第三十幕
この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
あたし【元】ウルフのクリーヌは今現在混乱の真っ只中にいる。ただでさえ平穏無事に暮らしていた中、レベルのおかしなケットシーとパートナーになったり、敵対勢力のリザードマンの仲間になったり、ゴブリン・ロードに拉致監禁されるといった……いや、それでも十分可笑しなことなんだけれどね。ただ、今あたしが直面していることはもっともっと可笑しなことだ。
ふと、自分の身体を見てみる。そこにはあたしの自慢だった栗毛色の体毛は今では見る影もない。いや、絶望しているわけではない。むしろ毛並みだけでいえば前よりもずっとサラサラになって触り心地は最高!……なハズ。色は夜にも似た漆黒で、そのサラサラの毛並みから光沢を放っている。自分で言うのもアレだが、それはとても上品な色となり大人な私には寧ろピッタリ!……いや混乱甚だしいにも程があるわね。
――――――とりあえず何が言いたいのかというと……』
『おいクリよ、考えていることがすべて口から出ておるぞ』
『あら、ごめんあそばせ』
そういいながら私の隣に立つこいつは鱗に覆われた体表は以前のような如何にもトカゲといわれるような緑色から今では燃える炎を連想させるかのような紅へとその色を変貌させている。さらに言えば以前のように蛇のようにつるつるしていた鱗ではなくなり、鱗の先端が針を連想させるかのような刺々しく、分厚いまるで鎧のような状態へと変貌を遂げている。 まぁ、端的に言えば……
『我とお主、そろって進化したようだな。我は【リザードマン】から【ハイリザードマン】へ――――』
『そしてあたしは【ウルフ】から【ナイトウルフ】へってわけね。多分ギンの祝福の影響よね?途中で変な声も聞こえていたし……』
しかも、それに伴う恩恵がよくわからないけれど先程まであったダメージ、失われた血が諸々無かった事にされたみたい。その為か私達2体ともが絶好調だったりする。せっかくアイリーン達が応援に来てくれたけれども、今では逆にあたし達が守る立場に変わっている。
『お、お姉さま? そのお姿は……』
『進化してナイトウルフって種族になったみたい。大丈夫よ、体力もろもろ全回復しているみたいだからあんた達を守ってあげるわ』
確かに平穏無事からはかなり遠ざかっている気もするけれど、これもこれで悪くはない。
私は密かにそんなことを思っていた。
『姐御達も進化されたんっすね!?いやはや、自分だけでは流石にきっついなぁって思っていたところなんすよ。ぶっちゃけ幻影の姐御達の数がだいぶ減ってきていてこのままじゃ拙いなぁ~って思ってみたりしたんすね』
おっと、今は進化して喜びに浸っている場合じゃないわね。ヤスの作った幻影はいわゆる実体を持たない幻影ってやつみたいでゴブリンたちの攻撃を受けるたびにその数を減らしている。しかも、実体を持たないせいで直接的な攻撃をすることができないみたい。
はじめは数えきれないほど動き回っていたあたしとルジーナの幻影はその数をずいぶんと減らしている。今あたしたちは幻影たちが場をかき乱している間に茂みの中へと隠れているが、いずれは見つけ出されるのがオチだ。それならいっその事……
『ルジーナ』
『わかっておるわ、少なくともギンが戻るまでは生き残らねばならぬからな。それに進化したこの身がどれ程なのかということも試してみたいのだ』
ルジーナの言葉が終わると同時にあたしたちはその両脚へと力を込めた。 進化したという気分の高揚もある。それに一番厄介だと思っていたゴブリン・ロードはギンがとどめを刺してくれて後は残党だけという事から心因的なものも大きいと思う。だからかわからないけれど、今のあたし達についさっきまであった【無謀】という言葉はみじんも残っていなかった。
『全くギンにはあとからしっかりと穴埋めをしてもらわないといけないわね!』
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どうもギンです。先程ゴブリンロードを倒して気が付いたら目の前にいるのは俺とウルフとヘタルトのみとなってしまった。
とりあえずロードの死体はこのまま放置の方向でいいと思う。ぶっちゃけ粘液やら血やらでギトギトな体を触るのが生理的に無理というわけなのだ。 ただ俺としては一刻も早くルジーナさんやクリーヌと合流しなければいけないと思うのだけれど、ロード以外のウルフとヘタルトの扱い方を如何にかしなければいけないと悩んでいる。
『さてロードも居なくなったし、お前らの事も考えないといけないよな?』
ぶっちゃけ、このままここに放置して俺一人で仲間たちと合流しても良いんだが、このウルフとヘタルトはある意味その仲間にとっては仇でもある。つまり、連れて行ってルジーナさん達に差し出した方が丸く収まるのではないかと考えられる。 …まぁヘタルトは微妙な立ち位置かもしれないけれど。
……何とかして運ぼうかな。
『トランスマイグレーション』
