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学園珍事 ファミリア!  作者: ニコ
一学期
51/66

第47話:【B】 はくぎん/その思いを抱き続けて

自分規定の文字数ギリギリ……なんか今回、書くのが楽しかったです。

「うおおおおおぉぉぉぉ!」


 ファフニール・アクト――一聖は、雄叫びを上げて駆ける。

 一聖は理解した。この形態になった時から、ベルの力と世界の仕組みを理解していた。

 隊長が言っていたファフニールの惑星再生システム、それはつまり“物理法則を思い通りにする力”。

 一聖が理解した事――ニーベルングでもこの惑星でも変わらない神様システムに介入するのがベルの力だ。


「加速度、追加っ!」


 一聖の叫びに呼応し、ベルの力が開放される。

 このやり取りが一聖の理解したもう一つの事。地球では地球人を介さないと能力が使えない。

 神様システムの接続がその惑星の生物でないといけないだのなんだのという事だが、そこはどうでもいい。問題なのは、ベルが一聖の体を介して能力を使うのは限界があるということだ。

 限界=苦痛。


(ウジウジしてる暇はない……とっとと片付けねぇと!)


 思いながら、一聖は加速度を追加したまま地を蹴った。

 先ほどと踏み心地は対して変わっていない、が走れば走るほど銀の鎧越しに感じる風が強くなる。

 しかしそれも一瞬の事。その一瞬で距離を詰めた一聖は、右拳蛮の胸へと突き出した。


「ガァッ!?」


 予想もしていなかった状況からか、棒立ちになっていた蛮はもろに拳を受けて吹き飛んだ。

 打撃音が振動となりビル街を震わす。そして蛮も、そのビルの一つへ。

 吹き飛び、突き刺さる。

 しかしダメージはほとんど無く、蛮は貫いた壁の向こうで高笑いをあげていた。


「ガハハハハ! やりゃあ出来んじゃねぇか北川ァ!」


 そのまま地を蹴り、ビルから飛び降りる。

 ゴウ、と風を切る音。蛮が片足を突き出したのを見て、一聖は両腕を交差させる。

 落下の勢いを乗せたかかと落としを、両腕の交差点で受け止める一聖。

 

「――ッらぁ!」


 そのまま一聖は右足を蛮の振り下ろした足目掛けて放った。

 ゴン、という硬質の音。膝の裏辺りに一聖のつま先が食い込む。


「ぃだ!?」


 しかし悲鳴を上げたのは一聖。その隙に蛮は地面に飛び退る。

 見ると、一聖の鎧――ファフニール・アクトのつま先の装甲にヒビが入っている。

 

「ぎゃは」


 蛮が笑った。


「ギャハハハハハハ! ダッセー! オラ、生まれ変わった俺は“硬い”んだよ! んなこけおどしみてぇなんにやられるかっての!」


 一通り笑う。そして突撃。

 矢のような速度で懐に飛び込んで来た蛮に対して、一聖はカウンター気味に顔を狙う。

 またもや硬質の音。そして、やはり蛮の顔面には傷一つついていない。


「クソッ!」


「ざんねーんむねーん、ヒャッハァ! オッラァ、死ねぇ!」


 蛮の拳が一聖の腹にめり込む。

 なんとか踏みとどまる一聖だが、拳に集中している間に足をすくわれた。――倒れる。

 

「ヒハハハハハハ!」


 殴る殴る殴る殴る殴る殴る。

 無差別に、そして高速で蛮の拳が叩き込まれた。一撃一撃が常人には文字通り必殺のレベル。

 しかし今の一聖には異星の鎧がある。その程度では砕けない。

 吹き荒ぶ土煙の中、突き刺さる拳を白銀の腕が捕らえた。


「やられてばっかで――」


 そのまま体を捻る。

 跳ね上がる体の力そのままに蹴り上げ、そのまま捕らえた腕を肩に回し、


「たまるかよ!」


 叩き落した。

 ほぼ背負い投げのような形で、蛮はアスファルトに突き刺さる。


「ヒハハハハッ! 良いねぇオイ! そんぐらいやってくれなきゃ、コッチとしても面白くない訳よォ!」


 しかし蛮はやはり傷を負わず、倒れたままで笑っていた。

 そしてそのまま地に手を付き、跳ね起きる。


「ヒャヒフハハハハハハァ! えェオイコラ! 殺してみろよ北川ァ! 俺ぁもうテメェラみてぇな下らねぇ人間とは違うんだよぉ!」




 二人の戦いを、ベルは少し離れた所から見ていた。

 ベルはただ、力の仲介地点であるだけで、直接の戦闘力は無い。故に、見守るしか出来ない。

 

