第43話:【C】 死神境界
更新遅れてすいません。企画にテストで手一杯でして……。
煉斗が寝ている場所は、硬くて冷たい手術台のようなものだった。
その上で、煉斗はゆっくりと目を開く。
「……ここは」
「如月町第一研究局内一般研究員寮」
ポツリとした煉斗の呟きに、本人も期待していなかった答えが返ってくる。
「あ? なげぇ、聞き取れねぇ」
「つまり、お前は俺に助けられたのさ」
煉斗は面倒くさそうに声のほうに顔を向ける。そこにいたのは、髪をボサボサと四方八方に跳ねさせた白衣の男だった。
「始めまして白咲 煉斗、俺の名前は一谷 真だ」
と、白衣もとい真が頭を下げてくるのを、煉斗は胡散臭そうな目で見つめる。
「内部協力者……だったな。で、お前が一谷 真だっつう証拠は?」
「俺を疑うなんてひどいですですよ」
言って、真はニヤリと口の端を持ち上げた。
「ンだよ、風香ちゃんから俺のこと聞いてンのか」
「それはもう、な。最近はお前の話題で持ちきりだ。婿に来い」
なんというか、唐突な申し出に煉斗は硬直した。
煉斗は鈍感ではない。彼自身、風香の好意に薄々気づいてはいた。
しかし……
「彼女が居る、だから無理だ」
「そうか」
アッサリと引き下がる真に、煉斗は肩透かしを食らったように呆ける。
その間に、真は部屋に備え付けられてある冷蔵庫からペットボトルを二本取り出して、さらに棚を漁りだす。
「なんつーか、アッサリ引き下がるのな。もうチョイしつけぇかと」
「あぁ、わざわざ気持ちを曲げても長続きしないからな。……ただし、振る時はキッパリ理由付きで言ってやってくれ」
そう言って、煉斗へと放物線を描くようにペットボトルを放ってきた。スポーツ飲料だ。
もちろん取り落とすなんてドジな真似はせず、すっぽりと手の中へ。
「カロリーメイトはどの味が好みだ?」
「チョコ」
「気が合うな」
棚を漁っていた手を引き出し、そのままの動作でそれを投擲。煉斗も同じように受け取る。
カロリーメイト、フルーツ味だった。
「…………何故」
「俺がチョコ味を食いたいからだ」
ちなみに、真の手の平にも一箱収まっている。
大人げねぇ奴、と呟いて煉斗はペットボトルのふたを開けた。
「さぁて、ここからは質問タイムだ。聞きたい事を聞け、答えてやる」
真は器用に両手と壁を使ってふたと箱を同時に開けつつ、煉斗に言った。
その言葉で、煉斗は自分の置かれた状況を思い出した。とりあえず現状把握に努めようとする。
「さっきの奴は?」
「お前が壊した」
「……壊した?」
早速、話の分からない部分が出てくる。「殺した」ではなく「壊した」。
「つう事は何か? あれはロボットとかいうオチか?」
煉斗の訝しげな視線を、スポーツドリンクを飲んで受け流しつつ、真は口を開いた。
「ロボットというかな……俺と局長、人工知能系はかなり得意分野なんだ。世界で始めての“きちんとした”メイドロボは俺と局長の二人で作った」
「マジ!?」
「もちろんドジッ娘機能搭載だ。さらに言うならロケッ○パンチやアームキャ○ンなんかもよりどりみどり!」
「スゲー!」
「現在もここ、第一研究局で大絶賛稼働中!!」
「見てー!!」
二人は横道にそれて盛り上がった。なんかもう周りがどうでも良くなっている感じで、二人は話し続ける。
なんというか、フィールドが出来ていた。第三者がいたならば、二人の周りに結界めいた何かがあるように思えたはずだ。
と、煉斗はあることに思い至る。
「アンタ、もしかして……!」
「ん?」
「……好きな属性を答えてください!」
「ツンデレだ!」
「ゲームはやりますか? また、どこまでやりこみますか?」
「完全制覇に決まってんだろ!」
「ネットゲームはやりますか?」
「こちとら大学院生だ! ヒキコモリ研究上等の中の清涼剤! もちネカマプレイ!」
「将来はどうするつもりで?」
「働いたら負けだと思っている!」
「仲間だーっ!」
二人の周りの空間が、より濃くなった。一般人には半分も理解できない会話の応酬が続く。
「やっぱあそこでアレは無いですよねー……なんで前話の展開をぷっつり切るのかと」
「やっぱあの会社は駄目だな、アニメ化すると聞いた時から駄目だと思ってたんだ」
「原作はいいんだけどなー……ていうか、五巻からのキャラ、ほとんど出てないってどういう事だよ」
「あぁ、メインヒロインばかり押しすぎだ。しかもあのような安易なエロ展開など……!」
二人はとても熱く語っていた、むしろ暑かった。多分体感ではない温度が3度ほど上がっているだろう。
その熱く議論している当の二人は気づいていないが、いつの間にか彼らの近くには少女が居た。
