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波間で焚き火  作者: Soo
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 それは、漂着物から始まった。

 一見するとただのガラス細工で、工場で造られ、捨てられたものと知れるものだった。

 海洋研究所に通う、一介の学生の悪ふざけが、始まりだった。

 彼は、手持無沙汰であった。

 研究所とあるが、大学の付属研究施設であり、一般の学生も多い。

 教授に呼び出され、けれども急用からか、研究室にその教授の影はなかった。

 帰るわけにもいかず、されどゲームなどをしているわけにもいかない。

 教授は、話をするときには電源を切ることを命じる人だ。

 ボス戦だろうとも、無理やりに切りにかかる人だ。

 下手なことはできない。

 さてどうしたものかと彼が考えていると、部屋の片隅に置かれてあった、箱が見えた。

 先日、研究室生らの手で回収された、漂着物入れだ。

 珍しいものでもないだろうか。

 暇つぶしにと、彼は箱のなかを漁り、それをみつけた。

 両手で抱えるほどのガラス瓶があった。

 瓶には、幾枚かの金属板が縦に重ねるように並べて、内封されていた。

 板からは新鮮な、金属色(メタルカラー)が輝いていた。

 ならば正面はどうか。

 量産品の、安物のテーブルがぎしりと悲鳴をあげた。

 見た目に反して、いやに重い、この瓶はいったいなんなのだろうか。

 彼は、教授が部屋に戻ってきていることにも気付かず、それを自分なりに調べていた。

 教授は呆れてはいたが、関心してもいた。

 目の前にいる彼は、研究室生としては優秀だが、研究者としては不十分な若者だったからだ。

 発想や理解力などは素晴らしい。

 けれども、意欲と呼べうるものは備えていなかった。

 彼の談によれば、親がこの学校に通えとうるさいから来たのであって、本意でないそうだ。

 何度か、教授なりに彼の関心を惹こうとしたが、ことごとく失敗に終わった。

 彼は若い頃の自分より、血の巡りがずっと良いのだ。

 このうちに知識を深めていけば、きっと、誰よりも優秀な第一研究者になれるに違いない。

 教授はそう固く信じてきた。

 だが若者の頑なさはよっぽどであり、自分ではどうしようもなさそうだと匙を投げてしまっていた。

 それがどういうことか。

 彼自身から、瓶を調べてみようとしているではないか。

 一通りの機器操作は教えてある。

 見守っていようと考え、教授は彼に声をかけるような不躾なことは、しなかった。

 幸運か、不幸か。

 その詮議はさておき、彼は、X線で瓶の中身を調べてみる事とした。

 完全に密封されていて、開け口がなかったからだ。

 この部屋には焼き切るための器具も置かれてはあるが、さすがにそれは危険だ。

 内部の板を変質させかねない。

 台に瓶を固定すると、X線機器の電源をONにして、稼働させた。



 結果として、研究生が調べた瓶は、人工物ではなかった。


 昔、髑髏水晶だとか、南極が描かれている世界地図だとかといったもので騒がれていた時期があった。

 オーパーツと、俗に呼ばれる品々のことだ。

 その時代では製造のしようがない、規格外の工芸品という意味だ。

 地中海にて、紀元前ほど前の時代から、活版印刷の元祖となりうる品が、発見された。

 ピラミッドの壁画に、電気照明と思しきものが描かれていたと、雑誌で紹介されたこともあった。


 瓶は、その、オーパーツである。


 硝子は現代の技術で作られたものと比べてみても、遜色しない。

 中身を観察できるほどに透明だった。


 金属板も、ナノミクロンの数値で測ってみても、平らで、滑らかな表面であったという。


 ところで、マヤ文明というものがある事を、知っている人はどのくらいいるだろうか。

 そしてマヤカレンダーなるものについてはどうだろうか。


 古代に記された、預言書のことだ。


 わからないというのであれば、ノストラダムスを思い出してみてほしい。

 1999年に、世界が滅びると書き遺した人物のことだ。


 数ある預言書のなかには、歴史上の目立った事柄と合致する一文が、記されていることが多い。


 瓶に内封されていた金属板の一つひとつには、どの時代のものにも類似しない、謎の文字があった。

 政府に提出され、専門の国際チームを組まれたことで解読に成功した。


 預言書であった。


 なんという国で、どこの地域で、どんな材料や製法を費やしてこれを造ったのか。

 最新の設備と知識豊かな学者たちが束になっても、解明されることは、ついぞなかった。


 唯一、判明したことは、



 ごく近い将来のうちに、宇宙は運命の日を迎える、という一文だった。



 運命の日を迎えいれるその日まで、誰も、それこそ、一人たりとも信じてはいなかった。


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