「ふぅ、はぁ……はぁ」


 しかし唯一可能な仲介すらも、先ほどの『加速度追加』だけで十分に疲弊ひへいしている。

 やはりファフニールという本体がないと辛い、と思いながらも何か出来る事はないか探す。何か無いのか。敵の弱点や、隙のようなもの。

 しかし見れば見るほどに蛮の攻略法が見つからない、何しろ勝てない理由はただ“攻撃が通らない”という事だけなのだ。

 ――否、攻略法はあるにはある。法則の力を使えば、あるいは通るかもしれない。

 しかしベルがこれ以上の苦痛を受けるのを一聖は良しとしないだろう。使うとするなら一瞬だけ、それ以上は確実に後を引くダメージとして残る。


「どうすれば……」


 座り込むベル。

 唐突に、彼女の肩に軽い感覚。振り向けば、それは女性の手である事がわかった。

 先ほど一聖が受け止めた女性だ。コートは所々が破け、顔にも疲労の色が見られる。


「貴女は……?」


「い、今はそんな事、言ってる場合じゃない、よ」


 どこかおどおどとした調子で言った女は、そのままポケットからタバコを取り出してくわえる。


「あ、これ、禁煙パイプだから安心してね……。私、何か口に入れてないと落ち着かない性質たちだから」


 曖昧に笑う彼女の意図が分からず、ベルは訝しげな視線を送った。

 

「何なのサ、貴女。折角イッセーが助けたのに、逃げもしないで……」


「あ、違うの。むしろ私が助けなきゃいけないの」


 女は笑いながら、ベルとは違う方向に歩いていった。ますます訳が分からない。


「私は黒椿峰の幹部、剛鬼雷神オニガミの桃子。あなた達が誰かは知らないけど、今だけは何も言わずに協力しましょう?」


 やがて桃子は、一つの物の前に立った。

 一振りの薙刀。

 それを拾った瞬間、桃子は変わる。牙を生やし、剛鬼雷神オニガミへと。


「……協力、本当に?」


 その光景を見て、ベルは震えながらも質問した。

 答えは肯定。頷き一つで返す桃子。


「じゃあ、アイツの動きを止めてほしいのサ。一撃必殺、できるから」



                 ***



 隊長は苦戦していた。

 怪獣は六匹程度ではなかった。後から後から、まるで終わりが無いかのように沸いてくる。


「ぐっ……!」


 前から突撃してくる一匹を剣で受け止める。すると背後から真横から何匹かが結託して襲ってくる。

 地を蹴り、宙へと。そのまま剣を地に向け落下。

 一匹を仕留めるが、それだけではまだまだだ。仲間の死体すら踏み越えて、それらは近づいてくる。

 さすがに疲労から剣を落としかけた時、それは巻き起こった。


 まるで、竜巻が駆け抜けたかのような光景だ。


 “それ”が巻き起こった後、怪獣達はどれ一つとして原形を留めていなかった。

 血肉にすら見えない。ただの残骸。徹底的な破壊。破壊という行為の最上級。

 まるで、敵全てを焼き尽くす残虐な核爆弾のような。


「ハロー、宇宙人さんっ」


 隊長が驚愕に目を見開いていると、背後から声がかかった。

 30を過ぎたばかりの新妻といった風情だ。白いマントと威圧感さえ除けば、ワンルームに黄昏ていてもおかしくないだろう。


「……何者だ?」


「この町で一番偉い人」


 へらっと笑い、その女性はパチンと指を鳴らした。瞬間、どこに控えていたのかピアスを付けたスーツ姿の男が現れ、女性の顔についた体液を拭っていく。


「そんな事より、貴方のお仲間が大変な事になってるわよ」


 隊長はハッと一聖の事を思い出し、会話を試みた。自分の鎧とファフニール・アクトの接続。

 しかしそれよりも――その過程で、隊長はある事に気づいてしまった。

 ファフニール・アクトが開放されている。一聖が、ベルと契約した。


「馬鹿な……! あれにはファフニール本体の承諾も要るはずで……いや、そんな事より、地球人が契約だと? クソ、なんだこれは……いきなり、一体、アイツ……事の大きさが分かっているのか……?」


