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学園珍事 ファミリア!  作者: ニコ
一学期
49/66

第45話:【B】 ファフニール

今回も今回とて文章が微妙です、いつも以上に。

というのも、自分は一応一話につき5000文字程度と決めているんですよ。大体決まってた方が読みやすいと思うので。

いやそれで……今回は書き込みたかったんですが字数が足りず、こんな感じです。久々の更新なのにスイマセン。

 北川ネットワーク、などと呼ばれるものが特進市にはある。

 もちろん正規の名称などではなく、街の若者達の間での通称だ。

 これは一聖が人助けをする内に自然と出来た「北川一聖と彼に賛同するものの連絡網」のようなものであり、若者間での厄介事は必然的にこのネットワークへと届くようになっている。

 そして、それはもちろん一聖へと届くという事で――


「なんだこりゃ?」


 丁度家を出たところ、一聖はメールの内容を見て首をかしげた。


「どーしたのサ?」


 横からはベルが覗きこみ、その近くでは隊長が首をかしげている。


「い、いや……メールが着たんだけどな、変な内容なんだよ」


 差出人は、志乃崎町の裏路地によくいる20代前半の男、一聖の記憶が確かならパチンコ店でバイトしていた人間だ。

 軽い詐欺にあってた時に助けたんだっけかなー、と思い出しつつ、メールの内容を再び確認する。


『化物が出たとかガキが騒いでる。頼めるか?』


 ガタガタ騒いでる奴は酔ってるか麻薬中毒者、というのが通例だが、それなら一聖にメールが来るのはおかしかった。

 一聖は麻薬取り締まりなんて大それた真似はできないし、中毒者を見つけても警察に行くように諭す事しかしない。だから積極的に麻薬の相談を受けることなんてありえないのだ。

 それに酔っているだけなら「頼めるか」はおかしい。


「ただ錯乱してるだけ……? 状況がわかんねぇな、どーっすかねぇ」


 一聖が外出している目的は、もちろん昨日と変わらず怪獣の捜索だ。

 下手をすると、地球が危ない。実際はそうでもないのだが、裏世界を知らない一聖にとってはそうとしか思えない。


「行った方がいいだろう」


 と、悩む一聖に対して告げたのは隊長だった。


「確かに妄言の可能性もあるが……もし、本当に化物が居たらどうする?」


 一聖とベルはハッと顔を上げる。その可能性はない事もない、そしてこの状況では唯一の手がかりだ、と気づいたのだ。


「案内してくれ、イッセイ。十体程度までなら人を守りながらでも十分倒せる」


「あ、あぁ……分かった」


 そして、三人は志乃崎町へと向かった。



                  ***



 志乃崎町、そこはそう呼ばれる場所だ。

 規則正しく商店街が並び、下町風情もモダンな雰囲気も歓楽街の煌びやかさも全て包括する、とても美しい場所だったはずだ。

 そこは今、化物たちに踏み荒らされている。


「な――んだよ、これ……」


 商店街の中、目に見えるだけでも6匹の怪獣がうろついている。幸い人は外に出ていないようだが、このままでは建物の中も危ない。

 そんな様子を見て、一聖は呆然ぼうぜんとした。


「感染源が、いるようだな」


 同じくそちらを見ているが、一聖よりかは幾分落ち着いた声で隊長は呟いた。

 そしてその言葉に、ベルは無邪気に首をかしげた。


「かんせんげん?」


「ん、あぁ、貴女は知りませんでしたね。あのエイリアンは原住生物を食って、その性質や記憶をコピーするんです。そうなれば他とはもう見分けはつきません、そのまま同じ姿をした生物を――食い続けます」


 一聖は事前に聞いていたが、それでも許せる訳ではない。奥歯をギリっと噛み締める。

 

