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学園珍事 ファミリア!  作者: ニコ
一学期
22/66

第20話:遭遇、一聖と少女

……面倒くさい。

どうして俺が、買い物なんか行かなきゃならんのだ。


「はあああああああぁぁぁぁぁ……」


特大級の溜め息を吐くとオバチャンに睨まれた、すいませんでした。

あ、北川 一聖です。今日は志乃崎町のスーパーまで買い物に来ています。

授業が半日であり、今日こそ遊ぶぞヒャッホオオオォォォイ!とか思ってたらふみたんも煉斗も居ねぇし、こうなったら他のめぼしい奴と遊ぶかと思ったらひじりに買い物任されるし……

分かってるよ? 俺は庭師、木が伸びないと仕事が無い=そんなに毎日仕事があるわけじゃない。

そんで聖は実はメイドさんなのだ、俺とは忙しさのケタが違う。


「でもなぁ……ハァ……」


両親も忙しいし、俺たちはほぼ二人暮らしな状況だ。協力しなければいけないことも分かる。

でもさ! なにもこんなパラダイスに遊びまわれる日にはひどいと思うんだよ!!

それでも育ち盛りな一聖君にとって晩飯ヌキは恐怖の拷問な訳で……まぁ、結局いいなりだ。


「まぁ、さっさか終わらすか」


スーパーに到着。さぁて、買い物するか!



                    ***



「ぐ゛わあああああああああああぁぁぁぁぁ!!」


ドカ。バキ。グチャ。


「ぎゃあああああああああああぁぁぁぁ!!!」


バキ。ドン。メキョ。


「うひゃあああああああああああぁぁぁぁ!!!!」


ブチ。ガチャガチャ。ドッカーン。




はぁはぁはぁ……見誤った……まさかタイムセールス中とは……上の効果音は比喩無しですよ?

オバチャンにぶちのめされ=ドカ、そのまま腕をへし折られかけ=バキ、倒れた所を踏みつけられ=グチャ、そのまま決してオバチャンの重量で再び折れかけ=バキ、そのまま蹴り上げられ=ドン、そしてキ○肉バスターを受けて=メキョ、そのまま服の一部が千切れ飛んで=ブチ、ワゴンに突っ込んで=ガチャガチャ、そして何故かドッカーン。

明らかに故意の攻撃が含まれていたのは気のせいだと思うことにする。


「ふははははは! しかし、神は我を見放さず!」


ワゴンに突っ込んだかいあってか、ウインナー(袋のやつ)GET!

…………割にあわねぇ。

安いけどさぁ……キ○肉バスター受けてまで手に入れたのがこれだよ? つーか服一着駄目になったんだよ?


「まぁ……次は生鮮食品に……」


魚のコーナーに目を向ける。


「さぁさぁ! 今日は活きの良いマグロが入ったよ!! 早い者勝ちの叩き売りだぁ!!」


……何故に今日に限って……。

オバチャンたちの歓声が聞こえる、ここはアイドルコンサートですか?

いやいや、別に魚じゃなくてもいいんだ、肉でも……


「牛ブロックが1キロがなんと200円!! 安いよ安いよ! さぁ、買った買った!」


どんだけ叩き売りですか!? 利益度外視ってレベルじゃねーぞ!!