「あらまぁ大変」


 狼狽する隊長に、女性はニコリと微笑んだ。睨み返すが、女性は眉一つ動かさない。

 顔を拭い終わったスーツの男が何処かへ下がり、この場には死骸を除けば二人しか居ない。

 そんな状況、女性が口を開いた。


「私ってね、強いのよ」


 思いもよらぬ一言に、隊長は驚いたように軽く目を見開き、直後何を言ってるんだコイツは、という半眼になった。


「あぁもう――そんな目しないでよ。これでも死乃裂の頂点、核爆夫人ミセスアトミックボムなんだからね」


 歳に似つかわしくない、口を膨らましたような怒り顔を見せてから、女性――核爆夫人は歌うように言った。


「私は強い。“たった一人で人類を滅ぼせる者”の称号、『最強』も持っているわ。伝達回路は光を超え、地を一蹴りでどんな距離でも縮めてみせる。筋肉はほぼ生物外の密度を持ち、一発殴ればビルだって倒せる。でもね」


 そういう強さではどうにもならない事もあるの、と核爆夫人は締めくくる。 

 その言葉を聞いた隊長は、瞳に戸惑いと疑いではなく、敵意を浮かべた。


「もしや、あの方とイッセイを貴様の策略に組み込むつもりではあるまいな」


「初めはそのつもりだったわ、だからずっと見てきたのよ、私ってば目がいいから」


 ビルを――どう贔屓目ひいきめに見ても一聖の家から数キロは離れている――指差しながら、核爆夫人は面白そうに笑った。隊長はさらに警戒を強める。


「でも、今は違う。代役を見つけたわ」


 笑みを深く深く深く。心底愉快そうに。混沌していく状況が楽しくて仕方がないといった風情で。


「『死なない少年』と『なんでも出来る少女』、この二人が私の――いいえ、死乃裂のジョーカーね」


 まるで踊りだしそうに。落ち着いた雰囲気さえ醸す身を童女のように揺らしながら。口を大きく大きく吊り上げて。


「これからが大変。宇宙人と如月町の騒ぎなんて序章でしかない。きっと、外部機関がこの隙を突いてくるわね。さぁ、国家に頭を押えられる状況では、私たち『最強』は手を出せない。今の内、今の内にそれぞれ手駒を集めておかないと」


 隊長は、この女性を危険だと思った。根拠も何も無く、本能が――さらに言うなら、生存本能が叫んでいる。


「小鳥遊、如月、黒椿峰。あぁ、この茶番劇でどこもかしこも戦力を削られているし――“何をどう引き入れるのかしら?”」


 逃げろ、と。

 この女は、人間の皮をかぶった何かだと。生物学上抗いようも無いくらいに上位だと。


「あはははははっ! さぁさぁ、特進市の生き残りをかけた楽しい茶番劇、第二幕が始まるわ! きっと、もう、この市は子供達にすら真実を隠せない! 楽しいわね――やっと全ての駒が動く日が来た! あはっ、あはははは! あぁ――楽しい! うん、気晴らしに外に出てきて正解ね……あはっ、せいぜい頑張りなさい、宇宙人!」


 隊長が意識せずに一歩下がった時、既に核爆夫人の姿消え失せていた。

 


                    ***



 一聖は拳を打ち込み続けた。

 蹴りも頭突きも、およそ自分が考え付く様々な攻撃を駆使するが、蛮はまったく気にした様子も無い。


「うおあああぁぁぁ!」


 裂帛の勢いと共に、正拳が放たれる。

 ゴォン、と鉄の扉が共振したような音が鳴る。一聖の拳は、蛮に片手で受け止められていた。


「ハッ、はいはいその程度デスカ。んじゃ、次は俺の番」


 一聖は離れようとするが、拳を掴まれていて思ったようには動けない。

 そのまま腹を蹴られ、一聖は倒れた。


「がああああぁぁぁ!」


 しかし立ち上がる。既にファフニール・アクトの拳は砕け、素手に近い状態だ。脚部もまた同様に、所々が砕けている。

 

