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学園珍事 ファミリア!  作者: ニコ
一学期
38/66

第35話:【C】 戦略開始

中間考査テスト中、でもそんなの関係ねぇ!

一人、暗い部屋の中に煉斗は居た。

通話状態の携帯電話を握り締めながら。


『都羽です』


輪末わすえ 都羽とう、煉斗のクラスメイトにして――組織内での仲間でもある。


「出ンのがオセェぞ、まぁだ携帯まともに使えねぇのか、テメェは」


『謝罪、ぺこり』


会話が変なのはいつもの事なので、煉斗は気にしない。


『死乃裂一族』というのが志乃崎町の戦闘機関だとされているが、それは正確ではない。

志乃崎総合商社という隠れ蓑の中に戦闘機関があり、それの頂点が死乃裂一族だというだけだ。

志乃崎の戦闘機関、それは死乃裂一族の一人がリーダーとして3〜5人程度の集団を率いる分隊制度を採っている、そちらの方が色々と動きやすいからだ。

つまり、都羽は煉斗と同じ集団のメンバーなのだ。


「んで、今回は頼みがある。組織ッつうか、ある意味俺個人の頼みだ」


『うー…………』


話し慣れていない人間は理解できないが、これが都羽の返事だ。

煉斗は、死乃裂ではあるがリーダーではない。

彼は、正式な死乃裂一族ではない。

彼らのリーダーは死乃裂しのさき 符弓ふゆみだ、だから煉斗には都羽に命令する権利なんてない。

それでも聞いてもらえた事に、煉斗は心の中で感謝する。


「今日はちっと野暮用がある。監視、俺が抜けたこたァ、上に伝えんな」


『いえす、あい、どぅー』


気の抜けるような発音の英語に脱力しそうになるが、その程度で彼女と話すことは出来ない。

監視、学校=黒椿峰町とそこに通う学生の動向を探る事。それと共に何かあった場合は真っ先に対処する事。

もっとも前者の理由は、リーダーである符弓は参加していない上、メンバーである三人全員が同じクラスに集められているという事はばれているはずだ、それほど重要度は高くないだろう。

問題は後者――つまり、明らかに怪しいこの情勢で、何かがあれば二人で対処してくれと、煉斗は言っている。


「コッチのが俺にゃあ大事でな……頼んだ」


『応援、わーわー』


その言葉を最後に、通話は向こうから切られた。

まぁ、大体の事情は察しているのだろう。

さて、あとのもう一人にも連絡しなければならない。

先ほどとは対照的に、ワンコールで相手は出た。


『やぁ愛しのハニー。如何用いかようだ?』


「アァとりあえず死んでくれれば嬉しいな」


電話に出たのは男、園城そのしろ 句朗くろう


『ふふ、死ねと申すか。いいだろう、その代わりお前の貞操は「やっぱり死ぬな俺が殺す」


まぁ――こういう奴だった。

リアルにホモは笑えない、結華にだけはこの男の性格を知られてはならないと、決意を新たにする煉斗だった。


『軽くジャブな冗談は置いといて……さて、用件を聞こう』


「今のでジャブかよ……。ンでまぁ、用はアレだ。結華の動きを調べて欲しい」


『結華といえば……あぁ、お前の彼女か。まったく、女のどこがいい?』


「せめてそこは『あんな女のどこがいい』と言って欲しかった所だが、まぁツッコまねぇよ」


はぁ、とため息をつく。


「それと今日は抜ける、何かあったら輪末と二人だけで対処しやがれ」


『む、奴と二人……精神的に辛いのだが……』


「まァ、それは否定しねぇ」


『お前が居ないと目の保養が……』


「い・ま・死・ぬ・か? アァ!?」


ガン、と携帯電話を床へ投げつける。

その拍子に通話が切れたようだ。


「アァ……つっかれる……。っと、こんな場合じゃねぇ」


と、電話を切り上げた煉斗は用意を始める。

戦闘の、準備を。

まずは乱雑な部屋で唯一家具らしきクローゼットを開けて、中を探り出した。

次に煉斗が手を引き出した時、その手に握られていたのは黒い布――レインコートのような、真っ黒いローブだった。


「…………」


そして、その首部分ー―同じハンガーに掛かっていたのが引っ掛かって出てきたのだろう――には十字架クロスのペンダント。

キリスト教徒達の儀礼用ではなく、あくまで装飾用の十字架だ。

何の素材で出来ているのか、青白く透き通った硬質の塊が綺麗に彫金されている。

それを見つめて、沈黙。


「僕は、これでいいのかな……母さん」


今はもう居ない女性に語りかけ、しばしの黙祷を捧げる。

と、その途中に携帯電話が鳴った。


(……アァ、そういや魔法使いが言ってたな。“決行”になったら連絡するとかなんとか)


