第六幕
この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
何やら面倒くさい事になってきたみたいだ。
やぁ、いきなりリザードマンさんに仲間になれと言われた元人間、現ケットシーの俺です。
リザードマンさんによると、このオリジンは幾つかの群れが支配している地域のようでして、なんとこのリザードマンさんは湖周辺を支配しているリーダー的存在の様です! ビックリだよね?
そもそも、このオリジンには下級魔物しか存在しておらず、レベル5のリザードマンさんは結構上位の魔物に分類されているみたいだ。 ……レベルが30と思われる俺って此処にいて良いのか果てしなく不安に思ってしまったぜ。
しかし、リザードマンさんが俺を仲間にしたいと思ったのは決して俺のレベルが高いからではないのだ。 曰く、自分の仲間達が人間の冒険者たちに狩られたり、より自身のレベルを上げるためにほかの大陸へと向かったために段々と仲間が減っていき、気が付いたら知能を持つ魔物がリザードマンさん一体になってしまった為らしい。
しかも、最近では縄張り争い等も激化しているみたいで、今まではリザードマンさん一体でも如何にかなっていたみたいだが、今後は分からないそうだ。
その話を聞いて、俺はリザードマンさんと会った瞬間に敵意を向けられた理由も理解した。 如何やら、俺は縄張りを荒らしにきた魔物と判断されたみたいだ。
まぁ、そんな理由があるのなら襲われても仕方ないかもしれないな。
「という訳で、どうだ? 仲間になってはくれぬか?」
リザードマンさんは今この場での返答を求めているみたいだ。
仲間になるメリットを少し考えると、食料確保のパイプができるというのはおおきい。 しかも、特定の団体に所属しておけば、何か有事が起きた際は、ある程度の擁護を期待してもいいかもしれない。
更に、この世界で生きるにあたっての常識諸々をリザードマンさんに教えてもらえる。
反対にデメリットは、自由に動く事が制限される可能性が高い、縄張り争いに間違いなく巻き込まれる。ってところか?
しかし、自由に動けないつっても、元々ここには詳しくないから身の振り方を覚える間は間違いなくリザードマンさんにお世話になるんだから問題にはならない。
それに、縄張り争い……さっきのゴブリンみたいに生き物を倒すのは気が引けるけれど、リザードマンさん曰く俺のレベルはこの地では最強レベルに近いみたいなので、戦いになる以前に相手側が仕掛けてくる事が無い……つまりは案山子になって周りの勢力からの牽制になればいいのだから、これも問題にはなりにくいかもしれない。
――――つまるところ、果てしなくメリットが大きくてデメリットが少ないと判断できるわけか。
「……ま、これから魚などを頂けるんなら是非とも仲間になりたいんだけれど……それに、俺ってばこの辺に知り合いもいないし」
結論として、俺はリザードマンさんの仲間になる事に決めた。
メリット、デメリット等もあるが、少しの間ながらリザードマンさんが結構いい奴ってわかったのも大きな要因だ。
俺が仲間になるという考えを出すと、リザードマンさんはあまり変化は見られないが無表情っぽい顔ながらも少し嬉しそうな表情を見せた気がした。
自分以外に知能がある魔物が居なくて話し相手もおらず、少しさみしかったと後に語ってくれた。
「そうか、ソレは良かった。 ……おぉそう言えば名乗っておらんかったな、我はリザードマンのルジーナ。 ルジーナと呼んでくれて構わぬ、これから宜しく頼むぞ」
あっさりと決めた俺に動じもせずに、リザードマンさん改めルジーナさんは先程まで剣を握っていた右手を俺に差し出した。 感じとしては握手と同じだろう。
しっかし、ルジーナって……女性みたいな名前じゃね?
「むぅ……少し失礼であるぞ。 我はこう見えても雌だ!」
おっと、考えている事が口から出ていたみたいだな……って女だったの!?
