第36話:【A】 人殺しは混迷に出でて
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「……オレンジジュースを所望します」
「紅茶はあるかな? あぁいや、市販のボトルでも構わないよ」
「未成年しか住んでいませんからお酒はないですよねぇ。じゃあお水でいいですぅ」
…………。
「あのさぁ……何、アンタら?」
さぁ皆さん、戦闘系コメディ屈指の雑魚主人公と定評のある文一です。あぁはいそうですよ素手だったら一対一でも怪しいですよ。
僕はあの後、散らかったお屋敷内部を掃除していたんですよ。
そしたら、なんか掃除が速く進むな〜って思うようになって……気づいたら魔道結社の三姉妹が手伝ってました。
「何って……メギトス・リーリ「そういう意味じゃないってかベタ過ぎて逆にツッコミずらいよ!」
ツッコむと、むぅ、と唇をへの字に曲げるメグちゃん。はいはい可愛いね。
メグちゃんがそんな事言う性格なのは軽く驚きだが、まぁとりあえずここに居る理由を聞かなければならない。
メグちゃんは×だったし、ローラちゃんは目で「寄らば斬る」って主張してるし、必然的にフロルさんに話しかける事となるのだった。
「フロルさん、なんでここに? もしかして登校→バトルとか迷宮→バトルとかなのか?」
「そんな殺伐とした日常を送る君には同情するばかりなのですけれど、残念ながらバトル→バトルですぅ」
うわ。
何その最悪パターン。バトルで「血が滾るぜ!」って人種じゃないんですけど、僕。
「いえいえ、お話としてはそうですねぇ……まぁ、なんと言いますか……」
そこで一度言葉を切り、申し訳無さそうに苦笑するフロルさん。
なんだか、嫌な予感がする。
「助けに来た、とでも言いましょうか……」
フロルさんのその言葉と、破砕音はほぼ同時に響いた。
音というより衝撃そのもののような、激しい振動だ。
「……っ! 何が、どうなって!」
「落ち着きな、天詩 文一」
「落ち着いてられるか! メグちゃん達は中に居てくれ!」
「だ、だからメグちゃんって……」
メグちゃんの声を気に留めず、僕は外へと走り出す。
玄関ホールまではいささか遠い、走っている間にも何度か振動が続いた。
「クソ、なんなんだよ、こんな時に!」
お嬢様が居ない、一聖も来ていないし、お嬢様が居ないという事は他の使用人たちも小鳥遊本家に居る。
……いや、都合がいいのか。逃げるんなら少人数の方が効率がいい。
頭の中で考えをまとめながら、玄関の両開きドアに手を掛ける。
ギギ、と少し擦れる音が響き、そして視界が明るく――ならなかった。
おかしい。今日は玄関ホールに電源を入れていないから、朝日が入り込んで明るくなるはずだ。
そう思い、顔を上げた。
ロボットがあった。
「…………」
思考がフリーズ。
「…………ロボーッ!?」
あぁ、ごめんごめん、奇声を上げちゃった。
いやでもさ、しょうがないじゃないか。
全長約8メートル、遠目で見ると人型だが、人間よりも少し腕が長い。
そして背中にはなんか戦闘機の羽のようなもの、腰にはお約束的に射撃武器であろうライフル型の何か。
どこのリアル系ロボットアニメやねん。
『小鳥遊へと警告する、警告する! 今すぐ魔法使いを引き渡せ!』
拡声器を介したような音が庭中へと広がる。うんやっぱロボだ。
なんでロボ? いやだってもう魔法とか妖怪とか出てあれもう要りません! どうかお引取りください!