「なぁ隊長……ここにいる連中、もしかして全員食われた人間か?」


「そうとも限らん。他の生物を食う場合もままあるのでな」


 それでも、それらは人間かもしれない。

 殺せない。殺したくない。駄目だこれは。何か分からないけど、駄目だ。何でも、何にも、駄目なんだ。殺しちゃいけないんだ。

 一聖はそのまま、硬直する。大きく目を見開いたまま、青ざめた顔で怪獣を見つめる。


「そんな顔をするな、元には戻せん。……だが、これ以上の感染を止めることはできる」


 隊長に声をかけられて、一聖は青ざめた顔のままそちらを見やった。

 真剣な表情で、隊長は言う。


「食って感染させられるのは、初めの一人だけだ。イッセイ、探してくれるか?」


 ゆるゆると縦に首を振り、そのまま弱々しい顔で一聖はは問う。


「お前、は?」


「ここにいるエイリアンを排除しながら進む。イッセイはその方を連れて、逃げながら進んでくれ」


 力強く隊長は答え、そのまま剣を抜く。そしてベルを振り返った。


「通信機のようなものはありますか? お互い、連絡が取れた方が有利ですし」


「ん、わかったのサ」


 応えたベルは、髪の中から金属状の物体を取り出す。シュールな光景だが、一聖は全然笑えなかった。

 取り出したもの、それはベルが宇宙人だということを証明する為に取り出した、件の変身ヒーローのようなベルトだ。

 それを見て、隊長は驚きに目を丸くする。


「ファフニール・アクト……そんなものまで持ち出していたのですか」


「備えあれば憂い無しなのサ」


 居候はいそいそと一聖の腰に、ベルトを回した。それは何故かピッタリと腰幅に合い、そのまま綺麗に繋がる。

 

[イッセイ、聞こえるか]


 そして急に、一聖の頭の中に隊長の声が響いた。


[ッ!? なんだこれ!?]


[慌てるな。あの方を通して一種の共鳴状態になっているだけだ。この状態ならば、よほど離れない限り伝心が可能だろう]


 理屈は分からないが、そういうことらしい。一聖は理解を諦め、とりあえずやるべき事をやろうとした。

 人が死ぬのはショックで、そして今も納得できていない。でも、そんな事を考えるのは後回しだ。

 まずは、一人でも犠牲者を少なくする事――それが最良だという事に、一聖は気づいていた。

 足取りは重く、しかし確実に、一聖は歩みだす。



                   ***


一聖とベルは走る。


「おい、ソイツ、どこで見たって言ってる!?」


 そして一聖の方は、走りながらも電話をしていた。相手は、先ほどのメールの送り主だ。


「あぁ、そっか。あんがと、あぁうん。またなんか奢るからよ。じゃな」


 一聖は通話を切り、ポケットの中に携帯電話をしまう。そしてさらに速度を上げた。


「い、イッセー! どこにいるのサ!?」


「多分……この角を曲がった辺りだ」


 一聖はやり取りしながら、全力で走った。もう曲がり角は目の前だ。

 と、丁度一聖が角を曲がろうとした時、


 巫女服姿の女性が、恐ろしい勢いで飛んできた。



「ッ!」


 一聖は驚きつつも、両手を胸の位置まであげて受け止める。

 女性の顔を覗きこむも、どうやら気絶しているようでまぶた一つ動かない。


「あーあーあー、おっもしろくねー」


 女性の様子を見ていると、その向こう側から声が響いてきた。

 これをやったのはお前か、と一聖はキツイ眼で睨む――が、すぐにそれは驚愕に変わる。


「な……お前、なんだお前?」


 そこにいたのは紫色の怪人だった。まるで敵だと全身で主張しているかのような。まるで存在が暴力だと全身で宣伝しているような。それは怪人だった。

 その顔がいやらしくゆがみ、ヤニ臭い口から言葉が発せられる。


「手加減なんかしてんじゃねっつの、この女。くっだんね、あー、雑魚雑魚雑魚だらけっかつの」


 男は一通り呟いてから一聖たちを視界に入れ、すぐに興味を示したような顔つきになる。


「お! 知ってんぜ、お前、北川だろ? ヒハ、ウゼェヤローだってのは聞いてんよ。オラ、ミンチにしちゃる。来いよ」


 一方的に怪人は言い、天に向かって爆笑する。

 

「な、なんだよお前……化物じゃ、ないのかよ……?」


 一方、一聖は戸惑い、立ち尽くしていた。

 敵が人型とは思わなかった。だから、一聖は戸惑っている。敵が人間以外ではないから、一聖は恐れている。


「ん? んー、俺か? 万山よろずやま ばんだ、ヨッロシクゥ。ひっは、職業は人食いでーす、ってなぁ!」


 一聖は殺せない。人間は殺せない。化物ならば大丈夫だったが、人間は殺せない。


「あ……あぁ……」


「イッセー、落ち着いて! 見た目は人間でも、もう手遅れなのサ!」


 ベルの声にも応じず、一聖は後ずさる。

 怖かった。人間を殺さなければ――何かを犠牲にしなければ何かをすることが出来ないという状況が怖かった。


[イッセイ、どうなってる!? 状況を説明してくれ!]