思い当たり、登録されていない番号を映す自分の携帯の通話ボタンを押す。


「アァ、ハイハイ。こちら行き止まりデッドエンド


『あぁアンタで合ってんだな!』


携帯電話のスピーカーは、男の声と様々な衝撃音を伝えてくる。

どうやら取り込み中で、この男は昨日の三姉妹の仲間だろう。


「ンで、決行だな?」


『あぁ、そうらしっ――! クッ、……黒椿峰も協力してくれるらしい』


男はどうやら戦闘中に電話をかけているようだ。

ご苦労サンなこった、と心の中で微妙に労わりながら、煉斗はこの声が同じクラスの"アイツ”に似ていると思い至った。

しかしそんな事はありえない、と再び思い直す。

アイツは裏社会に関わるような奴じゃない、騒がしいせいで聞き間違えてるんだろう、と。


「黒椿峰……ねぇ。信用できンのか?」


『さぁ? 所属してる僕の知り合いは――信用、できるけど、なっ!』


まぁ、仮にそうだとしても煉斗だと言う事には気づかないだろう。

彼自身も自覚している事だが、二重人格じみてるとまで言われる学校での俺口調と戦闘時の俺口調では、声音からまず違う。


『……なんつーか、お前さ、僕の知り合いに似てる気がする』


「アァ、そりゃ奇遇だ。俺もお前に似た知り合いが居るよ」


『オタクでカッコつけで馬鹿で、貧乳萌えとか日頃言ってて、さらに男と女で態度をはっきり分ける嫌な奴だ』


「仕事馬鹿で年下ハンターで苦労性で、お嬢様ラブな、いつでも同じ服着てる変態だ」


『あっはっは』


「あっはっは」


『……お前はいつか殴らなけりゃいけない気がするんだ』


「……そりゃ、また奇遇だなぁ」


二人とも会話は和やかな声で進んでいるが、煉斗の額には青筋が浮かんでいたりする。

これで本当にアイツだったらどうしよう、とか少し思わないでもなかったり。


「さて、まァお互い大変だしな、切るぞ」


『あぁ、そうだな』


煉斗は大きく息を吸い込んで、指を電源ボタンへ置いた。


「ブッ殺す!!」

『死んじまえ!!』


二人分の怨嗟と共に、通話は途切れた。



                 ***



さて、そんなこんなで煉斗は如月町に居た。

さきほどのローブは、死乃裂のリーダーである核爆夫人ミセスアトミックボムの武器「白銀妖精スノウホワイト」の、劣化版だ。

内部に様々な物を収納できる、それを煉斗は普段着の上から羽織っている。

街中だとかなり目立つのだが、ここはもう研究区画なので人が少なくて助かる。


「と、来た来た」


と、煉斗は足音で数人の集団が近づいてきている事を悟った、今日のこの時間帯に物資の搬入は無いはずだから黒椿峰だろう。

煉斗はふっと顔を上げて、そして硬直する。

先頭に立っているのは……湖織。


(な、な、な、なんで幹部が!? しかも四分の一の確率で同級生引き当てちゃった!? 運悪すぎだろ、僕!)


心の中で軽くいつもの調子に戻りながら、ローブのフード部分をかぶり、後ろを向いて顔が見えないようにする。

と、その時丁度湖織がこちらを見つけた。


「あ、えっと……デッドエンドさんですかー?」


「あ、あぁ、そうだ」


煉斗は軽くあたふたする、自分は陽動として動くのであって、同じ役目を持った黒椿峰の妖怪が数匹応援に来る――そう思っていたのだ。

しかし、実際には幹部が一人と十数匹の妖怪(人間の姿だが)、そりゃビビリもする。


「作戦は聞いてますよねー?」


「第一研究局……だろ。頭押えりゃなんとかなるたァ、つっくずく頭が平和に出来てんな黒椿峰は」


「いえいえ、今回は如月きさらぎ 大門だいもんの独断らしいのですよー。まぁ、とは言っても従う人も多いですが、それも勢いだけでしょうねー」


それは煉斗にとって初耳な情報だった。


「……情報源は?」


「如月町第一研究局局員、一谷いちのたに しん


(一谷というと……風香ちゃんの兄って事か。……俺、一谷家と因縁でもあンのか?)