身体が一瞬発光し、ワイルドキャットの身体からワーキャットへと変化する。人型に近いワーキャットに変化することで夜眼が効きにくくなるんじゃないかと心配したが、どうやら杞憂だったようだ。暗い洞窟内でも特に変わりなくあたりを見ることができる。
そう言えばロードを倒してレベルも変化したんだよな?ちょっと確認してみようかな。
『なんじゃお主! 変身できるのかえ!?』
ヘタルトが何か言っている気がするけれど気にしない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
個体名:ギン
種族名:ワーキャット
属性:火・氷
祝福:名も無き女神の祝福
パーティーメンバー:ハイリザードマン・ナイトウルフ・ヴァンブーゾルキャット・エルフ
レベル:36
HP:1880
MP:920
STR:215
DEF:145
AGI:210
INT:135
LUC:Infinity
スキル一覧
・ファイアブレス
・アイスブレス
・ヒートスラッシュ
・コールドスラッシュ
・トランスマイグレーション
・バインド<NEW>
・鑑定眼 Lv.1<NEW>
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
お、レベルが1上がってら。それにバインドってスキルも覚えているみたいだし儲けもんだな。それにバインドって昔見た魔法少女系のアニメで拘束系な魔法だったような気がするし、なんかしら捕獲系のスキルだと助かるな~
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
バインド
消費魔力:3/秒
対象の動きを拘束する魔法縄を出現させる。
消費魔力はINTに依存する。
持続時間はMPに依存する。
――――現在の持続時間1体当たり306秒
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
まさに拘束魔法だな。ただ魔力に依存ってことはあまり多用はできないみたい。うまいこといけば、こいつ等をバインドで拘束して移動できるかと思ったけれど持続時間を見てみると難しいみたいだ。仕方がない、素直に引きずって移動するとしよう。
そして地味に嬉しい鑑定のスキル! これってあれだろ?よくゲームであるような敵キャラのステータスを見ることができたり食べ物に毒があるかないかを判別してくれる便利スキルだろ?これでやっとサバイバル生活を安定させることができるってもんだろ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
鑑定眼 Lv.1
消費魔力:10
対象の情報を閲覧できる。
情報量はLvに依存する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そっかレベルによってみることができる情報が変わってくるのか。今の俺は鑑定眼Lv.1だから大した情報を得ることは難しいみたいだな。
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…………ん?
おかしい、今サラリと流してスキルの詳細を見ていたけれどステータス画面の一部が何やらおかしなことになっている気がするんだが? もう一度確認を――――――――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レベル:36
HP:1880
MP:920
STR:215
DEF:145
AGI:210
INT:135
LUC:Infinity
スキル一覧
・ファイアブレス
・アイスブレス
・ヒートスラッシュ
・コールドスラッシュ
・トランスマイグレーション
・バインド<NEW>
・鑑定眼 Lv.1<NEW>
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
えっと、ステータスはレベルが上がったから全体的に少しずつ上昇しているんだよな?そんでもってスキルは新しくバインドと鑑定眼って言うのを習得と……
この辺は特におかしな感じはしない。さて、問題は……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
個体名:ギン
種族名:ワーキャット
属性:火・氷
祝福:名も無き女神の祝福
パーティーメンバー:ハイリザードマン・ナイトウルフ・ヴァンブーゾルキャット・エルフ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はいきました、なんかパーティーメンバーが知らん魔物のオンパレードになっとるぅぅ!?」
『(――――ビクッ)な、何じゃ!? 急に大きな声を出す出ないこの痴れものが!』
ちょっとまて、まだ『ハイ』や『ナイト』がついているけれどリザードマンとウルフはわかる。きっとルジーナさんとクリーヌのことだろう。なんかの拍子に進化したのかなってのが想像できる。 俺だって進化しまくりなんだからあまり驚くことも少ないさ。 ただその後にあるヴァンブーゾルキャットってなに? 聞いたこともない種族だし、いつの間に俺は仲間になったの!?
