第二九幕
この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
――――――ロードが力尽きるほんの少し前
オイラはヤス。元々、オリジンに住んでいたわけではなくて様々な地を旅する流れのケットシーだったんす。流れのって聞くと聞こえはいいっすが、言い換えればただフラフラとその日暮しをするだけでやんした。
あっちへフラフラ、コッチヘフラフラとあてもなく腹が空いたら弱そうな動物や木の実、本当に危なくなったら毒がなさそうな虫を喰っていたっす。
気が付けばこんな生活を何年も続けていやした。レベルも気が付くと6までに上がってたんすが、元々弱いケットシーっすから他の魔物に喧嘩を売ることも出来ずにいたっす。
そして考えやした……【オイラは今のままでいいのか】って。まぁ元が風来坊生活でしたから、やろうと思えば直ぐ行動に移す事は出来たっす。そこでオイラは人間達が冒険者として出発する始まりの大地【オリジン】に目をつけやした。
始まりの大地って言うくらいっすから魔物はきっと強くない筈だし新しい門出って言う奴にピッタリだと思ったからっす。それにケットシーとはいえレベルも6になったという慢心もあったと思うんすよね。
いやはや、この時の自分の浅はかさに対して小一時間くらい説教をしたい気持ちもあるっすが今は割愛しとくっすよ。
そんなこんなあるうちにコボルトの集団に捕まるわ非常食認定されるわでその後は最悪っすよ。いくらレベルがコボルトよりも上とはいえ、数の暴力に数レベルの差なんて然程意味がありやせんでした。1対1位ならなんとか……いや、今更こんな事を言っても意味が無いっすね。
この時ばかりは流石に自分の魔生もここまでかって思ったんす。非常食扱いされて更には良いように奴隷扱いされていた――――――――
――――――そこに現れたのがギンの旦那だったんすよ』
『成る程、取り敢えずあんたの話には全く脈絡が無いという事がわかったわ』
おいらは今、旦那に頼まれた事を遂行してゴブリンの巣窟に来たところっす。ともに従えるはウルフの現リーダーであるアイリーンさん、それとコボルドのコブロクっす。
正直コブロクとは偶々出会っただけなんす。ゴブリンの巣に向かってエラく急いでいたから一緒に来ただけなんすけど、それがまさか旦那を嵌めた魔物だったとは……
『こいつはどうしやすか?ゴブリンの餌にしてうまいこと時間稼ぎをしやすか?』
一瞬ではありやすがコブロクの顔が面白いくら恐怖に歪んだのが分かりやした。まぁぶっちゃけ冗談ではありやすがね。ここまで来るのにゴブリンの数が半端じゃなかったのが見てとれやす。そんな猫の手でも借りたい……だとオイラや旦那になっちまいますね。コボルトの手でも借りたい位、切羽詰まった状況だったりしやす。
『そんな奴のことはどうでもいいわ。兎に角、あんたは救援なのよね? しかも、進化済みって事はある程度強いんでしょ?それにアイリーンや他のウルフにおまけ程度のコブロクがいると……はい、任せた!よし任せた!アタシは寝るわね‼』
味方が来たという安堵感からかクリーヌの姉御はそのまま地面に伏せってしまった。同じ理由だとは思うんすけれどルジーナの姉御も同様に座り込んでしまったっす。姉御たちに頼りにされるのは非常にうれしいんすけれど、オイラはそんな皆様に非常に悲しいお知らせをしなきゃいけないっす。
『真に残念なお知らせなんすけれど、オイラが今現在なっているヴァン・ブーゾルキャットは元々幻術特化の魔物っす。つまりは直接的な戦闘能力は皆様方と然程変わりは……』
『それともう一つ悲しいお知らせですお姉さま。私を含めたウルフはここに来るまでに結構体力を消耗してしまいまして……』
追い打ちをかけるかのようにアイリーンさんがあまり嬉しくない内容を話されやした。まぁ、確かにここに来るまでにオイラとウルフの皆様方でゴブリン&裏切ったウルフ&コブロク以外のコボルト達を相手にしていやしたからね。全く、本当に勘弁してほしいっすよ。
『ぬぬぬ……では、ここは恥を忍んで拙者が』
