第10話:シリアス?いいえ巫女さんです【前編】
新キャラ登場!
少女と化物は、正面から向かい合い対峙していた。
「グルルルルゥ……」
3メートルを越す長身に筋肉質な体躯、手足には鋭い爪がついており顔は猟犬のそれに近い。
化物は、分かりやすいほどに化物だった。
「…………」
もう片方は女性としては平均的な身長をした少女。
紅白模様の巫女服を着ており、セミロングの黒髪とのコントラストで色が映えている。
しかし、そんな事など気にもかけないほどに、そんな事など思いもしないほどに、少女は物騒だった。
その手には、日本刀が握られている。
その尺およそ80か90cm、常識範囲内ではあるがそれはやはり成人男性の場合の話で、少女が持つにはあまりにも大きく、重すぎる鉄の塊。
腰から真横に黒塗りの鞘が吊られており、今は抜刀しているので手持ち無沙汰という所だ。
「駄目……これ……」
少女が言葉を発する。だが息が上がっているので少し辛そうだ。
『だーかーらー、テメェじゃ無理だって言ってやったじゃねぇか、我はよぉ!』
そしてその少女の声に答えるように、どこからか声が聞こえた。
化物はいまだ沈黙しており、少女は気兼ね無くその声に応じる。
「誘宵……うるさい……どうして……貴方だけはそう……」
『あー、あー、あー! お説教は後で聞いてやるぜ宿主様よォ!』
“声”に対して少女はムッとした顔をし、それに対して反論を
――する余裕が無かった。
「グガアアアァァァ!」
『おー、おー、おー。漫才やってるうちにこっちがうめぇエサだって気づいたみたいだぜ、やっこさんは! どうするよ宿主様、我としてはとっとと終わらせたいんだが!』
“声”はまくし立てる様に声を紡ぐが、少女は動じた様子も無い。
少女はクルリと化物と逆方向を向き、走り出した。
『逃げんのかァ!? 時間稼ぐんだったら許しといてやらァ! 本当に逃げるんならテメェなんて見捨てるゼェ!』
「……憑依する時間を稼ぐだけ……もうちょっと付き合って……」
『はいはいはい! 分かりましたよォ、コンチクショウ!』
化物は追う、少女は逃げる。
ここは黒椿峰霊山、天下無双学園高等部唯一の通学路、時刻は朝早くの5時ごろ。
化物と少女は、戦っていた。
「ところで……誘宵、どうして早く終わらせたいの……?」
『み○さん見ねぇと我の朝は始まらねぇんだよォ!』
……少女と化物は、戦っていた。
***
「主……どうしてこんなに朝早いのかな……」
どうも、文一です。
現時刻5時ごろ、僕は茜と二人で歩いてます。
まぁ、理由はと言いますと……
「今日の朝はな、一谷ちゃんが来るんだ……」
「ほえ? それってこの前言ってた子? でもどうして逃げるの?」
「いや……なぁ……お前の事が孤児院に洩れると厄介なんだ……」
正直、この話題は茜に対して喋るのも抵抗があるが……まぁ、当事者だし。
「一谷ちゃんは僕の義妹の友達でなぁ……そこから孤児院に情報がいったら僕が幼女誘拐犯扱いされるか、お前が孤児院入りするだけだぞ?」
そうなのだ、院長は子供に優しいので見た目小学生のこいつを見たら絶対孤児院入りを勧めるだろう。
「この娘は実は本なんです」とかクソ真面目に言えるはずもなく、かといって茜を預けると次に魔法結社が襲ってきた時、僕は多分死ぬ。
だから一谷ちゃん、引いては孤児院の人間に知られるわけにはいかないのだ。
……あ、ちなみに義妹は妹(一話参照)とは別人です。
「ふーん……まぁ、見つかってもごまかせる方法はいくつかあるけど」
「え、マジ?」
「うっふっふ、茜ちゃん42の能力を舐めてはいけないよ〜」
実際に42あるのかどうかは知らないが、茜は得意そうに腕を前で組む。
…………って、だったらこんなに早起きする必要なかったじゃねぇか。
まぁ、たまにはこんなのもいいかな、とか思って歩いていると……
暴風が駆け抜けた。
初めは桜樹かと思ったが、違う。
この風は、この暴力的なまでに吹き付けてくる風は、もっと容積の大きな物体によるものだ。
「……待ちなさい」
その物体を確認しようとして……しかしその前に、怜悧な声が耳に届いた。
先ほどのを暴風と例えるならば、桜樹を疾風と例えるならば、こちらは旋風。
暴力的なまでに走り去るでもなく、直線方向に突っ切るでもなく、無駄の無い地形を選び舞うように動く、走る、跳ぶ。
それは一般的な視覚しか持たない僕には円にしか見えなかった。
「待て、と……この……!」
そして、肉薄。
暴風は化物であり、旋風は少女であった。
化物は爪で少女の刀を受け、鍔迫り合いをするように、しかし圧倒的に化物が優位の状態で競り合っている。
「…………な、何?」
…………――あ。
そうだよ! あれなんだ!? やっべぇ混乱しすぎてむしろ普通の解説役になってた!?