「う、あぁ……」


 全ての人を助けると、自分の思いが否定されそうで。

 犠牲なんて一人もださないという、理想論が崩壊しそうで。

 怖い。


「お? お・ま・え・も・かよ! あー、もうイライラすんなぁったく! 真面目にやれよクソが!」


 そして一聖は、迫る拳にも身じろぎ一つせず。

 次に目を覚ました時には、既に状況は絶望的なまでに変わっていた。


      

                  ***



 怖かったんだ。

 本当の事を言うのが、怖かったんだ。

 だから「みんなのため」とか「それしか出来ない」とか言い訳を言うしかなかったんだ。

 「妹の為」なんていうのも、そりゃちょっとはあったけど、でも、そんなんじゃないんだ。


 世界が嫌いだった。


 裏表があって、全部うそに見えた。汚かった。気持ち悪かった。嫌だった。

 でも、それでも、一つ一つは嫌いになりきれなくて、――あぁ、人間は基本的に好きなんだよ。

 それでもみんな汚い事を考えてるんだって思うと、どうしても全部は好きになれないんだ。

 過去形じゃない、今でも好きになりきれない。人間は好きだけど大好きじゃない。

 だから、自分が正しければいつか全部が正しくなるっていう夢を持ったんだ。

 でも、そんな事を思っている時点でもう裏がある。ただの善人じゃない。

 だから、そんな矛盾を言われたりするのが嫌で、本当の事なんて誰にも言えないんだ。

 この想いが無ければ、きっと北川一聖おれは生きていけないから。

 だから、本当に怖かったのは誰かを殺して博愛主義の仮面が外れる事。

 それと、「正しい殺害」なんてあるのかって事。

 でも、それを考えると化物なら殺してもいいのかって事につながるし、動物や昆虫ならいいのかって事にもつながる。

 分からない。何も分からない。何が正しいのかなんて分からない。

 あぁ――だから、認めてやるよ。今だけなら認めてやるよ。


 北川 一聖は、史上最低の自分勝手ぎぜんしゃだ。



                    ***



 蛮は一聖を拳一つで吹き飛ばし、コンクリートの壁に沈めた。

 そして今、蛮はベルの頭をつかんでいる。


「さっきの女は食い損ねたからなー! お前で味見させてもらうぜ!」


 バクン、と音が出そうなほど口を大きく開け、ベルの肩口に噛み付こうとする蛮。

 しかしそれでも、ベルは身じろぎ一つしなかった。

 ただ澄んだ表情で、目を閉じて微笑を浮かべている。


「あー? ンだ、お前? 死ぬ前のオイノリかぁ?」


「――逃げた方がいいのサ」


 ベルの唐突な一言に、蛮は怪訝けげんそうに眉をひそめる。


「お前じゃ、ファフニールには敵わない」




 少し眠っていた。

 一聖はそう思いながら身を起こそうとして、腹に激痛を感じる。どうやらアバラが何本か折れているようだ。


「なんつー馬鹿力だよ……つッ!」


 腹をかばいながらも、一聖は立ち上がろうとする。貫くような痛みを無視し足をつく、だが途中で夢の内容を思い出した。

 ただの独白、そんな夢。しかしそれは、一聖の心を腹の痛みより鋭く刺し貫いた。

 そして、どうすればいいのか分からなくなった。

 仮面の正義を尊重し、ベルだけ連れて逃げ回るか。

 自分の本心に従って、――いや、この本心に結論は出ていない。


「どうすりゃ……」


 いいんだよ、と言う声が虚空に響く。

 その時、声が聞こえた。


――それでいいのか?


 誰の声かは分からなかったし、幻聴かもしれない。それでも、その声は一聖まで届いた。


――それで、後悔しないのか?