短い黒髪にワンピースの少女、煉斗をここまで運んできた人物だ。
「…………父」
少女が小さく、しかしはっきりと通る声音で言葉を紡いだ。
シン、と二人は静まり返り、数瞬後に真が少女に振り向く。
「あ、あぁ、どうした“愛”?」
愛。煉斗の耳がその言葉を捉えて、そして携帯のMMORPGの事を思い出す。
いつもプレイしているネット内の友人につけたあだ名――しかしそれほど珍しい名前でもないと、思考を打ち切った。
「あぁ、そうだ。煉斗くん」
「はい?」
しかし真は、煉斗の思考を見破っているかのように
「娘に名前を付けてくれてありがとう」
他愛のないはずの思考を、肯定した。
「…………え?」
煉斗は硬直する。「愛さん」と現実で会うことになるとは思わなかったし、それ以前に何故こんな所に、と。
少女、愛は無言で佇み、煉斗は理解が追いつかずに動けない。
その中で、真が口を開いた。
「この少女は俺と局長が造った物だ。型番は電算人体五号――唯一、俺が一人で手がけた作品さ」
***
電算人体。それはつまり、科学でできた魔道書だった。
違う所と言えば、収納時は書物ではなく電子情報になる所、らしい。
「マルパクリだよね、それ」
「なぁに、この分野なんかはどうしても遅れがあるからな。仕方ない事だ」
何らかの目的の為、如月町はコレを作ったらしい。いや――これら、を。
「一号が先ほど言ったメイドロボ。二号は今、黒椿峰を攻めているはずの青衣。三号は、お前が倒してしまったアイツだ、観緑という。そして四号、局長の側近である白亜」
「で、僕の前の前にいるこの子が五号――」
「裂黒、というのが当初の名前だったんだがな。愛という名前が気に入ったらしい」
局長の助手をしていた真が、最後のナンバーとして作ったのがこの裂黒。
「少し前まで、裂黒の構成情報は不安定でな。暇潰し、というより見聞を広めるためにもネットワークと接続した機器に入れておいたのだが……」
「つまりはそれで僕と出会ったんだね?」
***
ある程度の会話が終わった時、スポーツ飲料も空になっていた。
煉斗は元の手術台のようなベッドに座っており、真は事務椅子へ、愛はその場で変わらず立ち尽くしていた。
「分かんないよな」
煉斗が口を開いた。
「一緒にそんな研究までした局長をさ、どうして真さんが裏切るんだよ?」
煉斗の疑問はこれに尽きた。他の事は納得できるレベルだとしても、真が裏切る理由が分からない。
「局長の頼みだ」
答えは速く、簡潔だった。
「頼み?」
「それ以上は言えない。一応、お前に情報を横流しされても困るのでな」
ニヤリと笑って、真は言う。そしてそのまま続ける。
「煉斗くん、局長を倒せ」
確信的なその言葉。煉斗が請けると分かっているようなその口ぶり。
だが、煉斗にそのつもりはない。
「僕は陽動だ。局長は妖怪たちが何とかしてくれる……それに、僕じゃ敵わない」
煉斗は、死乃裂は死乃裂でも血を重ねる事を目的に生み出された死乃裂では無い。ただ、片方の血が混じっているだけの人間だ。
出来損ないの魔術師のように、彼は自分の無力を自覚していた。
ただし、自覚しているだけで受け入れているわけではないが。
「妖怪では止められない。君だって魔道書の特性を知らない訳じゃないだろう? それに、電算人体はさらに厄介な力もある」
煉斗の魔道書についての知識はそれほど多いわけではない。しかしそれでも、その有用性は知っている。
持つだけで身体機能超過。武器化し、魔力を形として乗せられる。さらに、それぞれに設定してある魔法も使える――と、素人が持つだけでも十分戦力になってしまう。
「厄介な能力……存在移動……」
観緑が使っていた移動法、ポイントシフト。煉斗の見る限り、あれはほとんどワープのようなものだった。
「そう、あの能力に対抗するにはさらに大きな力か、同じ力かしかない」
コクリ、と愛が頷く。
それを見て、煉斗は真の言っている事が、言いたい事が理解できた。
「僕に愛さんを使えって……そういうこと?」
真は頷く。
「調整も何もかも、煉斗くん用に済ませてある。武器化すれば君に戦闘方法をダウンロードする事も出来る。どうする? 君が決めることだ」
敵の兵器を使って、敵を倒す。しかもその兵器とは、今まで自分の友達だったもの。
自分と黒椿峰を信じて、勝率は低いが安定した方をとるか。自分の無力を曝して、何を考えているかも分からない男のバクチに乗るか。
決まっている。
「――ハハッ!」
嘲笑が口から漏れた。少しでも迷った自分が馬鹿らしい。
例え何が起きようとも、生き抜いて戦い抜くと決めたじゃないか。
