第11話:シリアス?いいえ巫女さんです【後編】
タイトルに反して結構真面目な話です。
「えー……何から話しましょうかー?」
現在地、神社。
黒椿峰大社は東西南北と中央にそれぞれ神社があるのだが、ここは湖織が管理している『東の社』だ。
「何からって……とりあえず、湖織何者?」
「巫女さんですよ?」
ふざけんな、コノヤロウ。
可愛く小首を傾げるな、その海賊チックな眼帯が既に可愛くねーんだよ。
「えぇ、とりあえず冗談としてー……って駄目ですね。どうもふざけてしまいます。しばらく仕事モードでいきますよ?」
「ど、どうぞ」
「うん……それを説明するには黒椿峰家の事から説明しなければいけない……」
ギャップが……ギャップがぁ……。
「あ、あの〜、読者さんの都合とかもあるんで手短にしてもらえたらな〜と」
「黒椿峰は退魔の家系、……湖織はその見習い……終了」
短っ!?
『おいおいおい、我の事も話してやれやァ』
あ、忘れてた、この剣の事。
剣は既に僕の手を離れ、湖織が腰に差してある鞘に収められています。
「『東の社』のご神体、狗狐風神の化身、……ただの刀に見えて実は妖怪」
またまた説明短っ!?
「いやいや……妖怪とか何とか根本的な所がわからないんですけど……」
すまし顔の湖織に説明を求める。
湖織は入れてあった緑茶を飲んでから、答えた。
「必要がない」
本当に、まったく一片の揺るぎも無く、まっすぐにこちらを見つめて、そう言った。
「いやいや、僕だってあんな人間食いそうな何かに襲われて適当な説明では納得できないデスヨ?」
「説明をすればそれは巻き込むという事。踏み込むつもりも無いのに知識だけ得たくて後で首が回らなくなるのは文一の悪い癖」
僕のおどけた台詞にもまったく動じず、淡々と、区切り無く、彼女は答える。
「……僕が居なけりゃ、やばかったろ?」
「本気を出せば何とかなっていた。それに……あなたは違いすぎる」
湖織はあくまで淡々と、尋ねられた道順を教えるかのように、諭すように話しかけてくる。
「あれは……殺していないんでしょう?」
内心、ドキリとした。
それが顔に出たのだろう。湖織は優しいのか厳しいのかよく分からない微笑を浮かべている。
「さっきのは妖怪、たとえ殺した所で家畜を殺すことと変わりが無い……といっても、文一は殺せない。いえ、『殺す』という意識を持ってしまったら、貴方は家畜すら殺せない」
「…………」
「悪くは無い、それが少し臆病なだけの普通の人間……湖織達と、『こちら側』と貴方は違いすぎる。なまじ力を持っている分、余計危険……」
「……それでも、僕は一度湖織を助けた……」
「その結果、貴方は死ぬ所だった。禁断の雨○流を使わなければ、どうなっていたかは分からない」
クソ……真面目な話だったのにコメディパートで使った事が響いてきた……。
これ駄目だ……僕が気づかない振りしても読者様的にはテンションがどっちにいけば良いのか分からなくなる……!
「死ぬ覚悟も殺す覚悟もしていない人間は、よほどの実力差が無い限り、死ぬしかない……。今回は、たまたま運が良かった……」
「いやいやいや! きっついっすねぇ湖織さん!」
「…………どうしていきなりテンション高く?」
「いや、さっき微妙にコメディに傾きかけたから……もうどうせならコメディに塗り替えてしまおうと……」
あ、呆れたような顔された。
いや……確かに空気読んでない感じだったよ? でもいいじゃん、二人なんだし!
