?」
「ハ。余裕かましてられンのも今の内だぜ」
固い鉄の床を蹴り、刃を上に向けた鎌を肩に背負い、煉斗は走り出した。
もちろん四方八方から鎖が襲い掛かる。だが、煉斗にはそのほぼ全てが見えていた。
電算人体を使うことで生まれる恩恵の一つ、実質一つの事に脳二つ分の能力を使える事だ。
煉斗は目の前に現れた鎖を屈んで避け、そのまま無理矢理にサイドステップ。普通なら足首が耐えられないが、今なら多少は融通が利く。
後ろを向いて回避を確認。振り返る前の記憶から、握ったままだった銃の銃口を大雑把に局長の方へと向ける。そして首を前に戻し、誤差修正。
「――ッ!」
しかし発砲の機会は訪れなかった。横から現れた鎖が煉斗の手元を薙ぎ、銃を地面へと奪い去ったのだ。
しかし煉斗は獰猛に笑う。防がれる事など承知の上、と。
ステップの着地の姿勢から間を空けずに疾走へと切り替える。鎖が次々と襲ってくるが、もう局長が目の前に居るような位置では攻撃範囲も限られる。なんとか避けきる事ができた。
空いた拳を握り締め、大門の顔を目掛けて殴りかかる。
[煉斗、かわされる]
愛の言葉通り、大門は煉斗の背後へとポイントシフトで移動した。
左右から襲い来る鎖。煉斗はかがんで回避し、頭を後ろに倒して大門を睨む。
(ポイントシフト……コッチだって使えない事はないんだ……!)
煉斗が愛にポイントシフトを命令する。
[駄目、通常航行では演算に10秒、短演算でも3秒かかる]
愛が答えた。
(ハァ!? ンなモンで戦えってのかよ! あのミドリヤローはバンバン跳んでたし、現に今、大門だって――)
[観緑は特性として高速演算がある。局長は、貴方の動きを予測していた]
それはつまり、大門は煉斗の動きを把握しているという事。
煉斗は舌打ちしながら、大門を裂黒で牽制して立ち上がった。
「その程度ですカ? 私を倒すのには足りませんヨ!」
大門の声を背中に受けながら、考える。
短演算と言っているそれならば三秒で使える。問題としては、三秒というのがゲーム的な溜め時間ではなく、“移動する三秒前に位置を決めておかなければならない”という事だ。
この能力を知識として知ってはいても、経験として知らない自分ではあまり上手い使い方は出来ない。そう思い、煉斗はとりあえず、それに頼った考えをやめた。
もう一つの能力。精神力を込めての物質化――これなら。
「……愛さん、質問」
[何?]
「必殺技の名前とか叫んでいいか?」
[……………………タイミングを合わせる上では、理想的]
「……沈黙がスゲェ気になるけど、とりあえずサンキュ」
精神力を込めるという行為。思考する事。没頭する事。頭に思い描く。
技を放っている自分というイメージを構築し、裂黒を振る。
「断罪一閃!」
軽い虚脱感と共に、裂黒の先から三日月の光が放たれる。予想していた衝撃は無く、手応えも何も無いままに、音も無く光は進んでいった。
それが大門に辿り着く瞬間、再びポイントシフトが発動。煉斗は視界の端にはためく白衣を見つけ、後ろに回し蹴りを放った。
しかしそれすらも予想の内と言わんばかりに、もう一度ポイントシフトで、大門は煉斗の足ギリギリの位置まで下がる。
(オイオイ、今のはどうなってンだよ? 演算する時間なんか……)
[ポイントシフト前にまとめて演算すれば連続で飛ぶことも可能]
脳内で情報をまとめつつ、煉斗は振り向き、懐から取り出したナイフを投げる。
大門は白亜で防ぎ、悠然と大股で煉斗へと歩く。
二人の戦闘はまだ続く。
***
近江谷 怜哉は第一研究所に居た。
小鳥遊の目的――湊の確保は済ませたので、怜哉は町全体の問題を解決しに来たのだ。
彼は非人道課「不必要悪」の課長、小鳥遊にとっての害悪を何よりも優先して消去する者。ただ原因の殲滅を目指して、それぞれ両手に一丁ずつ拳銃を持ち、長い廊下を進んでいた。
そして曲がり角。
『どうも、小鳥遊の使者』
声が聞こえた。
反射的に拳銃をそれぞれ別の方向にむけ――肉声ではない事に気づき、警戒を緩める。
「如月の……大門ではないな」
『あぁ。俺はただの研究者だ。呼びたいのなら真と呼んでくれ』
おどけた調子の声に、スピーカーへと一瞥を向け、怜哉は再び歩き出した。
『つれない奴だな』
「あいにく仕事中だ、他を当たれ」
『君でなくては駄目なんだよ、足止めなんでね』
スピーカーからの声。それに混じり、次は金属音が聞こえてきた。