「如月、か。……厄介だね」
いつの間にか隣にメグちゃんが居たり。
「メグちゃん達は中に居てくれって言ったじゃないか、というか如月ってもしかして如月町か、ってか如月町はSFなのかそうなのかっー!?」
「どれに答えればいいのか分からないよ……」
「とりあえず落ち着きやがれ一般人が、と冷静な思考へと戻そうと声をかけてみます」
うわ、ローラちゃんも居る。
二人は僕の隣で悠々と立っている、どうやら予測済みの出来事だったらしい。
いや、そんな事より今は目の前の出来事を片付けなければ。
『警告に応じないというのなら攻撃する! 繰り返す――』
まぁ、とりあえずアレはやっちゃって大丈夫だろう、正当防衛。
で、問題はこちらとあちらの戦力だ。
「えっと、ローラちゃんは僕に負けるほど弱いとして……メグちゃん、戦える?」
僕の言葉に、メグちゃんは抗議の視線を向けてきた。
「……馬鹿にしてるでしょ。魔道結社と言うからには全員魔法が使えるよ。それにね――」
と、僕はあることに気が付いた。
あのローラちゃんが、弱いと言われて黙っている事に。
ローラちゃんが立っている位置に目を向けると、彼女は既に詠唱を始めていた。
【燃やせ。燃やせ燃やせ、我が敵を、燃やせ、火球よ炎槍よ焔鉈よ、燃やせ……】
それを横目で見て、メグちゃんはロボの方へと走り出す。
「ローラは元々、詠唱が長いんだよ。私が最短で、姉様がその中間かな」
と、そのままメグちゃんは女性とは思えない速度でロボの足元に辿り着いた。
『小鳥遊か!? 戦闘行為は敵対とみなす! すぐさま停戦し魔法使いを――』
叫ぶようなスピーカーからの声を気に留めず、メグちゃんは足を軽く開いて右手を後ろへと引く。
どこか引き絞った弓矢を感じさせる、鋭く力強い構えだ。
「魔術師なら、ここにいる」
言葉と共に、引き絞った弓矢を装甲へと。
コン、という軽い音。見た目に反して威力などは皆無だった。
そう――ここまでは。
【衝け】
一言。たったの一言。
それだけで、何の価値も無かった拳に力が宿る。
メグちゃんの腕があった場所から30cm半径の装甲が、見事にへこむ。
てか、詠唱短いって一言かよ。
【火炎狂の蛮勇】
と、それに呼応するかのようにローラちゃんの詠唱が終わる。
メグちゃんは言葉の最初の方で既に飛び退いていて、今は僕の右斜め前1メートルほどの距離にいる。
ドン、という爆発とも衝突とも取れる音が始まりだった。
音からやや遅れるように尖った何か――蜃気楼に揺らめく、真っ赤で細長い円錐が刺さっていた。
そしてそれは内から弾け、上手い具合に周りには被害を出さずにロボを内側から焼き抜いた。
「うわ……ってか、人乗ってるんじゃ……?」
「あぁそこ。ほら」
僕の呟きにメグちゃんは律儀に答え、ロボ(だった溶けた金属片)の後方を指差す。
なるほど、そこには防弾チョッキのような服を着た男が、わたわたと手足を動かして逃げようとしていた。
「見逃していいのか、あれ?」
軽い疑問だったが、その質問にも律儀に答えてくれるメグちゃん。
「いやだってさ――そんな暇はないよ?」
メグちゃんの視線を追うと、そこには先ほどと同系統のロボットが何体か並んでいた。
……うん、泣きたい。
「クソッ! 僕たちもやるぞあか――」
ね、と叫びかけて……その当の本人(本本?)が見当たらない事に気が付いた。
そういえば、今回は冒頭から居なかったような。
…………うん、戦えねぇ。
「あ、あの〜、魔道結社の皆さん? ちょっと僕戦えないみたいで屋敷の中に引っ込んでも……」
と、リーリア姉妹な二人は、うーん、とまったく同じ動作で首をかしげ、しばらくしてからビシっと親指を立てた。
「「頑張れ」」
「こんな時に姉妹連携!?」
二人ともとても爽やかな笑顔だった、見事すぎて叩き割りたいぐらい爽やかだった。
軽く拳を震わせる僕だったが女性は殴れない、そんなジレンマ中にメグちゃんが話しかけてきた。
「とまぁ、それは冗談として、君には電話をしてもらいたいんだよね」
「電話?」
