第40話:【D】 The life is more terrible than the death
タイトルは「死よりも酷い生」。
ちなみに今回、前半はサブキャラによるギャグ話です、こいつらもこのシリアス終わったら微妙に活躍させますので……纏め作らないと覚え切れませんが(笑)
奥広 斉、俺の名前だ。
で、俺は今、同じクラスの親友、イッセの家の前に居る訳なのだが……。
「留守ですかい……」
おっかしいなぁ、怪獣騒ぎで色々あったってのに、聖ちゃんも居ないってどういう事だ?
小鳥遊の方に避難……って可能性が一番高いか。
やだねぇ、色々と相談したい事があったのに……。
「お、斉?」
ん、誰だコンチクショウ、って……。
「コースケか」
後ろに居たのは奈良 古有介、エセ関西弁の整体師、という謎のパーソナリティを持つ奴だ。
「どうしたんや? お前もイッセん家に用があったんか?」
「あぁ、でも留守みたいだぜ」
それだけ伝えて、そのまま二人で花壇に座り込む。
イッセに相談するつもりだったけど……ま、こいつにも話してみるか。
「「なぁ」」
と、俺とコースケの声が重なった。
「いや、お前先言えよ」
「いやいや、ワイは後でええねん」
「じゃあワタシが」
「「どうぞどうぞどうぞ」」
「ってノリいいね!?」
いつの間にか目の前に居たのは澄々(すみずみ) ムゥ、どこの国かは知らないが日系人でコイツもまた同じクラスだ。
「ってかさぁ、もしかしてムゥちゃんもイッセに?」
「は、はい……北川クンは、いい人ですから」
確かにイッセはいい奴だな……なんでもてないんだろう。
顔は普通、運動神経が良くてまぁ頭は悪いが……あ、エロいからか。
「北川クンはエロくないです!」
「うお! 読心された!? お兄さんびっくりだよ!」
「ちゅうか斉のがエロいわー!」
「えぇい黙れエセ関西人が女子の前でエロとか気軽に言うなー!」
「ワタシは大丈夫ですけど」
「「寛容だーっ!」」
……なんだろう、このノリは。ていうかムゥちゃん以外とノリいいね……。
「まぁ、イッセやからな。どっかで女の部屋に押し入って過ちを起こしてるんやろ」
「…………」
「…………」
「あ、あれ? また外してもた?」
「重い! もうちょっと「どっかで女のケツ追っかけてるんだろ」ぐらいの軽さで来い!」
「あ、ああぁぁぁ……まさかそんな……ワタシ、泊まった時は何にもなかったのに……聖サンが居なくなると理性のタガが外れて……」
「ホラ見ろ! ムゥちゃんが今にも泣きそうな顔で大変な事になってるだろ!」
「え!? ちゃ、ちゃうよな!? 別にワイのせいやないよなぁ!?」
「あなたのことなんて大嫌いです三秒以内に視界から消えてください」
「きっついわ!」
うん、やっぱムゥちゃんはノリいいね。
「んで、結局三人ともイッセに相談か……意外と人望あるな、アイツ」
「そりゃそうやろ。裏切らん男やし」
「です」
うん、まぁ、相談とか頼み事には適任な奴ではあるよな。
「んじゃま、お前らも何か大変な事があるんだろ?」
「ん……まぁ、ちょっと聞いたら馬鹿らしい事やけど……」
「あ、ワタシもそんな感じです」
で、俺もそんな感じ、と。
「……なぁ、もしかしてさ、俺らって同じ事で悩んでたりしないかな?」
「いやいや、さっすがにワイのはアホみたいなことやで」
「でも……もしかしたらということもありますし」
「よし、じゃ、誰も恥ずかしくないようにいっせーので言うぞ」
俺の合図に二人も息を吸い込み始め、そして三人で円陣を組むように向き合う。
「いっせーの!」
「実家のスーパーが実は経済学を学ぶ為の所で、俺がなんか小鳥遊の裏組織みたいなのにスカウトされてると言ったらどう思う?」
と、俺。
「ウチの整体術は古くから伝わった暗殺拳の一種の改良で、ワイはその武術を子供の頃から無意識に習っとる……ってアホな話やろ?」
と、コースケ。
「実はワタシのお母さんが魔法使いで、ワタシにも魔法の資質があるって……まるで魔法少女みたいなお話です」
と、ムゥちゃん。
って、おい、なぁ、これ……。
「ちょっとさ、詳しく話し合わないか?」
「さ、賛成です」
「じゃ、じゃあ志乃崎の喫茶店いこかー……」
なんていうか、皆様スゴイ事情をお持ちで。
***
痛い。
うん、怒らせたのがいけなかったんだな。
初めは殺す気が無いみたいだったけど、いやはや、プロでも怒りで手元が狂うってのはあるんだね。
まぁそんなわけで――俺こと赤坂 響玖は死にかけてるわけで。
あー、痛い。ってか寒い。
心臓が潰されるとこんな感覚なんだろうね、いや実感。
でもさ、一つ質問。
俺――なんでまだ、生きてるんだ?
「あああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」
自分の悲鳴がうるさいが、喉は壊れたスプリンクラーみたいで止まってくれない。
指先がかじかむみたいに感覚が無くなっていって、胸の正確にはどこと分からないけどとりあえず痛い。
俺の胸を貫いているのは布みたいなものだ、今は目が見えないけどさっき確認した。
その布が、伸びた。
で、姫紀に向かっていったから立ち塞がって、この体たらく。
で、心臓が無いのに何故か死なない俺。
「何故……生きているのでありますか?」
聞きたいのはこっちだっての。答える余裕なんて無いけど。
と、叫んでいる時にもう一度衝撃、左腕を砕かれたっぽい。
「ぎ、ぐあああああぁぁぁぁ!!」
声はもちろん出る、そしてもちろん痛い。
でも意識は飛ばない、つまり死なない。
傷口から血は出ていない――と思う。傷口の感覚なんてあてにはならないけど、もう大体出尽くしただろうし。
「こ、っの……!」
何回も、何回も、一度だけで人間は死にそうな衝撃が体を突き抜ける。
実際、俺の体はもう見るのも躊躇うほどの状況になっているはずだ。
なのになんで――死なないんだろう?
どうして、死ねないんだろう?
***
姫紀はそれを見て、思い至った。
自分のせいだ、と。
「……!」
“死なないで”という姫紀の言葉、咄嗟の願い。それのせいで、彼は死ねなくなった。
かといって、体が再生する訳でもなんでもなく、ただ死ねない。なんであろうと、意識だけなくならない。
もう喉を潰されて叫ぶ事もできないけど、彼はまだ生きている。
「……まぁ、とりあえずは諦めるであります。貴方の素性は、後ほど」
急に、布を持った女が姫紀の方へと振り向いた。
「今の最優先事項は、貴女であります」
響玖の体を蹴り飛ばし、女は姫紀の方へと走り出した。
その時――
「こん、にちは」
気の抜けた声が響き、球体が女の動きを阻害した。
見渡せばそこにいるのは輪末 都羽。姫紀とは同じ学年のクラス違い。彼女は指にそれぞれ計10本の紐を巻きつけていて、それの先にビリヤードの球ぐらいの大きさの鉄球を吊り下げている。
それの内の一つが、女の目の前へと振れていた。
【凍れ。我に従え大気よ水よ。宙にて固定。凍れ】
そしてもう一つ、鋭い声が女と姫紀の間に突き刺さる。
そこにいるのは、やはり同じ学園の園城 句朗。学生服の詰襟を着たまま、片手を女へと振り下ろした。
瞬間、女の頭ほどの位置に現れたのは透き通る円柱。魔法によって生み出された氷の柱だ。
それを女は後ろに飛び退いてかわす。
「魔法……小鳥遊でありますか?」
「いや、死乃裂だ。魔法は小鳥遊の専売特許じゃあない」
と、二人は一旦立ち止まり、会話する。輪末はその場で焦点を合わさず立ち尽くし、響玖は声すらなく倒れている。
その間、姫紀は何も出来なかった。何が起こったのかも分からず、地面へ座り込んでいた。
「とりあえず、俺たちの目的はここら一帯の自警だ……一応、やらなければ文句が出るのでな」
「では、立ち去れば何も危害は加えない……と?」
「そうだ。お前が誰だかは知らないが、さすがに二人同時に相手はできんだろう」
姫紀には理解できない会話が続いていく。それは同じ言葉なのに、単語単語が圧倒的に理解できない。
ある種の結界のように、姫紀には近づけない空気が出来ていく。
「……では、一度立ち去りましょう。おそらく、まだチャンスはあるであります」
「どうだかな」
そして、女の周りにノイズが走り、突然消えた。
それを見届けてから、園城は安堵の溜め息を吐く。
「ふぅ……輪末と二人だからな……危なかった」
「うー」
園城の声に、輪末は首だけを動かしてカクリと園城を見た。しかしそれも焦点があっておらず、見ていて少し心配になる。
そんな様子を見て、姫紀はまだ状況が理解できなかった。
そもそも、この二人は敵なのか味方なのか。
「おい、卯月の」
と、考えている内に園城から声が飛んだ。姫紀は慌てて神経を会話へと集中させる。
「助けたいんだろう、アイツ。じゃあさっさとやれ」
園城は親指で響玖を指す。治せ、と。
しかし姫紀には無理だ。何故この男が自分の力の事を知っているのかは分からないが、この力は下手をするととても大変な事になる。
姫紀は首を横に振って、否定を伝える。
「なんだ、もしかして力が無いのか? 冠位十二ヶ月、四月の“卯月”、呪言の家系よ……そんなはずは無いだろう。そこまで重ねた血が、そう簡単に薄れるはずが無いだろう」
園城の言葉は理解できない、まったく理解できない。姫紀は、そんなもの知らない。
再び首を振る、否定。
「……自覚なし、か。まぁそうでもなければ仕事以外で特進市の学校には進学しないな」
「そのしろ」
「分かっている、コイツに恩を売っておくと、後々役に立つ」
姫紀は彼らの言葉を何も理解できなかったが、一つだけ推測できた。
それは、この二人の言う通りにすれば自分の友達が助かるかもしれないと言う事。
「卯月……俺の権限ではお前に方法を教える事はできない。というか、正しく教えられる自信が無い」
それならば、従おう。
自分の友達になってくれた響玖のためなら、危険程度はどうということない。
「死乃裂本社に案内する。核爆夫人の頼んでみよう」
さぁ、さらにゴチャゴチャしてきました。しかし今回のシリアスでの響玖の話はこれで終わる予定です。
あ、ちなみにこれ、ABCDの順不同ですが、基本的に4話ずつで同じ時間帯になっております。
34〜37話が「一日目午前」、38〜41話が「一日目午後」って感じです。