『おーおー、そんじゃあ、テメェも苦労してんだナァ』
「主はたまに私を人とも思えぬ扱いをするよ……本だけど」
あ、こいつらが居た。
てーか何気に意気投合してんじゃねーよ武器共が。
「ふぅ……もういいです」
湖織が呆れ顔のまま立ち上がる。
「んあ? どうするの?」
「私は今から貴方が殺し損ねた……いえ、情けをかけた妖怪を討滅します。……文句は無いでしょう? 貴方は、自分が殺さなければ何でもいいんですから」
……参ったな、僕の性格ほとんど把握されてるっぽい。
湖織ご察しの通り、僕は善人でも偽善者でも独善者でもないので――本当に、ただ自分に罪の意識があるのが嫌なだけなので、他人が大量虐殺しようと自分に関係が無い限りはどうでもいい。
本当敵わない、とか思いながらも漫画的に頭をぽりぽり掻くのもアレなので呆然と立ち尽くしているだけなのだが。
「……文句は無いけどよ、関わるなって、もし僕が襲われたら?」
「迷わず瑚織に連絡して」
背を向けながら瑚織は言う。
「最近の情勢は危険……言っても分からないでしょうけど。
妖怪の異常発生に加え各地で目撃情報が絶えない宇宙人の噂、この町に限れば“如月機関”の動きも気になりますし、魔術結社……奴らも放っておけないレベルの活動を繰り返しています、そのうえ隣町での連続不可解猟奇殺人事件……これは各勢力ではないまったく別のものですし。
これら一つ一つに必然性は無く、ただの偶然なんでしょうけど……いえ、偶然だからこそ危ないんですね、大元があるならばそれを討滅して済む事ですから。
ですからこの状況……どの勢力でもない文一が入ると余計ややこしい事になります」
饒舌に湖織は裏事情を話している。
それで理解した。理解してしまった。
彼女は丁寧に言葉を選びながら、僕を傷つけないように、こう優しく諭しているのだ。
危ないからこっちに来るな。
やっぱり……敵わないなって思う。
「分かったよ、わざわざ首は突っ込まない。約束する」
「本当ですか?」
「本当です」
「危ない事があったら瑚織に連絡しますか?」
「するする」
そこまで話すと、湖織は安心したように息をついた。背を向けているので分からないが表情もおそらく緩んでいるだろう。
「よかった。……文一、絶対にこういうことしそう……」
「誤解誤解、僕だって死にたいわけじゃないし」
「……ですね。……では、何かあれば絶対に連絡してください」
そこまで言うと、湖織はこちらを振り向いた。
戦闘時の怜悧な表情でも、先ほどの曖昧な表情でもなく、ただ普通に笑って
「文一の事は、湖織が守りますー」
いつものように、彼女は言った。
***
「…………ほんと、良い奴だよ」
湖織は既にここを発ち、妖刀(そういえば名前聞いてなかった)も彼女の腰に収まっていたので、ここには僕と茜しか居ない。
「ねぇ主……もう、私の出番は「茜、お前の知る限りの情報を教えてくれ」
茜が驚いたような表情になる。そんなに意外か?
首は突っ込まないが、向こうから襲ってきたら遠慮なくぶちのめす。
危ない事があったら連絡するが、それは終わった後だ。
揚げ足をとるのって、なかなか得意なんだよね。
「主……どうして、そこまで……。巫女に任せれば全部上手くいくかも……」
「いくかもしれないけど、上手くいかない可能性もある。……町全体が危ないんだろ?」
そこで一拍置き、言う。
「じゃあ、お嬢様を守らないといけない」
これが、僕の存在理由。
あの場所で少女にあってからの、僕の生きる意味。
他人が殺そうが死のうが苦しもうが喜ぼうがどうでもいい。
ただあの人だけには危害を加えさせはしない。
「…………それだけのために? 他の人にも任せられるのに、わざわざ?」
「そうだよ。他の何者を裏切ろうが他のどんな事を犠牲にしようが、僕はお嬢様のためにここに居ようと決めているんだ」
きっと僕の生き様は汚いのだろう。
一つのものに執着し、その他はどうでもいいという考えは、人間以前に生物として腐敗している。
「男なら、自分の決めた事ぐらいは守りたいじゃないか」
それでも、信じるものが無くなり、共に居たいと思ったものを失い、絶望していくだけだった僕が唯一見つけた理由だ。
あの日、壊れそうな人間と壊れた人間が出会った。
だから、壊れた人間は壊れそうだった人間を助ける。
ただ――それだけ。
「主ってさ、本当に無駄に良い人――無駄な部分だけ良い人だよね」
茜が溜息をつきながら話しかけてくる。
「良い人が併せ持つ弊害……その害の部分だけが出ちゃってる感じ。ある意味性根が捻じ曲がった人間よりも性質が悪いかも」
「不服か? こんな持ち主は?」
僕の台詞に、茜は首を横に振ってから恭しく礼をした。
「いいえ、我が戦友よ。これからも、魔道書は貴方の剣となり盾となりましょう……だよ」
顔を上げて、茜はニコリと笑った。
「……ふぅ、朝っぱらからすっげぇ鬱な気分になったな……。学校行くか」
「うん!」
***
『なぁなぁなぁ湖織よぉ、妖怪を倒せたのは良いんだが、我は大事な事に気づいちまったぜェ』
「…………何? 7時半だから……学校には間に合う……」
『我……当初の目的だったニュースを見れてねぇ!』
「…………どうでもいいです」
そして最後はこんなオチ。
さぁ読者の皆さん! どんな顔をして読んだのかな? ハイペースな上にギャグとコメディが短時間の間に入れ替わりまくる文章はさぞ読みにくかったことでしょうHAHAHA!
結華「外道だよ……作者が外道だよ……」
いやいや、わざわざこうしようと思ったわけじゃないんですけどね。伏線をぶち込みつつ、多少のコメディを絡めたらすごい変な事になって、えぇーいもういいや!って感じで突っ走ったらこんな事に☆
一聖(以下一)「ていうかまた伏線詰め込んだな……」
ある意味こっちのが良いかなぁって……読者様にもこの話だけ読めば大体の伏線は分かってもらえるし。
そろそろシリアスをしないと話が進みません、でもそろそろ他のキャラを出さないと消化不良になるかもしれません、しかも用語解説とかも入れないとごっちゃごっちゃしてきそうです。
そんなジレンマの中、次の話の展開のさせ方に悩む作者なのでした。
一「次回もよろしくぅ!」