話し方とか男っぽかったし、声のトーンとかも結構低めだったからてっきり男だったとばかり思っていたぜ……いやはや、ソレは悪い事をしたもんだ。
「すんませんでした、それで俺はケットシーで? 名前が……名前が……何だっけ?」
「ぬ? どうしたのだ?」
すこしルジーナさんが手を出したまま怪訝そうな顔をして俺の方を見てきた。 でも、おっかしーな。
俺の名前だよな……えっとえと……あれ、何だったけ?
……な、何でですか!? 大学の講義の様子とかゲームの攻略法とか初期のロッ○マンのパスワードとか復活の呪文なら思い出せるのに何で忘れる筈のない自分の名前が思い出せないの!?
いや落ち着け俺、こういう時は息を整えるんだ~ヒッヒッフ~ヒッヒッフ~……ってこれはラマーズ法じゃ! ベタベタなボケかまさんでもよか!!
……うん、少しとりみだしたな。 でも、おかし~な……自分の名前がきれいさっぱり思い出せん。
「名前……わかんねぇ」
「名が……まぁ、名とは自身を現す固有名詞だ。 それほど重要視せずに自身で考えてみるのも一考ではないか?」
うわ~お、途轍もなく投げやりな発言だぜ。 でも、こんなにあっけらかんと言うのってやっぱり種族によって違うのかな?
いや、そもそもケットシーになった俺に前世での人間の名前って言うのもおかしいかな? だったら、自分で考えるのもまたルジーナさんの言うとおり一考かもしれないけれど……
「因みに、ルジーナさんは名前ってどうされたんですか?」
「我か? 我は元服する時に我自身で考えた」
元服とかカッコいいな……いやいや、そうではなくてだな。 でも、自分で考えたんだ……っていうか、リザードマンに元服なんてあるんだ。
いっその事、第二の人生の名前を自分で決めるって言うのも面白いかもしれないな。 まぁ、根本的に自分の名前が思い出せないから仕方ないんだけれど……
そういや、ルジーナさんって何歳なんだろう? ……やめとこ、リザードマンとはいえ女性に年齢を聞くのはマナー違反だな、うん。
そんな事を考えると同時に自分の名前をどうするか俺は考えた。 ここで余りにもカッコよすぎる名前とかにしても、後々名前負けしたら困るし、かと言ってありきたりすぎる名前だと面白味も無いし。
自分の名前を考えていた俺はふと、ケットシーになった自分の足へと眼を向けた。 銀色の毛並みが僅かにだが濡れ、ソレが太陽に反射してキラキラと輝いている。
あぁ、さっきまで水に入っていたからなとつぶやいた時に、俺はハッと閃いた。 そのまんまじゃんと突っ込まれること請け合いだが、ある意味で今の俺にはぴったりの名前かもしれない。
――――その名前は……
「――――――『ギン』……うん、俺の名前はギン。 俺が決めた今決めた。 ……どうよ、この名前?」
俺は片方の口角をグイッと引き上げながら、軽く笑みをつくるようにしてルジーナさんを見た。
「ギンか……自身の毛色から取ったのだな? 良い名ではないのか、ではギンよこれからよろしく頼むぞ」
そして、俺とルジーナさんは固く握手を交わした。 といっても、俺は握る事が難しい足の構造をしているので、ルジーナさんが握っただけなんだがね。
と、まぁここで終われば『そっか、頑張れ~』ってな感じて終われるんだけれど、ここで少しばかり予想外なことが起きた。
「――――漸く見つけたわよケットシー! アンタ、私に黙ってなに勝手にどっか行ってんのよ!!」
何やら、すごい形相をした先程の犬がこの少し和やかな場をぶち壊しながら乱入して来たのだから。
……今日の教訓。
『一難去ってまた一難』という諺は以外とバカにならない。
ありがとうございました。
かなりグダグダ感が漂う回になってしまいましたが、ご了承ください。
リザードマンの名前に関しては察しの良い方ならば何となくわかる仕様となっております。
もし、わかった場合はコッソリと紙に書いてゴミ箱へポイしてくださいね~
感想&ご意見&アドバイスはいつでも受け付けております。ではでは、次回もよろしくお願いします