小首を傾げると、その頭に何かが触れた。
携帯電話だ、というかなんというかいきなり携帯電話を持ったフロルさんが真横に立ってたり。
「とりあえず、デッドエンドさんに電話してくださぁい。決行、と伝えれば分かってもらえますぅ」
***
電話終了。
一言で言うと、嫌な奴だった。
うん、絶対友達にはしたくないタイプだな、アッハッハ。
「あ〜る〜じ〜!」
と、その時茜の声が聞こえた、首を巡らすとお屋敷の方から茜が走ってきているのが見える。
まぁ、既に戦闘はほとんど終わってしまっているのだが。
「茜……お前なぁ、今までどこに行ってたんだよ?」
「ちょっと本の整理ついでに私も一緒に虫干しを!」
「お前が本だという事実を忘れかけてた!」
あぁ、そうか。うん、カビが生えるよな、知らんけど。
「でももうちょっと早く来てくれよ……もうほとんど片付いてるぞ」
魔道結社は、圧倒的だった。
メグちゃんが牽制し、フロルさんが誘導し、固まった所をローラちゃんが焼き払う。
三人一組の戦闘において、彼女らはかなりの戦闘力を誇るらしい。
で、残りの敵機はあと一体だ。
「ま、茜。最後くらい手伝うぞ……実際、これがなんなのかも分からんしな」
「了解だよ」
いつも通りに、茜はつま先から指先から解けてページとなり、風変わりなレイピアへと。
握り締め、走る。
そうだ、この事を聞き出すために、一人ぐらい生け捕りにしないとな。
「メグちゃん、後は任せてくれ! あとローラちゃん、頼むから背中から狙わないでくれ」
「分かった」
「チッ!」
今、思いっきりローラちゃんの舌打ちが聞こえた。
そしてまぁそんな事は気にせずにロボへと斬りかかる。
「魔力装填、三刃展開――!」
[久しぶりに戦闘で久しぶりのフル詠唱ー!]
なんか茜がテンション高いが、これも気にしない。
僕はロボに、斬りかか―ーろうと、した。
しかし、それより速く空気を裂く音。
僕の立っている裏側から、誰かがロボを叩き切ったのだ。
人間業ではない、こんな巨大な物を、両断するなんて。
「なっ――!」
しかし僕の予想とは裏腹に、両断された機械の向こう側に立っていたのは普通の人間だった。
闇に染まるような真っ黒な上着を着て、目元を隠すニット帽をかぶっている。
その男が、手に持っているのは斧。作業用などという生易しいものではなく、RPGにありがちな人間が振り回せそうに無い斧だ。
それの端に鎖が付いていて、それを見ただけで僕はこの男が“どうやって”ロボを斬ったのか悟った。
上から斧を突き刺して、そのまま引っ張った。
やっぱり、人間業じゃない。というか、人間じゃない。
「小鳥遊 灯夜は居るか?」
ひどく抑揚の無い声で、男は質問してきた。
「居ません」
答えたのはフロルさん。
僕がこの男の一番近くに立っているというのに、まったく反応できない。
恐怖、自分では――付け焼刃の魔術師もどきでは、この男の相手は刹那の間も務まらない。
「そうか。じゃあ嬢が本家に行ったのは正解だったな」
淡々とした男の口調の中に、気になる単語があった。
本家。行った。
本家には、お嬢様が居て――それで、誰が、何をしに、どこへ、行くんだ?
「…………魔術結社、お前らは小鳥遊の協力者か」
やっと、喉から搾り出すような質問に、フロルさんは首を縦に振る。
「じゃあ、本家を頼む」
自分は本家へ入れない、師走家が目を光らせている。
だから自分は、せめてでも時間稼ぎを。
この男が、お嬢様の元へと向かわないように。
「分かりました」
答えたのはまたもやフロルさん、ローラちゃんとメグちゃんは戸惑いつつも、フロルさんに従って立ち去っていった。
そして、残るは僕と茜、そしてその男のみ。
「僕が、相手だ……!」
その男は、僕を冷めた目付きで睨んだ。
「小鳥遊 灯夜の従者か。なるほど、俺の相手には丁度良い」
何が丁度良い、だ。
と、そのまま訳も分からずいると、男は再び口を開いた。
「始めまして灯夜の執事。俺は死乃裂 刃音……湊の従者だ」
コイツが……コイツが…………コイツが!