『コボルト1体にどうこう出来ないと我は思うぞ』
ルジーナの姉御の辛らつな言葉にそそくさと後ろに下がるコブロク。あぁ……明らかに姉御達の顔が悲しそうな……それに近いくらいの落胆に満ちた表情をしてきたっす。
そんな事を話していると洞窟入り口からは倒し損ねたゴブリン・ウルフ・コボルトがホント雪崩のように押し寄せてきやした。本当に、弱い魔物とはいえ、ここまで集まると脅威以外の何物でもない事をオイラは身をもって体験していやす。そして、明らかにこの場に居るメンバーはちょいとこの場を切り抜けるのは荷が重すぎで重量制限に引っ掛かってきやすね。
『しょうがないっす、はじめては旦那に見てもらいたかったんすけれど、ここで姉御達に傷をつけたとあっちゃあその旦那に合わせる顔がないっす』
『ム?お主何を言って――――――』
『――――――スキル【幻影】発動っす!』
ルジーナの姉御がやや怪訝そうな顔でオイラの事を見ていやすが、それよりも先にオイラの新スキルは発動したっす。 その直後、オイラ達を中心に一瞬煙のようなものが出現し……
『……ねぇルジーナ、アタシの気の所為じゃなければ良いんだけれど。リザードマンが大量発生していない?しかもアンタ似の』
『奇遇だなクリ。我にはお主のよく似たウルフが大量発生しているように見える』
うん実は初めて使ってみたんすけれど、これは無いっすね。スキルの説明欄を見ても【幻影を作成する】としか無かったもんっすから予想では何か大きな魔物の幻影を見せてその場を混乱させる!――――的な想像をしていたんすけれど随分間違った方向に発展したみたいすね。
オイラがスキルを発動させた瞬間、目の前に広がったのは何故か判らないすけれど、ルジーナの姉御とクリーヌの姉御の大量の幻影。ぶっちゃけ、100は軽く超えている数字に埋め尽くされているっすね。
でも、おかしなもんで何故だか本物はしっかりと認識できるから流石はオイラのスキルってところっすね。でもまぁ、取りあえずは……
『説明は後ほどするっす!まずはこの場から逃げる事は考えやしょう!』
そんな中、オイラ達の中でとある変化が起こりやした。
【――――ゴブリン・ロードを1体撃破しました。スキル『クライシス』により経験値の全てがパーティメンバーに付与されます】
【――――レベルが11に上がりました】
【――――レベルが12に上がりました】
【――――レベルが13に上がりました】
【――――レベルが14に上がりました】
【――――レベルが15に上がりました】
それは、オイラがケットシーからヴァン・ブーゾルキャットへと進化するに至る際、頭の中で響いた女の人の声っす。同じ瞬間に姉御達も瞬間的に身体を強張らせていたもんだから同じような声が響いている事でしょう。ってか、またもやレベルが上がっているっす。それにゴブリン・ロード撃破って……どう考えてもギンの旦那以外やれる御方が居るはずありやせん。
これで当面の障害は払拭されたと考えてもいいはずなんすけれど……なんすかね、言葉じゃ言い表せれないような不安感がフツフツと湧き上がってくるのは。
そんな中、今まで静寂を保っていた金髪の人が口を開いたっす。
「ねぇヤス…でよかったよね?」
『そうっす、名前を覚えてもらって光栄……って人の話がわかるっす⁉︎』
「うん、ところで聞きたいんだけれど『ゴブリンロード』だとか『クライシス』だとか聞いた事が無い女の人の声が聞こえるんだけれど君の仕業なの?」
姉御達と一緒にお見えになっているし兄貴のお知り合いだとは思うんすけれど……この人は何を言っているんすか?
はい、気が付いたら前回から4年の月日が…ぶっちゃけ懐かしいレベルとなってきておりますね。
恐らくはこの小説を見た事が無い人がほとんどかと思いますので久しぶりの自己紹介を…
どうもかみかみんと申します。この小説は超絶蛇足的に進んでまいります。
久しぶりと言う事で今話は短めにしております。もしよろしければ過去話もご覧いただけると幸いです!
ではでは、今後ともかみかみんをよろしくお願いいたします!