第37話:【D】 He is not HERO
今回は短いです。その代わり伏線をぶち込みまくってます。
さて、文一は刃音にやられ、一聖は真実を知り、煉斗は危機に陥っている訳だが。
ここで一度、視点を外そう。
主人公達から、主人公になりきれなかった者へと。
***
「よ、姫紀。元気かー」
ここは黒椿峰町、西の社と呼ばれる所。
神社を目前にした広い敷地内に、少女と少年は居る。
その二人――卯月 姫紀と赤坂 響玖を見つめ、西の社の管理者である巫女服と隈取りが印象的な少年、黒椿峰 甲陽はひっそりため息をつく。
(「赤坂」……文献を漁っても欠片も正体が掴めない上、殺し名でも無さそうだし……やっぱり、突然変異かな)
殺し名、古くから裏社会に存在する一族は、一般的な姓とは別に“名乗り”のための姓がある。
湯上なら歪、位丸なら喰魔、氷見屋なら斬嫌、そして霜月なら――死乃裂。
もっとも、霜月は有名すぎて殺し名以外にも偽名を持たなければいけない、と甲陽は聞いている。
「ん、そっか。無事なら良かった」
響玖は頷く姫紀を見て、満足そうに笑みを浮かべる。
しかしそれを見て、甲陽はなんとも言えない微妙な表情を浮かべた。
卯月 姫紀を保護したのは、純粋な善意とは言えないとしても、むしろ好意的な事だ。
それはつまりいかがわしい事をするつもりは無く、それ故情報なんてほとんど漏れようも無かった。
だと言うのに、この赤坂 響玖という少年は――組織に属する訳でも、それに特化する能力も持たない少年が――一日でこの場所を突き止めたのである。
理由は友達のため、方法は聞き込み、あまりにも地道な行為の中、彼は正解を短時間で引き当てた。
彼は特殊能力を持っている、「何も無い場所に線を描く」という他愛の無い能力。およそ何の役にも立たないであろう力。
しかし逆に言えば最低限、所持はしているという事であって――そんな能力者には十分警戒しているはずなのだが。
つまりこの少年は、何の助けも借りずに、むしろ常人より不利な条件で、ここに辿り着いたのだ。
(いくら脆弱な能力だって言ったって……突然変異である以上は、どう転ぶか分からない。先の見えない力にこの執念、運を引き当てる事といいすぐに人脈を作る事といい……小鳥遊と黒椿峰の暗部や“最強クラス”にコネのある一般人なんて信じられないよ……)
突然変異、親の遺伝に関係無く振るえる力と言えば、魔法か科学だ。
妖怪と、それ等三種に分類されない力――超能力は遺伝する。血を重ねて強化される。
しかしたまには居るのだ、こういう遺伝無しで超能力を使える人間が。
始まりの人間が居ないと血を重ねる事自体が出来ない以上、ある意味当たり前とも言えるのだが。
とにかく、響玖がそんな人間である以上、彼の子孫が新しい勢力になる可能性すらあるのだ。
その上、小鳥遊の戦闘機関における幹部、近江谷 怜哉、黒椿峰神社北の社の戦力、空井 映恵、さらにはこの場に居る“最強クラス
”認定を受けた最も危険な超能力者、卯月 姫紀。
その三人と深い関わりを持っているのだ、これは扱いが難しい。
と、甲陽が考えも巡らせていると、遠くから銃撃や獣の雄叫びのようなものが聞こえてきた。
戦闘だ、如月町が攻めてきたらしい。
現在、東の社の管理者である湖織は如月の鎮圧に向かっており、南の社の桃子は町へ見回り、北の透に至っては昨日から姿が見えないが、どうせまた女の家に泊まりこんでいるのだろう。
つまりは、黒椿峰霊山に残っている幹部は――央の社に居る“彼女”は別として――甲陽しか居ない。
「ねえ、赤坂さ――」
「分かってる、行けよ」
甲陽の言葉をさえぎり、響玖は笑いながら言う。
少なくとも、表面上は。
「逃げる事に関しちゃ本職にも負けない自信はある。それでいいんだろ?」
「……うん、頼みました」
卯月 姫紀に死なれると困る、それ以前にわざわざ人が死ぬのを見ているわけにはいかない。
