第二四幕
この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
たった一つわかったことがある。俺は確かにオリジン内では強い部類に入っているだろう。それこそ、オリジンに住むゴブリン数十体に囲まれたとしても油断していない限り負けることはないと思う。
ただ、それはあくまでもレベルがかけ離れているためだ。この世界ではあくまでもレベル=強さの指標の一つであり、ステータスに表示される各種ステータスのポイントも指標でしかない。
つまり、たとえレベルが絶望的に開き切っていても100%はありえない。つまり、負けることはないという保証はどこにもないのだ。
何故なら、この世界はレベルとかステータスとか魔物とかファンタジーRPGの要素がふんだんに盛り込まれていても、悲しいかなゲームではなくて現実の世界。
どんなにレベルが高くて身体能力が化け物でも道端で転んだら痛いし、心臓をナイフで突かれたら死ぬ事は間違いない。
つまり、何が言いたいのかというと……
※勝利条件、仲間を守りつつ現在の危機を脱しよ
『俺よりレベルは低いけれどもレベル33のゴブリンロードが一体にレベル10の魔法スキルが使えるゴブリンシャーマンが二体……周りには低レベルながら下端のゴブリンが沢山。対してこっちは体力真っ赤な仲間が二体に駆け出し冒険者三人、そのうち二人は気絶中……あれ、俺達の状況ってかなりアウトじゃね?』
――――――詰まるところ、絶体絶命の大ピンチなう。
レベル云々の前に圧倒的な数の暴力とまともに戦う事のできる仲間の少なさから全滅の危機を向かえていたりする。
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――――――遡ること数分前……
俺は駆け出しながらワイルドキャットへと進化し、同時に以前コボルトの群を戦力喪失まで追いやったスキル『咆哮』を発動させた。
咆哮の効果は簡単だ、発動者のレベル×0.1以下のレベルの対象に対してのみ発動し、対象は80%の確率で昏睡の状態以上を付与する。
更に発動させる回数を重ねる事により熟練度が上昇し、0.1の部分が段階的に上昇するのだ。
つまり、簡単に言うと熟練度の低い俺が発動させた場合はレベル3以下の奴らが80%の確率で昏睡しちまうのだ。
コボルトのレベルは殆どがレベル1か2だ。だからこそ殆どのコボルトが昏睡したのだ。
さてさて、話がそれたけれど俺は今回もそれを発動させた。辺りにいるのはレベルの低いゴブリン達。運が良ければ殆どのゴブリンが昏睡するはずなんだが……
『――――よしっ!待ち伏せは戦力喪失が殆どだな』
『よしっ……じゃないわよ!――――っう……あ、アンタね!耳が壊れるかと思ったじゃないの!!』
『……場所を考えよギン。まぁ、幸いな事に追っ手のゴブリンの大半は戦力喪失だ。しかしな――――』
ルジーナさんが気まずそうに後ろの方を見るもんだから、俺もソレに釣られて後ろ――――レン達が立っていたはずの場所を見やってみると……
「あ、アンーーー!カレーーーン!」
『……あり?』
『【あり?】では無かろう。そこの人間達までも伸びてしまっておるぞ』
見事なまでにレンの仲間の2人までもが目を回して伸びてしまっているのである。
どうやら咆哮は敵味方問わず発動してしまう諸刃のスキルみたいだ。
『まぁ、ドンマイ?』
「何で疑問形なんだよ!しかも、ドンマイって何語!?そもそも、何故にギンってば大きくなってんの!!」
レンの声が洞窟内を空しく響き渡った。次の瞬間、正確にはレンの声が洞窟の奥へと届いた直後にソレは起きた。
何もいない洞窟の奥……いや、何もいないって言うのは間違いだな。ゴブリンロードが追ってきていると思われる奥深く。少なくとも俺の視界では探知することができないほど奥深く……そこから突如としてこぶし大の大きさをした火の玉が2つ猛烈な速度で俺へと飛来したんだ。
『――――――へっ!?ちょまっ【――――ゴウッ!】――――あっっっちいぃぃぃ!』
余りにも突然すぎて俺は回避する暇さえ与えられず、その内の1つが横腹へと直撃し後方へと吹き飛ばされた。
もう1つの火の玉は俺の立ち位置が変わったことにより洞窟の入口の方へと飛んでいく。
『――――ギン!』
『今のはファイアボール!チィ、厄介なスキル持ちではないか』
ルジーナさんの言葉に俺はハッとした。どうやら俺は後ろから追ってきているのがロードと雑魚のゴブリンだけだと勘違いしていたみたいだ。だけれど実際は……