それにエルフってあれだろ、森に住んでいるボン・キュッ・ボンの姉ちゃんのことだろ!? それもいつの間に仲間になってんだよ? 是非ともお近づきになりたい! ……じゃなくて俺ってば会ったこともないような気がするんですが。
「……まさか」
俺はすぐさまたった今習得した鑑定眼を使用した……ヘタルトに向かって
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
個体名:シャルル・フォン・ヴェルフ・ブラウンシュヴァイク
種族名:コボルト・チーフ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そっか、Lv.1だとたったこれだけの情報量か。それにまさかこのヘタルトがエルフ!……なわけないか。 どっからどう見ても犬顔で毛むくじゃらで、唯一似ていないこともないところは耳の先っぽが尖がっている事ぐらいだもんな。聞いたこともないヴァンブーゾルキャットっていう種族でもないみたいだし。
そもそも、このヘタルトとパーティメンバーになった覚えもないしな。ウルフの方に至っては確認する必要はなしだな。
『な、なんじゃお主!妾の顔をじっくりねっとりと眺めよって!……はっ!?ま、まさかお主、妾に――――』
自らの体に手をまわして若干腰をくねらせながら言うの姿はぶっちゃけキモイ以外のなにものでもなかった。これが綺麗な姉ちゃんだったら興奮の一つでもするのかもしれないが犬顔毛むくじゃらにそれをやられても俺にケモナー属性は残念ながらついていない。
「それはない。ってか無駄に名前が豪華だなお前?えっと【シャルル・フォン・ヴェルフ・ブラウンシュヴァイク】って貴族の名前かよ。ヘタルト要素が全くないのがビックリ…いやある意味こんだけ豪華な名前なのに、これだけヘタレなのも珍しい気もするな」
なんか外野から『酷いのじゃー!』とか聞こえる気がするが聞こえないふり聞こえないふりっと。それよりも、さっきから静かな奴が一体いるんだがどうしたんだろう。
『テメェ、ワーキャットだったのか? どおりでゴブリン・ロードを圧倒する力だあるもn……あ、ごめ、やめ…た、頼むから脚をツンツンしないで!! だんだん食い込みが激しくなるからやめてーーー!!』
なんかウルフの奴がいきっていたからトラバサミもどきに挟まれた脚を小突いてみたらアッサリと屈した。なんていうか、この二体似ている属性を持っている気がする。
っていうかこのままやり取りをしていても先に進まねぇな。さっさとルジーナさん達と合流した方がいい気がする。あっちは体力メーター真っ赤+戦闘不能者2名がいるんだからな。とりあえずウルフの方はトラバサミを、ヘタルトのほうはアイアンクローの要領で鷲掴みをしてと。
『ちょ、まっ……問答無用で引きずらないでくれーー! 足が千切れちまうだろうがーーー!!』
『せめて脚をもってたも~!頭部は…頭部は(ミシミシ)――――ら、らめええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』
なんだか今すぐこいつらをこの場に捨てていきたい衝動に駆られてしまうんだが我慢だな。
そんなことを思いながら俺は暗い通路を進んでいくのであった。
はい、年内に何とか投稿できました。お待ちしてくださっている読者の皆様お待たせしました!
……って言ってもすでに半年たっているので申し訳なさすぎます。
何とかゆっくりとですが執筆は続けていきたいと思いますので今後ともよろしくお願いいたします。