それより何より――結華を守る為なら、全てを殺そうと決めたじゃないか。
何を迷う? 「全て」というのは自分もだ。何が起きても、彼女を守る為なら騙されもしてやる。
「オラ、来いよ、愛サン」
なりを潜めていた凶悪な口調が、戻る。目は鋭く、心は決まっている。
昔、強がる為だけだったこの口調は、もう煉斗の一部だ。
ただ強がるだけだった子供が、価値観を壊され、ひねくれて、行き着いた所は殺人鬼。
それでもいいと、煉斗は思う。新しく見つけた自分の守りたいものの為なら、カッコ悪くて凶暴な、誰ひとり殺した事の無い駄目殺人鬼を貫いてやる。
「…………煉、斗」
愛は一言だけ言い、手を差し伸べてきた。
その手を、煉斗は掴み、そして――
***
部屋の中から二人が消え、残ったのは真だけ。
「筋書き通り、だな」
コーヒーを入れながら、ぽつりと呟く。
「局長のシナリオは順調の消化している。後は、俺だけ」
カップに入れたコーヒーを蒸らしながら、真はパソコンが置いてあるデスクの前に座った。
その目は鋭かった。先ほど語っていたことが嘘のように、刃物のように鋭く。
彼の殺人鬼にも劣らぬ眼光で、ディスプレイを凝視。
「さあ、煉斗くんが局長を倒せるか、七分といったところか。そしてそのまま愛は彼に預け――そうだな、まずはその口実か」
狂信というにはあまりに正気で、凶悪というにはあまりに聡明で、機械というにはあまりに理知的な瞳。
彼が見つめ続けるファイルの名称、それは
「さぁ、果たしてみろよ死乃裂 煉斗。人類の悲願を! 君が、その手で!」
“森羅万象”と、そう書かれていた。
***
第一研究局局長、如月 大門は施設内を歩いている。
「ふぅ……あらかた片付けましたカネ、白亜クン?」
かたり、と彼の持っている鎖が震えた。
鎖、と簡素に呼んでしまってはいけないような、しかしそれは鎖だった。
磨き上げられた化石のような、派手な輝きは無いものの洗練された美しさのある表面。両端には楔が付いており、それが武器だということを主張している。
これこそ大門の側近、「電算人体」白亜の武器形態だった。
「さぁて、部屋に戻りまショウ」
大門は施設内に侵入した妖怪たちを迎撃していたのだが、もうほとんどの者は動かなくなるか帰るかしているはずだ。
しかし、そのはずのこの場所に
「コンニチワ、局長サン?」
声が響いた。
「ん? おぉう、どなたデスカ? 今日はお客様を迎えていないはずなのデスガ」
「ハッ、勝手に上がらせてもらってるよ。お邪魔サン」
声は、曲がり角の向こう側から聞こえてくる。
大門は既にあたりをつけていた。これが、誰なのか――いや、誰の差し金で来たのか。
「お前は、俺の守りたい世界を乱す」
声は、調子を変えて耳に届いた。
「普通の人がコッチに来るのはもちろん駄目だけど……お前みたいなのがアッチに行くのはもっと駄目なんだ」
声はもうかなり近い。そろそろ角を曲がるだろう。
「だから、僕は止める。アッチとコッチの境界で、止め続ける」
角を曲がりきった人影を、大門は目に捉えた。
悠々と歩いてくる男は、フードまで付いてある黒いコートを着ている。ここに来るまでの傷なのか、それは所々擦り切れていた。
そして、その手に握られているのは大鎌。草刈り鎌のような小型ではなく、肩に担いで余りある大きさを誇っている。
柄も、刃も、漆黒。黒に黒を塗り尽くして塗り固めたような黒の塊。所々にある金細工が嫌味なく輝いており、融和しない所といえば、刈る時に触れる刃の一部分がわずかに銀である事か。
局長は知っている、それを。それは、自分の部下が造ったモノだ。
「アナタは――」
大門が声を出すが、それをさえぎるように
「だからなァ」
再び凶悪さを滲ませた声音で、煉斗は言葉を紡いだ。
鎌を振り下ろし、告げるその姿はさながら死神。死を告げるカミ。
そして瞳を決意と殺意に光らせて
「お前はここで、行き止まりだ!」
死乃裂 煉斗、行き止まりという殺し名は、大きく吼えた。
決め台詞って、一つあるとカッコイイと思うんですよね。
名乗りも大好きなんですよね。
こういう、なんというか一歩間違えるとダサイ、そんなカッコよさが好きです。
……一歩間違えてなければいいんですが(笑)
文一の決め台詞は序盤「ぶち抜け」(実は決め台詞なんです(笑))、最近出てきた裏は「お前を否定する」。
煉斗の決め台詞は「お前はここで行き止まりだ」。
さて、あとは一聖ですね。どうなるんでしょう?(笑)
企画開催中です、現時点では誰も投稿していないようですが、一応。……ていうか初日で仕上げられなかった……無念……。