「ひゃはははぁ! オイオイもうやめとけよ。俺ァ今、女が食いたい気分だからよ。見逃したる、ホラ逃げろ。ドウゾゴカッテニー」


 蛮はゲラゲラ笑って、嫌らしく頬を歪めた。


「――うるせぇよ」


 それに対して、一聖はただ、静かに返す。


「ァん? んだってオイ?」


「テメェになんかに、ベルを渡してたまるか。この町を渡してたまるか。好き勝手やらせてたまるか。この世界に、テメェみたいな意味の無い悪意なんて存在させるか……」


 一歩。一聖は確かに歩む。敵に向かって。殴り飛ばすべき、相手に向かって。


「ハイハイご立派。で、何? そんなボランティア精神溢れる北川クンに地球サンがお返しでもしてくれんのかぁ? ベルって奴助けて、んなイイコトあんのかよ」


 顔を上げて、叫ぶ。


「好きなもの守んのに――理由なんかいるか!」


 一聖が叫び、蛮が笑う。

 その瞬間、蛮の頭上で稲妻が吹き荒れた。


「良い答え」


 続いて現れるのは巫女服の上からコートを羽織った女性。

 稲妻の発生地点、そのほぼ真上にまで飛び上げっており――そこから急落下。


「てンめっ!」


 蛮が叫ぶが、その頃には既に間合いの中。女性――桃子は蛮のアゴを殴りあげる。

 

「ぐ――あっ!」


 もちろんその程度でダメージを受ける蛮では無いが、多少の隙は生まれた。

 作り出した隙、その間に桃子は剛鬼雷神オニガミの御神体である薙刀、尾葯びゃくをアスファルトにねじ込み、空いている片手を天高く掲げた。


「私が隙を作るから、君が止めを!」


「お、おう!」


 状況を理解できないながらも、一聖は頷いた。

 瞬間、風が消える。高層ビルが多いこの区画、ビル風が吹くこの区画で。

 

「尾葯さん、無理させてゴメン」


『何を言っておる。風を変換するのは確かに骨じゃが、負荷がかかるのはお前さんじゃぞ』


 桃子は慣れる事のない、決して慣れる事などあり得ない違和感に襲われている。

 まずは頭蓋。ゴキゴキと音を立て、髪の間から一本の雄々しい角が這い上がる。

 口に違和感、牙。その他、全身各所がもれなく盛り上がっていく。

 

「ああぁぁぁあ!」


 そしてアスファルトが割れた。尾葯からほとばしった雷撃は地面を下から噛み砕き、崩壊へと導いた。


「う――おぉ!?」


 崩れゆく道に足を取られた蛮がよろめく。

 それは大きな隙だった。例えば、外す事が許されない大技を叩き込めるほどの。


「誰だか知らんが、サンキュー!」


 礼を言い、一聖は走る。足は大振り腕は後ろに、最も速く辿り着き、最も速く殴り飛ばす為の姿勢。

 この一瞬で、一聖は計算していた。確かに蛮を倒す方法は、ベルの力を使えばいくらでもある。

 その中で、もっともベルに楽であり、蛮を殺さない方法。つまり、北川一聖にとっての理想論。

 理想を守る事だけを考える自分が嫌になり――同時、思いついた答えに歓喜する。

 やっぱ自分に甘いだけなんだよなぁ、心の中でだけ呟き、一聖は正面を見据えた。


「終わりだ! 万山ぁ!」


「だ・れ・が・終わりだゴラァ!」


 蛮の右肩が大きく盛り上がる。想像通りというべきか、それは体色と同じ――紫色の腕だった。

 関節など無いに等しい軟体で、手の平に当たる部分が無く爪が三本。ただし、そのどれもが遠目で分かるほどに鋭利。


「ヒャッハァ! 死に腐れぇ!」


 振り下ろされた腕。狙いは一聖の頭。

 しかしそれは唐突に動きを止める。まるで末期患者のように痙攣けいれんした第三の腕は、そのまま空中で固まった。


「ンだとぉっ!?」


「何だか知らねぇが、これでッ!」


 ほぼゼロ距離、額を寄せ合うように密着する二人。一聖の左腕は、今までと同じように腹にめり込んでいた。

 しかし、違うのは考える事だ。一聖は、頭の中で唱えた。


『下方からの斥力、一聖に限定し追加』


 物体が常に退けあう力。それを使い、文字通りロケットのように跳ぶ。

 ビルを追い越し、周りはひたすら青く、雲を目前とした場所。そこまで辿り着いた。地上何千mかなんて知りやしない。

 だから、ここですべき事は。


「宇宙人なら死ぬかどうかは五分五分だが――空気の無い所で反省して来い」


「な――!」


 お互い密着しすぎて表情は見えないが、絶句といった様子の声だけは聞こえた。

 