煉斗は適当に指でローブの中の武器を確認しながら、会話を続ける。

色々と聞いておくのは大事だ、別組織である以上、何かあると真っ先に切り捨てられるのは自分なのだから。


「で、ンな大人数で正面突破……つう事じゃないよなぁ?」


「はいー。幸い、大門に協力する兵力のほとんどが別組織への攻撃に出向いているのでー、湖織が裏口から、デッドエンドさんには正面から行ってもらいたいですー」


「一人でか?」


「いえー、三分の一ほどなら連れて行ってくださいー」


「三分のっ……! オイ、えらく豪勢だなぁ?」


「信用してると受け取ってくださいー」


お互い、後ろを向いているので真意は読み取れない。

しかし煉斗は信用できない、もしかすると情報は嘘で、如月と黒椿峰に殺られるのではないだろうか。

疑心暗鬼になりかけた煉斗に、湖織が近づく。

思わず振り向いて構える煉斗だが、湖織はそれよりも速く口を耳元にまで近づけた。


「安心してくださいー、本当に信用してるんですよー……煉斗?」


「な……? テメッ――!」


驚いて懐から取り出しかけたナイフを落とした時、湖織は既に2メートルほど離れて微笑していた。

考えれば、当たり前だ。

黒椿峰はスパイを見破っている=煉斗が死乃裂だと知っている、そして湖織は黒椿峰の幹部だ。

声音が違うと言っても始めから当たりをつけておけば分からないほどではないし、背格好なんかは変えようも無い。


「はぁ……分かってたんなら言えよ、椿」


「すみませんー、確証が無かったものですからー」


と、二人は和やかな雰囲気になる。

いくら戦場とはいえ、見知った顔に会えれば空気は和らぐ。

もっとも後ろの妖怪は、幹部と別組織が話している状況を見て少し不満そうだが。


「では煉斗、始めましょー。……速く終わらせて……帰るために」


「アァ、もちろんだっつの」


二人とも、戦闘用に思考を切り替える、ここから先は戦場だ。

この瞬間、二人は脳が澄み渡り、体の隅まで神経が行き渡り、感覚が鋭敏に研ぎ澄まされた。

今の彼等はアリ一匹の気配すら掴み取れる。

はず、なのだが。


「やほ、皆様お揃いで」


不意に、声が聞こえた。それは誰一人として察知できないまま、この距離まで接近を許した事になる。

比較的対応の早い二匹の妖怪――鎌鼬かまいたち旧鼠きゅうそだ――が、それぞれそちらへと振り向こうとする。

そして、振り向きかけた二匹の首が胴体に別れを告げるのと、ヒュンヒュンという風を裂く音が同時に起こった。

何も分からない内に二人もやられてしまった。

湖織も妖怪もそう思って混乱しているが、煉斗だけは分かっている――いや、知っている。


「テメェ……!」


ギリ、と奥歯を噛み締めてそいつを睨む。

ハート模様が付いたシャツを着ている金髪の女が、五枚の金属板を束ねて右手で持ち、胸元で開いていた。


「やぁやぁ坊ちゃま、おはようございますですよん♪」


死乃裂しのさき 符弓ふゆみが、電柱の上に立っていた。



                  ***



ふかいねむり。


深いねむり。


深い眠り。


わたしは、どこにいるの。


わたしは、ここにいるの。


どこにもいけないの。


もうすぐどこかへいけるの。


わたしは、愛さん。


おともだちが、つけてくれたの。




                彼女は、もうすぐ目覚める。





急! 展! 開!

どうも、今回は前半ギャグに走っちゃったコニ・タンです。


煉斗、色々と正体明かされてきました。

……まぁ、これが全てじゃないですけど。

本来、煉斗は文一よりも主人公らしい主人公です、文一が主人公なのは完全に僕の趣味です(笑)

ストーリーを一番深く掘り下げるつもりなのは文一ですが……まぁ、そこら辺は煉斗も同じぐらいしようと思えばできますし……。

…………。


頑張れ文一!



次回、文一編です。……ちなみに、これと前のと次のはだいたい同じ時間軸です。

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