あんな戦場に向かっていくほど俺は戦士じゃない……仕方ない、ここは野菜メインで……


「はい、我が店舗経営の有機野菜農家からの初入荷セール! さぁ! 買った買った!!」


……予想はしてたさ……これがコメディというものさ……。


その日、俺は戦士となった。





「うおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」


迫り来るオバチャン! 不意に現れるワゴンセール! 恐ろしきその魔境を、俺は勇気という名の剣だけを頼りに走り抜けた……


「あんれ〜、一聖じゃないのかい?」


……? なんだよ、人が折角心の中で格好つけてる時に……正直口に出てたかと思って恥ずかしかったじゃないか。


「って、小見さんか」


目の前に居た女性は小見おみさんという、お屋敷の料理長(といっても厨房にはこの人しか居ないが)にして一谷食堂の住み込み従業員でもある人だ。

気のいい40代女性(予想)で、俺とかふみたんとかは良く世話になってる。


……良く考えると小鳥遊ってすごいよな、信頼してるってだけでまったく経験の無い執事、三日に一回ぐらいしか通えない料理長、三流の庭師を雇っちまうんだから。

と、そんな事はどうでもいい、今は戦場だ。


「小見さんはこんな所で何してるんだ――って、聞く意味無いな」


ここに居るという事はイコール買い物だ、それ以外に用があるのは従業員ぐらいだろう。


「いっや〜、アンタもお姉ちゃんに買い物頼まれたのかい?」


「姉じゃなくて妹だけど、用は合ってるよ」


確かにあっちのが姉に見えるけどさ……でかいし、大人しいし。

小見さんは快活に笑い、こう続けた。


「まぁ、一聖! ここで会ったのも何かの縁って事で、ちょっと共同戦線といかないかい?」


それは願っても無い一言だ、小見さんの主婦レベルはここに居る人達を50とすれば100を軽く超える。

つまりは場慣れしていて強いのだ、これで俺にも希望が見えてきた。


「じゃあ……小見さん、行くぜ?」


ニヤリ、と意地の悪そうな笑みで返すと、小見さんはニコニコした目の奥を光らせて頷いた。

俺は前屈姿勢をとる、小見さんはあくまで自然体だが足に力を込めているのが俺には分かる。

アイコンタクトで意志を疎通……3、2、1……


「GO!」


殴り倒せれば楽なのだが、ただの主婦を殴る訳にもいかない。

つーわけで隙間を見つけ……否、予測する。

いくら走ろうとたどり着くには多少のタイムラグが発生する、それを見切る……端から端まで人の動きを読み、押しのける手、踏みつける足の動きすらも計算に入れ、予測した隙間に走りこむ!


「うおおおおおぉぉぉぉぉ! ……あいてっ!」


主婦の中心で派手にぶっこける……だが、もちろんこれすらも策略。

坊や大丈夫かい、と手を差し伸べてくれるオバチャン。

ありがとうございます、と手を掴む俺。

そして、そのオバチャンが動いたことで生まれた穴に入り込む! ……策略通り!


「はいはいはい〜! ちょっとすいませんねぇ!」


小見さんはすぐ近くで声を出しながら通り抜けている。

あのような口ぶりだと何かあると思って避けてしまう日本人の習性を生かした上手い手だ、もっとも恥と道徳を捨てないと出来る手ではないが。


「はいはいはい! ごめんよごめんよ〜!」(分かってるだろうね、一聖)


そのまま手をパンパン鳴らして突破しながら、小見さんはアイコンタクトを送ってくる。

俺ももちろん返す。


(分かってるよ、小見さんは肉コーナーへ。俺は野菜コーナーへ行く!)


俺の視線に分かってるじゃないか、とばかりに目を細めて頷く小見さん。

肉は激戦だ、ここは小見さんに任せた方が良い。

そして俺は比較的人間が少なそうな野菜コーナーへ滑り込む。

姿勢を低く、足の間を通り抜けるように……さりげなくワゴンを動かして通路を妨害することも忘れない。

と、遠くから小見さんの声が聞こえてきた。


「主婦四十八の殺人技が一つ! OBACHANおばちゃんバスタアアアアアアァァァァァ!!」


「さっきのはアンタか!!!」


てかOBACHANって何だよ!?


「四丁目山田さん家前の赤い雨!」


どこだよ!?


おばちゃんカタストロフ・ドロップ!」


最早マニアックすぎて元ネタ分かる人少ないよ!!?

い、いかん……こっちも買い物を急がねば……。


……というか、蹴散らしてもいいのかなぁ……小見さん。



                ***



「あっはっはっは! 助かったよ一聖! 風香が過労で倒れちゃってねぇ、私が買い出しをしてるという訳さ!」


お、終わった……死ぬかと思った……。

俺と小見さんは食料品の分配も終え、今はスーパーの前だ。


「じゃ、小見さん。俺こっちなんで」


「ん? アンタも小鳥遊町に帰るんじゃないのかい?」


「いや、遊びたい盛りの一聖君としてはゲーセンに寄らない訳にはいかないのでして」


ゲーセンの方向を指差して言う。

それに対して、小見さんは呆れたような顔で言ってきた。


「あんまり長く居ちゃ駄目だよ。お肉は生ものなんだからね」


「わかってますよ、そんくらい」


俺としては最近入ったらしい『グールハンター2』をワンコイン出来れば満足だ。

幸いあそこは結構ローテクなので暖房は付いてない、少しくらいなら肉も保つはずだ。


「んじゃ、そゆことで」


「一聖も出来るだけ早く帰りなよー!」


言われなくても、という事で少しだけやるために俺はゲーセンに向かって歩き出した。




の、だが。


「……………………」


道中で見かけたのは銀髪碧眼長身の少女、歳は多分タメぐらい。

髪が尋常じゃなく長いが、それは二重三重と頭の後ろで結びまくっている。

憂いの表情を浮かべたその顔はまぁ整っている方で、髪や目の色と顔つきからしてガイジンさんだ。

アーケードの真ん中でおろおろしている、本当に困っていそうだ。

しかし世の中優しい人ばかりではなく、その上ガイジンさんに話しかけるのは勇気がいるものであり、結果少女を助ける者は誰も居なかった。


(しょーがねぇなぁ……)