俺は毛に燃え移った火を転がりながら消した後、注意を洞窟奥深くへと向けた。ほんの少しだけ焼け焦げた毛からは蛋白質が焼けた嫌な匂いが立ちこめてくる。
しかし、今はそんな些細な事を気にしている余裕なんて俺には無かった。
『キャキャッ!今ので死なぬとはなァ…かなり高レベルな魔物が紛れ込んでいたみたいだぜェ兄弟!』
『ヒャハッ!ゾクゾクするぜェ兄者ァ!』
松明に照らされて姿を現したのは、たった今俺が昏睡させた茶色い肌のゴブリンとは少しばかり姿が異なる魔物だった。
腰蓑だけのゴブリンとは違い、真っ黒なまるでファンタジーゲームの魔法使いを連想させるかのようなローブを身にまとい、頭だけが外気に触れている状態。
そして唯一といってもいい露出している頭部の色素は茶色ではなく、血を思い浮べるかのような赤い色素が沈着し不気味さを増している。そんなわけのわかんねぇゴブリンモドキが2体……
『まずいぞギン、ア奴らはゴブリンシャーマン。厄介な魔法スキル持ちの魔物だ。我の記憶が正しければゴブリンシャーマンのレベルは最低でも10を超えているはず……ギンならばどうにかできるやもしれぬが、我らでは太刀打ちするのは難しいであろう』
『魔法に関してはたった今、身をもって体験したところっすよ!』
しれっと答えたルジーナさんに若干苛立ちを感じながらも俺は決して視線をゴブリンからは離さなかった。
奴らの下劣なかんきり声にも近い笑い声を聞くたびに嫌な汗が吹き出てくる。
ルジーナさんとクリーヌも俺と同じくゴブリンシャーマン達の事を不快に感じているのであろう、歯を力一杯噛み締めながら腹の奥底から重低音を響かせている。
『ヒャハッ!兄者ァ、なんか雑魚共が粋がッてるぜェ?』
『キャキャッ!無駄な足掻きだぜェ、オレ達に遭遇しても尚、生き永らえると考えるなんてなァ』
『ヒャハッ!』
『キャキャッ!』
『ヒャハ――』
『キャキ――』
『ヒャ―――』
『キャ―――』
『ヒ――――』
『キ――――』
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『……ねぇギン』
『なんだよクリーヌ?』
『私……あいつらって馬鹿なんじゃないかって思えてきたわ』
『偶然だな……丁度、俺も思ったところだ』
意味ないシャウトを続けること10分あまり……いい加減飽き飽きしてきたところで
『あまり気を抜くでない、少なくともギンがダメージを負う程のスキル持ちだ。気を引き締めよ』
そう言うとルジーナさんは洞窟内に大量にある手ごろなサイズの石を手に取りシャーマン目がけて全力投球を始めた。
……今思えば、ルジーナさんってば丸腰だったんだな。
だが幾ら全力で投げようとも、ルジーナさんはつい先程まで四肢をもがれていたのだ。たった今使っている手だって新しく生え変わったばかりで力が入りにくい状況なのだろう、シャーマンに向かっていく石は届く一歩手前で失速し、力なく地へと墜落していく。
そしてクリーヌはシャーマン達に向かうために全力で地を蹴った――――――が……
――――――ズサァァァ!
何でかクリーヌは突如としてさっきルジーナさんが投げた石ころみたいに失速し、そのまま地面に向かってヘッドスライディングを決め込んだ。そして弱々しい声でこう続けたのだった。
「……あ~、ギン?悪いんだけれど傷は治ったみたいなのよ、でもでも私達ってさっきまで結構な速度で走っていたじゃない?……そのせいで体力使い果たしたわ」
アハハ~と力なく笑うクリーヌの声にズッコケそうにもなったが、何とか踏み止まることに成功した。
だけれどノンビリとはしていられない。無残に力尽きて地面に突っ伏しているクリーヌは完全に無防備な状態となっている。
その姿を見てシャーマン達も同じことを考えたのだろう。醜悪な顔をより皺くちゃに歪ませて気味が悪い笑みを浮かべている。
……明らかに一番目の標的をクリーヌに絞ったのが見て取れた。
徐々にだがシャーマン達の身体にモヤのようなものが見えはじめた。きっと、魔法スキルを放つ前兆なのだろう、もしそうだったら一刻の猶予もない。
クリーヌの位置は俺とシャーマンのちょうど間くらい。幸いな事に障害物諸々は全く無く地面がぬかるんでいたり、足がとられるような砂地でも無い。
『有言即実行のギンが走り抜けちゃ……るぜ!』
……微妙に噛んで恥ずかしいことなんかあるはずが無い!