それでも、自分が前線に行かないとより多くの妖怪が死ぬ、ここは彼に任せるしかなかった。
『一般人にまっかせっても、だっいじょうっぶー?』
「うん、信じよう」
甲陽は言いながら背中にある弓――西の社のご神体である埜緒に触れる。
「さぁ行こう。ここからは僕たちの戦場だ」
***
第一研究局、局長室。
如月 大門は、変わらずそこに居た。
よれよれの白衣も、ぼさぼさの金髪も、町への反乱以前となんら変わってはいない。
「まったく……私は難儀な性格してマスヨ」
ふぅ、とため息をつく大門。
彼だって、ただ単純に権力が欲しい訳でも、ましてや人殺しをしたいわけでもない。
だから、自分の部下やプログラミングされた兵器、遺伝子をいじった動物類には、きちんと殺しはしないように命令してある。
「…………」
そんな大門の背を見つめる少年は白亜、大門を父と呼ぶ三人の内の一人。
白亜に向き直り、大門は懺悔するかのように、独白するかのように言葉を漏らす。
「一人目は町へと送り、君たちは私の目的に協力させ、五人目は彼に任せました。そして六人目――私の本当の意味での娘になるはずの彼女には、父も母も居ない生活を強いようとしてイマス。私は――父として、失格でショウカ?」
その言葉にフルフルと首を横に振る白亜だが、大門は彼に意見を求めた訳ではない。
この世界に、神様に――そう、自分が科学の最後に行き着いたあの存在に、懺悔している。
神様、とはよく言ったものだが、学を識る者としてはアカシクレコードと呼んだ方がいいだろうか、と大門は少々考えて――下らない思考を中断。
どうせ自分は、今日か明日には肉体的に死滅するか、社会的に抹殺されるか、そのどちらかなのだ。
それでも彼はやらなければいけなかった。
行き着いた者として――行き着いてしまった者として、後は若い世代に譲ろうと。
これは自分の最後を飾るための花道、その花がたとえ造花だろうが血に染まったバラだろうが関係無い。
「……来ましたカ」
正面にあるモニターを見て、大門はかすれる様に小さな声で呟く。
映っているのは正面から突入する妖怪たち――幹部が見えないという事は、あの利益主義の死乃裂は上手くやったのだろう。
そうだ――引退は本気で考えているが、“彼”がもし自分すら追い詰められないというのなら、返り咲くしかないだろう――如月町、自分の名を冠したこの町は、常に先に進まなければ行けないのだから。
「黒椿峰へと“採取”に向かった青衣チャンは無事でしょうカ……」
白亜は頷く、それは肯定ではなく信頼。自分の姉に対する絶対的な信頼。
裏口にも侵入者が居るだろうが、そちらには観緑が居る。
だから大門は、正面から来る雑魚を倒せばいい。
「さて白亜クン、行きましょうカ」
頷く白亜に、大門は手を伸ばし――
***
理解が、出来なかった。
私はあの巫女さんと女装君に助けられ、神社にかくまわれたのだ。
その後、響玖君が来た、嬉しかった。
うん、嬉しかった。
でも、なんでこんな事になってるんだろう。
ねぇ、誰か教えてください。どうしてこんな事になっているんですか?
どうして彼がこんな目に合わないといけないんですか?
どうして私は――こんな時でも、叫び一つ上げる事を許されないのですか?
「か……は、ガ」
「意外とあっけなかったでありますね、少年」
私の目の前には、女性に左胸を貫かれた響玖君の姿が見えた。
赤坂 響玖、実は一聖の代わりに主人公にしようとした時期がありました。
でも、なんというかちょっと、色々とヤバイんですよね、響玖は。
ダークな主人公は文一だけで十分だ、と思って脇役(?)になりました。
例の企画進行中、秘密基地様の仲間募集にて既にスレが立っております(5/26現在)。
読者様で楽しみにしておられる方は居るんでしょうかね?
とりあえず、7月ごろから本格始動の予定です。