あれ女の子巫女さん!? ……もしかして、知り合いじゃ、無いよなぁ……?
「あ、主! ボーっとしないで!」
「お、おぉ。 ……なぁ茜、あれって何か分かるか?」
少女は一度距離をとり、再び旋風のような動きで次は側面から斬りかかった。
「よく分からないけど……あんな不思議生物、私の内容にはないよ?」
もしかして、魔法じゃ…………ないのか? いやだから何って聞かれても困るけど。
一応ローラを見ているので衝撃は薄いが(いきなり焼かれるのに比べたら化け物程度どーってことない)。
……あー、少女の刀が弾かれた。……あー、なんかやばそう。
「茜、助けるぞ」
「ふぇ!? どうして!? 人助けなんかする義理ないよ!?」
「……非常に不本意だが、もしかしてアレ、知り合いかもしれない……」
ここらへんで巫女服を着ているといえば知り合いである可能性が非常に高い。
僕の知り合いは黒椿峰の巫女なのだから。
「じゃあ変わるけど……魔力使う事になるから疲れるよ?」
不満そうな茜だがパラパラとばらけて僕の手の中で剣に再構築される。
と、丁度その時、化物の爪が少女に迫っていた。
「と……さっさとやらねぇとだな。魔力装填、一刃展開」
手を「弾倉」に置き、放す。次の瞬間手に伝わる重々しい金属同士がぶつかる音。
茜色の輝きが弾倉に移ると共にひどい虚脱感を感じたが――以前ほどではない。
「前より使い慣れたからかね……。とりあえず、発射!」
固定化した魔力が飛び、化物の顔を捉える。そして、命中。
その隙を狙って少女は円の動きで化物から飛び退り、僕の数歩前で止まった。
そして化物はというと――
「グルルルゥ……」
「うわぁ……やっぱり大して効いてねぇや……」
まぁ全然想定の範囲内。
少女の横をすり抜け、化物に向かう――その途中、さっきとは違う弾倉に手を置いて魔力を込める。
「ガアアアアアアアァァァァ!!」
「うるせぇ! 一刃展開……強化!」
茜から得た情報では、茜の剣(仮)の魔力の開放には四つの方法がある。
刃に魔力を固定化し、切断のための力とする「斬撃」
魔力を弾倉の先に固定化し、真正面に打ち出す「発射」
弾倉で魔力を変換し、体に逆流させる「強化」
魔力を固定化させないで、そのまま効力の発揮を行う「爆散」
今はその中で強化を使い、化物に対抗しようとしたのだが……
ゴメンナサイ、押し負けてます。
「グガアアアアアァァァ!」
「やめてやめてお前力強いってぎゃあああぁぁぁぁ! く、食われるうううぅぅぅ!?」
茜だから大丈夫だろうと思い、さっきの少女のように斬りかかってみたのだが……甘かった。
いくらなんでも強すぎやん!? こっちは強化の魔法も使ってんのやで!? この状態やったら軽くジャンプでオリンピック狙えるんやで!?
[主……やばすぎて関西弁になってるよ]
「律儀にツッコまんでええねん! もうちょっと打開策とか考えぇや!」
くそ……武器化中の茜は心を読まれるのか……。
とかやっている内にもどんどん押されてる。やっべぇ腕がミシミシいってる。
[打開策……打開策……あ、あの日本刀]
茜の言葉で周囲を見渡すと……あった。
弾き飛ばされた少女の日本刀は、意外と近くに落ちていた。
「おぉ、ナイス」
日本刀を拾おうと……拾おうと……ひ、拾おうと……
片手でこんなん支えられるかいな……。
「ぎゃあああああああぁぁぁぁ! 腕がああああぁぁぁ!」
いやでもまぁこのままだと腕がああああああぁぁぁっていったあああぁぁい!
日本刀来い! とか念じながら柄を蹴り上げると……奇跡的に右腕に納まってくれた。
「こんのやろっ!」
片腕では上手く斬れないので峰打ちで化物の腕を叩くと、化物は少しだけ怯んでくれた。
その隙を狙って間合いの外へ脱出、体勢を立て直す。
[……どうするの、主? 一刃だけじゃ勝てないよ、二刃使わないと]
茜がそう言ってくるが……出来れば使いたくないんだよなぁ。
[刃]っていうのは僕が弾倉って言ってるやつの事で、もちろん「二刃」とは弾倉を二つ使うという事だ。
いこ−る、二倍疲れる。
だからまぁ、使わずに終わらせなければ学校で支障が出る。
「……………………あ、良い事思いついた」
[…………果てしなく不安だよ?]