 声は再び響き、一聖の心を打った。先ほどの夢より激しく、熱く。


「あぁ……そうだな。このままじゃ、後悔するよな」


 視線の先にはベルが見える。ベルは、蛮に掴まれて宙ぶらりんになっていた。

 それを見て、一聖の決意が固まりだした。


「この想いが無ければ生きていけない、か。あぁ、それも確かだよな。でもよ――」


 自問して自答して、一聖は足に力を込めた。


「このままじゃ、生きててもゼッテェに後悔するんだよ!!」


 そして、一聖は立ちあが


「……あれ?」


 れなかった。

 蛮に投げられた衝撃か、肩がコンクリートに埋まってどうにもならない。人間の力では到底外せるものではなかった。


「ちょ、ちょっと待て! 折角シリアスだったのにこんな馬鹿らしい理由で参戦できぬとわ! イヤーン恥ずかしい!」


 一聖はジタバタしながら叫んでいる。こうしている間にも、蛮の牙はベルに迫っているというのに。


――よかろう。


 そこで、声が満を持したようなタイミングで聞こえた。

 一聖は暴れるのをやめ、声に聞き入る。


――我が力を一端でも振るうというのならば、一つだけ契約してもらおう。


「な、なんだよ?」


――決して、後悔をすると思う方を選ばぬ事だ。我が力を振るう時は、正直に、やりたいように。それがルールだ。


 声を聞き、一聖はため息をつく。長い長い溜め息だった。

 そして一転、噛み付くような笑顔で告げた。


「俺はベルを助ける! で、この町も、この特進市も! その為に、アイツを倒す! お前が何なのかは知らねぇが……力を貸しやがれ!」


 その大声に驚いて蛮がこちらを向いた時、声がまた、一聖に呼応する。


――ユーザー:北川一聖の承諾を確認。アダプタ:システム・ニーベルングの認証を確認。ボディ:ファフニールが是認。全過程終了。北川一聖に、システム・ニーベルングとファフニールの全権を移行する。


 そして、一聖は耳元で、竜の咆哮ほうこうを聞いた。



                   ***



 コンクリートを叩き割り、それは立ち上がった。

 人型の機械というのが一番イメージしやすい。大きさも人間大だ。

 両のこめかみ部分から角が伸び、全体に先鋭的なデザイン。

 色はほぼ白銀。関節部の黒やワンポイント程度につけられた青以外は、陽光を照り返す美しき白銀。

 それは、北川 一聖という青年だった。


「手、放しやがれ。万山」


 白銀の中から、少しくぐもった感じの一聖の声が響く。


「……あー、アバラぐらいはイったはずなんだけどなぁ。んでそんなフツーに立ってんだよ」


 蛮が、不機嫌そうに言った。


「イッセー、大丈夫?」


 ベルが、心配そうに言った。

 一聖はそれらに答えるため、一歩踏み出して声を上げた。


「当たり前だ。俺を誰だと思ってやがる?」


 自信たっぷりな声音で告げた直後、白銀――ファフニール・アクトは駆け出していた。

 大事な友人を守る為に。

 そして、敵を倒す為に。





 コメディが恋しいコニ・タンです・もう十分構想はあるのに出来ない悲しさ……。

 あー、シリアスも楽しいっちゃ楽しいんですけど、やっぱ気楽に書けない分、長くやってるとコメディが恋しくなります。

 しかし残るはあと3話! しゃー、やるぞー!


 ファフニールはロボットですが、一聖のこれは変身ヒーローです。いやもしかしたらこれがロボットなのかと間違われたらあれなので(笑)

 一聖にはこういう、ぶっ飛んだ感じの“科学”を担当してもらいます。


 気づいた方もいると思いますが(というかほとんどの人は気づいてると思いますが)、それぞれのルートで題名にこだわってます。

 Aは「〜〜は〜〜て」。Bはカタカナ。Cは四文字熟語(?)。Dは英語。

 何故ここでこんな話題かというと、それぞれの最後の話ではこの法則を崩す予定なんで、なんとなく言っときたいなー、と(笑)


 では、クロスオーバー小説も同時進行の時に軽スランプなコニ・タンでした。いやもうほとんど治りましたけど。

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