誰も助けないなら、俺が助ける。

なんと言ったって、俺は正義の味方志望だからな。


「おい、そこの人」


ガイジンさんに話しかける、が、ちょっと手を挙げただけだったので自分に話しかけられたと認識していないみたいだ。

なのでもうちょっと近寄ってみる。

すると少女がボソボソと呟いている声が聞こえた。


「まさか圏外なんて……これじゃ法則の力が使えない……というよりなんでこんな辺境にこんなゴチャゴチャした惑星があるの……折角逃げたのに……これじゃ生きていけるかも怪しいんじゃ……」


…………?

言葉の意味は良く分からんけど、とりあえず日本語みたいだ。

ちょっと安心、もし通じなかったら子供の頃のスパイごっこで培った魂のボディランゲージしか方法が無かった。

ま、もう一度声をかけるか。


「おーい!」


声をかけられた少女は、肩をおおげさにビクリと震わせた。


「そこまで驚かせたつもりは無いんだけどな……」


少女が首をフルフルと振って、青ざめた顔で後ろに下がる。

……おかしい。

いくらびっくりしたからってこれは……まるで恐怖の対象に会ったみたいじゃないか。


「…………追っ手?」


少女が口を開いた。

追っ手か、と問うてきた。

疑念が確信に変わる。……この少女は、なにか顔も知らない誰かに追われている。

とりあえず安心させなければならない。


「いや、俺は困ってる人を見過ごせないかっちょいい男の子だ」


理解できないという風に後ろに下がり、もう一度口を開く少女。


「…………うそ」


「んあ? どして?」


「…………言葉」


「ジスイズニッホーンゴ」


……あ、ジャパニースって言った方が分かりやすかったか。

つうかなんで日本語使ってケチ付けられなきゃいかんのだ。


「…………ここの、言葉?」


「うん。ここ日本だぜ?」


頭大丈夫か、この子。……いや、追われてるなら大丈夫じゃない可能性もあるのか。

う〜ん、となるとやっぱりっとけないな。


「なぁ君、誰かを待ってるのか?」


少女は横に首を振る。


「じゃあ、この場所に居るのは偶然で別にどこに行っても大丈夫?」


少女は首を振る、今度は縦に。

よし、決まり。


「じゃあさ、良ければウチ来るか?」


「…………どうして?」


少しの逡巡の後、少女の言葉が来た。

本当に困惑している、眉尻が下がって上目遣いでこちらを見上げてきている。


「いやさ、言っただろ。俺は良い人だって。ウチ来たら女の子――妹なんだけど、そいつも居るから着替えなんかも貸すことが出来るぜ?」


幸いこの子は長身だ、聖の服は全部大きめだから全世界の女性にとって大きすぎる事はあっても小さすぎる事は無いだろう。


「…………」


少女が無言で頭をぺこりと下げた。という訳で俺ん家に少女一人ご案内。

ゲーセンに行けなくなったが、俺としてはゾンビにおおわれた研究所で戦うより人助けをする方が楽しい。……そこ、偽善者って言うな。


まぁ、とりあえず事情だけでも聞いておくかな。


「なぁ、あんた。出来ればでいいが、どうして追われてるか教えてくれるか?」


「…………説明するには、少し事情を話さないといけない」


少女はそこで言葉を切って、首を少し傾げた。

どうやら続けて良いか聞くサインらしい、この子は話すのが苦手なようだ。

とりあえず、頷く。


「…………私は、銀河統一連邦認定第23星系……どうして頭の上で手を振ってるの?」


「いや、電波を遮れないかなって」


何だこの子は電波っ娘か!? 

さっき圏外がどーたら言ってたけど、そっちの電波は大好評受信中か!!?

……いや、落ち着け俺。こういうのは熱くなったら負けだ。


「え〜っと……じゃあ君は、自分が宇宙人だって言ってんのか?」


「…………あなたたちから見れば」


どうやらアンテナはきちんと三本立っているらしい、電波さんだった。





 いきなり現れた妹に驚く灯夜、そして湊の言葉に揺れる文一。

 そして別の場所では一聖が銀髪の少女に出会う、彼女の言葉は偽りか、真実か。

 その時、煉斗が居た場所とは? そして出会ったものとは!?

 次回、『訪問、煉斗と一谷』

 全てが始まり、全てが交わる……。



文一「なんかテレビアニメ予告風に定番台詞的なものが付いた!?」

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