「大丈夫、きっと許してもらえる」
[許す!? 何するつもり!!?]
いや〜、ほん一握りの察しの良い人は僕が日本刀を持った時点で気づいたと思います。
化物がこちらに向かって突進してくる。
それを垂直跳びでかわし、高く、高く、飛び上がる。
[…………主、まさか……]
「雨○流剣術我流の型……二刀、天撃龍双牙!」
[それ使っちゃ駄目ええええええぇぇぇぇぇ!!]
化物を見据え、右手に持った日本刀を投げ打つ。
その刃は化物の腹に突き刺さり、そのまま縫いつけ――さらに、その柄目掛けて落下。
ゴキリ、と嫌な音がして刃が内蔵奥深くに捻りこまれる。
そして、左手の茜で一閃。
[だから! 使っちゃ駄目ええええええええぇぇぇぇ!!]
「大丈夫、伏字だから」
[良くないよ!! 作者さんが本編に声届かないにもかかわらず、向こうのほうですいませんでしたって叫んでるよ!?]
ネタが分からない人は三月十日の飛焔さんの評価を見てね。
とりあえず化物は倒れた。
ふぅ、さすが○宮流剣術の改良、恐ろしいな……。
[伏字の意味がなくなってるよ!?]
心を読むな、茜。
「とまぁ、そんな事はおいといて……」
[置いとくの!?]
とか茜と漫才している内に、少女が立ち上がっていた。……しかも、さっきはしていなかったはずの眼帯をつけて。
眼帯は白地の花柄だけどまったく可愛くない。まず眼帯が無骨だ。というかこんな奇抜ファッションな巫女さんは僕が知る限り一人だ。
「…………文一……」
「やっぱり……湖織?」
黒椿峰 湖織、名前からも分かるように黒椿峰大社の巫女で、さらに言うと親同士が知り合いみたいで幼馴染み。
さらにさらに言うと金に細かい上に、変な性格してる。……はずなのだが。
「文一……どうして、今、ここに……?」
「……え? お前本当に湖織? いやいやいや、なんでそんな『寡黙な一匹狼の剣豪やってます』な喋り方なの?]
僕が知っている限り、湖織はフザケタ性格をしているはずなのだが……
「……ごめん、ちょっと仕事モード……すぐに戻ーー……るっ!」
うわぁいきなり抱きついてきやがった!?
「やめろ離れろ! ゆ−あーガール! あいあむボーイ! 不純異性交遊よ!?」
「大丈夫ー、文一以外にはしないですー」
「うわぁ余計問題発言だよお前!? やめろ! 現在体勢的にギリギリ大丈夫な位置だがこのままでは色々な部分が色々な事になるぞ!?」
「大丈夫ですー、文一の事大好きですからー」
「さらに問題発言だよお前!? こういう場面でいうと本気なのか冗談なのか全然分からなくなるからとりあえずやめてくれ!」
「ひ、ひどい……せっかく勇気を出して一世一代の告白を……」
「だあああぁぁぁぁ!! 嘘泣きすんな! やめろ! とりあえず放せ! 思春期男子として正常な判断が出来なくなる!!」
何とか引き離した、あぶねぇ、主に僕の理性があぶねぇ。
[……………………]
「茜、そんな呆然と見ないで……」
とりあえず茜を放り投げる、すると元の姿に戻る。
……まだ呆然としてやがる。
『おいおい、とりあえず我も放してくれや。男にいつまでも握られんのも、どことなく不快だぜェ?』
「あぁ、ごめんごめ……んん!?」
……日本刀が、喋った。
「あーゆー魔道書?」
『No,I am Yoto. Do you understand?(違う、我は妖刀だ。分かったか?)』
クソ……無駄に良い発音しやがって……ってか妖刀?
「茜?」
「私も知らないよ? いやぁ、世の中には不思議が一杯だぁ〜」
役立たずめが。
「とりあえず、立ち話もなんですから神社に行きましょー。湖織も詳しい話聞きたいですしー」
とりあえず、僕はまた変な事態に巻き込まれてしまっているようだ。
ごめんなさいごめんさいごめんなさああああああああああぁぁぁぁいい!!!!
文「何初っ端から叫んでんだよ」
さっき(本編)からずっと叫んでたんだよ!! なんだてめー、どうして雨宮流とか使ってんだよ!?
文「大丈夫、シリアスでは使わない」
そういう問題じゃねーんだよ! どっちかというと飛焔さんとの外交問題だよ!!
追伸:この後、飛焔さんのお許しが出ました。
追記その二:湖織の一人称が間違っていたので微修正、この口調……萌え狙いとか言わないで