駆動する音。擦れる音。打ちつける音。
怜哉は一つ舌打ちし、前面に拳銃を構えた。
「お前の台詞は、大門への協力と見なしてもいいんだな?」
『残念、君が録音器具を持っていないことは知っている。もちろん、如月の方も「局長の暴走」で、全消去予定だ』
「何を企んでいる……!」
怜哉の前に現れたのは、全長3メートルほどの四足歩行機械だ。
全体的な印象としてはテーブルが近い。足を駆動させ、色を銀に塗り替え、機銃を乗せれば出来上がりだ。
ただ、数は10を下らない。奥から奥から、次々と駆動音が聞こえてくる。
『企んでいる……そうだな。今お前が行くとややこしくなるからな。あぁ、もう少し時間を空けてくれるならば、ウチの機体は引っ込めるが』
「応じると思うか?」
『まったく』
機銃が唸りをあげて、秒間60発にも届こうかという弾丸を吐き出す――その前に、怜哉が拳銃を構えている片腕を上げた。
そして言葉を紡ぐ。その銃に、祝福を与えるかのように。
【穿て。貴様は弾丸、意味は炸裂。放たれよ】
拳銃からは薬莢も弾丸すらも飛び出さなかった。その代わりにか、銃口のすぐ前の空間が歪む。
歪んだ空間からは銃弾のような何かが飛び出し、そして機銃に命中。爆薬のように、その機械の上方を吹き飛ばした。
怜哉はそのまま跳ぶように走る。
【穿て。貴様は弾丸、意味は突貫。放たれよ】
機銃から炎上していた機械は、再び拳銃前方より飛び出た何かによって撃ち抜かれる。
今度は爆発こそしなかったが、配線が狂ったのか、機械はそれきり動かなくなった。
「さて、5分だ。俺は優しくないからな」
廊下に、機銃と靴の激しい音が響く。
***
煉斗と大門は打ち合いの末、正面から向き合っていた。
お互いが硬直したこの状況、口を開いたのは煉斗。
「どうして、手加減してンだよ?」
怪訝そうに不機嫌そうに、眉をひそめる。
「ンン? イエイエ、特にそんなつもりはありませんヨ」
対する大門は、肩をすくめて答えた。
「馬鹿か、お前の武器でお前の演算なら、ちょうど今でも思いっきり心臓串刺しに出来ンだろが。正直、俺ゃあ18回は死んでたはずだ」
「必殺を使う隙も無かったのではないですカ。すごいですネェ」
変わらない大門の態度に舌打ちし、煉斗は裂黒を構える。
「オヤオヤ、飛び道具が切れたのですカ? 私も接近戦のみに切り替えましょうカ?」
「余計なお世話だ、ていうか手加減してンじゃねぇか」
その音場が会話の最後。煉斗は踏み込み、走る。大門は鎖の片端を投げる。
飛来する鎖、煉斗は裂黒の刃部分を上に向け、それを引っ掛けた。
そのまま鎌を一回転させ、鎖を絡めとる。さらに踏み込み、石突を大門へと突き出す。
「甘いですヨ」
ポイントシフト、大門は煉斗の背後に回った。
「テメェがな!」
しかし、煉斗はポイントシフトを使い、大門の頭上へと飛ぶ。
「毎回毎回、単発で飛ぶ時は背中取ってばっかで、ンなのガキでも気づくんだよッ!」
それすらも手加減の内だろうと煉斗は予想している。だから、わざわざ「作られた」隙を利用する事も、煉斗は苛立たせている一つの要因だ。
しかし、それでも負ける訳にはいかない。
どれだけ理由が分からなくても、どれだけ利用されていても、どれだけ先が見えなくても。
結華を、助ける為なのだから。
「行くぞ、愛さん」
[了承済み。物理変換力は石突へ。その後、刃へ集束]
大門は頭上を見上げ、白亜をかき集めて防御しようとする。
しかし、それよりも先に、煉斗は攻撃の準備を整えている。
「断罪破砕!」
手応えも音も無い攻撃。石突から、広範囲に衝撃波が放たれた。
白亜はその攻撃を受け――防ぎきれず、観緑とまったく同じように、砕けて散った。最後に残った灰色の球体は、大門の肩に当たって床に落ちる。
少なからず衝撃の余波を受けた大門を、煉斗は落下の勢いを利用して、蹴り飛ばす。
「これで……終わりだ……!」
着地。煉斗はそのまま、鎌を頭上へかかげる。
大門に止めを刺すために。大門を、殺すために。
「断罪――!」
唱え、歩く。
一歩、一歩、一歩。歩み一つごとに、その足取りは重くなっていった。
目がかすみ、上げている腕がだるく感じられた。思考がまとまらない。考えられない。
[煉斗、無理はしなくていい。後は大丈夫]
「殺――さ、なきゃ。結華のため、に、結華を、守ら、ないと結華、を」
[意志の変換による虚脱、神経系の異常により脳が手足に誤った情報を伝えている。休息すべき]