――次は私の執事も連れてくることにするわ
これが湊の、執事。小鳥遊 湊の戦力……。
――それまで、貴方に姉様が守りきれるかしら?
コイツを……倒せば、守れるんじゃないか。
守れるじゃないか、あぁそうだ、コイツを、コイツさえ、コイツをやれば――
「うおおあああぁぁぁ!!」
走る、間にある機械の隙間を通り、ただ相手の方へと駆け抜ける。
そして、既に展開していた茜を大上段振り下ろし。
「斬波日暮!」
三刃分の魔力を乗せた斬激、今までの使った中で間違いなく最高威力の攻撃だ。
しかし、受け止められる。魔力刃に斧の刃を合わせ、単純な力だけで捻じ伏せられる。
しかし、ここまでは予想通りだ。自分程度の魔術師もどきが、この程度でこいつに勝てるはずが無い。
「――っ、らぁ!」
そのまま無理矢理体を捻り、回し蹴りを浴びせる。
肘で受けられたが、やはり多少なりにも体勢は崩れた。
一旦離れ、茜の刃に手を当てる。
「魔力装填、四刃展開!」
[あ、主!? そんなに魔力を使ったら――]
分かっている、自分ではこの程度が限界だ。
魔力、それがどんな物かは分からないが、やはり元々一般人の自分では量が少ないのだろう。
だが、それでも、やらなければいけない時というものがある。
「斬撃×斬撃×爆散×発射……!」
四刃の展開、違う攻撃法を掛け合わせる事、どちらも初めてだ。
しかし、こうでもしないと倒せない。全力を出さなければ。
斧を構えなおそうとしている刃音を見据え、茜を居合いの形に構えた。
「斬波黄昏!」
空気を切り裂く音と共に茜色の魔力が茜から伸び――砕けた。
しかしこれで成功だ、砕けたそれぞれは一つ一つが小さな「発射」と同じ形になる。
そしてそのまま、着弾。
刃音は未だ体勢を崩していたはずだ。少なくとも無傷では済むまい。
「……やったか?」
もうもうと立ち込める土煙に目を凝らして――しばらく何も動かないのを確認した。
安堵の溜め息。
しかし、その瞬間。
煙が、断ち切られた。
「え?」
え、と。
その一言を発する内に、懐の中には刃音が。
斧を振り上げる刃音、茜を持ち上げるだけで精一杯の僕。
何も、分からない内に。
天詩 文一は魔道書ごと粉砕された。
***
人格Bの停止を確認――否、休眠。人体損傷30%と判断。武器――停止。左腕部、特に大きな損傷を確認。生体維持を推奨。人格A、起床を推奨。人格B、精神的な損傷を確認。人格Aへ――
うるさい。
あぁ、僕は眠い。
……あぁ? 死にかけ? 僕が?
あぁもう、仕方ないな。
何やってやってるんだ、僕は。
起きるしか、無いみたいだな。
さぁ――始めよう
お久しぶり、クソッタレなこの世界
僕にとって何の価値も無いこの世界よ
ただ誓いを果たすために
僕は僕を脅かすものを、僕を消そうとするものを、僕にとっての不利益を
全て
否定する
はい、10000アクセス突破です。
これも読者の皆様のおかげです、ありがとうございます。
こういう時は記念企画でもやるのが一番なんでしょうけどねー……どうしましょう、人気投票でもやりましょうかね?
最近思うようになりました、作者同士でキャラを交換するのが流行りだから、もうそれだけの企画とか作ったら面白いんじゃないかと。
つまり、何人かの作者(コメディ方面限定)が集まって、自キャラと他キャラを混ぜて短編を書くんです。
……楽しいのは書く方だけかもしれませんが(笑)
という訳で、もしかしたらそういう企画を秘密基地様の方でやるかもしれません。
企画なんて参加した事もないぐらいなのですが、まぁ多分大丈夫でしょう(笑)