「ま、待て! 俺はまだ、まだ何にもッ! 金も、女も、まだ全然ッ! まだ、まだぁ――!」


 蛮の懇願を無視し、利き手である右を後ろに引く。狙いは顔。

 そして一聖は、頭の中で一つ唱えた。


『期間は二秒、一聖の体に働いている力のベクトルを右手に集束』


 きっとこれが最善。もっとベルを労わる事もできたかもしれないし、蛮だって確実に助ける事が出来たかも知れない。

 しかし、一聖が考え付く限りの最善がこれだった。

 頭の中の苦悩をとりあえず押しのけ、一聖は右手の力を解放することに決めた。


「大気圏外で、頭ァ冷やしてきやがれ!!」


 そして志乃崎町の上空で、歪な鐘の音のような音が鳴り響いた。

 暗く冷たい星空に旅立った影が一つ。慣性に従うまま、焦がれた地上へ戻る影が一つ。

 どちらがどちらかなど、説明する必要すらない。



                    ***



 ベルは気絶していた。度重なる能力の使用による疲労だろうが――まぁ、おそらく軽い方だろうと彼女は判断する。

 彼女、北川 ひじりは。


「まずは、愚兄を救って下さった事に対しての感謝を述べておきます」


 身にまとうのはメイド服。今の彼女は仕事中。内面の様々な感情を押し殺して、ただ機械のように淡々と。

 聖は、傍らに立つ桃子に頭を下げた。


「う、うん、気にしないで。私だって、助けてもらったから」


「それは何よりです」


「うん――貴女も、お兄さんを助けられてよかったね」


 そう、それは幸運だった。

 聖は志乃崎町で起きている異変の調査の為に、小鳥遊にとって重要であるはずの出来事から抜け出してきたのだ。

 そこで一聖を見つけ、見つからぬように見張っていればこの事態だ。意味が分からない、が、今は私情を挟まない。

 とりあえず、小鳥遊流武術の基本思考、『体の要点を知る事』を応用したワイヤー技術を開発しておいて正解だった、と安堵する聖。


「あの……その服、小鳥遊町の方、ですよね?」


「如何にも、そうでございます」


 また一礼。仕事中だから。


「あの……彼の処遇は、黒椿峰に任せてもらえませんか?」


 聖はその言葉の意味を考え、それがいいな、と思った。

 小鳥遊町が保護し自分の事を知られるよりはよほどいい、と。


「はい。では、お嬢様にはそのように伝えておきます」


 そして聖は、静かに立ち去った。

 人形のように機械のように、用件だけを済ませて淡々と。


「……待ちましょうか」


 桃子は独り言を呟き、ベルのそばに座った。

 ビルは壊れ、アスファルトは剥がれ、酷い有様だ。だが、一聖の守りたいものはなんとか守れた。

 そして、一聖は落ちてくる。もしかすると受け止めなければ危ないかもしれない。

 桃子は立ち上がり、一聖の元へ向かおうとして――ふと、その寝言を聞いてしまった。


「ん……にゅ。イッセー……」


 それは、数千年生きた者が久しぶりに発する、信頼と親愛を込めた名前の呼びかけだった。




後書きというか、戯言。暇な人だけどうぞ。


ファフニール・アクト、実はアクトの部分は結構適当だったりします。ノリです。気分です。

ちなみに原案は「怪物だろうがなんだろうが素手で戦う主人公、巨大化したり巨大ロボが来て、やっと変身できる」とかいうよく分からない話でした。

巨大ロボを人間がバッタバッタ殴り倒すアクションがやりたかった時期がありました。そりゃもう唐突に思いついて唐突に書いて、ロボットの描写が下手だという事に気づいて泣いた作品です。

……さ、痛々しい晒し話はここまでにしましょうか(笑)


シリアスも後もうちょっと、投票発表もあともうちょっと。

では、また。

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