「ちゃんと、今度こそ、キチンと、絶対、やらなきゃ。アイツとは違うんだ、僕は、違うんだ、ちゃんと、守れるんだ、アイツとは、アイツ……」
[……止むを得ないと判断する。しばしの失礼を、我が主]
緩慢な歩みは唐突に止まった。電撃を流されたように体が一度跳ねる。
そして煉斗は、前のめりに床へと倒れた。
***
気が付くと、暖かい布団の中だった。見上げると、見知らぬ白い天井だった。
少なくとも、僕は今までここを訪れた事がない。
体はあんまり良い動きをしてくれないけど、動かせないほどじゃない。僕は身を起こして――
「おぉ煉斗起きたかさぁおはようのチューという奴だ遠慮せずにうけとグハァ!」
殴り飛ばした。
「あのなぁ……なンでテメェが居ンだよ?」
僕は――俺は、殴り飛ばした相手を確認する。間違いなく園城だ。
「ぐふぅ……酷いぞ煉斗、俺の布団を貸してやっているというのに……!」
「うわ」
「何故そこで高速で抜け出す!?」
だって、園城だし。
という訳で俺は布団を抜け出して周りを確認する。居たのは、輪末と愛さん。内装はやはり見覚えが無いので、ここは園城の家なのだろう。
「ツーか、俺……何で寝てンだ?」
「ぶっ倒れチック。白衣参上withしろさきプラスアルファ」
相変わらずの輪末の言葉。いきなり言われて理解できる人間は居るのか。
「私がプラスアルファ」
愛さんが理解した!? いやだがコッチも言葉足らずで分からない!
「……まぁ、説明するとだな」
園城がまとめてくれるようだ。助かった。
「俺と輪末は黒椿峰の山で、如月の方の指揮官のような奴を見つけてな。まぁ、色々あったんだが……輪末がその時見つけた人間を死乃裂へと連れて行き、俺がその指揮官を追った。ソイツには如月の第一研究局内で撒かれたんだが、その時にお前を背負った白衣の男が現れてな」
園城は一気に語る。
「このワンピース姿の女も一緒だったんだが……白衣は『二人を頼む』と言って、そのまま研究所へと戻っていった」
園城の説明が終わり、沈黙が落ちる。
真さんも……よく分からないな。何か企んでいる可能性もあるけど、どうなんだろう。
「煉斗、今日から同棲」
真面目に考えている時に、愛さんがそんな事を言った。吹いた。
「何だと!? 俺が許さん!」
園城がそんな事を言った。殴った。
「……で、理由があるんだろ?」
「私は煉斗の所有物」
……いちいち言動が危ないな、この娘。一応は共に死線をくぐった訳だけど、よく考えたらまだ会って一日も経っていない。性格が掴めるはずも無かった。
「父から、煉斗に」
そして、また愛さんが空気をぶった切って四つ折のメモ用紙を渡してきた。
開いてみると、そこに書いてあるのは電話番号といくつかの言葉。
『局長は捕まった。君の目的は達成された。近日、もう一度会おう』
それだけ。やはり、何かを企んでいるのは間違い無さそうだ。
しかし現状、何も分からないのだから、乗ってみるのも良いかもしれない。
大体、愛さんの事だってまだ良く分かっていないんだし。
「煉斗」
横から園城が声をかけてきた。何故か布団に手を突っ込んでいるが、理由を聞くと鳥肌が立ちそうなので聞かずに置いた。
「一応は終わったがな――これからだぞ、辛いのは」
「分かってンよ」
特進市のバランスが崩れた。この好機を狙うのはこの市が目障りな外部機関か、もしくはこの状況を作り出した宇宙人か。もしかすると個人か、再びどれかの町が何かを起こすかもしれない。
だから、強くならなければならなかった。他の誰よりも。
攻め滅ぼす事より、敗走する事より、守る事を選ぶんだから。裏と表の境界を守るために戦うんだから。
そのためには、愛さんだって利用しなければならない。自分を巻き込もうとする企みを、逆に巻き込み返してやらなければならない。
「園城、アリガトよ」
愛さんを手招きし、園城に礼を言って立ち上がる。
「もういいのか」
「当たり前だ」
きっと世界はここから変わる。同級生達も、みんなこの市の意味に気づくだろう。
だから戦おう。そんな状況でも越えてはいけない線を守るために。
さて――これから、忙しくなりそうだ。
これで三人の主人公の話、第一部終了です。
しかし煉斗の方も中々後味悪い終わり方ですね……結局、倒してないし。
後一話、今回のシリアスの後日譚的なもの+αをやった後に人気投票の発表、それを経てようやくコメディに戻ります……長かった、何ヶ月かけてるんだよ僕……。