四肢に力をこめてロケットスタートをきり、一瞬の内にクリーヌとの距離をつめる。
辺りの景色が一気に変化し、気分はまさに某ゼロゼロなサイボーグだ。……決して奥歯を力強く噛んだりはしていない。
そして何とかクリーヌの前にでた瞬間、シャーマン達は掌に浮かびあがりコブシ大程の火の球をピッチャー投球みたく振りかぶりやがった。
間違いなくさっき俺の横っ腹にクリティカルヒットしたファイアボールなる魔法だろう。だがしかし、こちとら同じ攻撃をバカスカくらうほどドMな性格はしていない。寧ろ俺はS気質だ!……勢いとはいえ自分の性癖を言う必要はないか。
ファイアボールに備えて俺は後ろの仲間達に当たらないように身構えた。しかし次の瞬間……
『やめねぇかシャーマン共……そいつは俺の獲物だぁ…』
何だか知らないが、シャーマン達以上にややこしそうな奴が登場してきたのだった。
てか、どう見てもつい表で見た普通のゴブリンよりも頭二つ分大きい緑の奴にしか見えないんだけれど。それによく見るとさっき氷の壁を突き破った腕の方ですよね?
『お、おおオヤビン!?い、いや違うんだ。俺たちはオヤビンが楽に倒せるようにと少しでも弱らせて……』
兄者と呼ばれていたシャーマンは先ほどまでの余裕が嘘のように脂汗を流しながら必死に弁明している。弟の方のシャーマンも俺達の事をすっかり忘れて……と言うより気にする余裕が無くなったみたいでオロオロしている。……ケッ、ゴブリンみたいな気持ち悪い生物がオロオロしたってちっとも萌えないんだよ!! ……コホン、何だか変な電波を受信してしまった。
そんな事よりも今のやり取りをしていると、果てしなく緑色をしたゴブリンが上位に位置しているようだ。恐らく、このゴブリンの軍団のリーダーもこのデカイゴブリンだと見て間違いないようだ。なんだっけ……ゴブリン・ロードだったけかな?
『おめぇ等はレベル33のこの俺がそんな猫野郎に負けるとでも思っていやがんのか?それに俺はなんつった? 確か、〈足止めをしろ〉としか命令してなかったよなぁ!!』
シャーマンの2体が『ヒィィィ!』とさっきまでの威勢が全く見られない程情けない声で縮こまりだした。どうやら、相当このロードに対して相当な恐怖心があると見た。つまるところ、俺がこのロードを倒してしまえば相手の戦力どころか戦意までもそぐ事ができるんじゃないのか?
『それになんだ? たった一回の咆哮で雑魚共も伸びあがりやがってからに……さっさと起きねぇか!! ぐうたらしてっと俺が頭から喰っちまうぞ!!』
だが、次の瞬間俺の抱いた淡い希望は粉々に打ち砕かれてしまったのだ。ロードが次に眼をつけたのは俺が昏睡させた雑魚のゴブリン達。
少なくとも俺の咆哮の影響でほぼすべてのゴブリンが昏睡または戦意喪失状態となっていた筈だ。しかしアイツはそんな事はお構いなしと言わんばかりに雑魚ゴブリン達に向かって檄と飛ばしたのだ。
――――――結果的に……
『俺よりレベルは低いけれどもレベル33のゴブリンロードが一体にレベル10の魔法スキルが使えるゴブリンシャーマンが二体……周りには低レベルながら下端のゴブリンが沢山。対してこっちは体力真っ赤な仲間が二体に駆け出し冒険者三人、そのうち二人は気絶中……あれ、俺達の状況ってかなりアウトじゃね?』
冒頭のような状況となってしまったのである。
いやはや、気が付いたら半年も更新をストップさせていたなんて…
このまま復活ののろしとしたいのですが……いやはや、どうなる事か。
それによく考えたら『Re:俺!?』も未だに1話目しか載せていない始末……ホントにどうにかしなければ…